第30話 ひ・み・つ会議
立てかけたタブレットには「3つの約束」が、パワポのスライドで映し出されている。
仕切るのは「有能で社交的」と言う題で絵にしたような美少女。
もちろん、若葉瑞穂である。
「では、第一回、ひ・み・つ会議を行いまーす」
サイドテールの美少女と、前髪パッツンの美少女とが嬉しそうに拍手する。
パチパチパチパチ
「はい!」
手を挙げたサイドテールを「高木さん」と指名した。
「会議自体には何の異論もないのですが、なぜ秘密会議って名前なんですか?」
「会議の名前がなぜか。それは良いところに気付きましたね。それは、会議の性質からです」
司会のセオリー通り、相手の質問を復唱しつつ、相手を褒め、そして回答者までも演じる瑞穂である。
ちなみに、ここは彼女の部屋である。性格通り、きちんと片付いていて、ちょっとした女の子らしい小物はあっても、基本的には「スッキリ」した部屋だ。
三人は小さなローテーブルを囲んで、クッションに座っていた。
「でも」
「発言には、挙手を」
「すみません。改めて」
「はい。どうぞ、紺野さん」
「はい。ありがとうございます。この会議を秘密にする意味はないかと思いますが、いかがでしょうか?」
「ふふふ。会議をひみつにする意味ということに疑問を感じる、というご意見ですね。それは、この会議の本質を見誤っているから、そう思えるのだと思います」
「「本質?」」
思わず、サイドテールのひなと、パッツンのつばさが、同時に繰り返した。
「そうです。この会議の本質は、私達三人が、情報を共有し、抜け駆けをせずに平等に競争することにあります」
ふむ、ふむ。
二人は頷く。
「だから、この会議のひ み つ とは、シークレットの『ひみつ』ではありません」
「え? そっちじゃないの?」
素で、ひなが驚く。
「はい。……そろそろ疲れたから普通に喋ろっか」
さんせー
少女たちは、それぞれが、ミルクティーとストレートティー、そして緑茶を口に運んだ。めいめいが好きなモノを入れた結果だ。
トンとタブレットに触れると、三人の名前が大きく表示される。
ひな
みずほ
つばさ
最初の文字だけが青表示だ。
「「あっ」」
「だから、ひ・み・つ会議なんです。もちろん、光樹には秘密って言う意味もあるけど」
「「な~る」」
ニコニコと微笑む瑞穂を見ながら二人の美少女は、納得顔。
ひなは「すごぉい」と言葉にし、つばさは「ありがとう」と感謝した。
「え?」
みずほが頭を傾ける。なぜ、ありがとうなのか、と目が聞いている。
「だって、後から横入りしたみたいでしょ? 私、何にもしてないのに、二人と一緒にしてもらえるなんて」
方法を探していた矢先だった。光樹が助けられたのは嬉しいが、自分では何もできなかったのは正直悔しかった。
「そんなことを言ったら、思い出の関係に割り込んだのは私達になっちゃうもん」
つばさは、二人に、幼い頃の話は打ち明けてある。光樹を助けてくれた二人に対して感謝の気持ちと、行動力にリスペクトした結果だ。
そして、二人は、率直に打ち明けてきたつばさに良い印象を持った結果が、今日の「ひみつ会議」なのだ。
「とりあえず、いろんないきさつはあるけど、光樹の気持ちが決まったわけじゃないんだし。私達はライバルだけど、仲間でいましょ」
みずほの言葉に「そ、そうよね、これからだもん」とひなが合わせる。
「それで、3つの約束って?」
とつばさが話を戻した。
「あ、これね。うん。ほら、私達って、まだ光樹から告白されてないでしょ? だから、誰かが告白されても、お互いに恨まないようにってルールを作りたいの」
「ルール?」
「そうよ。あ、勘違いしないでね。あくまでも、光樹の気持ちが一番よ。ルールを破ったからどうとか、そういうのは無し。ただ、誰が告白されても、ずっとお友達でいたいって気持ちからの提案なの」
みずほは「見て」と言いながらタブレットに触れた。
1 好きなモノを共有する
2 困った時は協力する
3 進んだ時はウソを言わない
「へぇ~ みず、やる~」
つばさは、ちょっと首を捻った。
「みっちゃんが好きなことを教え合うのは良いと思うわ。いっぱい、楽しいことができると良いから。困ったときの協力。これも、わかるし、二人のようにすごい人達と協力できるんなら、安心できる。でも、3の『進んだ』って?」
「あ、これはね、公平のためよ。ほら、私もそうなんだけど、好きな人と…… ね? ほら、いろいろとあったりするとうれしいでしょ?」
喋りながら、みずほの顔がホンノリ赤くなる。
「あ~ みずほ、何想像してるのよ~ えっちっ」
「違うもん、へんな茶々入れないで、と、とにかくこれはね、自分への
「いましめ?」
「そうよ。ほら、好きな人とのことって、つい、見栄を張って自慢したくなっちゃうでしょ? だから、何かあったとして、言わないのは良いけど、してないことまで『した』っていうウソをつくのは止めようって言う
「すご~い。やっぱりみずほちゃんって、真面目なんだぁ」
「ううん。私、けっこう見栄っ張りだから、こういうルールを考えたの。むしろ、自分がしないように、って思ってる。ごめんね」
「ううん。大事だと思う」
ふと見ると、ひなが頬を押さえながらブツブツと自分の世界に入っていた。
それを微笑ましいという表情で見てから、みずほは改めて真面目な顔になって宣言する。
「だから、もしも、今度キスできたら、ちゃんと報告するからね。私達は最大の仲間だけど、ライバルでもあるんだから!」
「うん。なんか、嬉しい。私を平等に見てくれるなんて。あ、じゃあ、私も言った方が良いのかな?」
「え? 小さい頃に『お嫁さんにしてくれる』っていう約束をしていた話以外に、何かあるの?」
「あ、えっとぉ、そのぉ、キスを……」
えええええ!
二人が詳細に聞き出したのは言うまでもない。
そして、みずほもひなも、その晩、獲物を狙う鷹の目になっていたのは、光樹の知らないことであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作者より
ひなちゃんは、少し妄想癖がある、どMです。
ここまでお読みになった方は
ぜひとも フォロー を待ちしております。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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