第24話 ≪回帰(リープ)≫

この世界を創造せし神―――女神ヴァニティアヌス様の『要望』により他の神の処へと行っていた[勇者]フレニィカさんが戻って来た。

けれどその表情は影を落としていた―――もしかすると『要請』を出した神…クロノス様のお眼鏡にかなわわなかったと?

「おいどうした、失敗する要素はどこにもなかったはずだが?」

「ああーーーいや…それが……てもらう事はて貰ったのだが、どうにも煮え切れなくてな。」

「ん~~~もうーーー折角フレニィカちゃんがクロノス様に認められたからって聞いてたのにぃ~だから私も祝杯の用意をしてたって言うのにさあ~!」

「すまなかったなヘレネ、祝杯は皆に振舞ってやってくれ―――私はしばらく一人になりたい…」

そう―――確かにヴァニティアヌス様が仰ってくれたように、今回は失敗をする要素が一つとしてない…なのに、フレニィカさんはその表情に影を落としている。

そんな彼女を元気づけようとヘレネスの女店主マダムであるヘレネ魔王ヘルマフロディトスさんがフレニィカさんを慰めるようにしていたのですが、フレニィカさんはそれでも立ち直るでもなくひとりとなる事を望んだのです。

それを見たわたくしは―――「どうかなされたのですか?わたくしで良ければ何なりと打ち明けて下さいな。」

「ああ―――いや…なんでもない、なんでもないんだ…カラタチ、私も今まで会ってきた中で高位の神に会ってしまった事で緊張をし過ぎてしまったみたいだ…だから―――」

「では、このわたくしがせめてあなたを慰撫なぐさめてあげようと思います…さあ―――力をいて…ゆだねて下さいませ……」


私は―――“弱い”[勇者]だ…少しの事でくじけ、慰撫なぐさめて貰っている、それも鬼人オーガと言えども[かんなぎ]であるカラタチに…。

“今の”私は彼女無くしてはいられない、そう言う存在に―――そうした身体に成ってしまった、互いが互いを慰撫なぐさめ合う、“舌”や“指”で敏感な部分をまさぐり合う…

私は以前、ヴァニティアヌスの主神格であるエレシュキガル様からほどこされた事がきっかけで、そうした淫靡いんびな耐性は付いていた、けれどカラタチはそうではない―――私の“舌”や“歯”や“指”が敏感な部分に触れる度、甘く淡い吐息を漏らす…次いで切なくなるような“嬌声きょうせい”“喘声あえぎごえ”も漏らす―――それがらなくなり、越えてはならない“一線”を越えてしまう…

「いかがです?少しは気分が楽になりましたか。」

「ああ―――情けない話しだがカラタチと慰撫なぐさめ合う事によって幾分かは、な…」

「そうでしたか―――ではその勢いで総てを吐きなさいませ、皆さんには言い難い事でしょうから、ならばせめてわたくしめに。」

「そうだな…ならば聞いてくれるかカラタチ。」


ようやく…ようやく貝の様に固く閉じられた口が開かれた、そしてやはり今回お会いした『クロノス』なる高位神の口車に乗せられ、この人の実力に見合わぬ強敵に会ったと言う事が次第に分かって来た。

「そうでしたか―――ではその『紅き悪魔カラビネーロ』なる者は…」

「ああ、所詮私などは敵ですらなかった…エルフと言えど“ハーフ”の私は18年と言う時間しかつむげていない、しかしその者には前世過去があった…18年しか生をつむげていない私が受けれる事の出来ない艱難辛苦かんなんしんくの数々が…だから私はへこたれるしかなかった、その者と一つの刃さえ交り合せずに私は―――敗北してしまったのだ…」


『そんな事』―――と、言う人はいるかも知れない…『で[勇者]がくじけるはずもない』と……けれどそれは文句をける人が[勇者]ではないから言えた事、それに…この人はわたくし吐露とろするのははばかれたのでしょう、けれどその胸の内をよくぞ吐露とろしてくれました―――と、わたくしは言いましょう…そして恥も外聞がいぶんも捨ててくれた事でわたくしにも出来る事がある。

