第25話 リオンにレガシーをあげる。


『リオン、転移室で合流しよう』


 レガシーをゲットした俺は、ダンジョンから戻り、リオンにメッセージを飛ばす。

 メッセージ機能はゲームでもあった。

 お互いが了承したらやり取りできるシステムで、女の子の好感度が70以上だと使えるようになる。

 リオンの好感度は出会ったときから越えているので、初日から使えた。


 リオンと合流するのはレガシーを渡すため。

 ナタリアーナとファヴリツィア用のレガシーを得るために、後二回カトブレパスを倒したいのだが、レガシーをゲットできるのは一日一回。

 なので明日と明後日にまた周回だ。


 レガシーについて、もうひとつ付け加えると、レガシーボスは倒すと強くなる。

 カトブレパスの場合は二回目はHP200、三回目は300、と一回ごとにHPが100増えていく。

 完璧チャートがあるので、カトブレパスは問題ないのだが、他のレガシーボスだと難易度が一気に跳ね上がる。

 同じレガシーを人数分ゲット――と簡単にはいかない仕様だ。

 これくらいアトランティックにとっては嫌がらせにも入らない。


『今、ヤマウサギ倒したから、すぐ戻るね』


 返事から一分も待たず、リオンが戻っていた。


「調子はどう?」

「うん。一人でも大丈夫。それより、どうしたの?」

「リオンにプレゼント」

「えっ!? ホント!?」


 オルソンからブレゼントかあ、えへへ――小声で呟いたつもりだろうが、バッチリ聞こえていた。


「もう一度ヤマウサギを倒しに行こう。プレゼントはその後ね」

「うん。楽しみ!」


 まったく、そんな笑顔を見せられたら、今すぐレガシーを渡したくなるじゃないか。

 だが、それはリオンの成長を見た後だ。

 その前に、俺とリオンはダンジョンに戻って、ヤマウサギ狩りだ。


「今はどんな感じ?」

「五発で倒せるようになったよ」

「一匹倒すのにどれくらいかかる?」

「三分くらいかな」

「凄い。頑張ったね」

「えへっ」


 リオンは満面の笑顔。

 思わず頭を撫でると、仔犬のように喜んでみせる。


 真っ直ぐで頑張り屋さんのリオン。

 いくら主人公補正で成長が速いとはいえ、俺が予想していた以上だ。


「じゃあ、一度戦って見せて」

「うんっ!」


 リオンは現れたヤマウサギと向かい合う。

 飛びかかってくるヤマウサギ。

 スッと身体を動かして、回避する。

 何度も飛びかかってくるヤマウサギが隙を見せた瞬間。


 ――突ッ。


 突きが決まる。

 リオンの剣でダメージを負ったヤマネズミは一度距離をとる。

 仕切り直しだ――。


 リオンは隙のない戦い振りをみせ、言っていた通り三分でヤマウサギを倒した。


「凄い凄い」

「えへへっ」

「じゃあ、約束のプレゼント」


 ワクワク顔のリオンに、俺はマジックバッグからレガシーを取り出す。


「ブーツ? なんか凄そうなんだけど……」

「うん。テスタメンティア・ブーツだよ」

「えっ、それって!?」

「ああ、レガシーだよ」

「ええええええっ!!!!!」


 リオンの絶叫が部屋に響き渡る。


「本物なのっ?」

「このダンジョンで手に入るヤツ。リオンのために取ってきた」

「そんな気軽に言われても……」

「実際、簡単だったからね」


 俺だけに可能な攻略法でね。

 教えないけど。


 ――うーん。オルソンに追いつける気がしないよ。


 ひとり言のつもりだろうが、バッチリ聞こえる。


「でも、こんなもの、もらえないよ」

「リオンのためでもあるけど、俺のためでもあるんだ。だから気にしないで」

「……うっ、うん」

「引け目を感じるなら、その分、強くなってよ。リオンが追いつくの待ってるからね」

「…………」


 リオンは黙り込み――目に強い光が灯る。


「うん、分かったっ!」

「じゃあ、履いてみて」


 リオンはブーツを装着する。


「なんか凄そう」

「スキルを使ってみて、もっと凄いから」


 テスタメンティア・レガシーはスキルを使ってこそ、その真価を発揮する。


『――【時の信徒ディシプルズ・オブ・ウオッチ】』


 リオンはスキルを詠唱し、軽く身体を動かす。


「軽いッ! 速いッ!」


 テスタメンティア・ブーツの効果は行動速度上昇だ。

 地味な効果だが、その効果の大きさがハンパない。


「早速、試してみよう」

「分かった!」


 ダンジョンに再度入り直す。

 出迎えてくれたヤマウサギ。


 飛びかかってくるが――。

 リオンは素早く躱し――。


 ――突ッ。

 ――突ッ。

 ――突ッ。

 ――突ッ。

 ――突ッ。


 高速の五連撃。

 それだけで、ヤマウサギは死んだ。


「ええええええっ!!!!!」


 リオンは目玉が飛び出そうに叫びを上げる。


「これで効率的に狩れるね。いっぱい狩って、俺との差を少しでも埋めてね」

「頑張るっ!!!」

「後は一人で平気だよね?」

「うん。大丈夫!」

「じゃあ。俺は女子の様子見てくる」


   ◇◆◇◆◇◆◇


 リオンに別れを告げ、アルダにメッセージを送る。

 三人がダンジョンから戻って来たのは数分後だった。


「見ての通りの状態で、予定より遅れています」

「うーん、そっか……」


 ピンピンしているアルダとは対照的に、ナタリアーナとファヴリツィアは青ざめた死体のようにへばって地面に座っている。


 二人はヤマウサギから物理的なダメージは一切受けていない。

 疲労困憊なのは、アルダの厳しい修行による精神的ダメージだ。


 彼女たちの修行法はシンプル。

 魔力回復ポーションをがぶ飲みして、魔法を撃ちまくる。

 ただそれだけ。

 俺の財力にものを言わせたゴリ押し育成だ。


 しかし――。

 ポーションで回復しての魔法連発は精神的にキツい。

 ゲーム内では、ポーションは一度使うと、一定時間経過しないと続けて使えない仕様だ。


 その制約をこの世界でどう表現されるかというと、物理的に飲めないのではなく、精神的に飲めないという風になっている。


 これにはメリットとデメリットがある。

 デメリットは連続して飲むには今の二人のように、目眩めまい、吐き気、頭痛、震え――とんでもない苦痛と闘わねばならない。

 メリットは苦痛に耐えれば、いくらでも連続して使えることだ。


 ゲームと同様、短時間で飲んでも効果がないのではなくて良かった。

 だって、苦痛に耐えるだけで、成長速度が圧倒的に上昇する。

 これほど嬉しいことはない。

 こんなのアトランティックの悪意に比べたら、屁みたいなものだ。

 そう思う俺は、二年間の修行でどっか壊れてしまったのかもしれない。


 ともあれ、甘い顔は見せられない。


「休憩終わり。修行を再開しよう」


 俺たちはダンジョンに戻る。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ナタリアーナとファヴリツィアの修行を見る。』


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   ◇◆◇◆◇◆◇


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