第24話 だが、遅い!

 教室へ戻ろうとしたら担任に呼び止められた。今日の出来事について臨時の保護者会を開くとか何とかで、その前にオレの親へ電話するって話だ。


 ま、学校で逮捕者が出たら、そういうこともあるのかな。ただ、父さんは、今アマゾンの奥のはず。無線ならともかく、携帯がつながるとは思えない。


 母さんは、きっと遅くまで仕事だろう。


 業界ではけっこう大手の農業系新聞の記者だけあって、毎日の記事プラス、月刊誌の方にもこき使われる。その締め切り間近の今の時期だと、帰れるのは10時を超えるのが普通だ。


 そのあたりを丁寧に先生に説明したけど「だけど、何とか連絡しなくては」と校長先生が、ため息をついていたよ。


 それやこれやで体育館を出たのは一番最後になってしまった。部活も中止で、強制、即時下校だ。下級生達は、これ幸いとダッシュで帰宅していく。 


 教室へ戻ろうとした階段の手前で、いきなり引っ張られた。


「わっ! 宇佐美さん?」

「すまなかった!」

「え?」

「知らないこととは言え、ひどいことをしてしまった。許してくれ」


 頭を深々と下げている。


 どうやら、ウソ告のことを謝るつもりらしい。すぐに謝ってくるあたり、やっぱり彼女はスポーツマンなんだろうな。


「うん、良いよ」

「え? そんな簡単に……」

「だって、誤解もあったんだもん、仕方ないさ。宇佐美さんに悪気があったんじゃないってことくらい分かるからさ」

「ありがとう、ありがとう! 石田君がこんなに大人だったなんて」

「よせよ。そんなんじゃないから。じゃあ、それでいいかな?」


 早く、ひな・みずちゃん達と話したい。


 そこにもう一人現れた。


「えっと、私も謝りたいんです、ごめんなさい」


 横で頭を下げてきたのは、同じ女バスの尾崎朝陽あさひさんだ。この子は、宇佐美さんよりももっと前にウソ告してきた子だ。


「いいよ~」

「軽っ!」


 二人が驚いてる。いや、こんなのグズグズ言っても始まらないし。


「んじゃ、オレ、行くね」


 早く帰りたいんだってば。


「ちょ、ちょっと待って欲しい」

「ん? 宇佐美さん、何?」

「謝ったばかりで、こんなことを言うのが図々しいのは承知なんだが」


 何か言い辛そうにしてる。


 借金の申し込みならお断りだよw


「あの、改めて、申し込みたい」

「あらためて? 何を?」

「石田君の大人っぽい優しさを知ってしまったんだ。こんな私をあっさりと許してくれる器の大きさ。頭も良いし。実はカッコイイし。好きになってしまったんだ。私とお付き合いしてもらえないだろうか?」

「だが、遅い。断る」

「え? 瞬殺?」


 ビックリしてるみたいだけど、そんなに不思議かなぁ? 


 だって、考えるまでもないじゃん。どんな理由であってもウソ告なんてことをしてきた女と付き合うなんて、できるわけがない。確かに「許した」けど、でもそれはとして拒否しないっていうだけの話だし、それがオレの限界だ。


 それに、ひなちゃん、みずほちゃんとの約束もあるもんね。他の子とのお付き合いだなんて考えるわけないよ。


「じゃ、オレ帰るから」

「あ、そ、そんな、石田君、せめて、少しは考えてくれても」

「無理」

 

 ニッコリ笑顔で切り捨てる。


「じゃ、ね」


 崩れ落ちる宇佐美さんだけど、尾崎さんが横にいるから大丈夫だろ。むしろ、あんなことをしておいて、よく、その相手に「付き合って」なんて言えるよ。そっちを驚いた方が良いんじゃないかな?


 そして階段を曲がったところに、いた。


「見てた?」

「「はい」」


 ひなちゃん、みずほちゃんが笑顔で待っていてくれた。


 ひなちゃんは相変わらずキュートなサイドテールが揺れるし、みずほちゃんは別のところが揺れるのが…… おっと! 見てない! 見てないからね!


