第4話 修行はもっと痛い。
――それから何時間たっただろうか。
時間の感覚はとうに麻痺した。
百体までは数えたが、何体倒したかも忘れた。
手足に力が入っているかどうかすら分からない。
ただただ、苦痛だけが、生きていると実感させてくれる。
スケルトンの群れを倒しきり、肩で息をする。
【
「もうお止めくださいッ!」
アルダに後ろから抱きつかれた。
ああ、そういえば、彼女も一緒だったんだ。
戦いに夢中で、そんなことすら忘れていた。
「アルダか……グッ……」
戦闘中には麻痺していた苦痛が、遅れてやって来て全身を這い回る。
生まれて初めて感じる激痛。
身体が千々に引き裂かれ、砕け散りそうだ。
いっそ、殺してくれ――。
アルダの腕を離れ、その場に崩れ落ちる。
耐えがたい痛みに、のたうち回る――。
――永遠に続くかと思った痛みは、急にスッと消え去った。何事もなかったかのように。
ポーションが効いてきたのだ。
残ったのは全身びっしょりのアブラ汗と荒い呼吸だけだ。
「はあはあはあ――」
「オルソン様ッ! 大丈夫ですかッ?」
深呼吸を繰り返し、だんだんと呼吸を整えていく。
どれだけの時間がたったのか――気がついたら、アルダの腕に抱きかかえられていた。
なんとか落ち着いてから、俺は立ち上がる。
そして、アルダに視線を向けると――。
「なんで、泣いてるんだ?」
「とても見てられませんでした」
スッとひと筋、彼女の黄色い瞳から涙が零れる。
「ああ……ごめん」
謝る俺に、アルダは首を左右に振る。
それがきっかけとなったのだろうか。
猫のように光る瞳がぐにゃりと歪む。
次の瞬間――彼女の涙腺が決壊した。
その場にしゃがみ、両手で顔を覆う。
すすり泣く音だけがしばらく続いた。
あまり深く考えずにやってしまったが、自分の行動を客観的に見ると、アルダの反応は当然だ。
彼女に心配をかけさせてしまったのは、大変申し訳ない。
反省のために拳を固く握りしめ、彼女が落ち着くまで、目を逸らさず丸くなった背中をジッと見続けた。
嗚咽が収まってきた彼女に言葉をかける。
「俺にはこれくらいしかできないから……」
オルソンも強さを得るために、この痛みに耐えたんだ。
俺は彼よりも強くならなければならない。
彼の何倍もの苦痛とつき合っていくしかない。
――使っているときは我慢できる程度だったが、解除するとまとめて痛みがやってくるんだな。
これからはこの痛みと一緒に歩いて行く。
俺が強くなるに合わせ、痛みも強くなる。
「最強を目指すと言っただろ」
「でも……」
目が腫れた彼女は、それ以上なにも言えなかった。
「君のオルソンを奪ったんだ。これくらい、罰のうちにも入らないよ」
ここまで無茶をするのは、最強を目指すため。
大切なアルダや他のヒロインを救うため。
それが一番大きな理由だが、俺が踏ん張れたのは――自責の念があったからだ。
俺は奪ってしまった。
オルソンのすべてを。
アルダのオルソンを。
この日をきっかけに俺とアルダの関係は近づき始めた――。
◇◆◇◆◇◆◇
――修行を開始してから半年がたった。
この半年で、俺は彼女の信頼を得た。
身体を、命を賭けて修行に打ち込む姿で、彼女は俺を認めてくれた。
修行開始当時では考えられないが、今では俺を気遣ってくれるまでになった。
ちょっと無茶をすると悲しそうな顔をする。
俺を止めたいのだろうが、グッと拳を握って
彼女にそんな思いをさせるのは気が引ける。
だが、それでも、俺は戦わなければならない。
強くなったことも嬉しいが、彼女と心が近づいたことの方が嬉しかった。
彼女の想いを感じられたから、俺は折れずにここまでやれた。
今は俺一人。
アルダはポーションや食料などの物資を買いに街に行っている。
ムチャクチャな戦い方をしているせいで、最近は一週間でポーションが尽きてしまう。
出かける際に、「絶対に無理はしないで下さいね」と念を押された。
ともあれ、一人になっても、やることは一緒。
いつも通り『
モンスターを倒すと、レベルアップを告げる通知がピコンと鳴る――。
そろそろ、来る頃だなとは思っていたが……。
よりにも、アルダがいないときだったか……。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
名前:オルソン・ディジョルジオ
性別:男
年齢:13
LV:15
物理:D
魔力:D
メインスキル:闇魔法
サブスキル:短剣術
レガシー:
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
――レベル15。そして、物理・魔力ともにランクアップ。
ここまで長かったが、ようやく修行の第三段階に移れる。
「ふぅ」
【
だけど、この先は……。
「まあ、やるしかないよな……」
ここまできて、止めるという選択肢はない。
俺は覚悟を決める。
さあ、行くぞッ!
『――【
◇◆◇◆◇◆◇
「オルソン様ッ!」
買い出しから戻ってきたアルダは、俺を取り囲んでいたモンスターに襲いかかり、あっという間に全滅させた。
「横取りはよくないよ」
俺の言葉はアルダの耳には入らず、彼女の視線は俺の右腕に釘付けだ。
いや、正確には、右腕のあった場所だ。
「ああ、気にするな。モンスターにやられたわけじゃない。自分で斬り落としただけだ」
傷口を焼いて止血したが、俺の右腕は肩から先がなくなっている。
「汚れるぞ」
「そんな問題ではないです。なんで、そんな無茶を……」
「ああ、戦闘中に腕をなくしたからといって、戦えなくなったら困るだろ? そのための訓練だ」
「そこまで……」
「ああ、そこまでだ。そこまでしないと、最強には至れない」
「ですが……今すぐポーションを」
「必要ない……グッ」
強がってみせるが、右肩に激痛が走る。
戦闘中は気にならないのだが、気を抜くとこれだ。
アルダは俺の身体をギュッと抱きしめる。
身体が小刻みに震えている。
傷口に彼女の涙がポトリと垂れる。
「心配してくれてありがとう。でも、やるしかないんだ」
「…………」
「新しく覚えたスキルを使うために、どうしても必要なことなんだ」
「新しいスキルですか?」
「ああ、【
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『修行はムチャクチャ痛い。』
楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m
本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m
◇◆◇◆◇◆◇
完結しました!
『前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢』
TS、幼女、無双!
https://kakuyomu.jp/works/16817330650996703755
◇◆◇◆◇◆◇
【新連載】
『変身ダンジョンヒーロー!』
ダンジョン×配信×変身ヒーロー
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