第30話 女子二人の修行結果。

 タイムアップの午後六時直前。

 長時間の連戦でリオンは汗だく、肩で息をしているが、瞳は力強く輝いている。


 そして――。


「ふう、疲れたー」


 ゴブリンを倒しきったリオンは大の字に倒れ込む。


「俺の想像以上だったよ。頑張ったな」

「はぁはぁ……オルソンに褒めてもらいたかったからね」


 厳しそうだったら途中でペースを落とそうと思っていた。

 なのに、リオンは俺の想定を満たすどころか、それ以上の強さだった。

 途中から予定以上のペースでゴブリンを運んだが、リオンは無事にやり遂げた。


 リオンは上体を起こす。


「汗拭きなよ」


 リオンにタオルを投げる。

 それを受け取ったリオンは汗を拭いていき――。


 ――リオンの身体がまばゆい光に包まれる。


「えっ!? これって!?」

「レベルアップだよ。おめでとう!」

「身体が軽くなった。それに、力がみなぎる」

「ステータス確認してみなよ」


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名前:リオン

LV:1→2

物理:D

魔法:E

好感度:78→80

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 レベルが1つ上がり、好感度は80に。

 リオンを攻略してしまった。

 あとは恋人っぽいことをしながら、90を目指して結ばれるルートだ。


「ねえ、オルソン。ちょっと戦ってもらえる」

「いいよ。だけど、その前に」


 俺は体力回復ポーション瓶をリオンに軽く投げる。


「全快してからね」


 リオンはポーション瓶の蓋を開け、ゴクリと飲み干す。

 ゲーム同様、ポーションは飲んでも、瓶ごとぶつけても回復する。

 ただし、飲んだ方が回復量は多いので、戦闘中でもない限りは飲む方がいい。


「へえ、凄いね。こんな感じなんだ」


 飲み干すとリオンの小さな傷が消え、疲れも取れる。

 初めて飲むポーションの効果にリオンは驚きながらも、嬉しそうだ。


「もう一本いっとく?」

「あはは、遠慮しとくよ。アレを見ちゃったからね」


 ナタリアーナとファヴリツィアの醜態を見てしまった以上、連続飲みをしたいわけがない。


「でも、そのうち必要になる。タイミングを見て、それも慣れよう」

「そうだよね。二人に出来るんだから、俺も出来ないとね」


 本当に真面目な性格だ。

 リオンの性格を考えると、ゲームのように負の感情よりも、正の感情の方が彼女を成長させるのに良い気がする。

 リオンの笑顔は俺が絶対に守ってみせる。


「始めようか」

「うん」


 リオンは立ち上がって、剣を構える――。


 ――軽く手合わせを済ませる。


「どう、実感できた?」

「うん。強くなったは実感できたけど……」

「けど?」

「ますます、オルソンが遠くに感じられるようになった」

「この調子なら、すぐ追いつけるよ」

「そうかなあ」


 いくら俺の最適育成方法であっても、数日でレベルアップできたのは、リオンの高い成長率ゆえ。

 間違いなくそのうち俺に追いつくし、追いついてもらわないと困る。


「今日はよく頑張った。帰って休んでね」

「うん。ありがと」


 ダンジョンが閉まる6時になり、転移室に戻る。

 アルダたち女子組みと合流した。


「オルソン様――」


 アルダから結果を聞く。

 やっぱり、進捗状況はかんばしくない。

 ナタリアーナとファヴリツィアはやっぱりダメだった。

 土曜日は事情があるので、修行に費やせるのは明日一日のみ。

 これだと日曜日に不安が残る。

 俺は心を固め、二人に告げる。

 この手段は避けたかったのだが、仕方ない。


「良いお知らせと、悪いお知らせがある。どっちから聞きたい?」

「良い方から」

「二人とも、明日で特訓は終わり。俺が想定していた強さを得られる」

「悪い方は?」

「明日の特訓は今日よりも、何倍もメンタルが削られる」

「…………」

「…………」

「無理強いはしないよ。やりたくないなら、やらなくていい。ただ、やらなかった場合、この先の命は保証できない」


 厳しいが、ここだけは譲れない。

 甘い言葉で乗り切れるほど、テスレガは優しい世界ではない。


「その代わり、根性で乗り切ってくれたら、二人は俺が全力で守る。決して二人を死なせない」

「オルソン……」


 ナタリアーナが初めて好意を含んだ視線を向けてきた。

 無意識だったようで、すぐに我に返り、気恥ずかしそうに視線をそらした。


「わかったわ。頑張ってみせる。見てなさいよ」


 強気なナタリアーナの言葉に、思わず頬が緩む。


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ナタリアーナ


好感度:37→38


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 うん。順調に好感度が上がってるな。

 この調子でやっていこう。


 一方のファヴリツィアと言えば――。


「……オルソン……さま」


 敬愛がこもった潤んだ瞳。

 ファヴリツィアは小声だけど、バッチリ聞こえてるからね。

 ついに、俺のことを様付けで呼び出しちゃったよ。

 さいわい、自分のことで精一杯なナタリアーナには届いていなかった。


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ファヴリツィア


好感度:80→82


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 ちょ、チョロすぎる。

 この調子だと俺の想定したよりも早く朝チュンが訪れそうだ。


 その後、解散となり、ナタリアーナは離れた場所にいたアルダに話しかける。

 小声で内容までは聞き取れなかったが、アルダはわずかに微笑んだ。

 なにを話してるのか、とっても気になる。


 ナタリアーナの性格からすれば、この段階でアルダに話しかけるというのは、想定していなかった。

 そういえば、ナタリアーナは男嫌いで、女の子の方が好きだ。

 とはいえ、友だちとしてという意味であって、百合百合するキャラではない……のだが。

 もしかして、この二日間の特訓。

 吊り橋効果でアルダへの恋愛感情を抱いてしまったとか?

 そうなると、ルート習性が必要になる。


 頭を抱えていた俺に、アルダが教えてくれた。


「オルソン様に彼女からの伝言です」

「俺?」

「明日、午前6時。教室で待つ――とのことです」


 ターゲットは俺だったか。

 百合百合展開にならなくて、ひと安心だ。

 それにしても、一体、なにを話したいのか。





【後書き】

次回――『ナタリアーナから呼び出された。』

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