5章 未来へと続く道 ⑥
放課後になると、美樹さんと一緒にまずは幸与さんを迎えに病院へ行く。
駅を降りて田んぼ道を歩いていくと段々と通いなれた道がみえてくる。この道をこの体で通れるときが来ようとは思わなかったな。
「おそ~い、待ちくたびれたぞ」
「ご、ごめんなさい」
「うそうそうそ、時間内だから大丈夫だよ美樹ちゃん」
幸与が残してくれた記憶通りのやりとりが目の前で繰り広げられる、二人共狙ってやってるんじゃないかと思うくらいだけど、美樹さんの場合は純粋なだけだ。幸与はわざとだと思うけどね。
「あ! せんせいだぁああああああ」
病院から出て保育園に入ると、子供達がさっそく幸与に猛突進してきた。
「ひさしぶり~じゅんじゃん」
「せんせい、からだはだいじょうぶなの」
「今は少しだけなら大丈夫。みんなのお世話をずっとするのは難しいんだけどね」
「むりはだめってこと」
「そうそう、そうなの。一発で理解できちゃうなんてえらいね~」
幸与さんは子供達と触れ合えて嬉しそうだ。当然か、保育士なのだから。
「あいたかったよ、せんせい」
幸与の嬉しそうな姿をみていたら、立花ちゃんが俺の足にほっぺをすりすりしてきた。
それよりも気になるのは先生呼び。ここまで確信もって言われると誤解されかねない。
「生心、立花ちゃんにも話してたんだ入れ替わってたこと」
その予想はすぐに的中し、誤解をされた。先生呼びしてるから幸与がそう思わってもおかしくないが、別段教えたというわけではなかったんだけどな。
「ふ~ん、やっぱりおとこのこだったんだ」
あっさり確証をつかまれてしまった。まぁ前々から違うとは思っていたみたいだし、立花ちゃんがきずいたことに驚いてもしかたないか。
「せんせい、またおんぶして」
「その先生ってというのは止めてくれないか。いろいろ誤解されるから」
「じゃあせいしんってよばせて」
「く……まぁそれでいいよ。おんぶだっけ」
「うん」
腰をさげて立花ちゃんを背中に背負う。幸与さんの体と違って、すぐに持ち上げることができた。まさか入れ替わっても立花ちゃんをおんぶすることになろうとは思ってなかったな。
「これでいい」
「うん、せいしん、ありがと」
その言葉とともに、ふっくらとしたものがほほにふれる。
立花ちゃんにキスをされた。しかも大勢の人の前で。くそ理解が追いつかねぇぞ。
「これは思わぬ浮気現場ってやつ」
「はわわわわわ」
「りっかちゃん、だいた~ん」
悲鳴のような声もあげる人もいれば、歓喜する人もいる。これじゃあみせしめに近いな。
しかも相手は小三のような五歳児。なぜここまで浮かれるやつらばかりなのかさっぱりだ。
「立花ちゃんそろそろおろしていい?」
「やぁあだ。まだおりたくない」
「はいはい、わかったよ」
すっかり立花ちゃんに甘えられてしまった。まぁひさしぶりだし、これでいいのかと思ってしまうのは保育士としてそれなりに関わってきたからなんだろうな。
しばらく立花ちゃんをおんぶしてから、ゆっくりと降ろした。まだおろしくてほしくなかったのにと、本人としては不満だったみたいだけどね。
「生心、もてもてだね」
「そんなんじゃないから」
「え~だって美樹ちゃんでしょ、立花ちゃんでしょ、そしてわたしでしょ。もてもてじゃん」
「だからなに」
「妬けちゃうな、的な」
「そんなこと幸与思ってないでしょ」
「そうだね~生心がわたしのぞっこんなのは解ってるから」
なんかこう堂々と言われるのは腹がたってくるな。事実だから言い返せないんだけどね、
「あら~幸与ちゃん、体は大丈夫なの」
俺がサポートしていたさくら組の担任、近藤先生が騒がしいのがきになってきてくれていた。
「仕事をするには体力的に難しいと思いますが、子供達と触れ合うことぐらいはしたくて」
「無理しちゃだめよ」
「わかってます。あの、近藤先生、お話したいことがあります。ここでは話にくいことなので職員室に来ていただきたいのですか」
「わかりました」
「生心君もきて。美樹ちゃんは子供たちと遊んでて」
「えええええ!」
すごい投げやりに美樹さんを置いて、幸与さんと職員室へ行く。
美樹さん、変に頑張らなきゃいいけど、あの性格だときっと頑張ってしまうんだろうな。
職員室に入ると、幸与は近藤先生に自分の今抱えている病気について、コールドスリープのことについて話す。俺はその隣で幸与さんの話では足りない部分を解りやすく説明した。
すべてを俺自身の言葉で事前に語ってもよかったのだが、幸与が幸与自身の身体で伝えたいという気持ちを尊重し、このような形をとった。
「一週間後には、眠ってしまわれると」
「はい、そういうことです」
「……子供達には、転勤になったって伝えておきましょう」
「今まで話せなくてすいませんでした」
「いいのよ。病気でなにかしらあるとは思ってたから。でもこんなに早くとは思ってなかっけれどね。自分でこのことは話すつもりでいる?」
「はい」
「ならお別れ回ををしましょうか。あの~生心さん」
「はい、なんでしょうか」
「今まで保育士の仕事お疲れ様でした。これかは幸与先生のことお願いします」
「任せてください」
いつもお世話になってばかりいた近藤先生に、お願いしますなんて言われるのはさすがに照れくさく感じるな。悪くない気分ではあるのだけどね。
職員室をでて、美樹さんの所に足早に戻る。少し時間が空いてしまった。なにもされてなきゃいいけど。
「あははは、みきおねえさんこんどはうさぎさんのまねして」
「ぴょ、ぴょんぴょん」
よく解らんが美樹さんはうさぎの真似をして、この短時間で子供達のアイドル的な存在になっていた。本人はそれを喜んでいるのかさだかではないけど。
「生心、わたしたちも参戦するうさ!」
「はぁ~しゃねぇな」
保育士でこんなことも慣れてしまっている。恥ずかしがることなく子供達と一緒に遊ぶことを楽しんだ。
「それじゃあね、ゆきよせんせい、みきさん、せいしーん!」
「またね~」
夕焼けが赤く染まるころには保護者の多くは迎えにきて、立花ちゃんも今保護者がきて帰った所だ。それに合わせて俺達も帰宅をする。
「結局デートらしいことできなかったな」
「え、今日のってデートだったの」
子供達と遊んでただけだもんな。美樹さんがそう思っても無理はない。
「なんか邪魔しちゃったかな」
「そんな気にしなくていい。幸与が楽しければ、俺らにとってデートみたいなもんだから」
「それってなんか違うような。もうちょっとロマンチックなものじゃないのかなぁ、普通」
「美樹ちゃんだったらどうするの?」
「夜景とかみたり、水族館いったり、ショッピングだったりがあるけど。幸与さんは遠くにいけないから無理なんだよね」
「うん、本当はしてみたいんだけどね、そういうの」
幸与も普通にそう思ってるんだよな。ロマンチックなデートをしたいって。もう一度考慮してみたほうがいいのかもしれないな。
「じゃあね、二人共」
幸与を病院まで連れていってから帰宅した。
それからコールドスリープするまでの期間は幸与の体調をきずかいながらも、保育園で遊ぶことを続けた。穏やかで、だけど一日一日が大切な日々。それは永遠に続いてほしいものだけど、時はそれを許してはくれなかった。
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