5章 未来へと続く道 ①
「母さん、明日休みだしどこか行かない?」
「どうしたの急に」
「ちょっと言い過ぎたって思ってるからその仲直りをかねて。それに母さんとも遊んでみたい、せっかく生心君の体と入れ替われてるからね」
テストが終わった週の金曜日に、母さんに連絡をいれた。
母さんを許したわけではない。だけど母さんと遊びたいというのは間違いなく本心だ。
「どこにしよっか」
「遊園地に行きたい。子供の時、行きたかったけどいけなかったから」
「いいわよ、遊園地で」
「やった~母さんと遊園地。なに乗ろうかなぁ~」
「はしゃぎすぎよ幸与。まだまだ子供なんだから。要件はそれだけ」
「うん。また明日ね母さん」
遊園地で遊ぶ約束をしてから通話を切った。
病から救おうとしてくれる母さん。
いつも馬鹿な発言にも笑顔になってくれた母さん。
それ以外にもたくさん思い出はあるけど、もう終わりにしないとな。
「で、どこ乗る?」
「ジェットコースター、ビューってしてみたいんだよね」
近場の子供の頃憧れただった遊園地で、ジェットコースターのように手をぐるぐると激しく動かしさっそくはしゃいでみせる。
「周りの子供よりもはしゃいでるんじゃない?」
「そんなことないよ。子供達はもっとこれ以上にはしゃいで、どっかすっとんでちゃうから」
子供扱いされることに少しだけ腹をたてているかのように、リスみたいに顔を膨らませる。
子供ぽい所はあるなぁと自覚はしているし、子供ぽく扱われるのは悪くないと思っている。
ここにいる時はそうしていよう。親子でいるためにも。
はじめてのジェットコースター、両手をあげて叫んで叫んで叫びまくった。
テレビで見たものと同じようにやれるのが嬉しくて、その後何回も乗った。
「幸与~もう飽きない、飽きて、飽きたでしょ」
「母さん、もしかして怖かったの」
「あんたのその飽きない根性が怖いのよ、解る、解るでしょ」
さすがに五回くらい連続で乗ったらこうなってしまったか。もうちょっと乗りたい気分だけど、母さんの気分を悪くしてもいけない。次のアトラクションにも乗りたいしね。
「じゃあ、次メリーゴーランドに乗ろうよ」
「それだったら、ゆったりできて良さそうね」
「ほれほれ、いこいこ」
「うわ~引っ張らないで」
母さんを力強い生心君の力でぐいぐいひっぱり、次はメリーゴーランドに乗った。
「あ~姫よ、お救いいたします」
「なに、いきなり」
「だって白馬だよ、回ってるんだよ、だったら王子様になりたいじゃん」
「幸与、そんな願望あったの」
「だってさ、わたし今はせっかく男なんだから、びしって決めたくなっちゃうんだよね」
「で、どうして欲しいの?」
母さんは眉を潜め聞いてくる。
「お姫様ぽくお願いします」
王子様がいるならお姫様は絶対条件。さもこうなるのが当然だと言わんばかりに宣言した。
「救いに来てくれたのね、幸与王子」
「おお、姫よ」
「王子」
「姫よ!」
メリーゴーランドがゆったりすぎるので劇なんてやり始めたからか周りのお客さんの注目の的になってしまう。
「もうそろそろ止めない。周りの人みてるから」
母さんはさすがにはずかしくなったのか、劇を中断させようとした。
「平気平気」
「それ幸与だけでしょ、まったく」
と、こんな感じにゆったりなりきってメリーゴーランドも楽しんだ。
それからも様々なアトラクションに挑戦をしていく。
ゴーカート、お化け屋敷、ティーカップなど、すべてのアトラクションに挑戦はできなかったけど、メジャー所はおさえることができていた。
どれに乗っても、なにをしていても楽しくて、あっという間に時間は過ぎていった。
夕暮れ時。子供の手を引いて帰る親子連れが目立つ。カップル達はこれからロマンチックな時間を楽しもうとしている。
「母さん、最後に観覧車乗ろうよ」
「いいわよ」
「あ、でもその前にトイレいってくるね」
トイレに行ってから、観覧車に乗る列に並んだ。
ゆっくりと回る観覧車は生命の歯車を回し続けるかのようにゆっくりと回っている。この中で多くの人が愛を語らったり、遊園地での思い出を語らっているだろうな。
でも、わたしは違う。真実を語るためにここにきた。
ゴンドラに乗り、いつもとは違う時間の中で母さんとの大切な時間を過ごす。
「恋人と遊園地過ごしてみたかったな~」
「だれか好きな人でもいるの」
「うん、いるよ。とても大好きな人が――」
胸の中にある想いを母さんにさらけだす。
「わたし生心君のことが好きなの」
母さんに生心君のことを伝えた。
娘が好きな人のことなのに全然嬉しそうにしない。けど話は聞いてくれそう。
