第22話 “絶望”への『序章(はじまり)』

          ―――カラタチが…死んだ―――


彼女は、私の最大にして最強の恋敵ライバル―――だったが、それ以上に私の事をよく理解してくれている友人でもあった。


    ―――その“彼女カラタチ”が、死んだ…死んで、しまった―――


      ―――“誰”の所為でもなく、この“私”の所為せいで―――



 ―――けれどしかし…は、まだほんの『序の口』…『序章はじまり』でしか、ない―――



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『今日』の私はいつもと変わりなく[勇者]としての経験を積んでいる、ヴァニティアヌスの次元世界せかいの為にと積極的に冒険者達と関わり合い、『討伐』や『採取』等の依頼クエストをこなしていく一方で度々たびたび復活をしてくる『[魔王]ヘルマフロディトス』の退治を並行させていた。

そして“今”は―――通算何度目にかになる[魔王]ヘルマフロディトスを退治した後の出来事、私が住んでいる町に一軒しかない酒場ヘレネスに於いて………

「はあ~い、今日も無事[勇者]フレニィカちゃんが[魔王]を退治してくれたって事で、お祝いだよお~♪」

何を隠そう、今この場を盛り上げてくれているのが酒場ヘレネスの女主人マダムヘレネであり、また『[魔王]ヘルマフロディトス』である事を一部の者を除いて皆知らない。


それに―――……


「それは大変喜ばしい事です、しかしながら今回もまた激戦であった事を物語るかのようにフレニィカさんは“ボロボロ”…いつになったら生傷なまきずをこさえてこなくなるものか、わたくしは心配でなりません。」


妙に“ちくちく”と痛い処をつついてくる―――これが私の最大かつ最強の恋敵ライバルにして好き理解者でもある鬼人オーガの[かんなぎ]『カラタチ』なのではあるが…

仕方がないだろう~~~だって[魔王]ヘルマフロディトスヘレネったら私と対峙するたびに少しずつ実力を解放して来るのだからあ~。 まあ…正直申してしまいますと、今回『勝たせてもらいました』、ええまあです―――温情おなさけによって勝たせてもらっているのです、それでもって『祝勝会』だなんて……素直に喜べやしない。


けれど、そう―――カラタチは鬼人オーガではあるがヴァニティアヌスの次元世界せかいの住人ではない、ある折に私が憧憬こがれてまない“ある男”、ヴァニティアヌスの次元世界このせかいの[英雄]であるベレロフォンによって別の神が創造した次元世界せかいから連れて来た存在なのだ、それに鬼人オーガならばヴァニティアヌスの次元世界このせかいにも“いる”―――が、しかし…カラタチはその彼ら(また或いは彼女)とはどこか違っていた、元来の鬼人オーガ心象イメージからはほど遠く、“可憐”にして“みやびやか”…おまけに家事の全般に通じており、この次元世界せかいの原住人達の“受け”もい…(お蔭で私の肩身も狭いと言った処だ)「(そうは言っても、誰も放ってはおかんよなあ…この私ですら本来の性別が違ったら―――)」


「何か、お悩みでも。」

「ああカラタチか―――いや、相も変わらずの人気者だなあ~と…」

「まあそうする為にご奉仕しているようなものですからね、本来のわたくしはこの次元世界せかいに元から住む皆さんとは違い『余所者よそもの』の立場ですから…それに余所者よそものであるわたくしが孤立化しないようにするにはでもしませんと。」

そう言う処だよ―――…妙にあけすけに語る一方で自分の立場と言うものをわきまえている、そう言う処が『可愛げがある』と言うのだろう、そこへ行くと私なんぞはハーフ・エルフだと言う事で“うじうじ、うじうじ”としていたもんなあーーー相手にされなくなると言うのも無理もないと言った処か…

