第27話 “ひとつ”の『決着』

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



与えられた『試練』を突破し、しばし戦士は一時ひとときの安らぎを得る、“絶望”を何度となく知り、[勇者]から“転落”した者はその身に不釣合いな力を身に付けるも、その誘惑にかたむくことなく[勇者]としての本分ほんぶんまっとうしようとしていました、そして太古の英雄の霊である【清廉】の英霊エインフェリアルに認められ、彼の英霊エインフェリアルの持てる技能スキルの総てを受け継ぐ事になった―――

一方いっぽう鬼人オーガ姫巫女ひみこもまた、太古の英雄の霊である【神威】の英霊エインフェリアルにより、ただの凡人が[英雄][勇者]に近しい存在にまで昇華のぼり詰めるまでになった―――



『まあ…なんだ、“ギリギリ”だけど間に合って何よりだな。』

『お疲れさん、どうやらそちらでも一筋縄ではいきませんようでしたなあ。』

『ああ実際骨は折れたよ、なにしろわたしが担当したヤツは『自分に自信が持てない』ってヤツだったからなあ。 それより【神威】、お前今まで腰に下げていた太刀モノはどうした。』

『最近わっちの言う事聞かんようになりましてなあ、そん代わりなついてくれそうなモンがおりましたから、そのモンにお譲りしましたえ。』

『そうだったか…じゃ、わたしらもそろそろくとしますか、わたしらが復活させられた本当の目的の為に…』



ふた”もの英霊エインフェリアルこぞって復活させられたのは、何も彼女達を鍛えるためではない―――この“ふた”もの英霊エインフェリアルが復活させられた…それこそは―――



『それよりも、なあ【清廉】、は間に合いますやろか。』

『ああ、か…は今回の仕上がりを確認する為に『しばしの猶予ゆうよをくれ』だとさ、まあ…が到着するまでにわたしらがどこまで持ちこたえられるか…』

『(…)『次元の魔女』の一人、【諍乱アウロラ】―――正直な話しわっちら2人でどうにか出来る存在なんですのん?』

『さあて…な、まあが念入りに注意を促してたんだ、―――と言う事は、さ…』



ここでも取り沙汰されたのは『次元の魔女』―――その一人とされている【諍乱アウロラ】でした、けれど太古の英霊エインフェリアル程の存在を躊躇ためらわせるなど、彼の『次元の魔女』の実力の程と言うものが伺えようと言うもの…



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

太古の英霊エインフェリアルである【清廉せいれん】に手解てほどきをしてもらった私は、疲れた心身しんしんを癒すと共に目覚め、改めてここがどう言う処かを探る為歩み出した…果てなく続く水の流れ、足下には大小様々な石が敷き詰められている―――と言う事は『河原』か?そして少し小高い場所には人の様なモノが列を為し、乱れもせずどこかの場所へと向かっている…そこからしばらくして歩みを進めていると、大きな岩影に寄りかかる様にして眠っているカラタチを見つけた。「―――カラタチ、大丈夫か?!」

「(あ…)ああ―――フレニィカさん、その様子ですと無事みたいですね。」

「すまなかった…私が至らなかったばかりに―――」

「いえさぞや艱難辛苦かんなんしんくな事があったのでしょう、今のあなたは以前より雄々しく見えます。」

「そうか……そう言ってくれるとありがたいが、その武器は何なのだ?以前はそんな物を持っていなかったような…」

「(これは―――)の太刀…」

「『あの方』?それに『太刀』?」

「恐らくですが、あなたも私もこの地にて“技”や“奥義”等の伝承にあたったのでしょう、それも太古の英霊達によって…私の処では【神威かむい】と言う方でしたが、その方が振るっていたのがこの太刀―――」

「そうだったか…カラタチの処でも、実は私も太古の英霊の一人【清廉せいれん】と言う者に手解てほどきをしてもらってな、それよりもカラタチ、ここはどこなのだ?」

『永遠に訥々と流れる大河』『果てなく続くと見られる河原』『少し小高い丘の様に視える土手』、普通ならば生きた者が辿り着くことが出来ない場所―――『黄泉国よみのくに』にある『三途の川』『さいの河原』『黄泉平坂よもつひらさか』である事を(恐らく同じ場にいたであろう)フレニィカさんにお伝えしました、すると彼女も通常では来られない場所にいると言う事に理解が追い付いていないようでしたが、この国を支配しているという女神様にお目通りをしたところで―――

