第24話 カトブレパス攻略チャート。

 発売から二年後。

 カトブレパス戦の完璧なチャートが発見された――。


 一切、奇をてらっていない。

 バグでもチートでもない。

 テスレガのシステムを理解し、利用しただけ。

 説明されれば誰もが「どうして気がつかなかったんだ!」と衝撃を受けるチャートだった。


 そして、このチャートは誰でも使える。

 なにせ、前提条件は「レベル15」のオルソンがいる――これだけだ。

 この条件を満たせばどんな初心者でも100%カトブレパスに勝てる。


 初手は、「オルソン以外自決」だ。

 リオンや他の仲間を殺し、オルソン一人だけにする。

 今回の場合は俺だけなので、このステップは不要だ。


 そして、二手目は――。


『――【我が友、それはマイ・フレンド・――苦痛なりオブ・ミザリィ】』


 お馴染みのスキルを発動させる。

 効果は『全てのステータスが上昇。そして、、ステータス上昇値が高くなる』だ。

 いつもなら、この後に腕を斬り落としたりなんやらするのだが、今回はそうしない。

 発動させた理由は別にあるからだ。


 三手目――。


 カトブレパスに向かってダッシュ。

 カトブレパスが石化光線を放ってくる。

 俺は身体を横に振って回避。

 うん。問題なく躱せる。


 二年間の命懸け修行によって、俺のプレイヤースキルはゲームをやってた頃より遥かに上昇している。

 石化光線がゆっくりに見えるほどだ。

 別に躱せても躱せなくても、チャートには関係ないのだが、気分の問題。

 俺はすいすいと避けながら、気持ち良くカトブレパスに駆け寄る。


 後はゼロ距離での単純な打ち合いだ。


 俺がダガーでカトブレパスを突くたびに、1ダメージ与える。

 カトブレパスが石化光線を放つたびに俺の身体が石化していく。


 この状況を見て、普通ならこう考える――。


「石化する前に百回攻撃するとか無理っしょwww」


 初めてこのチャート動画が上がったとき。

 動画を見ていた皆がそう思った。

 ああ、また承認欲求モンスターが、嘘動画を上げたのかと。

 だが、次の瞬間、驚きに固まる。


 オルソンの身体が半分以上石化して――パリンと石化が解けたのだ。


「はっ!?!?!?」


 なにが起こったのか?

 バグが見つかったのか?

 それとも、チートなのか?


 疑いながらも、原因を考え――「あっ!」


 鳥肌が立った。

 バグでも、チートでもない。

 システムを利用した、完璧な攻略法だ。


 カトブレパスの部分石化。

 オルソンの【我が友、それはマイ・フレンド・――苦痛なりオブ・ミザリィ

】。

 その二つがガッチリと噛み合った結果、この攻略法が成立する。


 部分石化は、喰らいすぎると石化状態になる。

 しかし、他のメンバーが死んでいてオルソン一人だけの場合、オルソンが石化すると死亡扱い――パーティー全滅になる。


 そして、【我が友、それはマイ・フレンド・――苦痛なりオブ・ミザリィ】は『、ステータス上昇値が高くなる』。

 つまり、石化光線を受けるたびに、石化が進み、死が近づき、オルソンの全ステータス――特に、石化耐性値が上昇し、石化が解除される。

 なので後はなにも考えずにツンツンしてるだけで、カトブレパスを倒せるのだ。


 カトブレパスのための、カトブレパスだけにしか通用しない――芸術的なチャートだ。


 俺もチャート通りにツンツンする。

 数分後、カトブレパスをやっつけた。


「一応、ダメだったときの作戦も考えていたけど、上手くハマって良かった良かった」


 ゲームの攻略法はこの世界でも通じる。

 この結果は、俺に大きな自信を与えた。


 カトブレパスが死ぬと、宝箱が現れる。

 転生してから二年間。

 ずっと待ち望んでいたレガシーだ。

 この世界でも、ようやく、手に入れられる。


 俺の頬を涙が伝う。

 嬉し涙ではない――悔し涙だ。


 俺は宝箱に向かって――。


『――【鏖殺撲滅キルエム・オール】』


 闇の魔力が飛んで行き。

 宝箱にぶつかり。

 爆ぜる。


鏖殺撲滅キルエム・オール】は魔力を飛ばす範囲攻撃魔法。

 範囲は指定できるので、最大限まで範囲を狭め、宝箱だけを狙う。

 明らかにオーバーキルだけど、過去の怒りを晴らすつもりでやった。


 宝箱は木っ端微塵だ。

 いや、正確には宝箱じゃない。

 宝箱に擬態したモンスター。

 アルティメットミミック。

 ミミックの最上位種。


 ――これがアトランティックのやることだ。


 過去のトラウマがよみがえる。

 長くツラいカトブレパスへの挑戦。

 何十回、何百回死んだか覚えていない。

 その苦行を乗り越え、やっとたどりレガシー。

 この瞬間、身体が、魂が震えた。


 そして、喜び勇んで宝箱を開け――アルティメットミミックに殺された。

 アルティメットミミックの攻撃は九〇パーセントの確率での即死攻撃。

 サイコロを振ってハズレがでたら死亡。

 もう一度、苦行のやり直しだ。


 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 …………………………。

 ………………………………。


 トラウマ回想終了!


 俺は現実へと意識を戻す。

 アルティメット・ミミックを倒し、ようやく本物の宝箱が出現する。

 目の前に現れたふたつの宝箱。

 赤い宝箱と青い宝箱。

 ひとつを開けると、もうひとつは消滅。

 どちらかひとつしか選べない。


 赤い宝箱は魔法職用。

 青い宝箱は物理職用。


 俺が選ぶのは――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『リオンにレガシーをあげる。』


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   ◇◆◇◆◇◆◇


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