第18話 不相応の処遇―――『次元世界(せかい)からの追放』

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さきに言っておいてやる、これは我の判断ではない…武御雷タケミカヅチ様からのお言葉である、花神社はなかみしゃ禰宜ねぎ]カラタチ、御身おんみの官職を剥奪はくだつし、この次元世界せかいから追放する―――」


              ―――えっ―――


「ちょ、ちょっと待ちなよ大将!冗談にも程ってものがあるだろう!あたし等が一番苦しんでる時に誰よりも粉骨砕身ふんこつさいしんしてくれたのは誰だか判っているのかい!?」

「そんな事は、中途ちゅうとでこちらに鞍替くらがえした我ですらも判っている、しかも先程も言っただろう、これは我独自の判断ではないと…」

「それじゃあ何かい?あたし等の神様が…カラタチの苦労を一番見て来た武御雷タケミカヅチ様がそんな事を?」


  ―――この…わたくしが、花神社はなかみしゃの[禰宜ねぎ]の官職を剥ぎ取られ、この次元世界せかいからの追放?―――


その、あまりにも前例のない通告を聞かされたわたくしは反射的に両手で顔を覆い隠しうつむいてしまっていました、それは…わたくしの表情を知られたくはなかったから。

それは当然だ―――と、わたくしと同じく領主シノギからの通告を聞いていた他の皆は誰しもがそう思った事でしょう、けれど…例えそうであったとしてもわたくしの表情は知られたくはなかった…


             ―――なぜならば―――


「我からの通告を聞いたぬしらでさえそうなのだ、直接聞かされた我の身にでもなってみろ、無様にも二度聞きをしてしまったわ。」

「ま、まあーーー信じ難い事を聞かされちゃ判る気もするもんなんだけどさあ…」

「それよりも武御雷タケミカヅチ様です、僕らの“これから”と言う時に復興の柱を切るなんて…何が原因なのでしょう。」

「詳しい事は我も知らん、ただ武御雷タケミカヅチ様はこう仰られていた…『大母おおかか様が』と、な。」


        ―――嗚呼、そう言う事だったのですか―――

     ―――嗚呼、どうしましょう…―――


不謹慎と、そう思われても仕方のない―――本来なら理不尽な処罰に対しては激しく抵抗するか異議の申し立てをするものなのに……わたくしの頬は緩み、あまつさえ笑みまでたたえていた、恐らくこのわたくしへの理不尽な処罰は武御雷タケミカヅチ様の意志ではないのだろう…武御雷タケミカヅチ様の意志でないのだとしたら、その意思に介入できる一柱じんぶつわたくしは知っている…


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武御雷タケミカヅチ、少しお話しがあります。}

{なんでしょう、大母おおかか様また改まって。}

あなた次元世界せかい花神社はなかみしゃにカラタチと言う[かんなぎ]がおりますね。}

{ああ彼女の事ですか、行く末の見えた次元世界せかいを―――逆境をものともせず耐え抜いてくれた…その彼女には[禰宜ねぎ]への昇格を与えようかと思っています。}

{[禰宜ねぎ]―――随分な抜擢ですね、ではその彼女の官職を剥ぎこの次元世界せかいからの追放を命じなさい。}

{―――はは…何をご冗談を大母おおかか様、彼女が罰を負ういわれなど…}

いわれ―――ですか、十分にありますよ、何よりカラタチはヴァニティアヌスの次元世界せかいから派遣されてきた[英雄]ベレロフォンと手を組み、このに逆らったのですから。}


               {えっ―――}


{とまあ冗談はこの位にしておいてあげましょう…対外的にはこうした方が面白くなりますからね。}

{はは……大母おおかか様もおひとがお悪い。}

{それに、一見『処罰』に見えるこれも言うならくは『褒美』ですからね。}

{それは―――どう言ったことで?}

{これだから全く―――男の子というものは…よいですか武御雷タケミカヅチあなたあの子を見ていてその変化に気付かないでいたと?}

{カラタチの―――変化に…ですか?}

{ヤレヤレ―――ここまで朴念仁じゅうしょうだとは…くだんの事象が来るまで『武御雷タケミカヅチ様』とでしか言わなかった女御にょごが、その事象を境にある特定の人物にしか目を向けなくなった―――しかもその眼差しには熱を帯び、あまつさえ肉のちぎりを交わそうとまでしたのです。}

