鬼畜難易度の死にゲー世界に転生 ~知識とプレイヤースキルを駆使してバッドエンド全回避。俺がヒロイン全員救ってみせる~

まさキチ

第1話 主人公の友人キャラに転生する。

【前書き】

「……………………オルソンだ」


 中世ヨーロッパ風な貴族の部屋。

 鏡に映る自分の姿を見て、俺はつぶやく。


 ――オルソン・ディジョルジオ。


 ファンタジーRPG『テスタメンティア・レガシー』の登場キャラの一人。

 ステータスと念じると――。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 名前:オルソン・ディジョルジオ

 性別:男

 年齢:13

 LV:1


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 間違いない。ゲーム転生だ。

 俺はオルソンに転生したようだ。

 年齢は13歳。

 ゲーム開始の二年前だ。


 ゲーム転生といえば、主人公や悪役キャラに転生するのが定番だが、オルソンはそのどちらでもない。

 彼の立場は――主人公のサポート友人キャラ。


 『テスタメンティア・レガシー』――通称、『テスレガ』はギャルゲー要素も含んだRPG。

 その中で、オルソンの役割は、主人公がヒロインたちを攻略するために、主人公にヒロインの情報を提供することだ。


「オルソン様、いかがなさいましたか?」


 凜とした声。その中には僅かに不安が揺れていた。

 聞き間違えがない。彼女の声に涙が出そうになる。


 俺が振り向くと、予想通り、そこにいたのはメイド服姿のダークエルフ。

 前髪を斜めに切りそろえた青いボブカット。

 黄色い猫目は下が弧を描くように凹んでおり、猫のような印象を与える。

 彼女の名は――アルダ。


 オルソンの従者で、彼のためなら、死をもいとわない。

 俺が『テスタメンティア・レガシー』で一番推していたヒロイン。

 いや、推していたどころではない。一番愛した女性だ。


「オルソン様……」


 黙り込む俺に、再度、アルダが声をかける。

 よかった。生きている。アルダが生きてるんだ。


「大丈夫。なんでもない。少し、考えさせてくれ」

「承知いたしました」


 彼女はなにか言いたそうだったが、俺が顔を背けたので口をつぐんだ。

 俺は零れそうになる涙を彼女に見せないよう、窓際のソファーに座る。


 これから俺はどうすべきか――と、ここまで考えて、俺は気がついた。


 前世の記憶がない。

 テスレガをプレイしていたことや、テスレガに関する情報は詳細に覚えている。

 だが、それ以外のすべて、名前も年齢も、家族や知人のことすら、一切、覚えていない。

 俺はテスレガにハマった一人で、人生をかけてプレイした――思い出せるのはそれだけだ。


 ――それにしても、オルソンか。


 友人キャラであるオルソンは、男なのに人気キャラだった。

 人気投票ランキングでは、多くのヒロインを押しのけ三位になったほどだ。


 開発側も並々ならぬ思い入れがあるようで、設定資料集にはメインヒロイン以上の裏設定があったほど。

 なぜ、彼が友人ポジションに甘んじていたのか。

 主人公に並ぶイケメン。戦闘能力も高く。なにより、その人柄は誰をも惹きつける。


 むしろ、主人公よりモテモテじゃん。オルソンが主人公やれよ――などと言われる始末。

 実際、彼に好意を持っているヒロインは複数存在する。

 それなのに、オルソンはどのヒロインとも距離をおき、一定以上の関係にはならない。


 ゲーム内では分からないが、それにはちゃんとした裏設定――家庭の事情――がある。

 設定資料集でそれが明らかになり、ますますオルソンの評価は高まったのだ。


 そんなオルソンに転生した今、俺がすべきこと。

 それをひと言で表すなら――破滅回避。


 『テスタメンティア・レガシー』はキャラが死ぬ。簡単に死ぬ。

 選択をミスれば、それだけでヒロインが死ぬ。

 特定のヒロインを攻略すると、他のヒロインが死ぬ。

 しっかり鍛えないと、主人公も死ぬ。


 その中でも、オルソンは――どのルートを通っても確実に死ぬ。


 俺を含め、多くのプレイヤーがオルソンの死を回避するルートを必死になって探した。

 だが、いくらやっても見つからず、運営が「オルソンが助かるルートはない」と公式発表した際には、SNSで大炎上したほどだ。


 オルソンの役目は友人キャラ。そして、もうひとつが絶対に救われないキャラ。

 これこそがオルソン人気の最大の理由だ。


 そんな彼に転生した今、最優先しなければならないのは、オルソンの死を回避すること。

 そして、同じく最優先すべきは――。


「アルダ……」


 オルソンが死ぬとき、アルダルート以外ではアルダも殉じる。

 冷たくなっていくアルダの亡骸なきがらを抱えたまま、死んでいくオルソン――彼に感情移入しすぎて涙が止まらなかった。


 何度、泣いたか分からない。

 あの悲劇は繰り返させない。

 絶対にアルダを死なせない。


 学園編開始までの二年。

 神が俺にくれた猶予だ。

 そのために、最初にすべきは――。


「父上に話がある」


 俺は自分の運命を変えるべく、さっそく行動に移る。

