第22話 ライブは走りながら聞けw

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

用具倉庫を出た直後へと、少しだけ時間を戻ります。

光樹視点です。

みなさま、お待ちどおさまでした。そうです、ここは「富士川中」です。

が最後の一手を決めます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 用具倉庫を飛び出したオレは、校舎を回り込んだところで腕を大きな○にした。向こうでも聞いてるんだし、わかってるんだろうけど、心配しているはずだからね。


 2階にある放送室の窓で人影が手を振ってくれた。顔は見えないけど、なんとなく、ひなちゃんな気がした。


「すごいよな。ひなちゃんの、あのメッセージが全てのだもん」


 青木は、ひなちゃんのことが好きで、何度か告白しかけたことがあったらしい。その度に、さりげなくかわされてきた。だけど、諦めきれなくて、ずっとを送り続けてきた。サッカー部の仲間手下達も、手を貸してきたけど、あと一歩が踏み込めないのが青木の性格。


 そういうところは極めて純情というか素朴な部分がある。


 そんな青木にとって一大事となったのが、今回の「高木さんひなちゃんの告白」だった。今までの「ウソ告」の流れで、オレがOKするのは目に見えてる。


 なら、どうするか?


 みずほちゃんの読みが冴えた。


「何とかして妨害しようとするはずよ。放課後までになんとかしたいなら「昼にウソ告」するしかないでしょ? あの人達が手駒に使えるとしたら須藤さんしかいないはずよ。そして場所は今まで他の人が使ってこなくて、しかも隠れるところがたくさんある用具倉庫になるでしょうね」


 タイミングも、相手も、場所もバッチシ予想通りだった。


「用具倉庫なら、こっちが隠しマイクを付けるのは簡単よ。しかもあそこからなら、体育館の放送設備に電波を飛ばせるし、それを放送室のラインに取り込むのも簡単なの」


 簡単って言うけど、オレだけだったら、ぜったいに無理w


 やっぱ、学校設備を知り尽くしたみずほちゃんならではの計画だった。


「青木君は、ああ見えて真面目って言うか、几帳面なところがあるの。自分の計画が失敗に終われば絶対に怒り狂うわ。そうしたら、斎藤君達や須藤さんを責めるでしょ? あの人達だって、少しは言い逃れもするはずよ。そのやりとりを校内に流せば、勝手に破滅に向かって一直線になるってわけ」


 恐露西亜おそろしや


 みずほちゃんを敵に回すことだけはしないようにしよーっと。


「さて、そろそろ始まるかな?」


 一応、保険として、さっきのウソ告の部分から録音はしてるけど、全校「ライブ」は、この後からになる。


 みずほちゃんとひなちゃんは、放送室でカギをかけて既に立てこもっている。「後で叱られるのは覚悟の上よ」と言ってくれて、オレはそれに甘えてしまったんだ。もちろん、彼女達だけに任せっぱなしにはなれない。及ばずながら、放送室の前で、先生が何かしようとしたら止めるのがオレの役目。



「おい、なにシクじってるんだよ」

 

 お、聞こえてきた。


 放送室前に向かうオレの耳にも「ライブ」が聞こえてきた。


 これは青木の声だな。さっそく始まったかっていうか、やっぱり隠れてたんだ。他もいそうだよね。


「ち、ちがうの、違うの、あれは、あいつがいけないの、あいつがクズだから」


 メギツネが言い逃れ中。それにしても、ウソ告を断られるのは相手がクズだからって、どんな理屈だよ。相変わらず頭がおかしいな。


「あいつがクズなのはわかってんだろ? そのクズをたらし込めって言ったよな? グループRINEじや、せっかく、寛太がニセモノになりすまして上手くやってるのに、てめぇは、ぜんぜん役に立ってねーじゃん」


 おおお! いきなりの決定的告白、ありがとうございました、だね! もう、これで十分だ。さて、この後のはどうなるかな?


「でもぉ」

「デモなんてねぇんだよ。あるのは、カモか、敵かだけなの! で、おめぇは、オレの敵になんのか?」

「違うよ、ほら、私、竜久の味方だよ? いつだって、仲間じゃん!」

「仲間? ざけんな。言ったろ、あるのはカモか、敵かだって。じゃ、敵じゃないってことはカモってことで良いんだな? オレの役に立つんだろ?」


 青木の声、こんなに低かったんだ? 授業の時の声と全然違うんだな。これがヤツの正体? それにしても「カモ」か「敵」かって、どーゆー分け方なんだよ。友達とか、仲間って言葉はないんだなw


「ふん、じゃ、オレのために役に立つんだな?」

「もちろんだよ、ココアは、竜久の敵じゃないから」

「よし、じゃ、シナリオ変更な。おい、1号、2号、あとキャプテンよぉ」


 ん? なんだよ、その1号、2号って、昔の漫才コンビか? キャプテンってのは斎藤のことだろう? でも、キャプテンって発音が、全然、尊敬を伴ってないのが笑えるw


「「「はい」」」

「今から、誰かコイツに突っ込めレイプだ

「「「「えええええ」」」」


 えええええ! なんか、流れ的にヤバくない? いくらなんでも、それは犯罪だよ? おまえら、やめとけ!


