2-4 え、初耳なんだけど
ひとまず知らせておくべきかとそらとも顔を見あわせ、俺はすぐに母親に連絡をとった。
何度かの呼び出し音の後、はいはい愛しのお母様だよ、とふざけた挨拶は無視をして、今目にした優姉のことを伝える。
少しの間、思案するような無言が続いたが、
『それは興味深いな――ひとまず彼女にも
おい、俺やそらのことを勝手にやってたのは良いのか?
「巫?」
スピーカーにしていた通話を聞きながら、聞き慣れないであろう単語に優姉が疑問を口にする。
「えっと、あの怪物をやっつける役目の人」
隣でそらが言葉を添えているが、そのあたりはおいおい詳しく話をしよう。
『また連絡する。それまで待っていてくれ』
そう言って母親との通話が切れる。
それからの昼休みの残りは今、俺達が知っている鬼脅や鎮鬼やらのことを話す時間になった。
といっても正直、俺達も今の状況になって四日目。わかっていることはそんなにある訳でもない。
「……鬼脅か。たしか、この街の郷土資料にそんな話があったような気がするな。まさか、昔話にある物の怪が実在するとは思いもしなかった」
さすが生徒会長。俺やそらが知らなかったこの街の資料なんかも目にしたことがあったのか、複雑そうな表情を浮かべている。
「ともかく。悠子さんからの連絡を待つしかない。どうするかはそれからだ」
ぱっと表情を明るいものに変えて、優姉は一度ポンと手を叩いた。
さすが、切り替えがはやい。俺やそらの時とは大違いだ。
「あ、あの!」
とそこで、そらがいきなりを声をあげる。
意を決したかのような表情を浮かべ、
「ゆ、優奈って呼んでもいい――ですか?」
すごく真剣な表情で優姉を見つめていた。
パチパチとまばたきを何度かして、優姉は笑い声をあげる。
「何事かと思えば――もちろんだ。好きに呼んでほしい。私も好きに呼ばせてもらうからな。それから畏まる必要もない」
その言葉に不安そうだったそらの顔が明るくなる。
今まで人見知り全開だったのが、一転して親しげに変わる。
その様子を見て、俺に対するものとのギャップをまた感じてしまう。
姿を変えた時、そらとは感覚を共有しているせいか、ずっと前からつき合いがあるみたいに錯覚してしまうが思えば出会ってまだ四日。
こいつが今までどんな生活をしてきたとか、どこの学校にいたのかとかはわかっていない。
記憶も共有しているものもあるがすべてではない。
俺はまだまだそらっていう人間を知らない。
忘れかけていた当たり前の事実を思い出す。
けど、深く追求する必要もないだろう。誰だって見られたくない、見せたくない記憶や自分はあるはず。
しかし、いかんせんあの姿の時は勝手に見えてしまう時もあるから、それはどうしようもない。
変なのを見ても、それは心にしまっておくことにしよう。
「それでだ」
と気づけば優姉の視線が俺に向いていた。
なにやらその目は責めているように見える。
「ゆう、どうして家に戻ってこないんだ」
家っていうのは皇の家のことだろう。
「あぁ……いや、一応、実の母親と再会したわけだし」
「だからといって十年住みなれた家を離れる必要はないだろ。私だって父さん達だって大歓迎だ」
「いや、十年住んでたのは夢の中の話であって……」
優姉には俺が十年間の眠りの中で見ていた夢のことを伝えてある。目覚めた直後に一悶着もあったわけで伝えない訳にもいかなかった。
「そんなのは関係ない! 例え私達と異なる記憶であっても、お前と私はまぎれれもない同じ屋根の下で暮らしていた家族だ。家族が家に帰ってくるのにおかしいことなんて何一つない。おかしくないな?」
急に矛先をむけられたそらは、ふえっ⁉︎ と驚きつつ、ぶんぶんと頭を縦にふる。
「そらもうなずいている」
いや今のはうなずかせたに近い気もするぞ。
一歩もゆずらないとじっと視線をそらさない瞳に俺はどうしたものかと考える。
どうしたもこうしたも、言うべきことを言えばいい。
「今はまだ帰れない。けど、また絶対帰るから」
今言えるのはそれだけだ。
鬼脅の事とかもあるが、なにより俺自身のことを俺はなにもわかっていない。
十年前になにがあったのか。俺の父親のこと。そもそも俺が皇の家に預けられた理由。
俺が預けられた理由はあの母親に聞けば良いことのはずだが、その本人が聞いても一向に話すつもりがないのだから、根気よく待つか自分で調べるしかない。
それにだ、実の姉ってのにもまだ会えてない。
俺の答えに優姉はしばらく無言になる。
俺達の様子を黙って、ハラハラしながらそらが成り行きを見守っている。
「……わかった」
そうして大きいため息を吐きながら、優姉は了承してくれた。その顔はまったく納得してないって感じだけど。
「けれど、顔は出しに来い。父さんも母さんも喜ぶし……私も嬉しい」
最後ちょっと照れくさそうにしながらも優姉はそう言ってくれた。
「そうだ、ゆう。悠子さんと一緒にいるということは志穂さんもそこに?」
そして、思い出したようにたずねる優姉に俺の顔はきっとキョトンとしたものだったろう。
「……なんだその顔は?」
いぶかしげな表情の優姉だが、俺にはその志穂さんが誰かわからない。
夢の中でもそんな名前は聞いた覚えがない。
「……まさか忘れたのか?」
ぴんと来ていない俺に信じられないといった目で見られる。
「仕方……ないのか? 眠る前のことは覚えていないと言うし」
眉根を寄せながらつぶやくと、優姉は俺に顔を向け、
「
母親からも聞かされていなかった実の姉の名前を告げられた。
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