「どうかされました?私の方を見つめて…」

「いや―――別に……」

「お悩みがあるのでしたら、聞いても構いませんよ?多くの耳目じもくが集まる場にては話しにくい事もありましょうから。」

「(…)そうか―――なら、聞いて貰いたい…」

私と彼女とは、“ある一点”では互いを譲らない関係ではあるものの、では共に分かち合えていた。

そう…“ある一点”―――ベレロフォンの事に関しては互いを譲らない…また譲る気もない、けれどもその事以外ではこうして悩みを聞いて貰っているなど関係としては“浅く”はないのだ。


         * * * * * * * * * *


今回の処も勝てましたか…けれどその内容としては自身が納得するような出来ではなかったのでしょう、まあその辺はわたくしの式神でのぞいて見ていたりしたわけですけれどね、それに…ご自身ではあまり自覚されてはいないみたいですが―――着実に強くなっている…そこはまあ、気付かない様に成長をうながしているヘルマフロディトスヘレネさんの手腕も関係しているのですけれどね。


それにしても…可愛いひと―――ご自身が[勇者]だからと、皆さんの前では弱音を吐いてもいられない、そこは態度にも現れ、例え『祝勝会』としても素直に喜べない。 わたくしも式神をかいしてのぞいて見ていましたが、よく出来ていたと思いますよ、あとは『駆け引き』…どうもフレニィカさんの闘い方は正直に過ぎるところがあります、対する相手は『いにしえの[勇者]』とも言われていた“ハガル”―――その闘い方とくれば実にこなれたもので、実にイヤらしい闘い方をなされる、いわば“手練手管てれんてくだ”とでも申しましょうか。


嗚呼呼あああ……とは言っても―――甘露おいしい…これが、“ハーフ”と言えどもエルフの倒錯とうさくの味……この“柔肌やわはだ”が―――この“蜜汁しる”が…わたくし咽頭のどうるおしてゆく…

イケナイ事―――をしているという自覚はある、それでも互いに求めてまない“欲”…わたくしと彼女とは―――もう…互いがなくてはならない存在にまで、成ってしまった…


         * * * * * * * * * *


  ―――明けて翌朝、私は脳天に“ナニカ金だらい”の直撃を受けて飛び起きた―――


「(!)~~~~~声にならない叫び


「よーやく起きたかこの色ボケが!」

「(イっタあ~い…)って、ヴァニティアヌスぅ?一体どうしてお前が…」

「その前に自分の状況をよぉく見返してみる事だな。」

「(……あれ、裸?―――って)」

「よぉーやく自分が置かれた立場ってものが判ったところでだ…」


      ―――そこは“質問”じゃなくて“尋問”なんですね?―――


「な―――なんだ…でしょう。」

「おめーカラタチ殿と何があった、正直に言え。」

「カラタチと何かあった…ってえーーー彼女から何か聞いたとか?」

「今朝この部屋から出て行くカラタチ殿を見てなあ、しかも他人の目をはばかるかのように浴場へ直行してたんだよ。」

「あ…あああ~この部屋からですか?ちょっと昨夜遅くまで話し込んだりしましてですね?それで遅いからと…泊めたんですが―――」

「ふう~ん……それじゃ、って訳だな。」

「は、はい~~~その通りだと思います…」

「それにしちゃ全身くまなく洗っていたように思えるが?」

「そ、それはまああーーーカラタチも女子おんなのこなのですから、身嗜みだしなみには気を使っていると思いますよ?」

「へえーーーそれにしては陰部を、洗っていたようにも見えたんだが?」

「へっ?!」

「いいか…正直に言えよ、カラタチ殿は武御雷タケから預かった大切な眷属だ、それをけがそうものなら―――判っているよな責任取れるんだよな。」


        ―――あれ…?これって発覚しバレてる?―――


「ええっと…あの…そのう~~~」

「いいか―――?」



“捜査”を行う者は“容疑”のある者が言い逃れ出来ない様に状況証拠を固め、迫って来ました…そこで言い逃れられないと思った“容疑”のある者は“白状”してしまったのです―――他の次元世界せかいを治める神から預かっている大事な眷属に不純性交友行為を働いてしまった事を。