 ともかく二人は、あれこれと揺らして待っていてくれたんだ。


「心配して……」

「ふふふ。石田君はそういう人じゃないもん」


 ひなちゃんが、そっと、オレの右側に並ぶ。


「まして、相手はウソ告をしてきた人だもんね」


 みずほちゃんは左側。


 わぉ! これって両手に花、だよね!


「それにね、あなたに謝りたい人は、まだまだいるみたい」


 わっ! 


 びっくりだよ。


 4階までのあらゆる踊り場に、一人ずつ。そして3年生の廊下では柱と教室の扉ごとに、女子が待ち構えていたんだ。まるで、ゾンビモノのシューティングゲームで廊下エリアって感じだ。


 もちろん、襲ってくるわけじゃないよ。


「ごめんなさい」

「いいよ。これからもクラスメイトで」

「なんて優しい!」

「じゃ、行くね」

「待って。あの、石田君がそんなに優しい人だなんて知らなくて。あの、よかったら私とお付き合いしてください」

「だが、遅い。断る!」


 その日、帰るまでに「良いよ」と「だが、遅い。断る!」を死ぬほど繰り返して、やっと学校を出られたんだ。


 しかし、ウチの手前の公園に最後の刺客が隠れていた。


「石田くん」

「あれ? 杉山さん?」


 腕を抱きしめる二人の力が強くなった。当たってる! 当たってるってば! もはや感触でどっちがどっちってわかるレベルで、当たりっぱなしだよ!


「あの、二人で話せないかな?」

「それは無理。助けてくれた二人を抜きにして、誰かと話すことはありえないよ。少なくとも、今日はね」


 そんなの当たり前じゃん。


「あ、その…… さっきの小仏先生の話を聞いて、反省したの」


 二人が腕をギュッと抱きしめてくる。大丈夫。心配しないで。


「移動教室の時、サッカー部の人達に邪魔されてしまったけど、あれは本気だったの。ウソなんかじゃない。本気で、告白しようと」

「そうなんだ」

「でも、雰囲気的にウソ告みたいになっちゃって。それが悲しかったんだけど、でも、違う、あれは本気なのってなかなか言い出せなくて。ごめんなさい」

「うん。許すよ」

「え! 許してくれるの!」

「うん。邪魔した他の連中が悪かったんでしょ? 杉山さんにはもう怨みはないし」

「そんな。こんなに簡単に許してもらえるなら、もっと早く謝れば……」

「話はそれだけ?」

「それだけって、あの、許してくれたんだよね?」

「うん。クラスメイトだもん。もう、気にしないで良いよ」

「あ、違うの、許してくれたんでしょ? あの…… と言うことは、最初に告白したのは私というわけで……」

「そうだね。最初に告白してくれたのは杉山さんだよ。そして、それがウソ告だってことになってた。でも、さ、たとえばクラスのグループRINEに、オレの馬鹿面がいっぱい貼られてたときに『あれは本当だ』って言ってくれれば良かったんだよね?」


 そう。そもそも、杉山さんの一言マジですがあれば、その後のことはなかったんだ。


「で、でも、本当に好きなの!」

「だが、遅い! 断る」

「えええ! そんな!」

「みんなに笑われていた時も知らんぷりしてたし、ウソ告したいヤツはオレんとこに来いってニセモノが言ってる時も、杉山さんは、あれを本当にオレが言ったと思ってたんだろ?」


 ひなちゃんとみずほちゃんは、後からだけど、ちゃんと気付いてくれた。おかしいって思ってくれてたんだもん。


「それは、流れ的に、私がそんなことを言ったら空気が悪くなっちゃうし」


 言葉がどんどんゴニョゴニョしてきた。


 ま、小仏先生が言ってた意味がやっとわかったのはスッキリしたけどさ。杉山さんの告白が実は、本気だったってことを知った今も、オレの心はピクリとも反応しなかったのが事実なんだよ。


 だから、オレは胸を張って答えた。


「もう、遅いんだ。今さら何を言われても、断る!」


 ガクンと崩れ落ちた杉山さん。


 両手のは、アウンの呼吸でオレから離れて彼女の世話を焼いてくれる。うん、お任せして大丈夫だよね。


 二人は「任せて」と言わんばかりに、小さなウィンク。


 あぁ、マジで可愛いよぉ。


 今日は、最高の日でした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

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