第18話 密談

「お前さ、なんで、ちゃんと聞き出さなかったんだよ」


 1時間目が終わると、陽キャの一軍メンバーを中心に体育棟の男子トイレに集まった。


 入り口は寺田パシリに見張らせているから、青木は素で振る舞っている。すなわち、正座をしている斎藤の脚をグリグリと踏みにじりながらだ。


「すみません。何とか聞き出そうと思ったんですけど、チャンスがなくて」

「出てくるまで待ってりゃ良かっただろ。ひなを見張れって言ったのを理解してないのかよ」

「すみません」


 石田の後を付けろという命令を律儀に守った斎藤だ。しかし、二人が高木さんの家に入るところを目撃して、すぐに報告に行ったのがいけなかった。


 不機嫌になった青木に「石田が出てきたら捕まえてこい」と命令されてトンボ返りした。


 夜まで見張ったが、結局誰も出て来なかったのだ。母親も帰ってきたみたいだし、きっと、自分が「ご注進」に行っている間に帰ったに違いないと青木に連絡した。


 その日のうちに、脅しておこうとしたのが空振った。報告を受けてチッと小さく舌打ちをしたが、逆を言えば、それは石田がすぐに帰ったということになる。とりあえず、青木は機嫌を直そうとした。


 ところが、問題は、その後に起きた。


 夜、高木ひながクラスのグループに投稿したのだ。


《♡明日、石田君に告白をします♡ ♡放課後、お願いします♡》


 まさかの「告白」宣言だ。しかも、1回では終わらなかった。


《あれ? 石田君見てくれませんか?》

《いつも、RINEに、いっぱい書き込んでくれるのに》

《今日に限って見てくれてないんですね?》


    《石田は最近RINEをやってないって言ってたな》


 斎藤が何とか取りなそうとしたのだが、すぐさま高木さんが反応した。


《そうなんですか? でも期末の前までいっぱい書き込んでましたよね?》


 10分おきに、三回も書き込まれ、そのあとも30分ごとに「見てくれた?」という感じの短い投稿が繰り返されていた。


 これまでも、へのウソ告に呼び出すためクラスのグループを使う女はいた。それについては斎藤が「OK」のスタンプを押しておいて、翌日、須藤を使って、予定の場所に連れて行くことで対処できた。


 しかし、今回は高木さんだ。


 前日の動きから見て「ホン告」の可能性があるのは不味いと、青木は焦った。


 ほとんど書き込んだことのない高木さんが、いつになくハシャイで書き込んでいるのが、その証拠だ。


 高木さんを青木が狙っているのは、ここにいる全員が知っている。合唱コンの練習に合わせても立ててある。


『そんなことをさせるかよ』


 青木は「コクるのをなんとかしろ」と、他のトップカースト達をねめつけたのだ。


「じゃ、じゃあ、放課後になる前に石田を何とかすれば」


 斎藤の腰巾着パシリ2である関田が、何かを思いついたらしい。


「なんとかって? ヤツは平気で、すぐにチクるから、正面から脅すのは無理だぞ」

「えっと、そうじゃなくて、ウソ告です。昼休みに別の女がウソ告して、OKしてから、ネタバレを夕方にするんです」

「ん? ウソバレが夕方?」

「はい。そうしたら、放課後高木さんが告白しても既に相手がいるわけで」


 つまり、二股になる。さすがの石田も、その前に[OKして」いれば、後から来た高木さんを断るはずだというわけだ。


「だが、まだウソ告してないヤツっていたか?」


 青木は首を捻る。確かに「まだウソ告をしてない女」がいるのは知っているが、杉山は斎藤が狙っているし、乃々佳は、さっき盛大に撃沈されていたから無理がある。しかも、乃々佳を脅すネタすら無い。


 あとは生徒会長だが、クラスも違う上に、先生からの信頼は絶大で、正直、どうあがいても圧力をかけるのは無理だ。


「後輩を連れてくるか?」

「えっと、幸い、まだココアさんがしてないかと」


 関田は、須藤を見た。男子トイレであるが、須藤もしっかりとそこにいた。いないと何を言われるかわからないからである。


「え? ヤダよ、私」


 すぐに拒否したが、問題は青木だ。

 

「なるほど。ココアすどうがいたか」

「えぇ……」


 青木の顔がニンマリしている。これを断ると、どうなるのか目に見えてる。


 しかし、その青木がふっと真顔に戻った。


「でも、ココアと高木さんか……」


 関田の胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、ヤツが乗り換えたらどうするんだよ。どう考えても、するだろ。他にいねーのか」


 ひどい言われようである。しかし、青木なりに考えはしたのだ。心愛は、笑って良いのか怒って良いのか、表情が難しいと思った。


「でも、いまからだと時間が」

「昼までに後輩を説得するおどすのは難しいか。う~ん。じゃあ、なんか、チェンジできないように…… あ、そうだ。ココア、おまえ、その場でキスしろ。そうすりゃ簡単に乗り換えられないだろ。それに、その写真をばら撒けば高木さんだって、コクるのをやめるかもしれない」

「え?」


 話の流れ上、断れないヤツだ。


 須藤心愛は『あんなヤツとファーストキスするのかよ』と泣きそうになったが、場の空気を壊さないために、ヘラッと笑って見せる。


「OK。じゃ、ヤツのキス顔をバッチシ撮ってやってね!」


 そこで授業開始のチャイムが鳴ってしまった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

昼休みに、須藤心愛がウソ告となりましたが、これは高木さんの読み通りです。


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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







 





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