第17話 発動

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作者より

ひなちゃん、みずほちゃんと作戦を立てた光樹です。

いつものように乃々佳を避けて妹ちゃんと登校しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 


『あぁ、高木さ…… ひなちゃん、マジでやってくれたんだ』


 クラスに緊張感がみなぎっているのがヒシヒシと伝わってきた。


 作戦は、昨晩、発動している。


 席に着くオレを全員が息を潜めるようにして見守ってるんだもんな。


 サッカー部の連中だけがヒソヒソ。


『なるほど。確かに青木が中心だったんだ』


 こうやって見ると斎藤は顔色をうかがってる感じだ。


 高木さん、すごいなぁ。オレは全く気が付かなかったよ。


 杉山さんが何かを言おうとして近づいてきた。さりげなく合唱部の高橋さんがインターセプトしてくれる。1時間目の国語で一緒に発表する相談だ。この辺りは高木さんが話をつけてくれていることになってる。


 乃々佳がツカツカツカと寄ってきた。


 目の端に入ったから「近寄ってくるなビーム」で迎撃したけど、無視されて話しかけられてしまった。


「みっきー あの、お話をさせてもらえませんか?」


 ここで何か返事をしたらヤツの術中にはまるのは目に見えてる。今までは、問答無用で男子トイレにダッシュしたきた。


 今日はとっておきの作戦に出る。


 いくぞ!


「え? が、オレなんかと話したいんですか?」


 あの時以来、おそらく初めて乃々佳に向けて声を出したから、ビックリしたんだろう。目を丸くして「みっきー」と呟いた。


 そんなに驚くくらいなら、最初から話しかけんなよとは思うけど、ま、こっちは作戦通りに行くだけだ。


「ハハハハ、まさかぁ!」


 わざと、大きな笑い声を上げて見せた。


「ハッハッ、ハッハ、まさか、ハハハ、オレなんかが、木山さんと? しゃべる? ないないないない、ぶぁははは! いやいや、ナイナイナイナイナイナイ、ぎゃっははっは、恐れ多くて! ハハハハ」


 ギャハハと、馬鹿笑いを30秒。教室に、ただオレの馬鹿笑いが響き渡っているのは計算通り。


 全員の注目を集めるなんて、ボッチ系としては恐ろしくて身がすくみそうだけど、ここは頑張りどころだ。


「ハハハハ、まさか、まさか、まさかぁ、ギャハハ」


 わざとらしい大笑い。それはそれで苦しいんだけど「恐れ多くて」「オレなんて」を間に挟みながらの馬鹿笑いを頑張る。


 そして、さすがの木山さんが対応に困ったところを狙い澄まして「だから、嫌です」と真面目な顔に一変してピシャリ。


 今さら、何を話すつもりだよ。まだ、幼馴染みのつもりでいるのなら、もう遅い。


 お前とわかり合うことなんて、金輪際絶対無いから。


 その後、何かを言おうとしてきたから「すみません。あなたのような美人に話しかけられるような立場じゃないので。もう二度と話しかけなくてけっこうです」と頭を深々と下げておく。


「そんな、みっきー、ね? 頭を上げてよ。私が悪かったから、ね? ね?」

「すみません。二度と話しかけないでけっこうです。それとも、土下座しないと許してもらえませんか?」

「そんな! 私、そんなこと言ってなくて、ただ、お話を」


 お前とは、二度と話すことなんてねーよ。


 教室の中が凍り付いた時に、大島先生が姿を現して、全員が自分の席にサササッと戻ったんだ。


「ん? なんか、教室が妙に硬いなぁ。ほら、みんな、期末も終わったんだ。気持ちを切り替えて、今日から合唱コンに向けて練習するからな!」


 担任は、そう言って丸めてあった模造紙をクルクルと黒板に貼り付けた。


『ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン』


 体育系の爽やかな笑みで教室を見渡した。その模造紙はお手製らしい。


「これはな、一人はみんなのために、みんなは一人のために、という意味だ。合唱祭は、これを標語にすれば、素晴らしいクラスになる。みんなで頑張ろう!」


 クラスね……


 先生、作戦は発動しちゃったんだ。


 もう遅い。



  

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

大島先生に悪気はありません。ちょっと、体育会系の単純さで空気を読まないのと、生徒が見えてないというだけです。

ひなちゃん、みずほちゃんは絶対的な仲間になります。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

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