第5話 乃々佳の誤算


 申し訳なさでいっぱいだった。


 あれは私が悪い。全部悪い。ひたすら悪い。


 いくらなんでも、告白に笑い転げるなんて、ありえなかった。


 みっきーを不安にさせちゃったのは、正直、申し訳なかった。


「でも、でも、でも、さ、でもさ、私の気持ちくらい、もっと早く気付いていてよ」


 言い訳になっちゃうよね。


 でも、さ、みっきーのことを特別扱いしたじゃん。


 バレンタインのチョコもあげたでしょ? コンビニでちゃんと、を買ってきたんだよ? 日本で一番売れてるやつ。


 あれが好きだって言ってたから。他の男子には、適当なのを型に流し込んだだけの不味いヤツを配ったのに……


 特別だったんだよ? なのに、気付いてくれなかったし。


 あ、気付いてはくれたよね。「ボクだけこれ?」って言ってたもん。みっきーは特別だからって言ったのに、喜んでくれなかった。

 

 あー 過去のことはもう良いの! 今回私が悪いもん。


「何とかして謝んなくちゃ」


 学校に行ったら行ったで、逃げるに決まってる。


 朝、登校の途中で謝ろうとした。いつも出てくる時間に待ってみた。


 来なかった。ギリギリまで待ったけど来なかった。


 結局、その日は学校に来なかった。


 翌日も、その翌日も……


 部活どころじゃないけど、女テニのキャプテンをしている以上、練習はサボれない。毎日、部活が終わるとみっきーの家まで行った。


 だけど、いっつも未玖ちゃんが立ち塞がって会えなかった。


 お父さんは単身赴任。お母さんは、毎日遅いから、未玖ちゃんがいる限り、打開策がない。


 とにかく学校にさえ来てくれたら謝れるのに。


 もう、DOGEZAして許してくれるんならスライングDOGEZAだってしちゃうし、お詫びにチューしろっていうならしちゃうし。だって、なんだってしちゃうよ?


 あ、スルのはいいけどシャワーは絶対にさせてもらうから、部活の帰りはダメだよ? 


 覚悟は決めた。


 でも、せっかく乙女の覚悟を決めたのに、みっきーは、ずっと学校に来なかった。

 

 とうとう移動教室になってしまった。ギリギリの時間になって、お母さんに送ってもらってた。これじゃ謝るチャンスがない。


 バスの席は離れてたし、グループも違う。話すチャンスがない。しかもあからさまに私を避けてる。


 仕方ないって言えば仕方ないんだけど。


 どうしよ?


「そうだ、最後の夜に告白するのは定番だし。ごめんって謝って私から告白しちゃおうっと。夜だったらファーストキスかな? それ以上求められたら…… 移動教室だとゆっくりお風呂に入れないし。でも、男の子って、すぐシタいって言うらしいし。どうしたらいいんだろ?」

 

 よし、明日の夜、告白だ。でも、呼び出さなきゃじゃん。手紙を渡す? でも、どうやって…… 


 愛に頼もうか。同じ女テニの野田愛に頼む。それしかない。


 そして、頼もうと思った朝、私は衝撃を受けたのだ。


「ね、ね、乃々佳」

「どうしたの、愛?」


 愛ちゃんが、こっそり持ち込んだスマホを見せてきた。


「あのね、石田君がね」

「みつきーがどうかした?」

「ウソ告で騙されたんだって」

「え? 誰に?」

「それがね、身の程知らずなんだよ。ナオだよ。富士川中の四大美女の一人から、インキャが本気で告白されるだなんて思ったのかしら? ホント男子って馬鹿だよね~」

「ちょ、ちょー、 ね? ウソ告に騙されたってことは、OKしちゃったってこと?」

「そうだよ。OKしちゃったんだよ! バカだよね~ ありえないのに」

「ありえないよ!」


 ありえない、ありえない、ありえない!


 私に告白したんだよね? 私が好きなんだよね? 私とみっきーの長い間の結びつきがあるんだよね?


 なんで、そんなに簡単にOKしちゃうわけ?


 ありえない!


 ウソ告で調子に乗ってOKしたみっきーは、みんなから冷やかされ、馬鹿にされていた。


 私は、その姿を見て「ざまぁ」と思ってニヤリとしまったのだ。


 そんな私の姿を、みっきーはしっかりと見ていたことも知らずに……


 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者よりの蛇足

バレンタインのチョコの話ですが、これ創作じゃないです。マジで、これをやった女がいました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る