第17話 放課後はなにしようか?

 ――放課後。


 授業が終わり、俺たちは解放される。

 ゲームの場合、放課後に取れる行動は三通り。


 (1)自由行動。

 (2)ダンジョン攻略。

 (3)自主訓練。


 (1)は学内や学外のいろいろな場所を訪れる行動だ。

 場所によってヒロインと出会ったり、サブイベントが起こったり。

 ギャルゲーとしての楽しさを満喫できる。


 (2)はその名の通りダンジョンに潜る行動だ。

 モンスターと戦ったり、ドロップアイテムをゲットしたり。

 RPGとしての楽しさを満喫できる。


 (3)は午後の授業のように、訓練してステータスを上げる行動。

 ゲームだとパラメータが上がりましたの表示が出るだけで、なんの面白みもない。


 3つの選択肢が与えられ、プレイヤーがなにを選ぶか?

 まあ、普通は(1)か(2)だよな。

 だって、テスレガのウリはギャルゲー&RPGなんだから。


 俺が選ぶのは――。


 物理科の生徒は俺との模擬戦で触発されたらしく、皆で演習場に残りトレーニングに励むそうだ。

 ビリー先生も「よーし、お前ら、しごいてやるぞっ!」とやる気満々だ。

 いい刺激になったようで、俺としても嬉しい。

 この世界がゲーム通りだとすれば、この先は過酷な道だ。


 残念ながら、俺がどう頑張っても、全員の命を救えるわけではない。

 ゲームではモブだったとしても、彼らもこの世界で生きる人間。

 一人でも多く、生き残って欲しい。


 俺はそんな彼らを残して――。


「リオン、行こう」

「えっ? 修行しないの?」

「もちろん、するさ。だが、ここじゃない」

「もしかして……」

「ああ、ダンジョンだ」

「でも、先生がまだ潜るなって」


 リオンが言う通り、午前中の授業で教師から「一ヶ月後の演習が終わるまで、ダンジョンに潜るな」と厳しく注意された。

 ゲームでは、そんなことなかった。

 初日からダンジョンに入れる。

 すなわち、初日から死ねる。


 ただ、現状を鑑みると、先生の言うことはもっともだ。

 さっきの模擬戦で感じたが、彼らが今ダンジョンに潜ったら、間違いなく死ぬ。

 それくらい、テスレガのダンジョンは容赦ない。


「俺は潜る。リオンはどうする?」

「…………」


 教師は注意の後にこうつけ加えた。

「オルソンは例外だ。好きにして構わんぞ」と。

 後は、リオンに覚悟があるかどうかだ。


「わかった。ボクも行くよ」

「じゃあ、一緒に行こう」


 俺たちが演習室を出ようとしたところで、案の定、リシパが声をかけてきた。


「アニキっ、帰るんですか?」

「人のこと気にしてる暇があったら、自分のことを考えろ」

「うすっ、頑張るっす!」


 やっぱり、リシパはチョロい。

 Uターンして、みんなの中に戻っていった。

 ゲームでは噛ませ役だったが、こう懐かれるとだんだんかわいく思えてくる。

 ヤツにも生き残って欲しいから、折を見て鍛えてやろう。


 魔法科の授業も終わったようで、他の生徒に交じり、ナタリアーナたちがやって来た。ファヴリツィアは取り巻きに囲まれている。


「ねえ、リオン、この後どうするの?」


 ナタリアーナはチラと俺に見てから、俺ではなくリオンに声をかけた。

 ファヴリツィアは取り巻きとの会話もそぞろに、遠くから俺を見つめている。


「ボクはオルソンと一緒にダンジョンに行くよ」

「ええっ!? そんなの無茶よ。先生も言ってたじゃない」

「大丈夫だよ。オルソンは本当に強いんだよ」


 ナタリアーナはしばらく考えた後、決心したようだ。


「分かったわ。私も連れて行きなさいよ」


 強気な態度のナタリアーナに対し、遠くからこちらを見るファヴリツィアは俺たちの輪に加わりたそうだ。

 そんな顔をされると申し訳なくなるが、俺はあえて冷たい視線を向ける。

 俺の意図に気づいた彼女は小さく微笑んだ。

 王女の仮面から一瞬、垣間見えた蕩ける笑顔だ。

 ヨダレが垂れかけたようだが、彼女の名誉のために俺の見間違いということにしておこう。


 リオンは困った顔で俺を見る。

 さて、誰をつれていくかだが、答えは決まっている。


 ちなみに、ゲームでは初期時点で一緒にパーティーを組めるのは同じクラスの三人。

 ナタリアーナ、ファヴリツィア、そして、オルソンだ。


 あれだけ主人公に突っかかる男嫌いのナタリアーナがなぜ、パーティーに入ってくれるのか?