「§たいへんよくできました§―――よくぞそんな事をこの私に打ち明けてくれた事を、だからこそわたくしは受けれようと思います。」

「すまないな―――カラタチ…本当に、すまない……」



既にお気付きになったかと思うが、これは『二周目』―――『一周目』とはやや経緯・過程が異なりました。


            ―――ではどの部分が……?―――


『一周目』では、フレニィカは自分の身に起きた事を語ってはいない―――しかしてそれは、そう…カラタチにも

けれど『二周目』では、話した―――フレニィカ自身が会ったと言う『紅き悪魔カラビネーロ』の事を

そして“最後”に―――彼女に向けて謝罪をしたのは…『一周目』に於いて救済すくえなかった事に対して……


 ―――けれど“その事”を、カラタチは知らない…また、知る由も、ない―――


    ―――だからこそ迎えてしまう…『二度目』の“絶望”を…―――



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれからしばらくして私達はこの次元世界せかいの創世神であるヴァニティアヌスに呼び出された、その事を私は[勇者]を求めてくれる神が居てくれたのだと、そう思った…しかし今の私ではその神の『要請』には応えられないと、お断りをするつもりだった…けれど―――

「いや、今回お前達を呼びつけたのはそう言う事じゃない。」

「(ん?)ではどう言った用向きで…」

「定期的に催される『神々の会合』…それに出席する為だよ、本当なら出席なんてしたくなかったんだがエレシュキガル様がなあ…」

「『是非に』もと仰っててねえ、それに“シギル”もここ5000年ほど出席をしていないんじゃ不審がられるのも無理はないってところだよ。」

「ヘレネさん―――」

「それに今回は“ハガル《こいつ》”も同伴てな事になっている、まあ会期中にこの次元世界せかいおかそうなんて連中はいない―――と思いたいんだが…」

「あんた達2人ならうまくやってくれると思ってね、まあ万が一の為の用心の為に連絡を取り合う事が出来る道具は置いておくよ。」

女神と[魔王]が一両日いちりょうじつあいだこの次元世界せかいを空けるにいないのだと言う、それも定期的(とは言っても100年周期)に開催されると言う『神々の会合』に出席する為にと―――

総ての神…ではないにしても神々が一堂に会する、それにヴァニティアヌス様は『変な気を起こす連中神々はいない』とは仰ってはくれていましたが、それでも不安がぬぐい去れないヘレネさんから『緊急時における連絡手段』の事について話されたのです、しかもフレニィカさんはいまだに立ち直ってはいない…ここはもう『なにもない』ようにと神頼みにすがるしか道は残されていないのでしょうか。


ヴァニティアヌスとヘルマフロディトスとが―――か…この次元世界せかいの防衛のかなめである2人がいなくなると言うのは不安でしかないが、今の私に変に気を使わせてしまうと言った点でも気が楽になると言うべきか…

それに―――私は一度、私の所為で大切な者を死なせてしまったと言う落ち度がある、だとするなら…『なにもしなければ』いいのではないか―――[勇者]が、私の大切な者を死なせると言う事はない…このまま―――“彼女”と倒錯とうさくの日々をむつまじ合うというのも、悪くはない話しだ……



              ―――けれど―――



その私のおもんばかりは浅かった―――と言うしか外はなかった。

それというのも……


        * * * * * * * * * *


ある日の事、突然何の前触れもなくこの次元世界せかいへと侵入をくわだてた者がいた―――『深紅あかい素地に漆黒くろいろどりほどこした悪魔』…


まさか―――…「『紅き悪魔カラビネーロ』!なぜ…お前が……」


「別に、驚くほどの事でもあるまい、今回私はさある神からの『要望』に応えたまでだ。」

「さある神からの『要望』…それはこの次元世界せかい―――ヴァニティアヌスの次元世界せかいおかせとの事か!」

「(フッ)そこはそなたなりに考えたまえ、だがしかし―――」

「お前の目的をはばむなら遠慮なくまかり通ると?」

「そう言う事だ、しかもそなたは私と刃を交り合せる前にココロを折られている…はてさて私をはばむ事など、かなうものなのかな?」

紛れもなく、この次元世界せかいに侵入をくわだてた者とは『紅き悪魔カラビネーロ』だった…それに彼の者の言うように私は以前この者と対峙たいじした折、その凄絶せいぜつ前世過去を知り、闘う前から敗北を認めてしまった…『腰抜け』―――とののしられても仕方のない事だった…けれどこの次元世界せかいの防衛のかなめである2人はいない、ここはかなわないと判っていても私が―――…