「全く…お前と言うヤツは―――」

「申し訳ない事です…」

「(はあ~)まあ唯一の救いは『同性同士』と言う処だろうな、これがまかり間違えば確実に責任取らされていたぞ。」

「あの~それって間違いなく“混血”って事です?よね…」

「お前の場合は“4分の1クォーター”になるがカラタチ殿なら“半分ハーフ”になるだろうな…それより何でお前達は―――」

「(……)だって、可愛かったんだもん。」

「(なあーにが『可愛かったん』だ…)ヤレヤレ―――まあ、機会としたら良かったのかもしれんな。」

「(ん?)何の事を…言ってるんだ?」

カラタチと“親密”以上に親密になり過ぎている事を知ってしまったヴァニティアヌスは『警告』と言う意味もあったのだろう、私に以下の事を言ってきたのだ。

「とある神が是非ともお前の事をてみたいと言ってきているんだ、普通ならまだ未熟なお前を他の神にゆだねると言うのは私の本意ではない―――だが、今回の件が明るみになってしまった事で一度親密になり過ぎているお前達の距離を開けた方がいい―――と、私が判断した。」

あっ、これいわゆる『自業自得』と言うヤツですね、それに知られてしまったから私に拒否する権利なんて“ない”と言った処だろう。「あーーーはい、了解した…それに思えば私が神から求められたのはエレシュキガル様に続いて二柱ふたり目だな、それで何と言う神様なのだ。」

「あの方の場合の時は有無を言わさずだったからなあ…そこに関して言えば今回はまだ事前の折衝せっしょうがあったわけなんだが―――」

「(?)なんだ、やけに言葉尻が重たいな。」

「重たくもなると言った処だよ、何せその神は私の主神であるエレシュキガル様以上に灰汁クセの強いかたではあるからな、そのかたは『時空』をつかさどる神―――お前も聞いた事くらいはあるだろう、そう『クロノス』と言う方だ。」

その名を聞いた瞬間―――私は即座に固まってしまった。 て、言うよりナニ?ちょっと待って?ヴァニティアヌスは『私でも聞いた事くらいはある』とおっしゃいましたけど、こんな私でも知っていますよ!さすがに…それよりもどうして?ヴァニティアヌスの主神格であるエレシュキガル様にさらわわれた事もそうなんだけど、なぜだか妙に人気があるというか……(それもやけに高位の神様に)「な…なあヴァニティアヌス、わ、私を揶揄からかっているのでは―――ないんだよな?」

「それはこちらの言いたい事セリフだよ、あのかたもなんでお前みたいな未熟者に興味を持ったもんなんだか…」

う…そこはあーーー私も絶賛痛感中なのではっきりと言わないで欲しいものだが…それにしてもひどくない?私もあなた様の眷属なんですけど?

「まあ取り敢えずの処は私もこの事は『機会』と受け取る事にした、それにあのかたも『るだけ』だからと言ってくれたから変な事をするわけでもなさそうだしな。」

そこは敢えての断言をして欲しかったものですけど―――『変な事をするわけがない』って…そんな事を言うものだから、気になるじゃありませんか…そう言うのってナニか含みを持たせる時に使うもんですよ、なので私も警戒をしたものでした。


         * * * * * * * * * *


「あの、ヴァニティアヌス様、フレニィカさんはどこかお出かけになられたのですか。」

「ああカラタチ殿か、あいつならば少し用向きでな。」

ある日―――“彼女私の可愛い人”のご機嫌を伺う為にと彼女の家をおとなったものでしたが生憎あいにくと留守のようでした、そこに偶々たまたま通りかかったヴァニティアヌス様にたずねた処、何でも彼女は用向きでいないとの事でした…「『用向き』―――と言う事は、[勇者]であるフレニィカさんを求めてくれた神様がいるのだと?」

「さすがに鋭いなカラタチ殿は、まあそう言う事だ…まだ未熟なあいつではあるが、そこを是非にも―――とせがまれてな。」

「(…)あの、よろしければそのご尊名そんめいうかがっても?」

「『時空』をつかさどる神―――『クロノス』…私が言うのも何だが灰汁クセの強いかたではあるが、うまく行けばあの子の更なる成長を見込める―――そう思ってな。」

「(クス)何のかんのと言いましても彼女の事が可愛くて仕方がないのですね。」

「(フッ…)昔からよく言うだろう?『出来の悪い子ほど可愛いものはない』と、それにあの子を[勇者]と見込んだのは他ならぬ私だ…変に甘やかしてダメにしたくはないものさ。」

