第3話 最初のウソ告

 ウソ告第1号の話。


 あの夜は、移動教室初日だった。


 消灯後、手紙が届いた。持ってきたのはサッカー部の女子マネをやっている須藤さんだ。


 キツネ顔で、ウェーイと騒ぐとサマになっている(褒めてない)し、サッカー部の連中と仲が良いから、クラスでもトップカーストの一部だ。まさに虎の威を借る狐だね。うん。ぴったし。


「何これ?」

「良かったね、ナオからだよ。必ず行ってあげなよ」

「?」

 

 ふー いず nao?


 誰だよナオって。


「杉山さん、素直すなおって言うんだ」


 手紙には名前があった。同じクラスの図書委員だ。しかも美少女で、委員長までやっている。本好きの彼女の文字は温かみのある整った字だった。


 美少女からの呼び出しだよ? 行くっきゃないじゃん。しかも、相手は、あの杉山さん。オレにとってはありえないほどの高嶺の花。


 幸い、同じ部屋の陽キャ連中は、どこか別の部屋に集まってるらしい。インキャ仲間は毛布をかぶってゲームに忙しい。


 ボッチで良かった! 


 生まれて初めて告白される期待に、ワクワクして行ったんだ。


 人気ひとけの無い廊下を曲がったところ。電気は付けっぱなしで明るかった。


 髪を二つ結びにしている姿は、学校ジャージでも輝いているんだよね。


「ど、どうも」

「ありがとう。来てくれて」

 

 しばらくモジモジしていた杉山さんは、息を大きく吸って、オレを見た。


 キタァ!!!!


「石田君。あの、私、前から気になってたんです。良かったら」

「マジ! これって、告白してくれたの?」

「あっ、あの、えっと」

 

 乃々佳のショックは残ってたけど、だからこそ、告白してくれたことに感激した。それに「告白は断らない」って決めてたもんね。


 その相手が杉山さんだなんて思ってもみなかったけど、とにかく、その時は、嬉しかったんだ。


「私とつき 「ありがとう! 喜んで!」」


 オレは、杉山さんの手を両手で握りしめた。とっても柔らかかった。


「石田君」

「杉山さん」


 目と目が合った、その時だった。


「だいせい、こ~う」

「はーい! 石田く~ん、良い夢見れたね~」

「ギャハッ、イッシーの分際でナオに告白されるって信じるとか! ナイナイナイ」

「おめでとう! じゃ、これ、クラスラインに載せとくから」


 トップカーストのサッカー部連中と、その彼女達に、あっという間に取り囲まれてはやし立てられた。


 え? え? これってウソ告?


 オレがだらしない顔をしてウソ告にOKしている写真は、即座に、何枚もSNSに流れた。


 「違うの、違うの!」


 杉山さんが、しきりに何か言おうとしてたけど、ショックで聞こえなかった。


 いや、トップカースト連中のはやし立てる声ばかりが聞こえてたんだ。


 ウワサはあっという間に広がった。翌朝には、学年全員が知っている感じだった。


 地獄だった。


「バッカでぇ」

「だまされてやんの」

「寛太の彼女が、お前なんかを好きになるはずねーだろ」

「身の程知らず」

「人の彼女に手を出すとか。〇チガ〇じゃん」


 どうやら、杉山さんはサッカー部のエースである斎藤寛太の幼なじみ彼女だったらしい。


 誰かの前を通る度に、脚を引っ掛けられ、後ろから殴られ、蹴られて、いろいろ言われた。


 オマケに、あの時の写真が出回った。


 それを見ながらギャハハと馬鹿笑い。


 チラッと見ると、さすがに、杉山さんは居心地悪そうにしてた。


 ただ、乃々佳まで、声は出さなくても、確かに笑っていたのが、すごくショックだったんだ。


 あ~ もう、死にたい。


 でも、ウソ告地獄が待っていることを、その時のオレは知らなかったんだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より


 毎回、クレクレをしてしまって申し訳ありません。


 ご面倒をおかけしますが

 ★評価は後で減らすことも増やすこともできます。

 続きを読んでみたいと思った方は

 ぜひ、一手間だけご協力をお願いします

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る