{あなた達ね、今回試練を突破したのは。 の名は『伊弉冉イザナミ』、この黄泉国よみのくにおさめている神よ。}

“紙”の様に白い肌、“雪”を思わせる白銀の髪に、総てを見透かす様な灰色の瞳…ひと言で言えば美しい―――以前お会いしたエレシュキガル様も劣らぬ美貌びぼうを持っていたが、このかた美貌びぼう…以前何処どこかで?「私は女神ヴァニティアヌスの次元世界せかいの出身の[勇者]フレニィカと申し上げます。」

わたくしは多少の事情がございまして現在では女神ヴァニティアヌス様の次元世界せかい厄介やっかいになっております鬼人オーガ姫巫女ひみこカラタチと申し上げます。」

{そうかたくならなくてもいいわよ、あなた達の諸事情判っていますからね、それに―――そちらの鬼の姫巫女ひみこさんは以前…}

「かかる折にはご無礼を働いた事、いくら謝罪を積み重ねても尽くせぬものと存じております、ですがここは何卒なにとぞひらにご容赦のほどを。」

{そこまで頭を下げられたら言う事は何もないわね、けれど……とは別―――}

伊弉冉この方とカラタチとは以前関係があったか…そう言えばカラタチの出身は伊弉冉この方子孫神こども一柱ひとりである『武御雷タケミカヅチ』と言うかただったとか、そしてその時に何があったかなどと私は知らない…その事情を詳しく知るのはベレロフォンのみ、そこでカラタチは平身低頭へいしんていとうに謝罪を尽くしたものだったが、伊弉冉イザナミが指摘したのはの事だった。

{ねえ、あなた……随分とを持っている様じゃないの、どこで手に入れたの?}

やはり―――その事について聞いてきた…そう、伊弉冉イザナミ様がわたくしい表情を向けないのは、ひとつとしてはこの太刀に原因がある…とは言え、この太刀は元々わたくしの所有物ではない、この太刀の以前の所有者は太古の英霊エインフェリアル神威かむい―――けれどあの方のしごきに…試練に耐え、突破したあかしとして授与さずけてくれたのだろうと、わたくしはそう解釈する事にしたのです。

しかしてこの太刀の―――こそ、『火之迦具土かぐつち』…わたくしの知る伝承の通りなら、伊弉冉イザナミ様と伊弉諾イザナギ様との間の子神こどもであり、その出産時伊弉冉イザナミ様の産道さんどうを焼いて殺してしまった神…またある伝承の一つでは、この太刀の持つ強い魔力により使い方を誤ってしまった伊弉冉イザナミ様を焼き殺してしまったとも…そう、―――伊弉冉イザナミ様にしてみれば二度と見たくもないモノがここにこうしてあると言う事実。

けれど思う、わたくしがこの太刀を所有したとて罪はかぶせられないと…「この太刀は、わたくしがさある機会をして手に入れたモノ、その事をお疑いであれば以前の所有者にも事情を伺ってみればよろしいかと。」

{(…)そう―――。 ならば精々せいぜい大切に扱う事ね、火之迦具土その子機嫌きげんそこねると例え所有者とて焼こうとするから…ね。}

思っていたよりもとがめられなかった、それよりも気遣われた…そんな感じがした―――けれどそれはこれから起こる、ある前触まえぶれでしかありませんでした。


            ―――それというのも…―――


{それよりも、あなた達を待ちかねている人がいるんだけど、どうする?}

「私“達”を?とは―――どう言う事ですか伊弉冉イザナミ様。」

{あなた達の事情―――そうね、太古の英霊エインフェリアルから稽古けいこをつけて貰った、或いは『勝てなかった強者もの拮抗きっこうする為』…或いは『慕う[勇者もの]の足手纏あしでまといにならないようにする為』―――は『修錬の成果を観る為』。}


