第19話 “呪”の使い手

『カラタチ』とか言う別の次元世界せかい出身の鬼人オーガ娘が私達の次元世界せかいへと来て半年になろうかとしている。

それにしても―――うん、予測通り何でも出来るじゃないか…しかも元の次元世界せかいでは他人をまとめた事があったためか人当たりもいい……つまり、もう既に彼女はこの次元世界せかいの住民達の心を掴んでいるのです。

くっっそぉおお![勇者]の立つ瀬がない!外見みかけは可愛いし生活弱者に対しての圧倒的なまでの心の配り方…本当にこの娘鬼人オーガなのか?と疑ってしまいたくなるほどだ、あまり思いたくもないのだが―――[勇者]って必要か?と思いたくもなる…


ふ、うーーーベレロフォン様の次元世界せかいへと移って半年余りが経ちますか…それにしても新参者であるわたくしに対しても住民の方々の心遣い、特に[勇者]として立身しているフレニィカさんの活躍ぶりには目を見張るばかりです。

わたくしも多少は武術をたしなみますがそれも所詮は『たしなみ』の範疇を越えません、何よりわたくしには『本分』と言うものがありますから。

わたくしの『本分』―――それはまだつまびらかにすることはかないませんが時間ときが経てば経つほどに効力は増してくる、魔力の強・弱やも関係する事はありますが何よりも意識に刷り込ませる―――これが重要なのです。


その為にもと今日も今日とて仕込んでおいた“モノ”に『違和』を刷り込ませていた時分じぶんに“ばったり”と出くわしてしまったのです。

「(…)なんだ、あんただったか。」

「これは奇遇ですねフレニィカさん、それより今日も見回りですか精の出る事です。」

「ベレロフォンがまた創世神に呼ばれたからな、彼がいない間は私がこの次元世界せかいを守らねば―――それよりあんたはなぜここに。」

「それは殊勝な心がけだと思います、それとわたくしですか?わたくしもこの次元世界せかいの住人の1人となろうとしているのですから防衛の一助いちじょとなれば…と。」

「(防衛の…)『結界』でも張ろうと言うのか、しかしだなもう既にこの次元世界せかいには創世神ヴァニティアヌスの手によって結界は張り巡らされているのだぞ。」

「その事は既に存じております、しかしながら以前には侵入を許しているとの記録も、ですからわたくしがしているのは寧ろ“その後”…と言う事になるでしょうか。」

ヴァニティアヌスが張っている結界を通った“その後”だと?何の事を言っている…結界を通った後なら侵入者は好き勝手し放題―――その代わりに私達は逸早いちはやくその事を知る必要がある……「つまりあんたがしている事とは、余所者よそものの侵入を感知してそれを私達に報せる為だと…」

「いえ、それでは半分正解ですね、確かに侵入を感知するのは重要ではありますけれど…」

……では、ない―――と?では一体…」

「それは“今”あなたにしらせるわけには参りません、出来る事ならあなたも知らないままであった方が都合が好かったのですが―――」

「なに?どう言う事だそれは!」


わたくしは―――[かんなぎ]です、それはむ世界が異なろうとも終生しゅうせいその立場なのです、ただ戦時いくさじに於いては自分の身を護れるくらいの武をたしなんではいますが、それも所詮は『たしなみ』―――フレニィカさんのように武をかてとして生きて来た[勇者]様とは違うのですよ。」

返答こたえになっていない答えが返されてきた、なんとも小難しい事を言うものだ―――それに私達は味方のはずだろう?(まあ…一部に於いては争っている部分は否めませんがありますが)だから返答こたえは明瞭簡潔にしてもらいたいものだ。


しかし回りくどいカラタチの言い回しが遠くない未来に於いて実証されたのだ―――


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「侵入だと―――?」

「ああ、全く大盛況で願ったりもないよ。」

「そんな皮肉を言うもんじゃないよ~またしてもベレさんのいない間に…って、私ら3人でどうしろって。」

「その事に関しては“彼女”も今回から加わってもらおうと思う。」

「『カラタチ』と申し上げます、見てくれの通り武は己の身を護る程度にしか身に着けておりませんので…ですからわたくしが出来る事は後方からの皆さんの支援と言うかたちになります。」