 彼女が平民で、他のクラスメートの誰も組んでくれないからだ。


 ファヴリツィアもナタリアーナとは逆の理由でクラスメートから敬遠される。

 取り巻きは皆ナタリアーナと親密になりたいのだが、ダンジョンで王女にトラブルがあってはいけないと避けられるのだ。


 そして、オルソンを誘えば、ノリノリで着いてきてくれる。

 オルソンにとって、リオンは初めての友だち。

 誘ってもらえて、嬉しくてしょうがないのだ。


 ただし、ゲーム序盤で一緒にダンジョンに入れるのは二人まで。

 そういう仕様だ。

 プレイヤーは四択を迫られる。


 (1)ソロ。

 (2)ナタリアーナ。

 (3)ファヴリツィア。

 (4)オルソン。


 それで選択の結果はどうなるか?


 (1)死ぬ。

 テスレガのダンジョンは一人で戦えるほどヌルくない。

 よほどの熟練者か2周目以降でなければソッコー死んでバッドエンド。


(2)死ぬ。

 ナタリアーナは火力は高いのだが、紙装甲。

 モンスターの攻撃一発で即死。

 彼女を守れるだけのプレイヤースキルがないとバッドエンド。


(3)死ぬ。

 ファヴリツィアは回復職。

 火力が足りなくて、ジリ貧で死亡。

 彼女を守れるだけのプレイヤースキルがないとバッドエンド。


(4)頑張らないと死ぬ。

 オルソンは三人の中で一番強いサポートキャラだ。

 彼のサポートならば、ギリギリ死亡回避可能。

 ただ、それなりのプレイヤースキルが必要。

 初見プレイヤーならバッドエンド間違いなし。


 笑うしかない。

 これがテスレガだ。


 チュートリアルを終え、授業が終わり、やっとヒロインとダンジョン――からのバッドエンドだ。

 テスレガが優しいのはリシパ戦まで。

 ここから、容赦無用の鬼畜ゲーと化すのだ。


 ――発売当日。


 ヒロインとイチャイチャしながらダンジョン冒険と期待に胸を膨らませていたプレイヤーたちは、ダンジョンに潜り、ヒロイン死亡エンドを見せつけられる。

 なにかの間違いだろうと二度目の挑戦をして、またもやバッドエンド。

 何度やってもバッドエンド。


 大炎上だ――。


 そして、制作のアトランティックが発したひと言。


 ――いきなりダンジョン潜っちゃった(笑)? 弱者には恋愛も冒険もする資格ないんだよね(笑)。おとなしく自主訓練しとけば(笑)


 完全に火に油を注いだだけだ。

 というか、自らガソリンをぶちまけていくスタイル。

 この時点で、多くの者がアトランティックは頭おかしいと理解した。


 なんで、最初に地味なステータス上げをしなきゃいけねえんだよっ!

 こっちはお手軽に恋愛と冒険を楽しみたいから、ゲームやってんだよ!

 プレイヤーを楽しませる気ねーだろっ!


 クソゲー!

 クソゲー!

 クソゲー!

 クソゲー!

 クソゲー!

 クソゲー!


 いやあ、当時はよく燃えたなあ。

 今となっては、懐かしいだけだ。


 これが初回の大炎上。

 以降も何度となく起こる大炎上の第一弾だった。


 というわけで、初回プレイならば、自主訓練一択だ。

 だが、俺はそうしない。

 そのために二年間、死ぬ気で頑張ってきたんだから。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ダンジョンに誰を連れて行く?』


   ◇◆◇◆◇◆◇


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