{おお!そうだったのですか、もカラタチの事は気にかけておりました…ですが彼女はそうしたことごとくを突っぱねて来た、もしやすると適齢てきれいを過ぎるのではないかと気を揉んでいたのですが―――それより相手は?}

{だからこそ―――あなたに告げたのじゃない…『(カラタチの)この次元世界せかいからの追放』を。}


感謝をしなさいね―――ただ、あなたの背中を押しただけ、あとあとの事はあなた次第……


        * * * * * * * * * *


事の次第はこうだったに違いはない―――ただ眷属私達は神々の思惑まで知れる事はありませんが、ただ今は…この表情ニヤケ面は知られてはまずい。

「だ―――大丈夫です、わたくしなら大丈夫ですから…」

「本当に大丈夫なのかい?声、震えてるけど…」


嬉しさの余りに生じてしまっている身震い……いけない、抑えなくては―――


「涙…泣いているじゃないか、よくそんなさまで大丈夫だのと。」

「大丈夫…大丈夫ですイナリ―――」


だってこれは…嬉しさ余ってあふるる涙―――なんですもの…


「すまんなあ―――我がもう少しばかり至っておれば、ぬしに辛い目に遭わせずに済んだものを。」


最後は領主シノギからの言葉を貰い返事をしたものですが、正直どんな表情をしていたか記憶が定かではありません。

まぎれもなくわたくしはこの次元世界せかいに生を受け、この次元世界せかいで子を為し、そして土に還る…そうするものだと思っていました、ですがわたくし達が困窮の時機に現れた別の次元世界せかいからの[英雄]にわたくしが一目惚れをしてしまった…これまでは『恋愛』などと言う感情ほどわたくしには縁遠いものとばかり思っていましたが…好いものなのですね、『恋愛』と言うものは。



「行っちゃったね、カラタチ。」

「案外だけど―――これで良かったのかもねえ。」

「アマミ…不謹慎だよ、それ。 これから立て直しが必要って時に一番優秀で有能な人材が欠けちゃったんだよ?」

「そいつは聞き捨てがならないねえ?イナリ…そいつはひょっとするとカラタチ以外のあたし等は無能の集まりだと言いたいのかい?」

「そ…そう言う事を言ってるんじゃあーーー」

「それよりアマミ、『これで良かった』とはどうしてそう言えるのだ。」

「あんたのいる前でも話した事はあるんだけどねえ、つまりはさあの子の視線はたった一人を追っていた…それだけなのさ、それに気づいたあたしは一度あの子の背中を押した…」

「それが今回の決着戦―――」

「あの子はさあ…あたしらの神様の如く朴念仁色恋にはからっきしだものねえ、折角あたしが背中を押してやっても肝心な事は伝えなかったんだろうさ、あたし等の事を気にかけるあまりにね。」

「(んーーー)あれ?だったら今回のは……」

「まあ、あたし等の神様ったら相当な朴念仁ニブチンだからねえ~?“上”から視ていて歯痒はがゆかったんじゃない?だから―――」

「子息殿に無理難題を吹っかけた…と、なんだか武御雷タケミカヅチ様の心中傷み入るのう。」


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「なんで、こんな処にいるんだ。」

「あ、あのっ…じ、実はわたくし、主神の不興を買ってしまってこの次元世界せかいからの追放を言い渡されてしまいまして…」

「『神の不興』?武御雷タケミカヅチとやらは信じてついてきた眷属を冷たくあしらうのか。」

「い、いえ―――武御雷タケミカヅチ様ではなく、そのぅ…」

「(はぁ…)な―――それで納得が行った。」

「それはどう言う事でしょう?」

「あんなにも尽くしてきたと言うのに褒められる事はあっても『次元世界せかいからの追放』とか―――そんな理不尽な処罰だったら普通は憤慨するか哀しそうな表情をするものだろう、なのにカラタチは嬉しそうな表情を隠しきれていない…よく他の連中にもバレずに来れたものだと感心すらする。」

「あ、あ、あのぅっ―――わ、わたくしそんなに……」

「ああ、嬉しそうだ。 それにしてもなぜオレみたいな野郎に惚れたものなんだか…」

「それよりベレロフォン様はなぜまだここに?」

「オレは、見た目通りの戦士だからな、次元世界せかい間を渡れる術なんざ持ち合わせちゃいない、つまりは道先案内人を待っているのさ。」


オレはこの次元世界せかいの者ではない、オレがこの次元世界せかいに来るきっかけとなったのは『次元の魔女』と言う者によって連れて来られただけなのだ、だからオレの次元世界せかいに戻るにしても『次元の魔女』の協力は不可欠―――と、言いたい処なのだが、オレがこんな処で未だ待ちぼうけを喰らわされているそもの原因と言うヤツが、オレを連れて来た『次元の魔女』ベアトリクスが約束した集合地点に現れていないからでもあるのだ。