「なあーるほど、後方からの魔法の支援だね?これが“ある”と“ない”とじゃ随分と違うからねえ。」

「す…すまないな、エルフなのに魔法が不得手で。」

「今はその事を気にしている場合じゃないだろうが、お前はお前で[勇者]としてやれることをやってくれてれば十分だよ。」

「す、すまんなあ~ヴァヌス~~~頼りない[勇者]でぇ~。」


未明に何処いずこ次元世界せかいからの侵入があった事を、わたくしが仕込んでおいた“モノ”により知れることが出来ました、その事をこの次元世界せかいの防衛を一手に任されている『いにしえの[英雄]“シギル”』と言う方に面通めんどおしをお願いした処、ベレロフォン様と同居をしている魔族の幼生体幼女もと案内あないされたのです、そしてそこには既に[勇者]フレニィカさんと『いにしえの[勇者]“ハガル”』であるヘレナさんもいた―――つまりこの次元世界せかいの平穏・平安はこの三方により護られている…それに以前フレニィカさんより『この次元世界せかいは既に創世神ヴァニティアヌスが張っている結界がある』…その通りに侵入と言う事態の把握までは出来ているようでした、それに何処いずこよりの次元世界せかいからと言うのも。


「今回は前回のアルテミス様とは違い『ヒューペリオン』だ、難易度的にはアルテミス様より劣るとは言え油断だけはしちゃならない、これから交戦地点を割り振るが自分が不利と見込んだら迷わず撤退をするんだ。」


丁度―――武御雷様私達次元世界せかいにベレロフォン様が来て下さった時期と被る頃合いに、武御雷タケミカヅチ様の母神ははである伊弉冉イザナミ様と同格の高位の神様―――女神アルテミス様がこの世界に来ていたのだと言う、そのと比べると今回のは“少々”見劣りがちとはなるのでしょうが……それでも高位の神の手勢の侵入に3人で抗い切る事が出来るのでしょうか。

それはそうと、わたくしは『本陣』を任されました、まあわたくし自身で『後方からの支援』を言い出してしまった手前もあるのですけれどね、それより……ふむ、ふむ―――侵入を感知した処の“モノ”は大きく損ないましたか、眷属私達や野獣・魔獣はいざ知らず相手は神の手勢…已む無しと言ったところです。


       ―――ですが……のですね―――


ならばそちらへと参り“仕上げ”と行きましょう。


        * * * * * * * * * *


ヴァニティアヌスめ…なーにが『難易度的にはアルテミス様より劣る』―――だ、強いじゃないかあ~!それこそ以前相手した無駄に顔が好い変態男クサレイケメンとなんら遜色がないぞ?!い、いやまあ―――しかし、だな…ヴァニティアヌスも『不利と見込んだら迷わず撤退をするように』と言ってくれたんだ、だからこれは『敗北』じゃなあ~い!『戦略的撤退』なのだあーーー!


                で


私が一番早い―――と、思われたのでしたが…


「おや、遅かったねえ…と言うより意外と粘ったもんだね?」


ん?あれ?確か私よりも強いはずのいにしえの[勇者]“ハガル”さんが―――と言うよりいにしえの[英雄]“シギル”さんまでも?!


「ほおーーーやるようになったもんだなあ、じゃあ次はウィアドよりは上と当たらせても大丈夫みたいだな。」


え?私ひょっとして―――試されてました?そんな事なら変な沽券プライドなんかかなぐり捨てて撤退しとくんだったあーーー!


だけど…それはまあ、判るにしても―――(いや、判りたくなんかありませんでしたけれどね)何故に本陣にいるはずのカラタチがここに?

しかも…私の方を“じっ”と見つめている?こ、困るなあ…反応に困ってしまう、し、知らない仲ではないのに、そ、そうも“じっ”と見つめられては……


はっ!い、いけない―――つ、つい余りにもの美しさに見惚みとれてしまいました…それにしてもあの美しい騎士様はどなたなのでしょう?お二方が既に撤退して来るほどの相手に最後まで粘って撤退して来るとは…しかも寡黙かもくにして威風堂々―――もしこんな方が武御雷タケミカヅチ様の次元世界せかいられたのであればわたくし達の手で邪神を追い払うことが出来たのかも…