今回、『[勇者]フレニィカ』を求めて下さった神の事はわたくしでも知りていました、それにこの方は口をにごしていた様ではありましたが…そう―――『時空』をつかさどると言う事は『時間』を“操作”する事もあたうと言う事…そのことは一見一聞いっけんいちぶんするときように思えるのですが、自身の得られない未来結果の場合…その事も知っていたが為にわたくしの胸の内には薄暗い雲が去来きょらいしたものでした。


  ―――フレニィカさん、願わくば目の前の結果だけに惑わされませぬように…―――


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


こうして私は今、『クロノス』と言う高位の神の前に立っている。


{ようこそ―――僕の名は『クロノス』、君だね?ヴァニティアヌス自慢の[勇者]と言うのは、名は、なんて言うんだい?}

「初めましてクロノス様、私は…ハーフ・エルフのフレニィカと申し上げます。」

{そうか、フレニィカ―――素敵な名前だね。}

「そ、それよりもクロノス様は私が『ハーフ・エルフ』と言う事に気にしないものなのですね。」

{ん?ああ―――気に、しないよ?特にする必要もないだろう、君がヴァニティアヌスに認められて[勇者]と成れているのだからそこを他神たにんである僕達がとやかく言うものではない…違うかい?}

その言葉は、今までのどの言葉よりも嬉しかった。 今までは例え[勇者]であろうとも“混血ハーフ”と言う事でそしられもした、そこには賞賛の言葉もあったけれどもその裏側では私を揶揄やゆする言葉もつむがれもしたものだ、それをこのかたは―――私がハーフ・エルフだったとしても『特に気にする必要はない』と言ってくれた……


は本来ならばとても嬉しいものだった―――嬉しいだった…けれどなんて言ったらいいのだろうか、素直に喜べない。 どうしてなのだろう?私の事を認めてくれているのだから喜んでもいいはず―――なのに…



             ―――なのに……―――



           ―――この…?―――



ほおう、この僕の仕掛けに逸早いちはやく気付くとは、さすがだね…しかし、君ではどうした処で気付くはずもない、気付けるはずもない―――なので、早速せてもらうとするよ…君がからの恩恵おくりもの相応ふさわしいか―――相応ふさわしくないか…



“今”―――フレニィカが会っているのは『時空』をつかさどる神『クロノス』、今まで登場したどの神々よりも高位で立場のある神…しかし身分が高位だからと言って善良な神ばかりではない、その権能を使えば他の眷属達の信仰を集められるものだけども、使とすれば―――?



「それよりクロノス様はなぜ私を?」

{君は実に面白い―――いやここは『興味深い』と言いえようか、興味深いおもしろいモノを持っている、そう聞いたからね}

「(私が持っている『興味深い』モノ?)あの、それは……」

{何でも君は僕達神々でしかあつかう事の出来ない霊素エーテルあつかう事が出来る…そう風の噂に聞いたものでね、それが真実であるのか―――またそうではないのか…それをる為に君の次元世界せかいの創世神であるヴァニティアヌスに無理を言って頼んだと言う処さ。}

その時私はこのかたが何の事を言っているのか判った、そう≪通力≫の事だ。 けれどすぐに不思議にも思った、あの技能スキルはエレシュキガル様から下賜たまわったモノではあるが、それに際してもを“通”じさせる事であって何も『霊素エーテル』など…と?「あの、申し訳ないのですがそれだと私だと言う事は間違いなのでは?確かに私はエレシュ―――」{ヴァニティアヌスの主神格であるエレシュキガルからたまわったモノなのだろう?その事くらい僕でも知っているさ、もちろん―――他の神々もね、興味が尽きない…}

