5章 未来へと続く道 ⑤
光が薄っすらとみえはじめ、俺は目を開けた。
白い壁に黄色いカーテン。ここはどうやら病室のようだ。
体を起こし下腹部に懐かしい違和感があるのを感じる。隣にはまだ眠っている幸与がいる。
まだ寝てるようだし、もっと近くでみたい。起きてしまった時は、起こそうとしただけだと言っておけばいいか。
ベットから出て、幸与の隣まで行ってみる。自分で寝顔なんてみれなかったから、慣れた顔だけどドキドキする。ずっとみてたいなんて思うなんて、俺はそうとう幸与が好きなんだ。
「うわ! びっくりした。さては、寝込み襲おうとしたのかな」
「そんなことしないし。起こそうとしただけだ」
いきなり目を覚ますもんだからびっくりしてしまった。びびらせんなよな。
「まぁいいや」
幸与さんは体を起こすとなにを思ったのか、唐突におっぱいを揉みはじめた。
「おっぱい柔らか! 生心も触る。あ、何回も触ってるからいいか」
「それはその」
「なに触りたの」
「そういうのいいから。というか、お前、おれのやつぶらぶらさせてたろ」
「あーそれ! わたしのシークレットメモリーだからのぞいちゃだめ!」
こいつそうとう俺の体で楽しんでたな。普通やるか、ゾウさん踊りなんて。
子供ぽいとは思っていたがまさかここまでだったとは。怒るきにもならんな。
「うぅううううう、恥ずかしいな」
「いきなりどうした」
「生心のシークレットメモリー探してたら、わたしへの愛がつまりすぎて恥ずかしくなってきちゃったの」
「それいつのだ」
「病院の時の。こんなにも生きてもらいたくて、こんなにも愛されて幸せものだ」
あれ全部知られちゃってるのか。あれは嘘いつわりのない気持ちだから否定したくもない。
だけど、それを覗かれるというのはたまらなく恥ずかしくて、言葉を失ってしまった。
「な、なんか言ってよ」
「困ってるんだよ。ええ~と…………それは本当の気持ちで、今も変わらない」
「えへへへ、そうなんだ」
幸与が手を握って、笑顔でいてくれる。これを人は愛おしいと呼ぶのだろうか。少し前の俺だったら鼻で笑っていた感情だったのかもしれないな。
「約束したデートの予定どうする?」
「う~ん、保育園しかないかな、幸与には無理させられないし、行きたい場所だろ」
「そうだね、子供たちにあいたい。美樹ちゃんも一緒に参加だ!」
「思ったんだけど、これってデートか?」
「デートぽくはないよね。でもさ二人きりになることばかりがデートてわけじゃないでしょ。だから良いんじゃない?」
「それってただ遊びにいくだけじゃ」
「いいのいいの、わたしがしたいことなんだから」
「準備は俺がしとく。放課後って形になるけどいいかな」
「それで十分だよ」
デートの段取りなんて初めてだったけど、他に選択肢もないからすんなり決まった。というか、子供達と友達と一緒に遊ぼうみたいな感じだし、緊張すらしない。
幸与の体は俺とは違って自由がきかない。それは俺もよく解っている。
コールドスリープするまでの限られた時間しかないが、俺は俺で幸与との時間を大切にしていきたい。それがどんな形があろうとも幸与が楽しいと思ってくれればそれだけで良かった。
「そろそろいちゃいちゃするの止めてもらえないかしら」
ふいに衛さんの声が聞こえその方向を向くと、ニヤニヤと俺らの方をみていた。
つないでいた手を離して、誰との目線に合わないように視線を泳がせた。
「いつからいたんですか」
「シークレットメモリーがどうとかで見つめあってるときから」
「そんな時から……いるんだったらいってくださいよ」
「さすがにあの空気で割って入ったら空気読めなさすぎでしょ」
「う、う~ん」
「まぁいいじゃない若いってことで。検査したいから来てもらえる」
衛さんに連れられて、今まで行ってきた一通りの検査をし終えると、もう日が暮れていた。
俺は病院から出て、久しぶりに俺自身の家に帰宅する。
入れ替わる前からなにも変わっていない、父さんと、母さんがいてくれる家。離れている期間はそれほどでもないけど、戻ってこられたことに安堵した。