「それよりカラタチ殿、確かあなたには本陣の守護を頼んでおいたはずだが?私達がこの地点に集まっているのはヒューペリオンのヤツラをこの地に集結させて一網打尽にするためだったんだが…」


は、い?その事私は初耳なんだが―――…


「そんなカラタチちゃんがここへと来てると言う事は、本陣を空けていても何ら問題はない、と?」

「一応ですが、罠は十重二十重とえはたえに巡らせてこそ効果のあるもの…それがわたくしがここに出てきていると言う理由の一つにもなります。」

「ふうーん…つまり、本陣以外にも何か仕込んでいると。」


ヴァニティアヌスとヘルマフロディトスとが結託して[勇者]にも内緒で防衛の段取りを決めていただとお~?そんなの仲間外れも同然ではないか…しかしその事より気になったのがカラタチが私達の集結地点へと来ている事である、事前に計画していた通り彼女には『本陣』…この世界の創世神ヴァニティアヌスを祀っている大神殿を守護する役割を振られていたのだが、そんな彼女が私達の集結地点へと来ていると言うのも大神殿に幾重もの罠を張っているからだとか…なにこの『出来過ぎちゃん』?!外見みかけは(私より)可愛いし、家事全般もそつなくできて(特に手料理が絶品とか!)他の人達に対しても気遣いがハンパない!その上防衛線でも活躍だとは…ううぅぅ~~~私の肩身がますます狭くなってくるぅ~。


『それより、相手側の足が鈍いな。』


この“声”―――ひょっとするとあの光輝の鎧の騎士様とは……


「う~ん、どうやら間抜けにも守護役のカラタチちゃんがいないと思って大神殿を陥落おとそうとしてみれば―――」

『なるほど、罠があるとも知らないで……』

「それでうのていで退き上げた―――と、そう言う事の様だなウィアドにイゾルテ、そしてゾークレイル。」


別の次元世界せかいの神からの意向を受けて来た者達、それぞれが“橙”“紫”“緑”の意匠を凝らした者達でしたが、そのうちの“緑”の方…なるほどでしたか―――ならば……


「『ご苦労様』と行きたい処だが今後こうした馬鹿な真似をする奴が出ないとも限らない、なので…多少は痛い目を見てもらう事になるぞ。」


「いえ―――お待ちください。」


「(…)『待て』―――と?紛れもなくこいつらはヴァニティアヌス様の許可なく侵入しようとくわだてたヤツらだ、情けを掛けてやる謂れもないと思うが。」

「確かに…しかし『戦わずにして勝利を得る』と言うのは戦略に於いて最も最上の策であるとも申します、ならばこのままお帰りになって頂いてこの次元世界せかいへの侵入がいかに徒労であるかと言う事を知らしめるのも“利”であると愚考ぐこうするのです。」

「しかしだねえ、『このままお帰り頂く』と言うのはどうにも―――」

『敵にも“情け”を掛けようと言うのか?いやしかし無傷で返すと言うのは相手を冗長じょうちょうさせるだけではないのか。』

「『無傷』…無傷ではありませんよ、現にそちらの方―――他のお二方とは違い“だるい”様に思われますが?」


既に―――始まっていた…これは事後に知る事になったのだがカラタチはこの“手”を得意とする者であったらしい、それが言葉による意識の誘導…確かにこの時“緑”の意匠をした者が他の二人よりはだるそうにはしていた、そしてその様相は意外にも…?


―――§「そも今、だるいように思われるのも初めに“ぴりぴり”としませんでしたか?その次に頭が“ぼーっ”となりませんでしたか、そして次第に下腹部が“しくしく”と痛み出し、足下も“ふらふら”ともとらなくなりだした…そうでしょうそうでしょう、今現在“だるい”と感じているのは『障例しょうれい』の中途ちゅうとに過ぎません、その内段々と舌がもつれ言語ももとらなくなり、やがては手脚が腐り落ちついには意識も俗世と切り離されましょう…」§―――


エッ―――ナニソレコワイ!このったらなんて恐ろしいの?


