第28話 再会  

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

少しだけ時間を遡ります。

紺野(三上)つばさ ちゃんが転校するちょっと前からです。


お父さんは真面目な人でしたが、知り合いに騙されて保証人となり

自分の生命保険で借金を返そうとしましたが失敗。

借金だけがお母さんに「相続」されてしまいます。

(住宅ローンの関係で、娘は相続を放棄してました)

責任感の強いお母さんは

実家の近くにアパートを借り、いろいろと苦労しながら自分の力で、なんとか、つばさちゃんを育てようとしました。

これが、光樹と一緒にいた頃のことです。


結局、莫大な借金を返せなくて夜逃げしました。各地を転々と逃げたのですが、無理がたたったのか病気で亡くなりました。


つばさちゃんを引き取ったのは母方のおじいちゃん、おばあちゃんですが

相続を放棄することで借金はチャラ。

F市に住む祖父、祖母はとても良い人でした。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ママが亡くなった。


 悲しかったけど、ママの方のおじいちゃん、おばあちゃんが私を引き取ってくれたおかげで、8年ぶりに故郷のF市に戻れた。


 おじいちゃんと養子縁組をしたから、新しい姓は「紺野」さん。


 今日から私は「紺野 つばさ」


 なんだか自分じゃないみたいだ。でも、新しい生活だもん。少しも悲しくない。むしろワクワクする。だって、この街に戻って来たのだから。


「覚えててくれるかな?」


 子どもの頃、あこがれのナイトだった人。


 すごく大きくて、凶暴なから救ってくれた、優しいヒーローさん。


 転んでケガをしたせいで、顔がお化けみたいになっても「およめさんにするよ」って、幼い約束をしてくれた彼のことを、私は一日だって忘れてなかった。


 高校生になったら、ひとりでこっそり会いに行こうと決めていたのに、これで前倒しできた。


「もう一度会える」


 たぶん、同じ中学になれるはず。


 とってもカッコイイ男の子だったから、きっと彼女もいるよね。それに、小さい頃に、何も言わずにさよならして以来だもん。私なんてとっくに忘れててもおかしくない。


「およめさんにしてくれるって、約束してくれたんだけどナ」


 覚えていたら奇跡だ。


 だから転校するとき、正体なんて明かさずに、遠くからそっと見守るって決めてた。幸い、今までの学校では表情を隠すために、目隠れヘアにしてきた。


 チビで、痩せてて、ショートヘア。ショートパンツばかり穿いていた小さい頃とは真逆のスタイルだし。もしも、覚えている人がいても、ここまで変われば、一目では見抜けないはずだ。


 いざ、中学に通い始めたら、思っていたのと全然違ってた。


 初日。


 ワクワクと、ドキドキ。そして、ちょっぴり甘い予感。


 一目でわかったよ。みっちゃんのこと。ののちゃんも同じクラスだ。

 

「ひょっとしたら、ののちゃんが彼女になるのかと思ってたけど、なんかヘンだよね?」


 二人の間に微妙な空気があった。


 担任の先生は、良い人みたいだけど、空回りタイプ。そのせいか、女子の中にある微妙な雰囲気には気付いてないみたいだ。


 イジメとも違う、かと言って、和気藹々あいあいでもなく、かといって冷たいわけでもない。不思議な感覚だ。


「あのね、成績も良いし、顔もけっこう良いし性格が良さそうに見える石田っていうのがいるの。でも、ホントはイキってて、どうしようもないヤツだからね。ウソ告大好きで、どんどんしてくれとか言っちゃうバカなの。あなたも一度見ればわかるわ。誰にでもOKする、節操無しだから」


 転校初日に、話しかけてくれた子達は、異口同音にみっちゃんの悪口を言ってきた。


 そんなに悪い人のはずがないのに。


 次第に見えてきたのは、男子の力関係。


「はは~ん、トップカースト達がみっちゃんにヤキモチを妬いたからね。クラスRINEのこれも、ウソっぽいし」


 一刻も早く、みっちゃんに正体を明かしたい気持ちを、うーんと我慢して、私は第三者としてクラスを観察した。


 もちろん、みっちゃんを救う方法を探そうとしたのだ。なんとなく、クラスの力関係がわかってきた。


「さて、どうしたらいいかな」


 クラスでは高木さんが中立に近い感じがしてたけど、まさかこんなに大胆なことをするなんて。


 おそらく高木さん達が仕組んだ事件は、大事になった。


 その結果、みっちゃんの評価が真逆になったらしい。

 

 女子の目が一斉にハートマークに変わっちゃった。でも、直後に、バッタバッタと「もう遅い」をしてたみたいだから、安心♡


 ののちゃんは、何かをキッカケに、関係を遮断されているみたいだし、警戒すべき杉山さんは「ウソ告」をしちゃったみたいだったから、おそらく大丈夫。


 でも、みっちゃんの両サイドで、しっかりと腕を離さないのが高木さんと若葉さん。二人とも見た目が良いし、人柄もすごく良いみたいだから、ライバルになっちゃうと大変。


 真剣に悩んだ。


「こうなっちゃうと、下手な作戦を立てるよりも、正面突破かな。忘れられてたら、とにかく押し倒せば…… 押しまくれば良いか」


 私は、思い切ってみっちゃんの家に行った。


 8年ぶりの再会。


 みっちゃんは、やっぱり私のことを覚えていてくれていた。


 ご褒美のキスは、嬉しかった。


 これは、、ご褒美なんだからね!



 

 


   

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

かなり思い出が美化されていますが、実は「秋田犬」が正しくて、身体はつばさちゃんよりも二回り大きかったです。本気でかみついているわけではなく(本気だったら、子どもなんてひとたまりもありません)、本犬(!)は、子どもが大好きで遊んでいるつもりだったようです。加減がわからなかったんですね。

コロッケは光樹が小学校6年生の時に病気で死にました。秋田犬としては長生きした12歳です。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る