あの方が…『紅き悪魔カラビネーロ』!?何と言う威容いよう―――ヴァニティアヌス様の次元世界せかいの[英雄]であるベレロフォン様の身長(183cm)を遥かに上回る身長(237cm)…その高身長も相俟あいまっての『深紅あかい素地に漆黒くろいろどり』、完全にフレニィカさんがまれてしまっている、それであってもこの次元世界せかいを護る為と奮戦をしてくれている…けれどもその剣にココロが宿っていなければ届きもせず―――そしてまたココロが乗っていなければ届いたとしても傷付けられもせず…逆に追い詰められていく一方、そして完全に地をめる状態で勝敗は決着ついてしまいました。

「フッ―――興醒めだな、幾分か持ち直したと思っていたのだが…まさか持ち直すことなく私と対峙たいじしたとは、もしかすると私はめられているのか?『お前如きなど気持ちを持ち直すことなく排除できる』と。」

「……違う―――」

「どこが違う?気持ちを持ち直す猶予ゆうよは与えたはずなのに、現に持ち直していないではないか?!そしてその結果…無様に地面をめている―――」

「……。」

「返事は“なし”―――か、ならば本来の私の目的も果たさせてもらおう。」

紅き悪魔カラビネーロ』がこの次元世界せかいに現れた時、私は彼の者が『この次元世界せかいおかす為』だと、そう思っていた―――けれど私が完全敗北を認めた時、その時まで語られなかった『本来の目的』が語られようとしていた……

「こちらに『鬼人オーガ姫巫女ひみこ』であるカラタチと言う者はいるか。」

わたくしがそうですが、あなた様は一体?」

「そなたがそうか、ふうむ…申し分ない―――その胆力たんりょくと言い、気力と言い…私は『紅き悪魔カラビネーロ』と言う、そなたにしてみれば『初めまして』だが、こちらの[英雄][勇者]共々面識はある…」

「(…)そう言う事でしたか―――では、あなたがだと言うのですね。」

「私の事を、知っていたと?」

「この次元世界せかいでもれっきとした[英雄]であるベレロフォン様が辛酸しんさんめさせられた…確かその時の名が『紅き悪魔カラビネーロ』だったかと…」

「フ・フ―――そうか、あの者は『ベレロフォン』と言っていたか、確かに私と渡り合えるまでの実力は有していたがの実力はにいたものでね…どうやら記憶には残らなかったようだ。」

「そうですか…それよりも、もう一つうかがっても?」

「何かな―――」

「確か先程あなた様は[勇者]だと…?フレニィカさんと何があったのですか。」

「どうやらその様子では、あのフロイラインお嬢様とこの私とが対峙し向き合った事までは知らなかったようだな。 ああ―――そう言う事だ…あのフロイラインお嬢様は『時空』をもてあそぶ神に、言葉通りもてあそばれたのだよ…そしてだまされた挙句に私の前世過去を知った、まあ私の前世過去を話したのは私の意思ではあるのだがね。 …私がの―――『時空』をもてあそべる神から請け負った『要望』でもあるのだが…」

この者の…『紅き悪魔カラビネーロ』の本当の目的とは―――カラタチだった?カラタチの命を奪う為…そのくびを獲る為にこの次元世界せかいに来たのだと―――そう言う事なのか?!それに…なのだとしたら、その『要望』を出した神とは誰なのだ?


『一周目』の私との邂逅はクロノスのものだと言う事は判った…けれど、出身の次元世界せかいから追われこの次元世界せかいに落ちびて来たカラタチの事を、一体どこの神が付け狙っていると言うのだ?!

