2章 踏み出す一歩を ④

 原因がなにか独自に調べるように動くように決意してから一週間はたった。

 無法地帯の保育園で幸与さんとしての生活は続いている。慌ただしいのはあいからわずだけど仕事の段取りは覚えてきた。

「昨日、うちの子の誕生日パーティでね、今日はすごく元気いいと思いますよ」

「ママとパパがおいわいしてくれて、すごいうれしかった」

「それはよかったね」

「先生、今日もよろしくおねがいしますね」

 親御さんから子供をあずかり、日々の生活の中で成長させる。

 連絡帳は家庭と保育園側で書く欄が別れており、一日ごとに睡眠状況、夕食や朝食は何を食べたか、子供の様子や連絡等を伝えることがあれ書く。

 さきほど連絡帳を受け取ったゆいちゃんの母親の連絡帳には、楽しい誕生日のイラストつきで書かれている。子供と幸せに過ごしている毎日。俺とは縁遠いものだ。

 それからも他の子たちを預かって適当に業務をこなし、子供たちが全員登園してからはクラスに別れての保育がはじまる。

 この保育園のクラス分けは学校とは大きく異なっている。0歳がチューリップ、ひまわり組、1、2歳がたんぽぽ、うめ組、3.4、5組、さくら組、すみれ組、ばら組というように、年齢が違う人同士でクラス分けがされていた。


「折り紙で今日はたくさんのものをつくっていきましょう」

 今日は折り紙を利用して一斉活動をすることになっていた。

 折り紙の折り方をみながら、それぞれ好きなものを折っていく。

「え! りっかちゃんつるおれるんだ」

「これみてやっただけ」

「教えて教えて」

 綾崎立花。ブロンドの髪がとりわけ子供達の中では目立つ子が折り紙の折り方を、3歳のみさとちゃんに教えていた。

「そこをそうして、うん、そこをこうしてあげて」

「わ~ありがと」

 5歳ながら、1人だけ大人びている。すでに小2ぐらいはありそうだ。

 ウェーブがかった髪で周りの子よりもおしゃれにみえる。はきはきとした喋り方をしているというのもあるのだろうか。

 女子グループは比較的に立花ちゃんを筆頭に落ち着いた印象。悪銭苦闘しながらも折り紙を折っていた。

「ぶーん、いけいけ」

 折り紙で一番簡単なもの、それは紙飛行機である。

 男子達にはたいへんな人気をほこり、投げ飛ばすものもでてきた。

 そうなれば男子グループは荒れる。

「おらおらいくぞ」

 一番やんちゃな達也が特に紙飛行機をいたる所に飛ばし続けてきた。

 

(めんどうだな)

 ここまで来たら、おのずと結果というものが見えて来る。

 達也のめんどくささは、学校にいるめんどくさい奴らと酷似していた。

 つまらない、めんどくさい奴ら。

 そしてそのめんどくさい奴らは問題をすぐに起こす。

「いけ!」

 達也は立花に向かって、紙飛行機を投げつけていた。

 立花の頭に紙飛行機が当たる。立花は怒りそうにはないタイプではるが、達也は調子にのるタイプ。

「りっか、なげてこいよ」

 胸を叩いて、立花を挑発していた。

 そうするとすぐに俺の方へと寄ってくる。

 そして目で合図。対処しろと言われているような気さえした。

 

「達也君、もどろうか」

 とりあえず、それに応じておこう。めんどうごとを押しつけられたのはやめて欲しいがな。

「な、なんだよ。いつもはもっとやさしくするじゃん」

「は?」

「なんだよ!」

 対応がきにいらなかったのか、どこかへ行ってしまった。

 俺の近くにいた立花は俺のことを見て驚いている。

「いつもと違うみたい」

 そんなことをぼっそりとつぶやいている。

 記憶をたどる、すると答えはすぐにみえてきた。

(幸与さん、いつもはもう少し達也君にやさしくしてたのか)

 だめだよ~たつやくん~が正解だったらしい。あいつ、幸与さんに甘やかされたいだけかよ。

「幸与先生こっちきて」

「は~い」

 俺への普段の態度よりも、さらに子供達はやさしい。

 俺は落ち着く暇すらなく、子供達の対応で忙しくなってしまった。

 

 一斉活動が終わった昼休み。

「いただきます」

 みんなで、手をあわせさせてから給食のピザを食べていく。

 特別美味しいこともないが、まずくもない。園児向けのものだからというわけでもない普通のピザでそれなりに腹を満たしてくれた。

「うぉおおおおおおお、のびる」 「あははは」

 さとみちゃんがピザのチーズを伸ばし、めいちゃんが笑っている。

 園児にとっては料理もひとつの遊びだ。注意してもいいが面倒だしほうっておこう。

「あ~ん。おとした」

 遊んでいたさとみちゃんが、ピザをおとしてしまった。

 これって注意しなかった俺も悪いのかよ、くそ面倒なことになった。

「はい、これあげる」

「いいの」

「うん、わたしもうお腹一杯だし」

「ありがとう、立花ちゃん」

 俺がなにか行動を起こすまえに立花ちゃんが、さとみちゃんにピザをあげてくれた。

 わがまま放題しておらず、他の娘よりか利口だった。

 

 みんなはまだ昼食中だ。その中で立花だけは本を読んでいた。

 他人へのきずかいもできるが、それらはすべてめんどくさいからやっていること。

(なんだか俺をみているみたいだ)

 利口であり、誰とも深くつながろうとしない。

 5歳にして、いや5歳だからだろういか。それは極端な形で人格を形成しつつあった。

「こっちだいくぞ」

「まてまて」

 みんなが遊んでいる中、今も1人で本を読んでいる。

 ちらりとまた立花は俺の方をみている。なにか試されているようだ。


「立花ちゃんも遊ぼうよ」

 波風をたてたくなくて、幸与さんの言葉を借りさせてもらう。するとため息をつかれた。

「おなじ……いつもそれだね。せんせいは」

「え?」

「わたしそういうのいらないから」

 誰にも解ってもらえず不満を抱えている。そんな所すらも俺にそっくりだった。

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