第28話 そういえば、そんなイベントあったよな。


「だから、あえて訊くね。なんで、ボクを選んだの?」


 俺の目をまっすぐ見つめる。

 だが、目尻がかすかに震えていた。

 不安――なのだろう。


 原作を知っている俺からすれば当然の行動だ。


 が。


 リオンはそれを知らない。

 平穏な田舎暮らしをしていたところに、俺が現れ、彼女の人生を変えた。


 俺が変えたんだ。

 だからこそ、俺はリオンの人生に責任を持つ。


 リオンもそれを確認したいのだろう。


 なるほど、今日のメインはそれか。

 ゲームの主人公で、俺の今後に必要だから。

 そんな理由は伝えられないし、現時点での俺の思いとも離れている。

 間違いなく、俺はリオンに惚れていた。

 誰かを好きになる。

 それに順序はない。

 だから、おれは真摯に答える。


「目だよ」

「目?」

「理由は……直感かな」

「どういうこと?」

「リオンなら、俺に並び立てる、いや、俺を追い越すかもしれない。そう思ったんだ」

「そっか。認めてくれてたんだ……」

「ああ」


 それだけ言うと、リオンは俯く。

 そして、その瞳から、ポツリ、ポツリと。


 テーブルに出来た黒い染みを見た瞬間――。


 俺はいてもたってもいられず、リオンの隣に座り、細い肩を抱きしめた。

 心臓がギュッと握りしめられる思いだ。

 リオンはこれだけの思いを抱えていたんだ。


「大丈夫?」

「平気……嬉しくって」


 俺が押しつけた重圧からの涙かと思ったが、リオンが流したのは嬉し涙だった。

 リオンは涙腺が決壊したように、子どものように泣きじゃくる。


「落ち着いた?」

「うん」


 リオンは赤くなった目元の涙を拭う。


「ねえ、ボクたち友だちだよね」

「ああ、友だちだ」

「えへへえへへ」


 リオンは嬉しそうに身体を俺に預ける。

 甘える仔犬のように。

 とろんと蕩ける瞳はアルコールの生だけじゃない気がする。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


リオン


好感度:75→78


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 やっぱり……。


 このままの流れだと、今日中に俺とリオンは……。


「オルソン様――」

「どっ、どうした?」


俺は慌ててリオンから離れる。

後ろめたい気持ち


「お楽しみ中、お邪魔して申し訳ございません。寮監が来ます」


 ――寮監!!


 すっかり忘れていた。

 原作において、魔族なんかよりもよっぽど嫌われているキャラ。

 夜に寮内を巡回し、異常がないか確認する役割。


 要するに、イチャイチャを邪魔するサイテーのキャラだ。

 今回のように、夜のイチャイチャイベント進行中にお預けを喰らわす存在。

 寮監によってイベントが強制中断させられる。


「じゃ、じゃあ、ボク、戻るね」

「ああ、アルダ案内してあげて」


 ゲーム内で寮監イベントが発生した場合、見つからずに部屋に戻らねばならない。

 メタル○アソリッド並みのスニーキングミッションだ。

 ちなみに、テスレガなので、鬼畜難易度だ。


 このミッションには二種類ある――。


 ひとつ目は一発勝負。

 一回でもミスれば、ペナルティーを喰らうもの。

 様々なペナルティーがあるが、一般的なのは、放課後の強制奉仕活動。

 貴重な行動時間が奪われる、地味でエグいペナルティーだ。

 だが、これはまだマシな方。


 ふたつ目。こっちの方が鬼畜だと言われている。

 こちらはクリアするまで、ゲームの進行が停滞する。

 見つかったらやり直し。

 見つからずにクリアするまで、延々ループ。

 プレイヤースキルがないと、ここで詰みだ。


 イチャイチャ天国から、地獄へ叩き起こされる鬼の所業。


 ――女の子とイチャイチャしてるの見てると、苛つくんだよね。


 とてもギャルゲーメーカーの発言とは思えない。


「お休み、オルソン」

「リオンもお休み」


 リオンは部屋を去ろうとし、名残惜しそうにこちらを振り向く。

 思わず駆け寄って、ギュッと抱きしめ、「今夜は帰さない」と言いたくなる衝動――それを抑えるために――。


 ――ボギリ。


 親指の骨を折る。

 その音にリオンは不思議そうにしたが、俺は笑顔を保つ。

 なんとか、バレなかった。

 最後にこちらに手を振って、部屋を後にした。


「ふぅ、危なかった」


 あまりのリオンの可愛さに暴走しそうになった。

 耐えられたのは、二年間の修行成果だ。


 修行を通じて、俺は学んだ。

 たいていの感情は――痛みで上書きできる。


 例えば、戦闘中――。


 味方がピンチに陥ったとき。

 どうしても動揺してしまう。

 そんな場合は腕を斬り落とせば良い。

 強烈な痛み。一瞬で、冷静に戻れる。

 その上、俺には【我が友、それはマイ・フレンド・――苦痛なりオブ・ミザリィ】があるので、ステータスもアップして一石二鳥だ。


 ポーションで怪我を癒やし、俺はベッドに倒れ込む。

 アルダがついているから、リオンの心配はない。


 それより――。


 短い時間だったが、今回のイベントはいろんな感情を揺さぶられた。

 ゲーム内でもあったイベントなら、心構えもできているし、どう振る舞えばいいかも知っている。

 だが、リオンの場合はまったく予想がつかない。


 俺はリオンに惹かれている自分に気づかされた。

 明日から、どう接すればいいんだ――。


 この思いが、俺をなかなか寝つかせてくれなかった。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『リオンと集団自決。』



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