第23話 全校集会

 

 メギツネすどうは救急車に載せられた。保健室の先生が付き添っていった。


 サッカー部の四人はパトカーに乗せられた。副校長先生が一緒に行ったらしい。


 例の録音データはコピーを取って副校長先生に渡しておいた。だけど、メモリーを手渡した瞬間、おびえた目をしたんで、パッと振り向いたら小仏先生がジッと見てた。


「私は、ちゃんと警察に渡しますからね。決して隠蔽なんてしませんので」


 なんか、その言葉ってオレの後ろに言ってる気がした。そんなに小仏先生って怖いんだろうか? オレ達にはすごく優しい先生なのにな。


 午後の授業が自習になって、その間、オレは先生達に事情を聞かれてた。事情聴取ってやつ。杉山さんから始まった「ウソ告」の全てを話した。時々、教科書やモノが隠されたり壊されたことも初めて信じてもらえた。


 先生達はただ驚いていただけだったけど、一人、小仏先生だけは何度も頷いて、細かいところを聞いてきた。


 みずほちゃんもひなちゃんも、いろいろと聞かれたようだ。いや、オレ達の裏側で、いろいろな人が呼び出されたらしい。


 6限終了。


 すぐ帰れるのかと思ったら全校集会に変更になった。解放されたオレ達はとりあえず、クラスに混ざれと言われた。みんな並び終わってるから。それぞれの列の一番後ろにそっと座った。


 誰も何も言わないけど、オレが関係していることは薄々わかっているんだろう。チラチラと振り返ってくる視線が痛い。


 体育館で、全員が体育座り。


 異様なほどに張りつめた先生達に3年生は静まりかえってる。


 空気を読めない1年生の何人かが「早く帰りたい」と文句を言って、メチャメチャ叱られてた。


 それだけで、泣き出した下級生がいっぱいいるんだけど。


 これって、オレは悪くないよね?


 全体集会が始まった。


 最初に登場したのは校長先生。長々と「命の大切さ」について話してたんだけど、これ、なんか関係あるのかな?


 次に出てきたのは、意外にも小仏先生だった。


「こんにちは。突然、集められて、曖昧なムダなことを言われて、戸惑ってますよね」


 いつもの柔和な笑みを浮かべてるけど、目が笑ってない。っていうか、その切り捨てっぷり、オレ以上に容赦ないなw


 校長先生が顔を真っ赤にしてるけど、あれは怒ってるのか、恥ずかしがってるのかどっちだろ? 


 おっと、話が続いてる。


「集まってもらったのは、今日、本校で人間の尊厳を踏みにじる最低な事件があった、ということをみんなに報告したいからなの」


 ザワザワザワ


「みんなにも放送は聞こえてたでしょ? 女性を無理やり乱暴…… ごまかさないで言いますね。暴力で犯そうとした最低なクズがいました。大変残念なことです」


 校長先生が止めようと出てきたけど、顔色一つ変えないで「ごまかすんですか? 生徒は全部、放送を聞いているんですから、ムダだと思いますよ」とピシャリ。


「ねぇ? ちゃんと聞きたいよね?」


 生徒達はたちまち激しく反応した。


「「「「聞きたい」」」」」

「「教えて、先生!」」

「「「聞かせて!」」」

「「「「「「「「はーい」」」」」」」」

「「ちゃんと話してくださーい」」

「先生、綺麗! 大好き」


 なんか、一部、変な声も混ざってたけど、ともかく、声援は激しくなる一方だ。そりゃあ、校内放送でだいたいの中身は聞こえていたわけで、それをごまかそうとする大人と、説明しようとする大人、どっちを信じるかは言うまでも無い。


 校長は生徒達と小仏先生を何度も見比べて「私の責任になってしまうので、ほどほどに」とひと睨みしてから袖に消えた。


 校長先生のことは、ひとかけらも気にしてないように見えた。


「こういう場所だから、個人の名前は出さないけど、できる限り、本当のことを教えるわ。あのね、今回のことは、もともと3年生のあるサッカー部の某キャプテンだった人の嫉妬から起きたことなの」

 

 先生、が、思いっきり出てますw しかも「キャプテン」と言う過去形とかw


 サッカー部のキャプテンである斎藤は、学校の有名人だ。全員がピンポイントで名前を知ってる。


 3年生には、噴き出して良いのか空気を読んで黙っているべきか微妙な緊張が走る。


 そんな空気を一切気にせず、説明を続けたんだ。


「今日の事件で言うと、同じクラスのサッカー部A君が中心だと私は思っています。でも、これは警察の人が決めることだし、誰が中心であろうと、今日のことは4人とも責任があると思うわ」


 体育館がザワついた。


「キャプテンと同じクラスってことは青木先輩と…… あ、だからA君?」「あとは松下先輩と関田先輩か」「あれ? でも、最初の方で、須藤先輩もウソ告をとか言ってなかった?」


 主に2年生の方から、そんな名前が聞こえてた。そりゃ、放送が聞こえてたんだ。ちょっと意識すれば、名前なんて全部分かって当然だ。


 先生、全員の個人名がわかっちゃってますよw


 それから、先生は、オレ達三人が話したことに基づいて話してくれた。どうやら先生はオレ達の言い分を信じてくれたらしい


「…… と、いろいろあったんだけど、そもそも今日の事件の大元には、さっき言ったサッカー部の某キャプテンの子が、他の3人とクラスのグループRINEで、なりすましを始めたことがあったの」