            ―――「『紅き悪魔カラビネーロ』!」―――


        ―――「まさか…お前が?何故こんな処で」―――


『殺気立つのはまだ早い、それに私がここにいる事情も、そちらの神が懇切丁寧こんせつていねいに話していたではないか。』

「私達の修錬を待って…?けれどこんな回りくどい事をして―――」

『そなた達に、いま事情を話してやったところで到底理解出来まい―――だが余念は欠かせぬ…今までのは大一番に臨む為の準備段階と言った処だ。』

「『大一番に臨むための準備』?!そんなことで……たったそれだけの事でカラタチにあんな酷い目を幾度となく味わわせたと言うのか!」

『そうでもしなければ、そなたは至らなかったのだろう?文句ならば未熟な自分にけるべきだ、そうは思わないか―――フロイラインお嬢様。』

「私をぉぉ…呼ぶなああーーー!」

何故か黄泉国よみのくににはわたくし達の共通の敵がいた、その身を『深紅あかの素地に漆黒くろいろどりほどこした悪魔』…『紅き悪魔カラビネーロ』、そして狡知こうちけた悪魔は痛い所をいてくる、そこで[勇者]は反応的に頭に血をのぼらせる―――「お待ちを、フレニィカさん。」

「あ…ああ―――うむ…」

全くこの方は…とは思いつつも、その怒りの原動力はわたくしを心配しての事、喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら、正直複雑な胸中です。

けれど“たくみ”な者は『ならば次の手を』―――と、講じてくる…

『―――フッ…同じ様な事を何万遍なんまんべん繰り返せば判ろうと言うものか、それにそちらの姫巫女ひみこは以前一軍の指揮をしていた事もあったのだとか?しかし…なあ~?何万遍なんまんべん―――』

敢えての真実を吐露とろし、き付けてくる…そこは場馴れした『悪魔』の面目躍如めんもくやくじょと言ったところでしょうか、けれどそこは先程の事を教訓にしたフレニィカさんには効かなかったみたいで冷静に対処したのです。


         ―――それにしても……“場馴れ”?―――


「お前が何と言おうがもう私はまどわされない、それに…!」

『フッ…随分とえるようだな、だがそれも結果が伴わねば“遠吠え”にしかならんぞ、そうでないとしたなら姫巫女ひみこ!』

私は太古の英霊エインフェリアルの一人である【清廉せいれん】によって剣術の流派というものを叩きこまれた、それまで私は[勇者]として剣を振ってはいるものの、それは“我流”であり型にはまった“流派”の教えなどなかったのだ、(とは言えベレロフォンも正式な剣術の流派を教えられていなかったから、私もそれでいいと思っていたものだったが…)けれど『正式に剣術を教えて貰う』事がこんなにも違うものなのか…視える―――!あの時…最初に『紅き悪魔カラビネーロ』と剣を交り合せた時とは違い…!

『(……)ふむ、準備運動はこれくらいにしておこうか、それにようやく身体も温まってきた、……』

―――…私に幾度となく“絶望”を突き付けたが、あの悪魔…『紅き悪魔カラビネーロ』のの由来通り、深紅の焔と化した自分の闘気をそのまま剣に乗せ突進をしてくる……〈スカーレット・ペネトレイター〉―――あの技により私のココロは幾度となく折られたが、今の私には【清廉せいれん】により伝授された対抗策がある、その事を『紅き悪魔カラビネーロ』は知らないが、それまでが様子見こてしらべだったとでも言うように今回は今までのとは規模が違っていた、そして放たれる―――その悪魔ものの極大なまでに膨れ上がった暴力の象徴…


「フレニィカさん―――!」

『フッ―――この私の“本気”の技を防ぎ切ったのは例がない、それにその〈ひかりの盾〉…『万物・万象の障害の一切を防ぐ』とされる万能の盾か、しかしこれで私の手を封じたと思っているのではあるまいなあ?あの技は私の持てる技の一つにすぎん、それらに総て耐え護るべき対象を護り切れることが出来るか?』

「お前に言われずとも―――カラタチは私が護り切ってみせる!」

以前はその技―――〈スカーレット・ペネトレイター〉によって実力の差と言うものを思い知らされたフレニィカさんでしたが、あの人の所有する〈魔鎧まがい〉にも似た技能スキルによって、今度はひかりの盾を作り防ぎ切ったのです。 以前これまでは―――その技に全く歯が立たなかった…けれど今はよくししのぎ切り、防ぎ切れるまでになっている、しかしそれでようやく五分と五分同じ土俵に上がっただけ……それに『紅き悪魔カラビネーロ』の口からはこの技以上の技がある事を知らされた、ようやく五分と五分になったと思っていたのにまた突き放される?折角太古の英霊エインフェリアル達に教えを受けたというのに、努力が水泡すいほうそうとしている……?―――?!

