第4話 乃々佳の失敗

移動教室の前の週の土曜日。

木山乃々佳ののかの目線。


・・・・・・・・・・・


 午前中の部活の後、みっきーに呼び出された。


「部活の帰りでいいんだけど」

「そんなのダメに決まってるでしょ!」


 汗をかいてるのに会えるわけないじゃん。大急ぎで家に帰って、シャワーした。念入りに。 


 学校じゃないから、ちょっとだけお化粧しちゃおう。


 お気に入りのワンピとふわふわ帽子。みっきーは、案外とこういう系が好きなのは知ってるよ。


 行ったのは、ちょっと離れた公園。小さいときから、何度も一緒に遊びに来た場所だ。


 茂みが目隠しになっていて、ベンチのところは、ちょっと雰囲気が良い。光樹にしては、ちゃんとムードを考えてる。見直しちゃった。


『やっと、告白してくれるんだよね?』


 ワクワクした。


 とっても嬉しかった。


 嬉しいなんて言葉ですまないくらい嬉しかった。やっと、正式なカレカノになれるって。


 いつも冗談ばかりを言ってるみっきーが、すっごく真面目な顔をしているだけでも照れくさかった。


 ヤバっ。想像以上に恥ずかしいよ。思わず、乾いた笑いが出ちゃいそう。


 それにさ、みっきーの顔がひどいの。


 ほら「茹でタコみたいに」とか言うじゃない?


 ちょうどあんな感じで、普段、ちっとも真面目な顔をしないのに、口をとんがらせて、顔が真っ赤なんだよ?


 笑うのを我慢する方が難しいと思う。


 しかもよ! そこでトチッたの。


「の、の乃々佳」


 名前をかんだ時点で限界に近かった。声も裏返ってたし。


はオレのコトが、す、すきだ!」


 もう、無理。普通は、逆でしょ? 


 そもそも、みっきーのことを私が大好きなんて当たり前。それなのに、あ~んなに緊張して返事を待ってる。


 タコみたいに赤くなって、口をとんがらせて、しかも、告白のセリフが間違ってるんだよ!


 限界を超えてしまった。


「ぷぷっ」

「え?」


 ケラケラケラケラケラ


 止まらなかった。


 みっきーは自分の言い間違いに気付いてない。しかも、返事なんて決まってるのに、心配そうな顔をしてこっちを見てるんだよ?


 もう、笑いが止まらなくて。


「ぷっ、く、くるし、あ、もう~ やだ、だめぇ、みっきーたら、もう! こんなに笑わせてぇ!」


 後で何度考えても、あれは私の失敗だった。私がいけない。ひたすら私が悪い。


 でも、さ、返事なんて最初から「私も大好き」以外ありえないのになんでそんなに心配顔してるの?


 こんなに好きなのに。

 私とみっきーの間なのに。

 今さら、なのに。


 返事を心配してるんだよ? ありえないじゃんww


 笑いが止まるはずがない。


 息が継げないくらいの笑いが収まったのと、みっきーが泣きながらダッシュしたのは同時だった。


「え? ウソ、ウソ! 待って! 待ってぇえええ!」


 ヤバい。これはヤバい。マジヤバい。


 急いで追いかけたけど、みっきーは昔から足だけは速い。帰宅部なのに選抜リレーの常連だ。


 幼なじみの私ですら見たことがないくらいの勢いで、後ろ姿が小さくなっていった。


 私はそれを見つめるしかなかった。


 大急ぎでメッセを入れた。何度も入れた。鬼のように入れた。「私も好き、大好き、好き以外の気持ちないです」って入れた。


 でも、一切返事が来なかった。それどころか既読すら着かない。


 お家に直接行った。


 子どもの頃から、お互いに勝手に上がりこんでる家だ。勝手知ったる他人の家。


「こんにちは~ 乃々佳でーす」


 上がり込もうとした瞬間、妹の未玖みくちゃんが玄関で立ち塞がった。


「お兄ちゃんはいません。上がらないで!」

「え? あの、未玖ちゃん? あのぉ、私だけど……」

「帰ってください。それと、二度と来ないで!」


 お兄ちゃん大好きっ子の未玖ちゃんの目は、完全に「敵」を見るものだった。私は知ってる。未玖ちゃんは、大好きすぎて、コミュニケーションができなくなるくらい、お兄ちゃん大好きっ子だ。


 辛うじて私を「仲間」として見てくれていたのは、大人しいタイプの兄に絶対的に私が味方するって知っていたからだ。


 その未玖ちゃんが、敵に向ける眼差しで私を見つめてる。


 私は、ヤバいって顔が引き攣っていた。


 謝る方法がない。


 詰んだ?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

 こんなテイストで進行します。

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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