第2話 ヒロインたちを、世界を救うと決意する。
アトランティックというメーカーから発売された『テスタメンティア・レガシー』――『テスレガ』は二部構成のゲームだ。
第一部は学園編。
いにしえの大賢者テスタメンティア。
彼女の名を冠した、テスタメンティア学園で剣や魔法を学びながら、ヒロインと仲良くなり、一緒にパーティーを組んでダンジョンを冒険するパートだ。
第二部は魔王討伐編。
学園を卒業し、第一部で仲良くなったヒロインたちと魔王を倒しに行くパートだ。
よくあるテンプレゲームだが、このゲームは他のゲームとは一線を画している。
というか、狂っている。
発売から一週間――SNSは阿鼻叫喚で、連日トレンド入りするほどだった。
制作会社のアトランティックのアカウントには、罵詈雑言の嵐――荒しだった。
最初にこのゲームに手を出したのは、ギャルゲーとしてヒロインと仲良くしたいライト層だ。
だが、テスレガはそんな彼らを地獄に突き落とした。
難易度が鬼畜過ぎたのだ。
すぐに死ぬ。
油断すると死ぬ。
油断してなくても死ぬ。
選択肢を間違えれば絶対死ぬ。
ヒロインも死ぬ。
情け容赦なく死ぬ。
ようやくデレても死ぬ。
死んで死んで死にまくる。
ギャルゲーなのに、女の子と仲良くなる前に死ぬ。
頑張って生き延びても、女の子は中々デレてくれない。
デレてくれるのはメインヒロインだけ。
縦ロール好きも、メガネっ娘好きも、巨乳好きも、完全に置いてけぼり。
――ソッコーでクソゲー認定された。
ほとんどのプレイヤーが投げ出した。
あまりの高難易度に「現実で彼女作る方が簡単なんじゃね?」とまで言われる始末。
ようやく初クリア者が出たのは、発売から一ヶ月後だった。
その頃には、みんな忘れて他のゲームに移っており、発売直後の熱狂から比べると、まったくといって良いほど話題にならなかった。
ただ、そんな中、一人の有名配信者がテスレガに目をつけた。
そして、彼の影響で、テスレガはまた、人々の注目を集める。
『死にゲー』と呼ばれるゲームがある。
初見殺し。
選択肢を間違えれば死ぬ。
油断したプレイをすると死ぬ。
死ぬことでひとつ上達し、一歩ゲームが前進する。
死ぬ理由を全て潰して、ようやくたどり着けるエンディング。
ほとんどのプレイヤーはそこまで行く前に投げ出す。
楽しむためにやっているのに、なんでゲームでストレスを感じなきゃいけないんだ――という至極もっともな理由で。
ただごく一部の『死にゲー』好きが存在する。
難易度が高ければ高いほど、クリアしたときの達成感は大きい。
彼らはそれを求め、日夜を問わず、死んでいくのだ。
テスレガは死にゲーだ。
そして、死にゲーとしてみたら、テスレガは絶妙なゲームバランス。
死にゲーとしては、最高の評価を得て、死にゲーマニアを虜にしたのだ。
彼らの参戦により、テスレガの評価は一変する。
ライト層が離れていくのに対し、ガチゲーマーはのめり込んでいく。
彼らのたゆまぬ努力によって、少しずつ情報が集まり、攻略チャートが明らかになっていく。
新情報が発見されるたびにトレンド入り。
ヒロイン攻略法が明らかになると、お祭り騒ぎは数日続く。
発売から一年たってようやく発見された隠しヒロイン。
宝くじに当たるような低確率でしか出会えないヒロイン。
どうやっても攻略できず、二周目以降でないと攻略できないと判明したヒロイン。
そして、アトランティックが公表していないヒロインが発見されたことにより、やり込みはさらに加速した。
存在するかどうかも分からないヒロインを求め、プレイヤーはテスレガの沼に引きずり込まれていく。
テスレガをやらずにはゲーマーとはいえない。
ゲームというよりは、人生をともにする伴侶。
『人生』っていうクソゲーやってる場合じゃない。
テスレガこそ、人生だ――。
父の執務室を後にした俺は、アルダを連れ自室へ戻った。
彼女はずっと黙っているが、瞳から戸惑いが伝わってくる。
他人なら見逃してしまう、押し殺された戸惑い。
だが、オルソンの身体を、オルソンの記憶を持つ俺には分かる。
「アルダ、俺をどう思う?」
「どう……とは?」
彼女の瞳が僅かに揺れる。
父ですら気づかなかったが、彼女は気がついている。
それだけ、オルソンのことを見ていたのだ。
嬉しくなるが、反面、申し訳なくなる。
「分かっているんだろ? 俺はオルソンじゃない」
「…………」
「君が知っているオルソンではない」
すっと彼女の気配が冷たくなる。
そんな彼女の目をジッと見つめる。
まっすぐと、揺るぎない気持ちを伝えるため。
「俺はオルソンを乗っ取ったようなものだ。憎ければ、好きにしてくれ」
俺は抜き身の短剣をアルダに差し出す。
きっと俺は前世で死んだのだろう。
一度は死んだ身だ、彼女が望むなら、もう一度死んでも構わない。
だが――彼女は首を横に振る。
「貴方がどなたかは存じません。しかし、オルソン様の意思を感じます。きっと、オルソン様が貴方に託したのでしょう。であれば、私の忠誠に変わりはござません。貴方はオルソン様です」