「さっさとやれ」

「あの、でも、それはさすがに」

「いくらシクったしっぱいのお仕置きでも」

「お前ら、何、勘違いしてるんだ。これは石田をハメるためだ。ハハハ。ヤツの代わりにおまえらがハメて、石田をハメられるんだぞ。オレ、マジ天才な」



・・・・・・・・・・・



「いしだぁあああ、なんだ! この放送で流れてるのは! おまえら、いったい何をやってる!」


 血相を変えて走ってきた大島先生がオレの胸ぐらを掴んだ。


 その間に、国語の小仏おさらぎ先生が放送室のドアを開けようとしてる。


「カギが閉まってます。マスターキーを早く! 副校長! はやく出して!」


 慌てて副校長先生がポケットを探った。


 大島先生は、さらにオレの首を締め付けてきた。


「開けろ! 早く放送室を」

「違うよ、先生、これ、放送室じゃない。用具倉庫だ」

「用具倉庫?」」

「中にいるのはサッカー部の連中だよ。女の子は須藤さんだと思う」

「お、お前の話は後でちゃんと聞く! と、とにかく、体育館裏の用具倉庫だな?」

「あぁ、そうだよ。オレも行くから」

「わかった。お前もついて来い!」


 すげぇ。さすがサッカー部顧問、マジで足が速かった。



・・・・・・・・・・・



 廊下にも、校庭にも、しっかりと放送が流れていた。全員が「なんだなんだ?」とザワついてる。そこを先生の集団がものすごい勢いで走り抜ける。


 その間にも、着々と「こと」は進行していた。


「おまえら日本人はバカだろ」

「こいつをここでヤっちまえば良いんだよ」

「でも、あの、なんで?」

「股から血を流したコイツを職員室に連れていくんだ。石田にやられたって叫びながらな。オレ達は偶然通りかかった目撃者ってわけだ。あ、ホントっぽくするために、コイツのシャツを破っておけ。ほら、早くしろ、休み時間が終わっちまう。次は国語だ。小仏おさらぎ先生は遅刻に厳しいんだぞ、早くやれ!」

「おい。早くしろって! おら、お前はこっちだ」

「キャッ!」


 何かが倒れる音。メギツネが押し倒された?


「痛い、ね、やめて、ねぇ、竜久」

「お前がしくじったからだ。ちゃんと言うことを聞いて、石田をたらし込めば、ここまでしなくてすんだのによ。お前はカモになるって言ったんだ。せいぜい、大人しくしろ」

「ヤダって、ヤダ! ね、お願い、もう一回チャンスをちょうだい、ね? 裸でもなんでもなるから、なんとかして石田クズを騙すから。お願い、やめて」

「なら、最初からヤッておくんだったな。オラ、早くしろ、誰だ? あぁあ、もういい。2号まつした、お前だ、お前がやれ」

「え? オレっすか」

「二度も言わせるなよ。時間がねぇんだぞ、とにかくぶっ込んで出せ。あとは、オレ達が口を合わせて、石田にやられてるところを助けたってな。お前ココアは、『石田を呼び出したら、突然襲いかかられた』って言うんだ。あ? それとも、この目をえぐり出してやろうか?」

「わかった。でも、ね? 大人しくするから…… でも、ホントにやんなくてもいいでしょ? 私、石田に犯されたって言うから! 泣き真似もうまいし。ね? ほら、シャツを破ってくれても良いから!」

「うるせぇな。警察で血が出てるかどうか見る決まってるだろ。なんもなきゃ、証拠にもなんねぇ」

「でも「ウルサい! 早くヤレ!」」

「ご、ごめん、ココアちゃん。これ、仕方ないヤツだから」

「やめろ! パシリのくせに! さわんな! クズ」

「おい、キャプテンと1号、足を広げて押さえろ。2号、時間がねぇ、ツバ付けて突っ込め」


 なんだよ、そのツバ付けとけって。

 

「いやあああああ!」


 バシッ


「いたっ!」


 パシッ、パシッ、パシッ


「オイ、てめぇ、おとなしくしろって。次、声を出したら目ん玉えぐりの刑執行決定な」


「ごめん。ココアちゃん」


 あ、この声は松下か。なんか、楽しんでる声に聞こえるぞ。


「な? オレも次、いいかな?」


 ん? こんどは関田の声か。


「今はダメだ。後で、石田をハメたら、今度やらせてやる」

「ヤッた!」


 究極の下衆ゲスい会話だな。


 大島先生が扉に飛びついて、一気に突入!


 先生達の後ろについて行こうとしたところを、グッと肩を押さえられた。


「先生?」

「生徒は、ここまで。後は先生達に任せて」


 小仏先生は、見たこともないほど怖い顔になってスマホを取り出したんだ。


「あ、そうだ。これほうそうを流したの、あなたたちね?」

「ごめんなさい」

「それはいいの。で、これは、ちゃんと録音してあるの?」

「はい」

「わかった。後で、それ借りるから。警察を呼ぶわね」

「え?」

「当たり前でしょ? 犯罪を目にしたら警察よ」


 先生の指が 1 1 0 とゆっくりと、しかし確実にボタンをタップしていくのをオレは唖然として見てたんだ。


「こちら、F市立富士川中です。私は教員のおさらぎと申します。校内で強姦事件が起きてしまいました。はい。犯人は確保してありますが、至急、お願いします。一応救急車の手配もお願いできますか。はい、被害者は1名だと思われます」


 いきなりの警察沙汰かよ。っていうか、小仏先生がムチャクチャ落ち着いていて、怖いんですけど。


 小仏先生が生徒を警察に突き出したって言う、あのは、まさか本当マジだったの?


 やべぇ~ さすがに、みずほちゃんもここまでは読んでいなかったと思うんだ。


 思ってもみないほどの大事件になってオレは心底ビビっていた。


 それにしても、先生が手に持ってた黒いモノはなんだろ? 今度、聞いたら教えてくれるかな。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者から

紗絵ちゃんなら、絶対に即自通報ですよね~

また、校長は飛ばされるんでしょうね。


小仏おさらぎ先生のことをご存じない方は

拙著「顔は平凡な婚約者なのに、浮気はするのかよ!」をお読みください。

https://kakuyomu.jp/works/16817330650119360808

外伝をお読みいただくと登場します。

「この後」については、次話でお届けします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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