「何を焦っている…『紅き悪魔カラビネーロ』、私もお前と同じ様に『紅き悪魔カラビネーロ』になったから今のお前の“焦り”、手に取るように判るぞ。」

『ならば証明してみせよ…そなたのげん妄言もうげんではない証しとして!』

その瞬間―――“ナニか”が地の底まで突き抜けた?!そんな感覚に陥った時その場に立った天上てんじょうにまで届くかのような火柱ほばしら…それこそが『紅き悪魔カラビネーロ』が持てる最大最凶の力の奔流―――

{(…フッ―――)この技…〈メルトダウン・シンドローム〉までも防ぎ切るとはな、見事だ。}

「だが、まだ終わったわけではない!お前をくじかねば私達の安心や安寧あんねい永劫えいごうおとずれる事はない!」

けれどフレニィカさんはそれをも防ぎ切った、わたくしの知らぬ間にここまで強大になるだなんて…けれどそれでも油断できなかった、油断する事はなかった―――今回のわたくし達にけるそもそもの元凶は『紅き悪魔カラビネーロ』にある、彼の悪魔ものが持てる力を総て出し切り、また防がれたとしても…だからフレニィカさんがその止めにと―――

「(なっ…)なにをされる伊弉冉イザナミ様!」

{あなた達を不幸のどん底に突き落としたそのうらみ、晴らすというのは判らなくもないわ…けれど―――}

「しっ―――しかしこの悪魔ものは…」

「もしかするとわたくし達も知らない事情でもあると?」

{勘がいわね、お蔭で不要な説明をしなくて済むもの、彼の者の身柄は一度このが預かりましょう、これで文句はなくて?}

以外にも『紅き悪魔カラビネーロ』へのとどめを差しめたのは黄泉国よみのくにおさめる伊弉冉イザナミ様だった、それにその事に関してはフレニィカさんは大きな不満があったものの、ヴァニティアヌス様よりも高位の神様の前では言う事に従わざるを得ないと言った処…でしょうか。


          * * * * * * * * * *


こうしてわたくし達は黄泉国よみのくにから元の次元世界せかい―――ヴァニティアヌス様の次元世界せかいへと戻って来ました。


「よおおおぉぉ無事だったんだねえ~?心配したんだよおおーーー」


わたくし達が戻って来るのを知るや、ヘレネさんが泣きながら飛びついて来ました、余程心配をしてくれたのでしょう……それはそれでいいんですが、[魔王]がこんなに涙もろくなってしまって本職が務まるのでしょうか。(ちょっと心配)


「戻って来たみたいだな、全く心配させやがって…カラタチ殿にもしも万が一の事があったら武御雷タケのヤツに何て言い訳するか困ってた処だ。」


女神ヴァニティアヌス様は相変わらず―――と言ったところでしょうか、それにしても眷属であるフレニィカさんよりわたくしの心配だなんて…まあそこの処はフレニィカさんは[勇者]様ですものね、(それもわたくし)心配をするだけ不要と言ったところでしょうか。

(そう言った処で『私はあ~?ねえ私は心配じゃなかったのお~?』としつこくヴァニティアヌス様に食い下がったフレニィカさんでしたが、余程鬱陶うっとうしかったのでしょう、頭にたんこぶ作って半ベソいていましたからね、うふふ…可愛い人)


          * * * * * * * * * *


それからの事は―――お互いの“愛”を確かめ合ったり、今回授かった技能スキルの反復にと費やしてきましたが、そうした処でようやくベレロフォン様が戻ってこられたのです。

「ベレロフォン―――戻ってきたようだな。」

「ああ、フレニィカ、そうお前は一回りも二回りも大きくなった感じだな。」

「ああ…色々あったものな、それよりお前の方はどうだったのだ。」

「オレか…オレの方でも色々あったよ、女神ヴァニティアヌス―――母さんが創造した次元世界せかい以外に次元世界せかいを知らなかったオレにとっては…」

「(ベレロフォン……)」

「フレニィカ、お前も、もっと次元世界せかいを知るべきだ、次元世界せかいを―――いや次元うちゅうを…と言ってやった方がいいか。」

「『次元うちゅう』…だ、と?」

「『次元世界せかい』には[英雄]や[勇者]…そして[魔王]がいる、だが『次元うちゅう』は『次元世界せかい』を創造した神々がいる―――その中には神々に追放された神もいる…」