しかしそれがカラタチの『本分』だった、有り得もしないような事を並べ立てながらもどうやらカラタチの仕掛けておいた“モノ”に触れてしまった者は言葉が誘導するがままに身体の不調を訴え出したのだ、そしてカラタチの思惑の通りにヒューペリオンの眷属達は私達と一戦も交えずに退いて行った…


『凄いものだな、本当に有言を実行してしまった。』

「いえ、本音を申せば“ほっ”と一息いているところです、それといいますのも本来の“これ”は長き年月をかけて集大成とするもの、一朝一夕いっちょういっせきで効能を発揮するにはある意味弱い部分を叩かなければなりません、それが今回は“偶々たまたま”―――」

「そいつはまた随分と分の悪い賭けだな、もし今回そうでなかったらどうするつもりだったんだ。」

「その時は―――まあ…お三方の出番となりますかね、けれど“する”と“しない”とでは雲泥の差、後事こうじの為にもわたくし出張でばってきたのはそう言う事になります。」


んーーーんん?結局何が言いたいんだ?私にはさっぱり……


わたくしは[かんなぎ]―――その中でわたくしは“しゅ”を得手えてとしております、てして“しゅ”とは“こと”によって相手の意識にくさびを打ち込み、…先程の方は今件に於いて異を唱えていたのでしょう、ですからその意識に語り掛けだけ…あの方の様相だけ他の二方と違っていたのはそう言う事になります。」

「なるほどなあ、そう言う事か…以前タケ―――御雷ミカヅチ様から聞いた事があったがカラタチ殿はこちらに来てまだ日も浅い、それに“しゅ”にかからなかった事も見込んで後事こうじを見据える辺り…」

「フフン~どうやらフレニィカちゃんにとっての最大の好敵手ライバル出現てところのようだねえ?」

『う、うるさいっヘレネ余計なお世話だッ!』

くうぅぅ~なんなんだよ“それ”!原理など全く分からないがその不明な処が一層の不安を掻きたててくる…と言うかああ~そんなもので相手を追い払えるだなんて愈々いよいよ勇者]はお払い箱かあ~?

…などと肩を落としていましたら、なにやらカラタチが[勇者]を見つめている―――ここぞとばかりに優越感に浸りたいのかドヤア顔をしたいのか?―――と、思っていましたら…

「あの…ひょっとすると騎士様はフレニィカさん?」

『はい?ああ私は確かにフレニィカだが―――なんだ?』

「いえ…その、光り輝く鎧に目が奪われてしまいまして―――それに、その様な鎧を着込む騎士様なんて今日こんにちまで見た事がありませんでしたから…」

『ああこの鎧の事か、この鎧はなにも物理的なモノではない、だからこの次元世界せかいのどこを探そうとしても見つかりはしないのだ。』

「『物理的なモノではない』?では…としたなら―――」

『ああ、この鎧は私の魔力でかたちを成していると言った処だ、どれ―――』

すると彼女の身を包んでいた重厚なまでの鎧は消え失せ、普段いつも通りの彼女がいた―――武御雷タケミカヅチ様より聞いた事がある、この広い次元うちゅうには自らの魔力によって織りなす究極の武器・防具があると、をこの目に収めることが出来るとは!

「それにしても大したものだよカラタチは、私達はこの武力をもって侵入した者達を追い返していたがカラタチの様に武を用いずに追い返せるものとはな…これで愈々いよいよ―――」

「それは買い被り過ぎというものですよ、このわたくしの舌先三寸も所詮はフレニィカさん達の武があってこそのもの、その事は元の次元世界せかいでも痛感していた事でもあります、それに……フレニィカさんのようにお綺麗な方が[勇者]と言うのは―――エルフは何でもできるのですね。」

んっ?空耳聞き違いか?私の事を『お綺麗な方』だと聞こえたような……

「おい、そいつをあんまし甘やかすんな、勘違いでも起こしたらあとあと面倒な事になるぞ。」

うん…知ってた、ヴァニティアヌスが私に辛辣だって事―――そうだよなあ~だって私は……

「そんな事はないと思います、だってフレニィカさんはエルフなのでしょう?エルフはわたくしの元いた世界にもりました、近寄り難くなにより気高い気質きしつもそうでしたがやはり目をくのはその美貌びぼう、その美貌びぼうを犠牲にしてまで[勇者]として立身している姿…わたくしはもう少し賞賛すべきだと思います。」