         * * * * * * * * * *


「ゴメーン遅れちゃっ……あのーーーひとり何気に増えてない?」

「この次元世界せかいの神様の不興を買ったらしくてさ、この次元世界せかいから追放されたんだと。」

「へええーーーふううんーーーそうなんだあ?」

「それよりも、『次元の魔女』とやらは時間に緩いのか、約束された時間に現れもせず―――」

「し、仕方ないでしょう!こっちだって立て込んだ事情ってものがあるのよ!」


『魔女』と言うからにはさぞかし年季の入ったしわが刻み込まれ、何やら怪しげな雰囲気を醸し出す出で立ちをしているものだ…と、わたくしは“彼女”に会うまでそう思っていました。 けれどこの場に現れたのはわたくしと同年代―――まだ年若く赤紫色をした髪と瞳が特徴的な『魔女』―――『次元の魔女』ベアトリクスその人だったのです。


それよりも、ようく考えてみると…わたくしはこれから産まれた次元世界せかいから別の次元世界せかいへと往くのですよね―――それも…ベレロフォン様の……

な、なんだか緊張をしてまいりました!ここは恥ずかしくないようにしなければ―――『武御雷タケミカヅチの処の鬼人オーガ娘御むすめごは…』などと言う様な後ろ指は指されない様にしなければ、それにわたくしは間違いなくの新参者……古くより住まいたる方達への心証は好くしなければ―――


「おお、ベレロフォン!ようやく戻って来たか。」


そう―――思っていた時期が、私にもありました……

と、言いますか何やら根拠のなき自信と言うものが根底から打ち砕かれたという感覚…と言うかナニアレ!?『エルフ』?まるで“美麗”を画で描いたような美貌に、私の根拠のなき自信とやらは根底から打ち砕かれてしまったのです。


「出迎えご苦労さん―――とは言え何も出迎えてくれなくてもなあ。」

「何を言っている、お前がいない間こちらは大変だったのだぞ、それを[勇者]たる私が……」


あっ、このひとわたくしと同じだ―――わたくしと同じ、ベレロフォン様を好いていらっしゃる…

わたくしと違い“美麗”でいらっしゃって、わたくしと違い[勇者]でもあると言うエルフの女性…お蔭で目が覚めました、まさかとは思っていましたがベレロフォン様の出身世界にわたくしと同様の―――ベレロフォン様を好いている女性がいないと言う事はない、と。 そしていました…これまでにない強力無比な恋敵きょうてきが!


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そして現在―――フレニィカとカラタチの睨みあいは続いている…こう言う事になるのではないかと言う予感はしていたが、『最悪』だ、ただまあ『血の雨』(惨事)までにはなっていないものの、依然として油断は禁物だ…この次元世界せかいの均衡は今やこの2人によって握られていると言っても過言ではないだろう。


「ただい―――なにを見つめ合っているんだ、この2人は…」

「聞いてくれヴァヌス!この鬼ッ娘、ベレロフォンのヤツが出先の次元世界せかいから連れ帰ってきてなあ!」

「初めまして―――わたくし鬼人オーガのカラタチと申す者です、係る件に於きましてベレロフォン様には一方ひとかたならぬ助勢を頂き、感謝してもしきれぬくらいです、けれども何故かわたくし次元世界せかいの主神である武御雷タケミカヅチ様の不興を買い、わたくしわたくし次元世界せかいに居られなくなり…そうした処にベレロフォン様からの許可が下りまして―――何かと不束ふつつかな処がありましょうが何卒なにとぞよしなに。」

「ふうーん礼儀正しいんだな、どこぞかのエルフの小娘とは大きな違いだ、それに―――武御雷タケがそんな事を?信じられん事もあるもんだなあ。」

わたくし達の主神―――武御雷タケミカヅチ様の事を存じているので?」

「えっ?あっ、まあーーーヴァニティアヌス様から聞かされた事があったからな、それよりもベレロフォン一皮剥けてきたって感じだな。」

「ああ、と言うよりはまあ新しく生まれ変わったと言った方がいいかな。」


あ、あれ?なん…でしょうかこの小さなおは―――“人類族”であるとは違う肌の質感に形態…幼く見えながらも感じる魔力の保有量はこの5人中1番!?と言う事はこのお(に見える様な者)は『魔族』―――それに…ベレロフォン様がこの魔族から褒められて些か嬉しそうな!?