「『神々に追放された神』…そんな存在が―――」

「ああ、“いる”―――オレは今回その取っ掛かりになると思われる一人の人物と接触した、名は…『次元の魔女』―――その一人とされている【崩壊ベアトリクス】」

私達の知らない処で、私達よりも難しい事をやってのけていたベレロフォン、それにしても私達は私達を不幸に陥れようとしていた『紅き悪魔カラビネーロ』と言う存在に手一杯だったのに…また差を付けられてしまったなあ………


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『これは、素直に礼を述べておいた方が良いのか。』

{いいえ、不要いらないわ―――だってあなたにはこれからやってもらわなければならない事が『本題』なのですもの、それをこんな『付録おまけ』も同然の事で消耗しょうもうさせたくないものだわ。}

『相変わらずと言った処だな―――自分の利となるべき事には例え以前敵対していた者ですら利用する…』

軽口かるくちは―――それまでにしておきましょうか…【緋鮮ひせん】、あなたのお仲間達も今や遅しとあなたの到来を待ち望んでいるのでしょうからね。}



この者達のやり取りは、フレニィカとカラタチを元の次元世界せかいへと戻した後―――そう、『紅き悪魔カラビネーロ』ともくされた者こそ【清廉せいれん】や【神威かむい】と同じくの太古の英霊エインフェリアルである【緋鮮ひせん】、そして彼の2人の英霊エインフェリアルは今どこで何をしているか―――それは……



          * * * * * * * * *  *

『よう【緋鮮ひせん】、もういいのか。』

『いつまでもそなた達にわせられる相手でもあるまい。』

『そうは言うてもお愉しみだったんではないのですかえ。』

『“あの時”とはやりつけない事だったからなあ…うまくやれるか心配だったが―――それにどうやら楽しんでた様子だったみたいだしなあ随分と板についていた様じゃないか『悪役』、それでどうだったよ。』

『フフッ…『悪くはない』―――前世では及びもつかなかったが故、敢えてやるとなるとこれが新鮮でなあ。』

『あれあれ、癖にならはりましたらいけませんえ、それよりも―――』

『残念だがこの2人の力量を見誤ったようだな【諍乱アウロラ】、それに聞いた処によるとそなたらの“主軸”を担う【崩壊ベアトリクス】がそなたらとたもとを分かったそうではないか。』


「ええい……なにをしておるのだ、あの者共は!【崩壊ベアトリクス】こそが我等が主神の意向いこうを強く受け止めし者―――故にあの者こそが彼のかた意向いこうそのものと言うのに!」

『わたしらはそこまでの事情を知らねえから判んないけど―――その【崩壊ベアトリクス】てのがあんたらの主神様の意向いこうだってんなら、この次元うちゅうを崩壊させようと言うお前らの言う事は聞いてられない―――そうわたしは受け止められたんだが?』

「彼のかたの事を何も知らぬ貴様達が判った風な口を利くでない!だがまあいい…目の前のゴミ3つを素早く片付けて【崩壊】を説得せねば―――」

『あれあれ、わっちら3人の事を“ゴミ”ですと―――冗談にしても笑えませんなあ?なら…その“ゴミ”に手古摺てこずってたあんたさんは“ゴミ”以下確定―――ですよなあ?』

「抜かせ!このわらわ…【諍乱そうらん】の実力の半分も見ずに大言壮語たいげんそうごを吐くとは笑止千万―――貴様らを絶望の淵に叩き落としてくれん!」



丁度その頃【清廉せいれん】と【神威かむい】は『次元の魔女』の一人と見られる【諍乱アウロラ】と既に一戦交り合せていた処の様でした、そこへ―――後詰として現れたのは【緋鮮ひせん】…前世では【清廉せいれん】と【神威かむい】と他の仲間達と共にある理想の為に共闘をしていた太古の英霊エインフェリアルでした、それにこの次元うちゅうそのものを崩壊させようとたくらんでいる神―――その神の悔恨かいこんに同調し“その為”に動いている『次元の魔女かのじょ』達、その権能は彼の神に匹敵すると言うのに…それが英霊、それも太古の昔英雄だったとされるヒューマンの霊に手古摺てこずっていたと言うのは……