 二年間という短い時間。ひと時も無駄には出来ない。


 俺はアルダを伴い、父の執務室を訪れる。


 執務中だった父は俺の真剣さを感じ取ったのだろう。

 書類仕事を止め、居住まいを正し、咳払いをひとつ。


「オルソンか。その顔、なにやら、話があるようだな」

「はい、父上」

「話してみよ」

「俺に二年間の猶予をください」


 父は俺からアルダへと視線を移す。

 背後に立つ彼女の顔は見えないが、父は感じ取ったのだろう。

 俺の言葉が伊達や酔狂ではないと。


「二年……学園入学までか?」

「その通りです」

「どうするつもりだ?」

「やりたいことがあるのです」

「当家の役割は理解しておるな?」

「もちろんです」


 ディジョルジオ家は中位貴族だ。

 大きな権力は有さず、かといって、軽んじられるわけでもない。

 どこの派閥にも与せず、どの派閥とも敵対していない、中立派だ。

 毒にも薬にもならず、放っておかれている。


 それがディジョルジオ家の立場だ――表向きの。


 王家の者以外にはほとんど知られていない裏の顔がある。

 真の役割は調整役――『バランサー』。


 国内にはいくつかの派閥がある。

 どれかの派閥が力を持ちすぎないように、裏で暗躍する仕事だ。

 独自の諜報機関と暗部を持ち、必要とあれば汚れ仕事も厭わない。

 目立たぬ中庸貴族というのは絶好の隠れ蓑だ。


 この家庭の事情こそが、オルソンに友人キャラを強いるのだ。

 ヒロインたちは皆、特定の派閥に属している。

 ヒロインと仲良くなることは、その派閥と近くなること。


 テスタメンティア学園に入学し、同世代の派閥争いを調整する。

 それがオルソンに課された学内での役割のはずだった。


 しかし、そこにひとつの異分子が混入する――主人公リオンだ。

 彼の存在によって、オルソンの目的が変わる。


 平民出身のリオンは、スタート地点ではどの派閥にも属していない。

 だが、彼の力は王国のバランスを崩しかねないほど強力。

 彼が特定のヒロインと結ばれても、派閥に取り込まれないようにする。

 それがオルソンに新たに与えられる役割だが――現時点でそれを知っているのは俺だけだ。


「当家の方針は中庸中立。それは胸に刻んでおります」


 リオンのことは話せないので、別の理由が必要だ。

 父を納得させるための理由が。


「だが、違う方法も可能であると思った次第です」

「ほう。話してみよ」


 父は笑みをたたえる。

 彼は家長として、冷酷に振る舞わねばならないこともある。

 けれど、家族にとっては優しい夫であり、父である。


 今も、俺が自発的に相談を持ちかけたことに好意を持っているようだ。

 とはいえ、一切の甘さはない。

 あくまでも優先させるのはディジョルジオ家の事情。


「誰かに取り込まれるのを避けるのではなく、すべてを取り込んでしまえばいい――それが俺の目指す道です」


 一言のもとに切り捨てられる可能性もあった。

 だが、父の表情はそうではないと告げている。

 父も一度は考えたことがあるのかもしれない。


 確かに、それができれば最良だ。

 ただ、それは遥かに困難な道だ。

 実現不可能として諦めて当然だ。


 父は俺の目をジッと見る。

 瞳の奥にある覚悟をる。


「――そのための二年間か」

「はい。父上に満足していただけなかった場合には、それ以上はなにも望みません。ディジョルジオ家のために、すべてを尽くします。家督を弟に譲っても構いません」

「アルダよ。こやつはこう言っておるが?」

「私がついていれば、なんの問題もないかと」


 彼女は俺の従者という立場だが、その忠誠は俺ではなく、ディジョルジオ家へ向けられている。

 ゲームの進行を通じて、家よりもオルソン個人に忠誠を誓うようになるのだが、現時点では家を優先する。

 俺の行動が家のためにならないと判断すれば、即座に俺の計画は中断させられる。

 いわば、お目付け役だが、今はそれで構わない。


「俺は強くなります。二年間で、父上を満足させるだけの力を手に入れてみせます」

「よかろう」


 しばらく考えた後、父は破顔した。


「二年後、楽しみにしておるぞ」

「必ずや――」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ヒロインたちを、世界を救うと決意する。』


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


   ◇◆◇◆◇◆◇


完結しました!


『前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢』


TS、幼女、無双!


https://kakuyomu.jp/works/16817330650996703755


   ◇◆◇◆◇◆◇


【新連載】


『変身ダンジョンヒーロー!』


ダンジョン×配信×変身ヒーロー


https://kakuyomu.jp/works/16817330661800085119

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