「ただいま」
「生心なんだよね」
「ああ、そうだよ」
「生心、おかえり」
母さんはすごく嬉しそうだ。今まで迷惑をかけたぶん、親孝行していかないとな。
「ようやく戻ってきたか」
「おかげさまでね」
父さんの場合はそうは思えない。いちいち鼻につく態度で上から目線。この人だけはなにも変わっていない。きっと俺にも関心がないままなんだろうな。
「今回のことで人様に迷惑をかけたが、お前は人様とわたし達さんに迷惑をかけて死のうとした。それについては許すきはない」
「突然どうしたんだよ。俺が知ってるあんたは俺には無関心じゃなかったか」
「今でも当然そう思っている。夢物語を描くやつらなど無関心でいいのだと。だけどな、人様に迷惑をかけたからにはそれなりの罰を受けなければいけない。だからこうして怒りをお前にぶつけている。それが幸与さんに対しての礼儀だと思うからな」
「向き合うってそういう捉え方かよ」
幸与が考えていた向き合うとは、家族としてやさしく迎えるいれること。だが父さんはそれとは程遠い解釈で俺と向かい合おうとする。いちいちめんどくさい人だ。
「まぁでも無関心よかはいいかもな。いらつくけど」
「生心は怒られるほうが満足なのか」
「そういうわけじゃねぇんだけど。今はそれでいいのかって思っている。そうすればきっと変われるって思うから」
「こんな事をして変わるなどと思っているのか。やはりおまえたちは良く解らんやつらだよ」
父さんも人のことを言えないと思ったが、それを面と向かっては言わない。
俺はただ怒りをぶつけたいわけではない。父さんと向かい合い、わたしであった俺に解り合うことをたくされた。いつそれが叶うかなんて解らないけど、幸与を信じて俺は感情をぶつけ行動していくしかない。いつか本当の親子に戻るためにも。
昼休み。屋上で美樹さんとお昼を食べる。幸与さんは美樹さんとこの場所で昼飯を食べていた記憶があるんだけど、どうもなれないな。
神経のずぶとい幸与さんならいざしらず、俺達は男と女。二人きりだし、どうしても相手を意識してしまう。美樹さんも俺と同じように思ってるのかな。
「屋上で二人きりっていうの、緊張したりしなかったの」
「すごく緊張したよ。でも、もうかなり慣れました。それよりも緊張すること一杯あったし」
言われてみるとそうなのかもしれない。距離感近いからな、幸与は。
「美樹さんはいろいろ事情を知ってるんだっけ」
「はい、生心君が幸与さんだってことも知ってるよ」
「すまない、勉強会した時に裸をみてしまって」
「いいよ、あれは強引に接近したかっただけだし。あの時の告白ってどう思った?」
「素直に嬉しかったよ。俺なんてそんな好かれる人間だとは思ってなかったから。ただ告白を受けいれることはしなかっただろうけどね。俺はもうその時には幸与が好きだったから」
「幸与か……」
美樹さんは俺と幸与との距離が縮まっていることを知って、ぼんやりとつぶやく。
辛いだろうな。好きな人にふられて、傷ついて、それでもその人といなくてはいけないのは。
「友達でいて欲しいって幸与からは言われてる。けどさ、美樹さんはそれでいいのか。好きを抱いたままそれが叶わない、それって辛いことだと思うんだ」
「確かに辛いよ。だけどね、それでもいいんだ。側にいたいっていう気持ちのほうが辛いから。生心君だってそうでしょ。これから離れ離れで辛いって解っていてもいつかは一緒にいれるようにしたい、そう思ってるはずだから」
「辛くても一緒にいたい……確かに、そうだな、その通りだ。今日、幸与に会いにいくんだ。一緒についてきてくれないか」
「もちろんだよ」
幸与は俺に大事なものをばかりを残してくれている。だからこそこのつながりを大事にしたい。友達としてこれからいい関係をきずいていけるようにしないとな。
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