完全に読み誤りました…見目みめの麗しさばかりに気に取られエルフの[勇者]を強力無比な恋敵きょうてきとしてきましたが意外な伏兵がこんな処に!?


どうやら気付いたようだな、の本来の恋敵きょうてきという者を…ああそう言う事だよ、この魔族の幼生体幼女こそがベレロフォンを育てた親にしてこの次元世界せかいの創世神である―――しかも何なんだよぉぉ~今ではベレロフォンの膝上を独占しおってぇえ!私でもそんな事をしていない、出来ていないと言うのにぃぃ~うらやまけしからん!

それに、この対立構造は決して2対1等などではない…また新たな(厄介な)対抗勢力が出来たと言った具合だ、しかもこの鬼ッ娘、私の不得手な部分も得意そうだしなあ…


そう思っていましたら、そう言う部分はすぐに発覚してきたのです、そう―――今この鬼ッ娘には身寄りがない…からと、しばらくの間ベレロフォンの処に厄介になるのだと言う??

いや、待て、それはまずいだろう!(イロイロと!)もしかするとあの鬼ッ娘、居候いそうろうと言うのをいい事になにやらベレロフォンに対し如何いかがわしいを働こうとしているに違いはない!なぜ私がそうした危機感を働かせているかと言うと私も同じだからだ!だがしかし哀しいかな…私には動機と言うものがないぃ……(持ち家持っているものなあ私) それにベレロフォンの処にお邪魔をしようものなら(ある意味)魔王ヘルマフロディトスよりも手強い番人様がいるからなあ…そこで、私の補助役サボーター殿に意見を聞いてみる事にした。

「ん~?どうしたんだあい、フレニィカちゃん。」

「実は、折り入って相談したい事が…」


       * * * * * * * * * *


なんとか、懐には潜り込めましたか―――けれど油断はなりません、現在はベレロフォン様のご厚意こういに甘え“同居”を許して貰えている様なものですが…このわたくし居候いそうろうの分際で分不相応な事は目論んではおりません、なにより強引に関係を迫って嫌われてしまうようでは武御雷タケミカヅチ様―――いては伊弉冉イザナミ様のご厚意を無駄にしてしまいますからね、そしてここからがわたくしの腕の見せ所…常々武御雷タケミカヅチ様より教えて頂いたのは『好いたる相手の胃袋を掴んでおくことが何より肝要』―――花神社はなかみしゃの[かんなぎ]として身を立てていたとはいえ、わたくしも終身をそこに捧げるつもりはありませんでした、それはこの身は他家どこかへととつがねばならない…その為の花嫁修業の一環として礼儀作法等を身に着けていただけに過ぎませんのですから。(まあ……もっとも、武御雷タケミカヅチ様が持ってくる縁談話と言うのが、身分や家柄血筋重視―――だったのは否めませんですけれどね。)

そして私はベレロフォン様の居宅で住まわせてもらうその初日に、早速ながら策を仕込もう―――と、したのですが?

(※別に彼女に他意はなく、ただ夕食を作ろうとしただけ)

「なぜ、あなたが、ここに?」

「い、いやあ~別の次元世界せかいへと行って来たというからな、ならばその土産話でもと。」

む、むう…口ではああ言っていますが、これは威力偵察ですね―――しかも『土産話』とは…さすがはエルフとだけ申しておきましょうか、それに…土産話を聞くだけならばなにも―――

「なんだフレニィカ、お前普段は着ない様な衣服を着ているなあ?なにもベレロフォンからそこのお嬢さんの次元世界せかいの事を聞いたりするのにおめかしもないものだろうに。」

し、仕方がないだろう~!ヘレネに相談したら『こうしろ』と言われたんだからあ~!し―――しかし~それにしても…ヤリ過ぎたか?これは。


ははあ~んなるほど、どうやら敵には相当な頭脳ブレーンがついていると見ましたね、でなければ『土産話を聞きに行く』だけでここまで着飾る必要はありませんから、とは言えここで早々に『お帰りいただく』と言うのはあまり好ましい手とは言えません、敵ですらも懐柔かいじゅうして味方に加えさせる事こそわたくし―――