「そうか、ならば、俺がオルソンに代わって、君を幸せにしよう」
「オルソン様……」
アルダは攻略可能なヒロインの一人だ。
主人公が他のヒロインを攻略せず、オルソンとの友情を育むことによってアルダルートに入る。
オルソンは必ず死ぬといったが、アルダルート以外ではアルダはオルソンをかばって、彼より先に死ぬ。
そして、アルダルートの場合は、逆にオルソンがアルダをかばって死ぬのだ。
このルートでは、オルソンの死に自暴自棄になったアルダを主人公が慰め、立ち直らせる。
その過程で二人の間に愛が芽生える――という展開だ。
寝取られルートとも言われ、オルソン好きの間では賛否両論だった。
だが、俺はそれでも構わなかった。
アルダが幸せになってくれるのなら、それはめでたいことじゃないか。
二次創作ではアルダとオルソンが結ばれるストーリーが大量に生まれた。
それくらい、二人を結ばせたいというのがファンの思いだった。
その願い――俺が叶えてみせる。
オルソンは死なない。
アルダも死なせない。
二人で幸せをつかむ。
「アルダ、俺は最強になる」
「オルソン様は十分にお強いです」
彼女の言う通り、ゲーム開始時のオルソンの能力値は他キャラより頭ひとつ抜き出ている。
ヒロインとの仲が進展していない序盤で、主人公を支える戦力となる役目が与えられているからだ。
しかし、オルソンには致命的な欠点がある。
それは――成長の遅さだ。
ゲーム中盤以降では、オルソンはヒロインたちに追い抜かれる。
なので、オルソンをパーティーから外すのが通常の攻略ルートだ。
外さないのは、アルダルートを目指す場合か、よっぽどのオルソン好きかだ。
運営としても、プレイヤーとしても、主人公とヒロインが仲良くなって欲しいのだから、まあ当然の設定だろう。
通常の育成方法では、オルソンはお荷物だ。
なのだが、運営のオルソンへの愛情は本物だった。
レベルをカンストさせた場合、オルソンは主人公を超える最強キャラとなる。
俺にはゲーム知識があるし、二年という猶予期間もある。
最強に至るのは――不可能ではない。
ただ…………。
オルソンは闇魔法使いだ。
この闇魔法、ひとつの欠点がある。
ゲーム内なら気にならないが、現実となると……考えただけで逃げ出したくなる。
「なぜ、最強を目指すのですか?」
アルダの言う通りだ。
オルソンは本来、最強を目指す必要はない。
最強は主人公に任せ、派閥間のバランスを取るのが彼の役目だ。
そのうえ、第三者ともいえる俺にとっては、ディジョルジオ家がどうなろうと、たいした問題ではない。
家を飛び出し、適当に生きる道もある。
「守りたいものがある。最強になればすべてが手に入るとは思っていない。ただ、最強にならないとなにも始められないだけだ」
それだけ、テスレガの世界は容赦がない。
「だから、君の力が必要だ」
俺はアルダに向かって頭を下げる。
主従関係を考えれば、あり得ない行動だ。
「おっ、オルソン様。頭をお上げください」
彼女が困惑するのも当然だ。
だけど、俺は頭を上げない。
しばらくの沈黙の後、彼女が息を呑む音が聞こえる。
「分かりました。オルソン様が最強に至るまで、命を
その言葉を聞いて、頭を上げる。
「いや、命は賭けなくていいよ。全力を出してくれるだけで良い」
「分かりました。では、全力を尽くさせていただきます」
アルダに笑顔を向ける。
彼女の口元がわずかに緩んだ気がした。
さて、その忠誠は少しは俺に傾いただろうか。
「そうとなれば、一秒でもムダにできない。準備を整えて出発だ」
「どちらへ?」
「まずはスンレオイヴァ墳墓だ」
俺が挙げた名に彼女の口が一文字を結ぶ。
それくらい、非常識な提案だ。
「アルダがいてくれれば、十分可能なはずだが?」
レベル1の俺でも、彼女のサポートがあれば問題ない。
「本気ですね?」
「ああ」
「ならば、お供いたしましょう」
「頼むよ」
学園編開始までたったの二年間しかない。
多少、いや、かなり、ムチャな計画だ。
これが他人事だったら「バカじゃねえか?」と思う。
それでも、俺は
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『修行は痛い。』
楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m
本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m
◇◆◇◆◇◆◇
完結しました!
『前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢』
TS、幼女、無双!
https://kakuyomu.jp/works/16817330650996703755
◇◆◇◆◇◆◇
【新連載】
『変身ダンジョンヒーロー!』
ダンジョン×配信×変身ヒーロー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます