第6話 あり、なし、のワナ

 移動教室から帰ってきて、翌日も普通に授業だった。


 給食を食べてから図書館に行ったら杉山さんが当番だった。 


 近寄ってこようとしたから反射的に逃げた。もしも本人に「騙されたw」とか言われたら、きっと立ち直れないから。


 しばらく彼女に近寄るのはやめよう。


「今日はあっちこちの部活で、お土産渡しミーティングがあるし、今なら教室の人も少ないか」


 教室に戻ってみた。


「教科書がない」


 机に入れておいた教科書がなくなった。


 机の上にはマジックで落書きされてる。


「狙ってんじゃねーよ」

「お前はダマされたんだよ」

「調子こくなよ」

「うぜぇ」

「教科書にも嫌われたな」


 筆跡がみんな違うから、どうやら「5人」の下手人がいるらしい。


「イジメか」


 机の上の文字を確認してから職員室へ。このまま放置するほど弱気でもない。


「3年1組の石田光樹です。担任の大島先生、いらっしゃいますか」

「どうした?」

「オレの教科書が隠された。イジメだと思う。机にも落書きされてる」

「なんだと? ウチのクラスには斎藤もいるし、そんなことが起きるはずがないのだが。まあ、いい。生徒にイジメだと言われたら、見に行く義務があるからな。橋本先生、一緒に来ていただけますか」


 さすが、サッカー部顧問だ。フットワークが軽い。斎藤を信じているのは、ちょっとアレだけど。橋本先生は副担任で社会のおじさん先生だ。渋々という感じで遅れて階段を上ってくる。


 教室にはサッカー部の連中を中心に7、8人しかいなかった。


「どれどれ? ん? なんだ、なんともないじゃないか」

「うーん。落書きの跡はありませんねぇ」


 橋本先生と担任は机が綺麗になってるのを確認してる。教科書も入ってた。入れ方は違うけど。


「おい、斎藤、何か見なかったか?」

「はい。先生。特に変わったことはありませんでしたけど、何かあったのですか?」

「いや、何もないなら良いんだが」

「あ、石田君! 給食を食べてからずっとだったね。一緒に移動教室の話でもしないか?」

 

 斎藤の声は、実に誠意溢れた、友達を思っての声になっている。


 演技派だ。


 犯人がわかっちゃったw


 だが、大島先生はジロリとこっちを見た。


「ん? 石田。お前、教室に一度来たんじゃないのか?」

「さっき、来た…… 来ました。それで机が」

「だが、何ともなってないよな? う~ん。おい、須藤、さっき石田が来た時、何か変わったことはなかったか?」

「え?」

 

 須藤さんがキツネ目を丸くさせて、首をかしげてみせる。


「先生、ごめんなさい。なんて気付きませんでした! 給食を食べて出ていったのは知ってたんですけど。今初めて気が付きました」


 こいつも人を化かすのが上手いらしい。


 ハメられた。ハメたい。いや、アイツには無理だがw


「おい。石田、どうなってるんだ?」

「でも、本当にあったんです! 教科書もなくなってました」

「そうか。でも、現実に、お前の言ったことと反対に、教科書はある。落書きはない。先生はこれ以上必要か?」


 ふぅと一つため息を大げさについた担任は、斎藤に向かって「何かあったら、すぐオレに教えてくれ」と声をかけると、サッサと出て行ってしまった。


 副担の橋本先生も「エライ迷惑だ」とブツブツ言いながら出て行ってしまった。


 斎藤がニヤニヤしながら近寄ってきた。


「おーしまクンに頼まれたから~ 今後も何かあったら、ちゃ~んと報告するからよ、安心してくれ」


 トップカースト達がドッと笑った。


 ぐぬぬ


 辛うじて、殴りかかりたい衝動を抑え込んだ。


 そこに入って来た乃々佳は「何があったの?」と誰かに聞いていた気がするが、そっちを向く気にもなれなかった。

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