5章 未来へと続く道 ③
穏やかに成長をしていく木々のような日々が過ぎていく、
もうすぐ死ぬというのに苦しさを吐き出さずにいれるのは、幸与さんのためだという思いがあるからだ。昨日は遊園地に行ってしまって会えなかった。早く会いたいな。
「生心君、またきたよ」
「待ってたよ。え…………」
幸与さんが来てくれたけど、その後ろには父さん、母さん、衛さんがいた。
「今日は大事な話があるの」
「父さんと母さんに、衛さんも……っていうことは真相はばれたってことでいいのかな」
「生心君、元の身体に戻って。それがわたしの願い」
「なんで幸与さんは自分の生命をそまつにするようなことするんだよ」
このまま緩やかに死ねればなんて思う前に、早く死んでおけばよかったのかも知れない。
失敗したな。まだ生きようなんて思わなければ、正しく死のうなんて思わなければこんなことにはならなかったかもしれない。
「それは生心君も同じだよ。わたしたのに犠牲になろうとしてる」
「そんなの当たり前だろ。俺は君にはもっと長く生きてほしいって思ってるから」
「だったらさ、二人が生きる道を探そうよ」
「そんなのあるわけないだろ」
「今すぐは無理かもしれない。だけど遠い未来なら可能性がある。あのね、そう気づかせてくれたのは生心君が多くの知識を持っていたからだ。コールドスリープってあるでしょ。その技術を使ってて未来にたくそうと思ってる、生きることを」
「馬鹿げてるよ。そんなお金を誰がだすっていうだ。簡単にできるもんじゃない」
「それは母さんと厳重郎さんに出してもらう。わたし達の生命をもてあそんだ。それくらいする権利はある」
「お金の問題はそれで片付いたとしても、誰が君を救う」
「母さんにたくすつもり 未知の病の研究を続けてくれるのは解ってるから」
「衛さんはそれでいいんですか。俺がこのままでいたほうが確実だ」
「そうかもしれない。だけどね、幸与が知ってしまった以上はもうこの方法は使えない。どんなに可能性が低くても治療法を見つけるしかない。それが幸与が望んだことだから」
「無茶だ、無茶苦茶だ」
幸与さんの意見は誰もが幸せになれる道にみえる。
だけどそのためには様々な障害を克服しなくてはならない。
でも、衛さんは幸与さんが望むからその道を進むことに決めた。
俺はどうすればいい。もう幸与さんは来た道を振り返るようなことはしないだろう。まっすぐと明日をみながら眠りについてしまう。
俺はなにもしなくていいのか……それだけは嫌だ。嫌だ。嫌だ。
「そんな無茶苦茶な事、放っておけないよ。だから俺は幸与さんのために生きる。俺は医者になって、幸与さんが苦しんでいる未知の病を研究する」
「なに言ってるの。生心君は自分の夢を探して、それを追いかけないと」
「これが俺の夢だよ、だって幸与さんは俺にとって希望だから。それに一方的に恩だけおしつけるなんて真似したくない」
「生心君も無茶苦茶な事言ってるよ」
「俺もそう思っている」
俺はこんな理屈の通らない未来を描き、信じることができている。
それは目の前にいる幸せを俺に与えてくれた幸与さんのおかげだ。全部、全部、だからこそ恩返しをしないとな。
「実にくだらないな。そんなことをして病の特効薬がみつかるとでも本気で思っているのか。できたとしてそれは何十二年後だ。コールドスリープから目覚めた所で、救っている可能性だってあるだろうに。そんな夢物語叶うわけないだろ」
「それは理屈だよ。俺らは理屈の中で生きてるわけじゃない。だから夢物語だろうが信じることができるんだ」
「まぁいい。その夢物語のおかげで生きる気になったと思えば喜ばしいことか」
上から目線で馬鹿にしているかのような目で俺をみてきくる。
殴ってやりてぇ、拳をぎゅっと握りこんだ瞬間、父さんが殴られていた。
だが俺は殴っていない。俺の怒りすら飲み込んでなぐってくれたのは幸与さんだった。
「いいかげんにしろ! それが親の態度か。あんたは子供に何を求めてるんだよ!」
「体裁だよ。社会を生きるためのね。子供がいたほうがやりやすいんだよ、いろいろと」
「あなたって人は!」
幸与さんは倒れた父に殴りかかろうとしたその時、今まで静観していた母さんが幸与さんの前に立ちふさがった。
「もう止めてあげてください」
「なんで止めるんですか」
「この人を見捨てられない。こんな人でも家族だからです」
「家族……これは綺麗ごとを言って済む問題じゃない」
「綺麗ごとなんかじゃありません。自身の利益のためにこの人は行動しましたが、それで息子がこんなにも前向きに生きれたのは事実。放っておくこともできたのに、それをしようとしなかった。だから父を信じます。あなたがたと同じように」
幸与さんはぎゅっと唇とかんで、握った拳を緩めた。
母さんは父さんのこと信じてるんだ。寄り添ってきただけのことはあるのかな。どんないびつな形だったとしても、そこから生まれてくるものがあるかもしれない。