あれ?なんだかカラタチ思ってもみなかった処から援護射撃が?えっ、やだ、そんな事言われちゃったら泣きそう!だってそうだろう、半ば恋敵きょうてきと思われていた者からそんな事を言われるだなんてえ~!すまないカラタチ―――私はどうやらあんたの事を誤か…

「はいはい、そいつはすまなかったな、良かったなフレニィカお前に味方が出来て―――ただひとつ言っておいてやるがまさしくお前、今“しゅ”にあたってんぞ。」

誤か…い?えっ、あれっ?『“しゅ”にあたってる』?どうしてそんな事が―――

「だってそれ『刷り込み』だろ?さっきも緑のヤツも“それ”で不調になった所を見たばかりじゃないか。」

すると“ちっ”と小さく舌打ちをした―――ような?

「あの…カラタチ?」

「なんでしょう?」(にっこり)

そこにはいつも皆に愛想を振りまいている彼女の笑顔が―――えっ、なにこの娘コワイ!~?油断も隙もあったもんじゃ―――

(※もうそう思わされている時点で既に手遅れであった事をフレニィカは知らない…)


『懐柔策』は失敗しましたか―――それも魔族の幼生体幼女によって、まあ“最上”はエルフの[勇者]様とねんごろになってき関係を作り、やがてはベレロフォン様ともねんごろに…でしたが、ここにきてつまづくことになろうとは、それに見た処フレニィカさんもわたくしとは同輩どうはいでしょうし仲好くなって損はないだろうと思いましたが…これは少し警戒されてしまいましたかね。


         * * * * * * * * * *


しかしこの後思ってもみなかったような事が―――現在間借りをしているベレロフォン様の居宅のお風呂が故障してしまったのです、なのでむ無く共同風呂へと来てみた処…

「げ、カラタチ…」

“間”が悪いと申しましょうか―――フレニィカさんと鉢合わせ、しかもまだこの前の事を引きられている感じ……それに同居人であるヴァヌスちゃんは『所要を済ませてから』との事、この気不味きまずい雰囲気のまま2人で…ですか、なんとかして誤解を解いた上で関係の修復をしなければ。


はぁう…それにしてもお美しい―――肌理キメの細やかな肌や風になびきたる金色こんじきの髪、わたくしの元いた次元世界せかいでもエルフはよく小鬼ゴブリン豚鬼オークそして鬼人オーガ等の(性的な)標的にされる事がよくありましたが…その気持ち判らないでもない様な?


はあ…ヤレヤレ―――『湯浴み』が唯一私の愉しみとなっていたものだが、まさかカラタチとこんな処で出くわそうとは…

それにしても、初めてカラタチの裸身を見る事になるが…うらやまけしからんものを持っているなあ私なんぞは慎ましやかなものだがな…(※敢へてどの部分とは言わず)

薄桃色の肌に髪の色―――瞳も琥珀を思わせる…おまけにもち肌で安産型とか?こんなに可愛いのが鬼人オーガとか、世の中不公平過ぎやしないか!?

イカン―――変な事を考え過ぎて湯あたりしそうだ…そうなる前に身体を洗うとするか。


私は、[勇者]だ―――[勇者]だからこそ剣を振るいその為の修錬は欠かさない、だから私の手は肉刺まめ胼胝たこだらけだ、だがこの手は私の誇りでもある―――私の憧憬もくひょうであるベレロフォンに追いつき、追い越す為にと研鑽を怠らなかった証明あかしでもあり勲章の様なものなのだ。

「お背をお流ししましょうか?」

「いや、結構だ遠慮をしておこう。」

「そうは仰らずに…わたくし達は仲間なのですから。」

私が手を見つめていたらカラタチが私の背中を洗い流そうとしてきた、そしてお定まりの文句…『わたくし達は仲間なのだから』と―――私は、騙されないぞ~以前ヴァニティアヌスが言っていたようにこの娘は私に“しゅ”を仕掛けようとしていた事があったのだ、しかもその“しゅ”の恐さと言うものをまざまざと見せつけられてしまった…その時から思ったものだ、まかさこの鬼ッ娘私に“しゅ”を仕込んでおいて行く行くはベレロフォンとお~?そんな事は許されない―――許されていいはずもない!

だが、そんな私の気持ちとは関係なくカラタチは私の背中を洗い流していた―――強く断り切れなかった私も相当“あれ”なのだが、鬼人オーガでこの可愛さはもはや反則だろう~!しかも私の背中をなぞるもち肌の手のなんと気持ちの好い事か……

肌理キメの細やかな綺麗な肌をしているのですね―――」

「は、は―――だがこの手を見ろ、剣を振るうお蔭で肉刺まめ胼胝たこだらけだ。」

「けれどそれが[勇者]たるフレニィカさんの強さの表れではないでしょうか。」

褒められて…いるのか?いやもしかするとこれも“しゅ”なのかもしれない…しかしーーー以前見たものとは少しばかり違う様な?

「私に世辞を言ってもなにもならんぞ、何しろ私は…」

「いえ、世辞などと―――これはわたくしの“赤心”…赤裸々なまでの心の内です。」

甘やかな言葉…私の事を褒め、たたえ、いささかの気分の高揚が感じられる、けれど私は―――外見みためだからカラタチもそう感じてしまうのかもしれないな…

「嬉しいな―――正直嬉しい…だが私は違うんだ、以前からカラタチは私の事をエルフだと言ってそう接してくれた、だけど私は違う…外見みかけはエルフの様に視えるが内身なかみはヒューマン、私はハーフ・エルフなんだ。」


すると、背中を洗ってくれていた手がふと、止まった―――ああやはりな、やはりそう言う反応をしてしまうのだろう…しかし返って来た言葉は意外なモノだった。

「では…今フレニィカさんは何歳なのですか。」

「(ん?)18だが―――それが何か?」

えっ…ええええ~っ?!てっきりわたくしはフレニィカさんをエルフと見込んでこの半年間接してきましたが、それがまさかのハーフ・エルフだとか……しかも内身なかみはヒューマンと変わらない?だとしたら18その年齢は妥当と言うべきでしょうが…またしても読み誤ってしまいました、わたくし外見みためからフレニィカさんの事をエルフとはんじ、わたくしよりは(かなりな)年上―――あわよくばわたくしと同じ年齢だと思っていましたが……(かなりな)年下だったとは―――

「な、なるほど…18歳―――」

「ヒューマンで言う処の『成人』に達しているはずなのだが、ヴァ…ヌスからは未熟者呼ばわりでな、けれどそれも致し方のない事だと思ってはいる、だってこの次元世界せかいには既にベレロフォンがいるから彼と比べられるとどうしても…な。」

少し―――彼女の事が判ってきました、フレニィカさんは思っていたよりも自己の評価が低い、だからこその自信のなさにも繋がって来るのでしょう。 それは周りのわたくし達にも起因はしている―――エルフが優秀なのは何もこの次元世界せかいに限った事ではない、それはわたくしの元いた次元世界せかいでも彼らは何かと持てはやされていたのだから、かと言ってフレニィカさんの様な『混血ハーフ』も…けれどその評価はフレニィカさんと―――なまじ優秀な種属の血を引いているだけに、その風当たりも強い…

この方は―――孤独だったのだ、自身が[勇者]となるまでに孤独を味わってきたのだ、そこを[英雄]たるベレロフォン様に救済すくわれて…そして憧憬こがれを抱いた、わたくしと“同じ”とまでは言いませんがその気持ちはよく判る…どうやらわたくしがこちらの次元世界せかいに来たと言うのも何かの偶然ではないのですね。

わたくしは今年で150歳になろうかと思います。」

えっ、なにそのいきなりな告白―――と言うか、えっ…「150歳?!」

「はい、こちらに来る際の内乱の折に149と5ヶ月と廿日はつかでしたから、昨日で丁度150歳ですね。」

待て待て待て待て待て!ええっ―――もしかしなくても私よりも(随分な)年上?!なのにこの若さとか…

「ああ、ヒューマンの年齢に換算すると15歳くらいですかね、その年頃にわたくし達の次元世界せかいでは『元服』…ようやく大人の仲間入りと言ったところです、ですからこんなわたくしよりも既に成人としているフレニィカさんはもっとご自身に自信を持つべきですよ。」

