第29話 リオンと集団自決。

 ――翌日(木曜日)の放課後。


「リオンはマラソンね。三人はサンドバッグ」

「アンタはどうするのよ?」

「ちょっと、野暮用。後からナタリアーナたちに合流する。十分ちょいだから、すぐだよ」


 皆と別れ、第四階層に転移。

 ダンジョンボスをサクッとやっつけ。

 カトブレパスをダガーでチクチクチクチク。

 ミミックをぶっ飛ばし、二つのレガシー宝箱が現れる。


 青と赤。


 昨日はブーツが入っている青い宝箱。

 今日は赤い宝箱だ。

 レガシーを取って、アルダたちと合流。


「ナタリアーナ」

「なっ、なによ」


 昨日厳しいことを言われただけに、ナタリアーナは身構える。

 だが、今日は嬉しいお知らせだ。


「これあげる。頑張っているからプレゼント」

「なにかしら?」


 淡々と告げる俺にナタリアーナの緊張が少し緩む。


「ローブだよ」

「へえ、良さそうじゃない」

「レガシー・ローブだからね」

「ふうん。レガシー・ローブね…………えっ!?!?」

「装備すると魔法の威力が上がって、消費MPが減るんだ」

「どっ、どうして、アンタがこんなもの持ってるのよ」

「今、とってきた」

「はああ????」

「ここのレガシーボスがドロップするんだよ」


 ナタリアーナが目を白黒させていると、背後から声をかけられた。

 ファヴリツィアだ。


「あの……」

「明日、持ってきてやる」

「はひぃ~」


 ちょっと低い声で囁くだけで、ファヴリツィアは腰砕けになる。

 この調子だと、リオンとナタリアーナにバレるのも時間のうちだな。


「じゃ、アルダよろしく。二人も頑張ってね」


 三人と別れ、リオンと合流する――。


「今日は第二階層に行こう」

「一日でこの階層をクリアするってこと?」

「ああ、違う違う」


 リオンは第二階層到達がゴールだと思っているようだ。

 だが、そこはスタート地点だ。


「第二階層でゴブリンを狩るんだよ」

「でも…………」


 一瞬、弱気な顔を覗かせるが、それはすぐに消える。


「分かった。オルソンがそう言うなら、頑張ってみるよ」

「じゃあ、早速――」


 二人で第二階層へ転移した――。


「なんか、ゾクゾクする」

「ダンジョンは潜るほど空気が張り詰めるんだ。慣れないうちは不安になるけど、慣れればどうってことないよ」


 凄いという憧憬の視線を向けられる。


「まずは試しにやってみよう」


 最初の部屋を離れ、通路に向かう。

 対して進まないうちに、目当てが向こうからやって来た。


「ほら、お出ましだ」


 緑色の小鬼モンスター。


 子ども並みのサイズ。

 腹が出てるのが特徴。


 腰蓑を着け、手には棍棒。

 テンプレ通りの姿だが、強さはテンプレじゃない。

 油断していると一瞬で殺される強さだ。


 ゲームでは推奨レベルは4。

 レベル1で挑むのは無謀に思えるが、原作より高いステータス、プレイヤースキル、そして、テスタメンティア・ブーツ。

 今のリオンなら問題ないだろう。


 リオンがスッと前に出る。

 ゴブリンは口を開ける。

 不揃いなギザギザした歯が見える。

 叫びながら、突進してくる。


 振り上げられた棍棒。

 リオンはそれをスッと躱し。

 カウンターに一閃。

 ゴブリンの首がすっ飛んだ。


「大丈夫そうだね」

「うん、なんとかね」


 謙遜してみせるが、顔には余裕が浮かんでいる。

 俺から見ても、問題ないと感じさせる動きだった。


「目的の場所に移動しよう」


 これからやるのは、ゲーム内でも使える作戦。

 一周目だとリスクが高いが、二周目以降では鉄板な作戦だ。


 その名も――集団自決タビネズミ


 タビネズミ。英語で言うとレミング。

 この生き物は特別な習性がある。

 それは――集団自決。

 と言われているが、実際は嘘らしい。


 ともあれ、その習性をモチーフにしたレトロゲームがある、名前はそのまま『レ○ングス』