「わたしね、遊園地を周っているときも生心君と行ったらどんな風になるかなって考えてたの。たぶんジェットコースター嫌いだうらね。それでもわたしが乗りたいっていったら乗ってくれる。嫌なんだけど、けど嫌じゃない。そんな関係」
ジェットコースターに乗っても冷静な顔をしているのが目にうかぶ。いやいや冷静すぎでしょみたいな感じ。
「おばけ屋敷いったら、すごい冷静なんだけどすごくドキドキしてくれると思うの。たぶんわたしもドキドキしてる。普通のカップル達みたいに、普通に恋をする。そんな風にしてみたかった」
普通の恋人みたいに遊園地を周ることができたら、すごく楽しかっただろうな。
「好きな人のためになりたい。わたしはそうするから」
生心君、わたしに力を貸して。わたしは大好きな人のために、大好きな人を傷つける。
「母さんは色々してくれたよね、子供のときから」
「ええ、そうだったわね」
わたしの思い出話になってから、ようやく口を開いてくれた。
「母さんは、わたしが産まれた時はどんな風に思っていた」
「これからどんな未来を描くだろうってわくわくしてた。父さんと一緒にね」
「わたし小学生の時まではずっとやんちゃしてた気がする。そのたびに怒られてたな」
「身体は弱かったのに、すごい明るかったわ」
母さんの思い描いていた未来は小学生まではずっと続いていたと思う。
多少の不自由はあっても、共に走って、共に泣いて、共に喜んで、共に生きてきた。
「だけど父さんが事故で亡くなって、さらにわたしの体調が悪くなると未知の病があることが発覚した」
「幸与、その頃は学校にも行かなくなって不安ばかりだった」
あの時は辛かったな。立て続けに不幸がふりかかってきて、神様にわたしは呪われてるんだって思った。死にたいって思った。
「でも、そんな時でも母さんはいつも一緒にいてくれてた」
「そうしないと幸与が離れて言ってしまいそうで必死だった」
生き続けれたのは母さんのおかげだ。見放されていないんだって思うと、死んだ心の中でも生きようとする灯火を消さないですんだ。
「あの時母さんがいてくれなかったら、今のわたしはなかったと思う。悲しんでばりだったけど、それから子供達と出会ってわたしはわたしにできることをみつけられた」
「それからよね、幸与が前みたいに明るくなったのは」
「うん、今日を迎えるのが楽しくなった。それは全部、母さんがいたからできたことだ。母さんがいたから今までずっと生きることができた。ありがとう」
観覧車の針は時計の十一時を回った所だろう。
茜色の陽射しが視界に入ってまぶしい。その影に隠れて母さんが泣いてる。
「嬉しいこといってくれるわね」
「これだけはしっかり伝えておきたかったから」
笑顔で母さんをみて、しばらくなにも話さないままお互いの顔をみつめた。
こんな話をしているのはお互いに最後だと解っているから。それを理解していたけれど、親子としての時間を守りたくて内に秘めた言うべきことを言わずにたい。でもそれも終わり。
観覧車の針は0時になり、それと同時に親子としての時間に終わりを告げさせる。
「今日は楽しかったね」
「こんなに楽しむとは思いもよらなかったわ。今度またどこか行きたいわね」
「それはできない。明日を後悔したくないから」
明日を後悔したくない。そう思えたのは生心君のおかげだ。前を向けたからこそ、わたしはわたしでいることをやめはしない。
「どうして入れかわりが起こったのかを、自分でも論理的に考えてみたんだ」
「その話なら、頭をぶつけたって」
「真相はそうじゃないんだよね」
「どうしてそう言えるの」
「それを聞きたいのこっち。お願い話して欲しい」
「それはできないわ」
母さんは頑なに話そうとしない。なら自分で踏みこんでいくしかない。
「母さんには自分から打ち明けて欲しかった。これをみて」
スマホに入れておいた情報をすべてをみせる。
病院の記録、ある実験に顛末、今回行われたこと。言い逃れができないものをだ。
「母さんは自殺未遂をした生心君と身体を入れ替えることで、わたしを救おうとした。これがその証拠だよ」
「どうやって、それを……」
「母さんが病院で管理していたパソコンは知っていた、それを直接調べさせてもらったの。病院に行く機会はこの身体になっても多かったから。セキュリティを突破できたのは生心君のおかげ。わたしは生心君だからこそ調べることができた」
これは二人が欠けていたらできなかったことだろう。
二人だからこそ、未来へ進むことができたんだ。
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