「待…て―――カラタチを亡き者としようとしている神とは一体誰なのだ。」

「その事を…“敗者”であるそなたに私が話してやる義務があるとでも?“勝者”であるこの私が?フフフハハハ…これはとんだ恥知らずもいたものだ、そなたが“勝者”であるならば判ろうものを、それを“敗者”が…なあ?」

「このわたくしの…くびをどうあっても―――と?ならばその『要望』を出したかたは…」

「その“手”には乗らんよ―――私も軽く視られたものだ、まあ好きなだけ邪推したまえ…」

「『悪魔』―――」

「どうとでも言うがいい……それより私の依頼を果たさせてもらうぞ。」


「やっ―――やめろ!『紅き悪魔カラビネーロ』…彼女だけは、カラタチだけは―――!」


「(…)ならば、救済すくってみせろ―――この“絶望”から…」


圧倒的な実力の差により地に伏せた私を嘲笑あざわらうかのように、『紅き悪魔カラビネーロ』はカラタチを真っ二つに割いた―――


        * * * * * * * * * *


また―――だ……私は“彼女”を救済すくう事が出来なかった…

『一周目』とは違い『二周目』はカラタチにのみ事情の一部を話した―――にも、かかわらず…結果は救済すくえなかった。

『時空』をつかさどる神クロノスから授けられた恩恵ファルナム―――≪回帰リープ≫をもってしても…


けれどクロノスは言っていた―――『納得が出来ないなら君自身が納得いくまでやり直せばいい』…


今やこの私には、そこしかすがるものがない―――すがモノがない…


『次こそは』―――と思いつつ、私は使う事にした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あの、ヴァニティアヌス様、フレニィカさんはどこかお出かけになられたのですか。」

「ああカラタチ殿か、あいつならば少し用向きでな。」


            ―――何か、おかしい…―――


「『用向き』―――と言う事は、[勇者]であるフレニィカさんを求めてくれた神様がいるのだと?」

「さすがに鋭いなカラタチ殿は、まあそう言う事だ…まだ未熟なあいつではあるが、そこを是非にも―――とせがまれてな。」

「(…)あの、よろしければそのご尊名そんめいうかがっても?」

「『時空』をつかさどる神―――『クロノス』…私が言うのも何だが灰汁クセの強いかたではあるが、うまく行けばあの子の更なる成長を見込める―――そう思ってな。」


          ―――やはりだ、何かがおかしい…―――


「(クス)何のかんのと言いましても彼女の事が可愛くて仕方がないのですね。」

「(フッ…)昔からよく言うだろう?『出来の悪い子ほど可愛いものはない』と、それにあの子を[勇者]と見込んだのは他ならぬ私だ…変に甘やかしてダメにしたくはないものさ。」


この、今のヴァニティアヌス様とのやり取り…『初めて』ではない?そんなおかしな事があるものかと、いつもと変わらぬ日常を過ごしている人達はそう思うのでしょうが…

『言って』いるはずなのに、どこか『言わせられている』と言う感覚にも似ている、それに…わたくしの身体の感覚も―――そう思い、わたくしの首筋に手をやると“ヒヤリ”とする感覚が伝わって来る、それに左の肩甲骨からほぞの辺りまで指をわしてみると、……?

わたくしの身に何かが起こっている?それもわたくし自身も知らない様な処で?けれどもこの事は口外こうがいしない方が良い…この違和を感じているのはわたくしだけで、他の人達は感じていない―――それはヴァニティアヌス様もヘルマフロディトス様も…けれどもそのままにしておくのは下の下策と思い、わたくしわたくしで出来うる限りの対処法で臨む事にしました。


               ―――しかし―――


「こちらに『鬼人オーガ姫巫女ひみこ』であるカラタチと言う者はいるか。」


ある時に、『深紅あかい素地に漆黒くろいろどりほどこした悪魔』―――『紅き悪魔カラビネーロ』が現れた、この次元世界せかいの[英雄]であるベレロフォン様をもしのぐその威容いよう…しかもその者の本来の目的がわたくしである事をその口でげられた…それにフレニィカさんが歯が立たないとは―――


わたくしがそうですが、あなた様は一体?」

「そなたがそうか、ふうむ…申し分ない―――その胆力たんりょくと言い、気力と言い…私は『紅き悪魔カラビネーロ』と言う、そなたにしてみれば『初めまして』だが、こちらの[英雄][勇者]共々面識はある…」

