3章 恋と終わりと勉強会 ⑦
「添い寝、しかも人前で……本気ですか?」
「だってきになるんです。ちゃんと寝かしつけてあげられるかどうか」
「わかった、やればいいんだろうやれば」
うわぁ~口悪くなったな。怒ってるみたいだけど、まぁやってくれるみたいだからいいか。
わたしは添い寝をしてもらうために、ベットの上に寝転がった。
「いいんですね」
「うん」
再度生心君は確認すると、わたしの隣に寝転がった。
いつも保育士として子ども達と接している。目の前に形として存在しているのはわたしの身体なんだけど、中身は生心君だ。
(すごいドキドキする)
心臓の音が止まらない。生心がわたしのことを近くでみてくれていると思うと目が離せなくなる。
あらゆるものが近く感じる。唇も、とても近い。
「目、閉じてくださいよ」
目線を外し、恥ずかしそうにしながら生心君はいう。うわぁ~すごい意識してくれてるんだ。
「そこはねんねしようね、じゃないの」
ここはお姉さんとして少し優位を保っておく。これくらいはいいよね。
「ねんね~しようね」
子供をあやしているかのように、生心君に頭を撫でられながら目を閉じた。
暗いほうがなんかドキドキする。このままなにかされてしまうじゃないかって思ってしまう。
(生心君もドキドキしてくれてるのかな)
目を閉じる中で、同じようにドキドキして欲しい。そんな風に思えていた。
「もういいだろ。これで解ったか、しっかりやれてるかどうか」
目を開けると、恥ずかしさを隠すためなのか、生心は強気な口調でいる。
もう少し恥ずかしいモードでいてくれてもいいのに。なんかペースを乱したくなる。
「まぁそれは認めるしかないね。手慣れててせんせいしゅごい~ね」
褒めて褒めて褒めまくる。淡々とした態度を吹っ飛ばす赤ちゃん言葉で褒めてあげた。
「美樹ちゃんもいっしょにやろうよ」
「わたしも!?」
「いっせーので」
息と目線を合わせ同時に言う。
「せんせいしゅごい~ね」 「せ、せ、せんせいしゅごい~ね」
高校生男児の声と、高校生女子の清純で美しくしき声による、見事な赤ちゃんハーモーニ。
個人的にはなかなかに美しきものだと思うんだけど、たった一人の観客は呆れ顔だ。
「あんたら高校生にもなって恥ずかしくないの?」
「はぅううう、そうですよね、そうですよね」
「全然恥ずかしくないけど」
美樹ちゃんは穴があったら入ってそうなくらいだけど、進言した張本人はまったくの無傷。これくらい保育園じゃ当たり前にやってたしね。
「美樹さんはいいとしといて、ゆ……じゃなくて、生心君はもう少し態度考えて欲しいね」
名前を言い間違えるほどの、お叱りぷり。ちょっとハメ外しすぎちゃったかもね。
「ああ、ごめん、ごめん」
「きはすんだ」
「うん、お仕事頑張ってるんだぁて解ったよ」
簡単なチェックだったけどそう思えてよかった。やっぱり真面目だな生心君は。
「どうして幸与さんは保育士を目指そうとおもったんですか?」
美樹ちゃんが生心君に質問をしている。保育園の仕事に興味を持ってくれてもいいんだぞ。
「以前近くの保育園でバザーを開いた時、子供達に励ましてもらえたのがきっかけです」
生心君は幸与先生としてパーフェクトな返答をしていた。ちゃんんとわたしのこと知ってくれてるんだ。
「しっかりとした理由があって羨ましいです。わたしはまだ将来をなんにしたいかなんて決められなくて。生心君は将来なんかやりたいこととかって決まってる?」
悪意もなにもない好奇心を美樹ちゃんにぶつけられて、どう返答していいか解らない。
将来なにをしたいのかではなくて、どこまでいっても今日という日々のことしかみることはできない。誰かの未来をみることで満足させる。
(自分がそうなれないから、せめて他人のためになろう。それが新道幸与の生きる道だ)
この気持ちを生心君にぶつけよう。今というこの瞬間で伝えるべきことを伝えるんだ。
「誰もが明日を目指せるようなことをしてみたい。具体的にそれがなんなのかは解らないんだけどね」
生心君としてではなく、新道幸与としての解答。理解してもらいたい生心君にもこの想いを。
「無理だと思うよ、そんなの」
それなのに生心君はわたしの想いを冷たく拒絶してきた。
「そんなことないよ」
「無理」
「そんなことない」
自分の心に正直になってぶつけた言葉だからこそ、意地になって反論し続けてしまった。。
「え、え~と」
美樹ちゃんがぼそっと困ったような声をだす。
一瞬美樹ちゃんがいるのを忘れて、いつものように口論になってしまう。
きまずくしないようにするって決めてたのに。なにしてんだろう。
「あ、ごめんね。幸与さん、もっと将来しっかり考えろって言いたいんでしょ」
「うん、そうなの。そのために勉強しっかりしないとね。そろそろ勉強を再開しようか」
生心君もそのことにきずいたようで、慌ててとりつくろってくれた。
気を取り直してラストスパート。それまで以上に集中して勉強をした。
「ふぅ~終わった」
「教えていただき。すごく助かりました」
ノルマ以上のことを達成。教えあったゆえの成果ともいえるのかな。
これなら一週間後に控えたテスト、大丈夫そうだ。
「今日は泊まってくんだっけ」
「幸与さん本当によろしいんでしょうが、関係ないわたしなんかが」
「生心君の友達なら別にいいよ。わたしも他の人の家に泊まってたりすることあるし」
これもまた自分のことだ。美樹ちゃんが他人の家にあがるのをこんなにきにしているのがよそよそしく感じしまうな。
「お腹も空いてきたし夕食つくりにいこうか。幸与さんもいっしょにどうですか?」
「三人もいたら台所狭いと思うからいいよ。そんなやれることもないだろうし」
「美樹ちゃんもせっかく来てくれてるんだし人数多いほうが楽しいよ……それにきまずいままなの嫌だから」
「さっきのことならきにしてないよ」
「うそ」
「うそじゃないって、またきまずくしたいのか」
また、言い過ぎてしまった、逆に怒らせてどうするんだ。
「ごめん」
「あの、え~と」
「美樹さんはきにしなくていいから」
「…………美樹ちゃんいっこか」
これ以上生心君を怒らせても逆効果だと思い、説得を諦め部屋をでた。
途中まではいい感じだったのにな。どうしてこんな風になっちゃうんだろう。
「きまずくしちゃってごめんね、美樹ちゃん」
「そんな生心君が謝る必要ないよ」
「いいの、俺が謝りたいだけだから」
謝りたいだけなんていうのは、美樹ちゃんに都合よく行き場のない気持ちをぶつけているにすぎない。これじゃあ、なにも解決していない。まだふりだしに戻っただけだ。
「わたしは生心君の味方だから。だから、元気だして」
こんなこと言われちゃうなんて、どれだけ暗い顔してるんだろう。
美樹ちゃんに心配をかけちゃいけないな。明るくならないと。
「大丈夫大丈夫、すごく元気だから――これからどうする? 二人きりだけど」
「二人きり……そうだよね、二人きりなんだよね」
これは意識させてしまったかな。目線をちらちらと外して照れてるのが可愛いな。
「変なことできちゃうかもね」
「変なことって!」
「うそうそ、そんなことしないから大丈夫。夕食一緒に作ろうか」
美樹ちゃんを癒やしつつ、夕食の準備にとりかかる。
美味しいごはんを食べて、生心君が明日を前向きに生きてくれたいいのにな。
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