「ちいぃぃぃ…猪口才ちょこざいな―――いい加減鬱陶うっとうしいわ!無駄な抵抗などせずわらわの軍門にくだっておればそれ以上の苦痛など味わわぬものを。」

『生憎と生来しょうらい諦めが悪い性質たちなもんでねえ?それにこれくらいの“負荷”…と比べたら軽い軽い。』

『先程から大仰おおぎょうなこと言うてますけど、そう言うものは“ここぞ”と言う時に使いませんと―――割と“重め”の言の葉も軽々しくなってしまいますえ。』



英霊エインフェリアル』とは、言葉通り“英雄”の“霊”―――主物質界マテリアル・プレーンに存在する物理的な“肉体”ではなく、精神界アストラル・プレーンに存在し得る“霊”的存在そのもの…―――“魔”マナではなく“霊”エーテルく扱える存在、いくら【諍乱アウロラ】の操る魔法が強力で幾度となく【清廉せいれん】や【神威かむい】の身を打ち砕こうとも、物理的な“肉体”は持たないのだから致死ちしまでにはならない、【諍乱アウロラ】からの強力無比な威力を持つ魔法によって彼の者達の“霊体”が打ち砕かれようとも霊素エーテルを操る権能を駆使して復活するのみ―――



「ぐぬぬぬ…こ、このわらわの魔法が一斉通用しないとは!?貴様ら一体何をした!」

『その前に、私達が“何者”の意向によって復活させられているのか―――気付きはせんのか?』

「“何者”…だと?貴様らが復活したのは我等が主神の事をく思っていない神々ものどもの思惑であろうが!」

『それで“半分”正解だ―――ただ…?』

「な、に……?!」

『おいおい、ここに来てネタ晴らしか?随分とまた人がい…いや、この場合“悪い”と言った方がいいのか?』

『ほんに―――人が悪くなったあんたさんを見たのは初めてやわぁ、今のでココロが“ポッキリ”手折たおられたのではないですかえ。』


「く…そうっ!よもや【『時空』をもてあそべる神】『クロノス』の仕業か!ヤツの権能は『ヤツ自身に関わる“現在”“過去”“未来”を見れる』事、その権能によって近未来きんみらいけるヤツ自身の命運が尽きるものと見受けられる。 ふふ…だが、そうか―――そうやって事物じぶつ事象じしょういじらねば?つまりわらわ達がやっている事は間違いではなかった!我等が主神が復活したあかつきには皆総出で祝杯を挙げようぞ!」


『なにを寝言を言ってるんだか…寝言なら寝てから言えや―――』

『余裕のない“余裕”こそ滑稽こっけいですえ、それにあんたさんの命運こそ尽きているも同然、その事が判らしませんとはなあ?』

『『次元の魔女』が一人、【諍乱そうらん】の『アウロラ』、主のめいによってそなたを封じさせて頂く……うらみ言、つらみ事などは『冥界』に於いてするがいい―――』



諍乱そうらん】のアウロラは、この3人もの英霊エインフェリアルが復活した事情を知りませんでした、けれど知ってしまった―――それも3人もの英霊エインフェリアルの一人【緋鮮ひせん】によって、そしてこの3人に復活の話しを持ち出して来た神の事を知る。 その神こそが【『時空』をもてあそべる神】クロノスだった―――かつては神々の頂点に君臨した事があったものの、自分の子神こども達が優秀になって来るにつれ、自分の子神こども達に嫉妬しついには子神こども達をも喰い殺した『サトゥルヌス』としても知られている、しかしてその奇行きこうにより、よろしく神々の頂点の座からは追われたものの、今回の様に神としての主権を発動させる事も少なくはなかった……けれど今回の件によってこの次元うちゅうを崩壊へと導こうとしている神の意向を汲む『次元の魔女』達の動向どうこうにぶらされ、そこからまた不毛ふもうな争いが勃発ぼっぱつしようとしていたのです。


それに『次元の魔女』達の動向どうこうにぶったと言うのは何も今回の【諍乱アウロラ】が冥界送りにされたからではなく…寧ろもっと“前”―――そう、英霊エインフェリアルの一人【緋鮮ひせん】が口にした通り、『次元の魔女かのじょたち』の“主軸”と成るべき【崩壊ベアトリクス】に異変があった―――?

【崩壊】である『ベアトリクス』は『次元の魔女かのじょたち』の中でも一番に彼の神からの影響を受けており、【崩壊かのじょ】の言葉こそが彼の神からの言葉と同義であった…


  ―――ならばなぜ【崩壊ベアトリクス】は『次元の魔女』達とたもとを分かたねばならなかったのか―――


それは―――フレニィカやカラタチ彼女達も知らない処で[英雄ある者]との再会と、そしてまたとある『次元の魔女』の教唆きょうさがあったから……






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る