第20話 ウソ告返し

心愛ここあ視点 光樹を呼び出した直後。


・・・・・・・・・・・


『とりあえず、呼び出し成功。ま、後は簡単よね』


 石田は、どのみち、誰に告白されてもOKするわけだから。むしろ、ヤツとキスして吐かないようにするのが一番難しいかも。


 そんなことが頭に浮かんで、それをかき消すためにも、途中で走って用具倉庫に到着。カギは開けておいてくれた。


「呼んできたよ。今来るって」


「ちゃんと言われたとおり、うまくヤレよ」


 跳び箱の中から声が聞こえた。竜久あおきだ。


「うん」


 正直、気が滅入るやってらんない。私のファーストキスが、あんなやつだなんて。ホントは寛太に止めてほしかったけど、彼が逆らうわけがない。


 もしも怒りに触れたら竜久は何をするかわからないもん。


 彼は幼い頃に大陸から日本に来たせいなのか、怒り出すと普通の人ではやらないようなことを平気でするのだ。


 寛太さいとうも私も同じ小学校だったけど、一年生になったばかりの頃、たどたどしい日本語を笑ったクラスの子に家から持ってきた油を掛けて、火をつけようとしたのはヤバかった。


 幸い、ライターが上手く点かなくて、そこを先生に取り押さえられたけど。この時の経験で「小学生だと日本では警察も手が出せない」ということを知ってしまった。だから「今なら人を殺しても警察は手が出せないんだぜ」が5年生までのきまり言葉だった。


 今は、それが「少年法のある間は前科にならない」がいつものセリフとなっただけ。たとえ逮捕されたとしても、彼に言わせると「日本の少年院なんて、入っても天国みたいなモノ」らしい。


 それが強がりで言ってるわけじゃ無いことは、その後もやり放題をして証明済み。中学に入る頃には彼とケンカをするどころか、逆らう男子もいなくなった。 


 しかも、ちゃんと「先生のいうことは聞く子」という一面を持っている。ふりじゃなくて、その部分だけは真面目なのだ。おかげで先生達も、竜久のことを悪く思っていないらしい。むしろ、どちらかというと「キレると何をするかわからないけど、普段は真面目で大人しい子」扱いなのがわかる。


 一番怖いタイプだ。


 だから、サッカー部でもクラスでも、表に出るのは寛太さいとうだけど、竜久には誰も逆らえない。


 その竜久が「ヤレ」と言っている以上、ともかくヤルしかない。


「来たみたい。しっかり撮ってよ」

 

 返事はなかった。


 扉が開いた。


「来てくれたんだ」

「やあ、須藤さん。君が呼び出してくれるなんて。いったい何の用かな?」


 え? 入ってこない。そこだと映らないじゃん。しかも逆光になっちゃう。


「あの、こっちに来てくれる?」

「えっと、奥に入れってこと? じゃ、扉は開けておくね」

「え?」


 やっぱり警戒されてるんだよね。今まで、何回もウソ告の場所に呼びに行ってたから、むしろ警戒されなきゃおかしいか。でも、このままじゃ、うまく行かない。なんとかしなくちゃ。


「ね、恥ずかしいから扉は閉めてくれる?」


 クソ石田、サッサと奥へ来いよ。私が呼んでやってるんだぞ。 


「う~ん。ここって、人があんまり来ないから、扉は開けておいても大丈夫だと思うよ。それに、二人っきりになっちゃうと、いろいろ不味いかもしれないし」


 何とか警戒を解かなくちゃ。そうすれば、きっと上手く行くんだから。


「あ、警戒してるよね? ごめん。でも、あのね、信じて欲しいの」


 上目遣いなら、いけるよね?


「わかった。信じるよ。でも、いったい何の用なの?」


 よし、かかった!


「あのね、えっと、あ、もうちょっと近くに来てくれる?」


 やっと中に入ってきた。あと三歩。早く、こっちに来い、クソが!


「あのね、信じてもらえないかもしれないけど。私、石田君が好きだったの」

「え~っと、それってウソ告でしょ?」

「そ、そんなっ」


 今まで、そんなこと言ったこと無いじゃん! みんなウソ告だってわかっててOKしたんでしょ!


 引きりそうな顔を頑張って笑顔に変える。


「ね? 信じて欲しいなぁ」

「え~っと。オレさ、本気でコクってくれる人なら、自分がどうしても受け入れられない人以外、OKするって決めてたんだ」

「私、本気だよ! 本気で告白してるから。そ、その証拠に、キスだってできる! ね? OKしてくれたら、キスして良いんだよ!」

「え? ホント? オレとキスしたいの?」

「うん。だって、石田君が大好きだから」


 クソッ、覚えてろ。この屈辱は、絶対に晴らしてやるんだから!


 また一歩近づいてきた。手を伸ばせば届く距離。よし、これなら、マットの影からちょうど撮れるはず。


「石田君、私、あなたが大好きです」

 

 目を閉じて、少し上を向く。キス顔をこんな奴に見せるなんて……


 あれ? 気配が来ない。早くしろよ、グズ!


 そっと薄目を開ける。


「ひっ!」


 ニヤニヤ笑いの石田がこっちを見ていやがった。


 キス顔を見ていやがった!


「あのさ、言ったよね? 自分がどうしても受け入れられない人以外、OKするって決めてたって」

「そ、それがどうしたのよ!」


 早くしなさいよ!


「だ、か、ら」


 指を突きつけられる。


「お前はお断りだ。どーしても受け入れられないクズだからな」

「ええええ!」

「いや~ 今まで、一人としてダメって言った子はいないけど、お前だけはダメ、無理、ぜ~ったい拒否。死んでも嫌だね」


 何よ、こんな奴に、そこまで言われるなんて……


「ね? どんな気分? 学年で、自分だけお断りされちゃったね? 学年だってことだけど。ねー ねー 今、どんな気分? あ、顔が真っ赤だよ? 怒った? 恥? あ~ 見事に、告白が お こ と わ り されちゃいましたね。おカワイソーな、ひと、ですね~ 今まで、誰も断られた人なんていないのに、自分 だけ お こ と わ り だって。ね、ね、ね? 今、どんな気持ち?」


 あ、う、あ、こ、これって、こんなヤツに、私、断られた? キスまでOKしたのに?


 こんなこと、こんなことがあるなんて!


「あ、じゃ、告白は、謹んで、ぜ~たい、断固として、お断りしたんで、もう、用はないですよね? じゃ、オレはこれで」

「ま、まって、そんな!」


 ダメだ。ショックで頭が回らない。


 どうしよ……


 次の瞬間、跳び箱の中にいるはずの竜久がなんと言い出すか、ばかりが気になってた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

学年でただ一人「断られた女」が、どうなるのか。

「お断りされちゃったところを全校放送すると

 面白いかも知れないけど、それだと、ちょっと足りないわ」と

軍師・みずほが申しておりました。

このシーンは、まだ続きます。


すみませんが、もう20話まで来ました。

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