 そのままだと集団自決してしまうレミングをなんとか助けるというゲームだ。

 今日の修行はその逆を行く。

 ゴブリンを集団自決に導くのだ。


 俺たちはゴブリンを誘い込む部屋へと移動する。

 小さな小部屋。出入り口はひとつだけ。

 この出入り口に大量のゴブリンを連れてきて、集団自決のように皆殺しにする作戦だ。


 おびき寄せるのは俺の役目。

 皆殺しにするのがリオンの役目。


「リオンの課題はふたつ。多対一。そして、連戦」

「授業と一緒だね」

「その通り。今日のためにそうしたんだ」

「そこまで考えていたんだ。やっぱり、オルソンは凄いなあ」

「リオンよりちょっと詳しいだけだ」

「それでも、十分凄いよ」

「まずは試しに数匹、釣ってくる」

「わかった。やってみる」


 リオンの顔に不安はない。

 俺を信頼してくれているのだろう。


 俺は言い残して、部屋を後にする。

 フロアを適当に歩き、ゴブリンと遭遇。

 すぐには倒さない。

 ゴブリンが後をついて来られる速度で通路をグルグルと走り回る。

 俺に気がついた他のゴブリンも合流して来て。


 ――五体。


 そろそろ戻るか。

 ゴブリンを引き連れ、リオンのいる部屋へ戻る。


「五体だ」

「うん」


 リオンは直剣を構える。

 そこに五体のゴブリンが殺到。

 リオンはヒラリヒラリと躱しながら、ゴブリンの首を刎ねていく。

 全滅させても、リオンは汗ひとつかいていない。


「とまあ、こんな感じ。行けそうでしょ?」

「うん。大丈夫かな」

「これから数を増やしていく、連戦になるし、モタモタしてたら囲まれて蛸殴りされる」


 プレイヤーにとっては一体でも脅威。

 だが、リオンなら五体でも余裕。

 問題は、数を増やしても上手くいくかだが、俺はリオンを信じている。


「一応、念のためにこれを渡しておく」


 手のひらサイズの黄色い宝石。


「エスケープ・ストーンだ。手に握って【転移サムウェア・ファー・ビヨンド】と唱えれば、ダンジョンから脱出できる」


「ピンチのときは遠慮なく使え。ヤバくなってから使うんじゃ間に合わない。ヤバくなりそうと思った段階で使って良い」


「命はひとつきり。そこら辺の見極めも出来るようになって欲しい」


「さっきより大量に連れてくる。十分くらいかな。でも、ゴブリンが紛れ込んでくるかもしれないから、油断しないこと」

「わかった!」

「行ってくる」


 俺は通路に飛び出し、ゴブリンを探しに向かった――。


 ゴブリンの性質は群れることだ。

 近くに仲間がいると一緒に行動するようになる。

 ゲームではリンク範囲と呼ばれていた。

 リンク範囲内に仲間がいると合流するのだ。


 そして、もうひとつ、特別な設定がある。

 これを利用して集団自決は効率的な育成方法になるのだ。


 その性質――リンク範囲は群れの個体数が多いほど広くなる。


 なので、ゴブリンを引き連れて走り回っていれば、群れの規模は雪だるま式で大きくなる。


 まずは軽く三十体。


「リオン、連れてきた」

「任せてっ!」


 リオンの戦い振りを少し観察――大丈夫そうだ。


「また、連れてくる」


 リオンに俺の言葉が届いたかどうか分からないが、俺はまた通路に飛び出す。


 こんどは五十体。


「お代わりだよ」


 俺が部屋に戻ったときには、さっきの三十体を倒しきっていった。

 行けるな――俺は確信した。


 さあ、遠慮はなし。

 全力で運んでやる――。


「よし、これで最後だ」


   ◇◆◇◆◇◆◇








   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『女子二人の修行結果。』


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   ◇◆◇◆◇◆◇


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