「な―――なに、を…」

{大丈夫だよ、なにも恐れる事はない……だからね―――どおーれ拝見…}

その時私には判った…先程感じた違和の正体が、このかたは“私”なんぞには興味はない―――

それに、『時空』をつかさどる―――私が抵抗しようと身をよじろうとも、私の周囲だけ時間の流れを緩慢かんまんにすれば『無駄な抵抗』と同じ事、ヴァニティアヌスやその主神格であるエレシュキガル様高位の神から関心を寄せられている事に舞い上がってしまっていた私だったが…


ふうむ―――やはりな…なにも彼女エレシュキガル気紛きまぐれのままさずけたわけではなかったみたいだ、今はまだ蛍火ほたるびが如きのかそけき光でもやがては世を照らす太いなる陽の光ともなれる、そうした可能性を秘めているとは、ね。

では、も少しばかりのお節介と言うものを焼いてみるとするか…が授けた恩恵ファルナム、“善く”も“悪く”もするのも今後の君次第…と言う事だよ、[勇者]フレニィカ君―――


私が感じた時間では1時間か2時間…その位の感覚だったが、『時空』をつかさどるこのかたならばそうした事も関係のないようにするのも雑作もないと言った処なのだろう。

それにしても―――?私は…

{やあご苦労だったね、すっかりとせてもらったよ。}

「は…は、あ―――それはどうも…」

{君は実に将来性にあふれていると言った処だ、僕もこの機会がなければ君の事を知れずにいた…この事は君の創世神にも感謝をしないとね。}

「あの、それより不躾ぶしつつけなのですが…私を“る”事以外で何かをしませんでしたか?」

ほおう、意外に鋭いね―――だ、が、そのままきづかないでいるままでいて貰おう…その方が愉しめるからね。{いや?、それに君の創世神に無理を言って貸し出してもらったのもだから…ね。}

「(…)そうでしたか、何だか疑ってしまって申し訳のない事をしました。」

こう言うやり取りは交わしたものの、どこか信じられない―――信用の置けない、そんな感じがした…けれどそんな証拠はどこにある?その疑いは私が気にしているだけであって本当に何もなかった可能性もある、してやこのかたは私がこれまでにも会って来たどの神々よりも高位の神…万が一にも機嫌を損ねさせてしまったのなら私以外にるいが及びかねない、そう思い余計な事を考えるのは止めにしたのだ―――


         * * * * * * * * * *


{ああそうそう、そう言えば大切な事を忘れていた、少し頼み事があるのだが…いいかね?}

「えっ?はあ―――まあ…」

ここで用が済んだ事で元の次元世界せかいへと戻らなければならない…そのはずだったのに、不意にクロノス様に呼び止められてしまったのだ、それに聞いた処によると…

{少し困った事が起きてね、君は『紅き悪魔カラビネーロ』の事を知っているかい。}

「『紅き悪魔カラビネーロ』?いえ初めて聞きます。」

{そうか―――いや、その『紅き悪魔カラビネーロ』がね、各次元世界せかいを荒し回って困っているのだよ、斯く言うこの僕の次元世界せかいでも―――ね。}

「そう言う事でしたか…それで?どの様にすれは良いのでしょうか。」

{(フフ…)それはね―――}

クロノス様が私を呼び止めた理由は単純だった、何でも『紅き悪魔カラビネーロ』と称される不逞ふていやからが各次元世界せかいを荒らし回って困っているとの事だった、神ですら頭を悩ませる案件―――それをすべからく万事ばんじ解決させる事でヴァニティアヌスの評価にも繋がって来る、今までは[英雄]のベレロフォンが率先してやっていた事だが[勇者]である私もその一助いちじょになればと、その不逞ふていやからの『討伐』を請け負ったものだった。


         ―――しかし、私は知らなかった……―――


やはり『時空』をつかさどるほどの神が、『私を』などと言う理由で私と会おうとはしていなかったのだ、ただ自己弁護をさせてもらうとすると私如きの未熟者が高位の神のなされ様に気付くはずもない、けれどそれこそは『破綻』への先触さきぶれ―――私の“絶望”への『序章はじまり』だと言う事を。





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