「わかりました。その熱意をかって今は怒りをおさめることにします」
「ありがとうございます。ほら、父さん謝って」
「謝らんよ、殴られたんだぞ」
「あなたって人は。昔から本当にがんこなんだから」
「頑固などではない。正しい意見をいうことのなにが悪い……帰らせてもらう」
「幸与さん、息子をお願いね。待って下さい、父さん」
母さんは怒る父さんを追いかけるようにして病室を出っていた。
「母さんも言うことあるでしょう。生心君にもわたしにも」」
「謝るだけで二人のキズがいえないのは解っている。だけど謝らせて……今まで二人にはたくさん迷惑をかけてしまってすいませんでした」
今までしてきたことを噛みしめるかのように、衛さんは震えていた。
当然だ。生命を天秤にかけてきたのだから。隠し通そうとしてきたのだから。
後悔の涙に濡れる衛さんだから許せるかなんていうことはない。この人自身が父さんに話をもちかけそのきにさせた。一番誰に原因があったと言われれば衛さんなのは間違いない。
理由はどうであれ、俺を殺そうとしたという事実には変わりがないのだから。
「救いなんてあげないよ。そんなものは不必要だ。それよりも欲しいのはこれからの未来。それで誠意をみせてくれればいい。衛さんが幸与さんを救おうとしている気持ちは本物だから」
なんて正論ぶった綺麗事を言っているんだってことは自覚している。
それでも衛さんをこのままずっと後悔させておくのが嫌だった。
「ありがとう、生心君」
「お礼を言われるようなことじゃないですよ」
涙の雨がいつまでもいつまでも衛さんから流れ続ける。
ずっとずっと背負ってきたことがようやく抜け落ちて、緊張の糸が切れたからなんだろう。
「母さん、目が真っ赤」
「うるさい」
悲しいから辛いから泣いてるわけではない。前向きに泣いてるからこそ暖かいものだった。
「これから入れ替われる準備をするわ。二日は欲しい、なにかやり残していることがあったらやっておくといいわ。だからって激しいことしちゃだめだかね」
「しませんからそういうのは」
笑いながら衛さんが部屋から出て、幸与さんと二人きりになった。
「これからやれることか」
「そう言われても困るよな」
「生心はあるんじゃないの。大好きなわたしの身体を見おさめたりね」
「なんで俺をそういう目でみる」
「わたしの身体みるの嫌」
「嫌ってわけじゃねぇけど」
「も~う、生心は変態さんだなぁ」
「幸与さんがそう言うこというからだろ」
「あ、それだめ。幸与って読んで。わたしもさっきから生心って呼んでるでしょ」
さっきからそう言われてるのにきずいていたが、やっぱり言えってことだったんだ。
「…………幸与」
たった二文字なくなっているだけなのに、えらく言うのに時間がかかってしまった。
なに恥ずかしがってんだよ。
「うん、そうそう、そんな感じ。大好きだよ、生心」
なんの貯めもない。突然に幸与から告白をされた。ロマンチックな雰囲気とかないままで逆に本当に告白されたのか心配になってくる。
「それって、告白か」
「そうだけど」
「あっさりとしすぎだろ」
あっさりすぎて、聞き逃す所だったわ。いきなりで心の準備もできてなくて、心臓がどきどきしすぎてる。でも、すげぇ嬉しい。そうか、好きなんだ。
「え、もうちょっと劇的なほうが良かった、わたしを救うと決意してくれた生心みたいに」
「別にそういうわけじゃねぇけど……まぁいいか。俺も大好きだよ、幸与」
告白ってもんはこんなにもあっさり済んでしまってもいいだろうかとも思うが、お前の生命を救うから待ってろ的なことを言ってるしな、いまさならのかもしれない。
「もう一回、言って」
「大好きだよ、幸与」
「もう一回」
「大好きだよ、幸与……って、何回やらせるきだよ」
「えへへ、だって嬉しいだもん」
こんな甘ったるいやりとりよくやれてるな。まぁそれが幸せで幸せでしかたがないんだけど。
しかもまだそれがおさまっていない。
恥ずかしさで火照りきっている中、お互いにみつめあい、幸与とキスをした。
唇のぬくもり、それを確かめあった後に唇を離す。
笑顔で笑いあい、幸与と愛を確かめあった。
「なぁ、幸与。元に戻るまでせっかくだから俺の身体でやりたいことやればいいんじゃないのか。戻ったら次はコールドスリープまでそう時間もとれないだろ。それまでの期間、悔いのないように過ごさせたい」
「やりたいことか~なにしようかな」
口元に指をあて、これからなにができるのか幸与は考えはじめた。
幸与が幸せであればいい。後悔をなくしたい。
その気持ちは変わらないけれど、今は未来へと進む一歩を歩めている。
誰もが幸せになれる、その未来へとこれからは進んでいくんだ。
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