「そ―――そう、なの、か?最早何が何やらよく判らん…」

『裸の付き合い』とはよくも申したりしたもので、私とカラタチは共同の浴場で互いの赤心を語り合った、思えば―――カラタチは元いた次元世界せかいで主神の不興を買い追放をされてこの次元世界せかいへと移って来た、いわば以前の私と同じ…いや、同じではないな、私のように腐らず諦めもせず持ち前の気立ての好さで今ではカラタチの事を悪く思う者はいない、何しろ一番に警戒している私ですらふところに取り込んでいるのだからな…それにふところに取り込まれるのもカラタチならばそう悪くもない―――そう思ってしまっている私がいる…


           * * * * * * * * * *


「なんだ、お前達随分と仲が好くなっているみたいだな。」

「ヴァヌスか、ああ私達はようやく判りあえたのだ。」

「そいつは良かったな、まあでエルフになる前に上がるんだぞ。」

しばらくして『所要』を終えさせたヴァニティアヌスが共同風呂へと入って来た、今になってカラタチの事を疑う訳ではないがどうやらベレロフォンの風呂が故障してしまったのは本当の様だ。


                 で


日頃の怨み~ではないのだが―――

「なんだ、どうした―――」

「いやあ~日頃の感謝も兼ねてこの際親密になっておこうかと思ってな。」

「別に、感謝をされる覚えなどないんだが。」

「そんな事は仰らずにぃ~」

「お前の魂胆こんたんなんぞは見えいているぞ、先程私と『親密に~』等と言っていたが要はベレロフォンにお近づきしたいだけだろがっ!だぁめだダメだ―――そんなの…私に取り入ろうなんぞお前には100年早い!」

「この時点で100年て―――私は内身なかみはヒューマンと変わらんのだからそれまで生きている自信なんてないぞ。」

「遠回りに断っているんだ、そのくらい気付けっ―――」


「あの…随分とまたヴァヌスさんはフレニィカさんに厳しいのですね、どうしてなのでしょう?」

「ああカラタチ殿…いやこいつはなベレロフォンから救済すくわれた折に恩義と同時に憧憬こがれも感じてしまってそれ以来一方的に思ってばかりなんだ、好きなモノは好きと言えばいいモノを―――どうにも煮え切らない態度を取るものだからこちらもお断りをしていると言う訳だ。」

あれ?何でしょう…この違和感、ヴァヌスさんは外見みかけでは幼生体幼女のように見えるのですけれど…今のはどちらかと言うと“母親”の様な―――?

「しかしだなあ~直接言いに行って特攻して玉砕してしまったらどうしてくれるんだあ~!」

「そりゃお前、あれだ…まだ子供ガキだからだろうよ、お前ももう『成人』なんだからちっとは大人に成れ―――そうすればあいつも…受け入れてくれるよ。」

やはりそうだ―――この方は幼生体幼女であって幼生体幼女ではない…それに今、同居しているベレロフォン様が自分の下から離れていくことに際し、寂しそうな感じがした…

それは恋すらも知らない少女が、良くしてくれている大人の男性と離れてしまう―――そう言った様な感情ではなく親元を離れていく子供を見守る…?


気付いたか―――流石だ…私はその推論に到達するまでに随分と費やしてしまったものだが、僅かに示してやるだけでその魔族の幼生体幼女が本来は何者かと言う事に気付いてしまった。

ああ、そうだ…そのお方こそがこの次元世界せかいの創世神であり、ベレロフォンを育てた母親でもある女神ヴァニティアヌス―――これで対等イーブンだな、カラタチ…


私はお前が何を目論んでいるのか判らない…ベレロフォンと所帯を持ちたいのなら私と言う存在は邪魔でしかないハズなのに遠ざけるどころか近づいてさえいる、だとしたら目的は何なのだ?カラタチほどの器量よしならばベレロフォンも悪い気はしないものだろうに…


以前わたくしは―――ベレロフォン様がわたくし達の次元世界せかいへと来た折に恥ずかしげもなくベレロフォン様の泊り部屋に強引に押し掛けた事がありました、けれど相手にさえしてもらえなかった…その原因はベレロフォン様には既に心に決めた方がいるものと、そう思ったから…そして今度はわたくしがベレロフォン様の次元世界せかいへと来た折にフレニィカさんと言う女性に出くわしました、その時は『ああこの方がそうなのだろう』と、そう思っていたのですが…ここ半年間見続けていると『そうではない?』と言う事が判ってきました、では―――だとするなら…ベレロフォン様の想い人とは、“誰”?




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