「(…)そう言う事でしたか―――では、あなたがだと言うのですね。」

「私の事を、知っていたと?」

「この次元世界せかいでもれっきとした[英雄]であるベレロフォン様が辛酸しんさんめさせられた…確かその時の名が『紅き悪魔カラビネーロ』だったかと…」

「フ・フ―――そうか、あの者は『ベレロフォン』と言っていたか、確かに私と渡り合えるまでの実力は有していたがの実力はにいたものでね…どうやら記憶には残らなかったようだ。」

「そうですか…それよりも、もう一つうかがっても?」

「何かな―――」

「確か先程あなたは[勇者]だと…?フレニィカさんと何があったのですか。」

わたくしの誘導により、この者は以前に[英雄ベレロフォン様]はもとより[勇者フレニィカさん]とも面識がある事が判って来た。


それにしても―――あれ?このやり取り? ……


「どうやらその様子では、あのフロイラインお嬢様とこの私とが対峙し向き合った事までは知らなかったようだな。 ああ―――そう言う事だ…あのフロイラインお嬢様は『時空』をもてあそぶ神に、言葉通りもてあそばれたのだよ…そしてだまされた挙句に私の前世過去を知った、まあ私の前世過去を話したのは私の意思ではあるのだがね。 …私がの―――『時空』をもてあそべる神から請け負った『要望』でもあるのだが…」

「待…て―――ではカラタチを亡き者としようとしている神とは一体誰なのだ。」

「その事を…“敗者”であるそなたに私が話してやる義務があるとでも?“勝者”であるこの私が?フフフハハハ…これはとんだ恥知らずもいたものだ、そなたが“勝者”であるならば判ろうものを、それを“敗者”が…なあ?」


やはりそうだ!このやり取り覚えがある! けれど―――どうして……それにこの後の結末も

「このわたくしの…くびをどうあっても―――と?ならばその『要望』を出したかたは…」

「その“手”には乗らんよ―――私も軽く視られたものだ、まあ好きなだけ邪推したまえ…」

「『悪魔』―――」

「どうとでも言うがいい……それより私の依頼を果たさせてもらうぞ。」

「やっ―――やめろ!『紅き悪魔カラビネーロ』…彼女だけは、カラタチだけは―――」

「(…)ならば、救済すくってみせろ―――この“絶望”から…」


そうだ―――わたくしはこの者からののがやいばをこの身に受けた…その『一周目はじめ』はくびに、『二周目にどめ』は左肩口からほぞにかけて…


         ―――そして『三周目さんどめ』は……―――


「(むっ?)ほう…今のをよく避けたな。」

「なるほど…こう言う“流れ”でしたか。」

「カラタチ!お前……」

「ふふふっ…どうやらそこで寝ているフロイラインお嬢様よりは使い物になると言った処の様だな。」

「その位にしておいてもらいましょうか、わたくしの[勇者]様をこれ以上はずかしめると言うのは…。」

「それよりどこで判った?その感じだとまだ『三周目』の様だが…」

わたくしにお答えしなければならない道理があると?」

「フフフッ…いや、その通りだ―――どうやら私も先をき過ぎていた様だ、それにしても良くている。 そうだ…私とそなたとはまだ勝敗はついていない、故にこそ『答えなければならない』道理などどこにもない…」

「では、今回はわたくしの『勝ち』と言う事で退いて下さいますか…」

紅き悪魔カラビネーロ』からのやいばが来るのが判ったかの如くに、カラタチは防ぎ切った…彼女自身が得意とする式神を自分の周りに展開させて。

は―――その初撃でカラタチの命を奪っていたものの、『三周目こんど』ばかりは勝手が違うようだった、そして思ってしまったのだ―――『これならば』と…



―――これならば、カラタチの命は奪われないと、そう…思ってしまった……―――



「それは余りにも早計そうけいと言うものだ―――まだ勝敗の決着はついていない。」


紅き悪魔カラビネーロ』がそう言うと、彼の者の姿はき消えていた―――しかし急にカラタチの背後に現れたかと思うと…



「ぐぶっ―――」


「カラタ―――…」


「『決着がつく』とはこう言う事を言うのだ、ゆめ忘れるな…」



 ―――ヤツのやいばは、寸分の違いもなくカラタチの心臓を貫いていた―――





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