 ざわめきは収まってなかったけど、次第に、先生の話に全員が向き始めたんだ。


「わかってると思うけど、ネット上で他人になりすまして、名誉を毀損するようなことをすれば、それはイジメというだけじゃなくて、れっきとした犯罪よ」


 そこから、さらに、あいつらが「ウソ告したいヤツはオレんとこに来い」と言ったという話をした瞬間、クラスの連中は「あちゃぁ~」とある者は天を仰ぎ、別のある者は俯いた。


 関係のない下級生達は、みんなドン引きだ。


 そして、最初はサッカー部の子達がクラスの女子を脅して、ウソ告をさせたとも言った。


 クラスの何人かが俯いたまま涙を拭き始めた。


 ウソ告した女子の個人名は出さなかったけど、先生は、ほぼ洗いざらい喋ってしまった。むしろ「こんなに全部しゃべっちゃって大丈夫なんだろうか?」と心配になるほどだ。


 ただ、オレが言ってなかったことを付け加えてきたんだ。


「あのね、今回はなりすました人が悪いわ。誰とは言わないけど、元サッカー部のキャプテンだった子ね。でも、それだけじゃないのよ」


 いや、先生、思いっきり、再確認させてますけどw 心の中で突っ込むオレをよそに先生は話を進めてる。


「元々、ウソで人に告白するなんて最低な行為です。どんな理由であってもです。重ねて言います。脅されたにしろ、騙されたにしろ、その理由がなんであれ、ウソの告白をした人は最低なことをしたの。ちゃんと反省しなさい」


 うん、確かにそうだよね。


 オレは心の中で頷いたんだ。


「それから……」


 ん? まだ何か?


「自分は嘘の告白をしたつもりじゃなかったって思ってる人もいるかも知れませんね。でも、相手に誤解させたまま修復する努力をしなかったのも罪なのよ」


 ん? 誰のことだ?


 頭を捻るオレに、隣の列のみずほちゃんがニッコリと目を合わせてきた。可愛い。


 思わず顔が赤くなりそうになって顔を背けたら、そっちにはひなちゃんがいて、やっぱり、ニコッと微笑んでくれた。可愛い。


 って、二人とも誰のことなのかわかってるみたいだ。後で聞いてみようっと。


「最後に、ここにいる全員に言うわ。あなたたちはこれから先、いっぱい恋をすると思います。それは素敵なことよ。でも、相手への誠実さを喪えば、あなたは人として最低な存在になってしまう。自分の人生を、そして大切な人との愛を壊したくないなら、後悔しないように全力で誠実になりなさい。そのためにも正しい努力をしなさい」


 いつの間にか、みんなシーンとなっていた。


「最後になるけど、もしも相談したいことがあったら、いらっしゃい。解決方法を答えられるかはわからないけど、一緒に考えてあげることだけは約束します。私からは以上です」


 小仏先生の柔和な顔が、なんかものすごく説得力のある感じに見えた。学校の先生がこんなに頼りになる感じって、あったんだ。


 ビックリだよ。


 代わって登場したのは大島先生だった。


「部員が不祥事を起こしてしまったんだ。サッカー部は無期限で活動を停止する。1,2年生には気の毒だが、中心となる生徒が逮捕され…… あ、えっと、しばらく登校できない以上、活動を再開する目処めどがまったく立たない。事情が事情だ。転部したい者は無条件で受け付けるから申し出てくれ」


 ザワザワザワ


 サッカー部命の大島先生だ。自分で話しながらも心からガッカリした顔になってる。


 ……あれ?  なんか顔をわざと明るくさせた?


「それから、こんな事件が起きてしまって残念だが、今こそ、みんなで考えよう! ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン。一人はみんなのために、みんなは一人のために! さ、みんなで合唱コンに向かって頑張るぞ!」


 拳を突き上げた大島先生の声だけが体育館に白々しく響き渡る。


 相変わらず空気を読まない担任だった。


 最後の最後に、生活指導主任から「今回のことは、プライバシーの問題があるので、くれぐれもSNSに書き込まないように」という注意が与えられ「すぐに帰るように」となりました。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より


杉山さんの告白のを察したのは、小仏先生ならではの能力でした。


※ここからは、メンドイことがお嫌いな人は飛ばしてください※


本編の中では四人の処遇を描けないため、ここで補足します。

(少年法の規定により他者は知り得ないので)

警察に連れて行かれた四人は

不同意性交等罪未遂の共同正犯が成立して

全員が鑑別所での留置・観察後、

家庭裁判所で審理を受けました。

少年ではありますが重罪であるため

少年院での短期処遇となります。

(大人で言えば「懲役」に当たります)

刑務所と違って、刑期は決まっていませんが「6ヶ月」以下と言うことはありません。

ただ、青木君だけは

児童期からの数々の非行事実に基づき

医療少年院による治療的な処遇を課すと

審判が下りました。

これは「期間」が定められていません。

最低、2年は出て来られないでしょう。

(ひょっとしたら誰かの外伝があるかも)


あ、当然、斎藤君のスポーツ推薦がダメになったのはもとより、全員が進学できませんでした。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 




 

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