ですか…判りました、でしたらば早急にお1人分お作り致しましょう。」

え゛っ―――敵を迎え入れるのぉ?この私をお?出来過ぎだ…この鬼ッ娘―――死角と言うものが全く見当たらない!ヘレナの助言では今回押しかけ同然で鬼ッ娘のアラを洗い出し、のちの攻勢の為に温めておく…だったが、こうまで隙がないと言うのは……

「私がフレニィカさんの分をお作りするまでの間、どうかベレロフォン様達とのご歓談かんだんに興じて下さいませ。」

完・全・敗・北だ―――まさか敵に塩まで送られてしまうとは…私では太刀打ちできなあ~い……

しかもその後にありついた食事と言うのがやけに塩辛かった―――まあ…私の涙がそうさせてしまったのは否めないではいるがな。


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       ―――それはそれとして、話しは少し前に遡り…―――



私達『次元の魔女』には『相互に対して干渉し合わない』―――と言う不文律がある、しかし今、私の目の前にいるのは【干渉】…ここ最近私が感じて已まない“不穏”について問いただそうとしていた。

「ねえ【干渉】、少し聞きたい事があるんだけど。」

「どうしたの、そんなに怖い顔をしなくても―――それに『聞きたい事がある』って言っていたけれどそれってもしかすると…あたしがここにいるってことかしらあ?【崩壊】。」

「ええ、そうよ…私達は相互のしている事に干渉はしない―――その『次元の魔女』の不文律に反しているのかもしれないって思えちゃってね。」

「あたしが?あなたのしている事を?干渉?笑えないわね…確かにあたしは【干渉】を名乗ってはいるけど不文律を破るような事はしてはいないわ?それに―――もしあなたがそう思うのだったら…それは見解の相違って言うものよ。」

「なに?どういう意味―――」

「あたしもね、頼まれたからやっただけなの…『邪神と名を変えたアクタイオーン』や『カリストー』『シューリンクス』『オライオン』達の次元転送に、アルテミス自身の転送―――」

「けれど彼ら彼女達は私達の助力がなくても…」

「ええ、出来るわね―――但しタダと言う訳にはいかない…対立している伊弉冉イザナミ達と本気で闘争しなければならないと思ったからあたしを足代わりに利用した…」

「そこまで判っててどうして―――それに、だとしたらあなたに依頼をしたのはアルテミスって事になるわよね。」

私がここ最近“不穏”を感じていた原因をただすために近くにいた【干渉】と連絡を交わし、どうして武御雷タケミカヅチ次元世界せかいにいるのかという理由を聞いてみた、するとれなく彼女からは何某なにがしからの頼みによって動いている―――けれどそれがアルテミスの眷属達やアルテミス本人をこの次元世界せせかいへと転送つれて来ただけと言う事だった。

けれどここには私もいる―――だから私は【干渉】が私に対し干渉を行おうとしているのだと思い込み、こうして事情なりの聴取をしようとしたのだ、しかし【干渉】からの言い分は一応筋が通っていた為、私もこれ以上は深入りしないするつもりでいたのだけれど…それにしても今ひとつ腑に落ちない部分が―――それがアルテミスからの依頼は『次元の魔女わたしたち』を『足代わり』…?

まあよくそうした依頼は受ける事はあるけれど、それにしてもまぎらわしい…けれどそれもまた『次元の魔女わたしたち』の“役割”―――そう、この次元うちゅうのはみ出し者である『次元の魔女わたしたち』が何某なにがしかの意志によって動いている…と言うのは、私達に添えられた不名誉を払拭させる為だと言っていい、ある時は別の次元世界せかいで『魔導』という魔術の一形態を“一”から創りそこの『学校』の学長として身を投じたり、またある次元世界せかいでは王族と友誼を交わし面白おかしく時を過ごしたり…けれどそれはある目的でそうしていただけ―――『次元の魔女わたしたち』に添えられた不名誉を払拭させる為、『次元の魔女わたしたち』は今日もまた何某なにがしからの意思によって動くだけ……


            ――― だけど―――


「なあーにを言っているんだか…所詮アルテミスなんて単なる腰掛けよ。」

「―――え?」

「だって、決まっているでしょう?あたしたちに言う事を聞かせられるのはこの次元うちゅう広しと言えどたった一柱おひとりしかいない…」


えっ―――何?ちょっと待って…ひょっとして『次元の魔女わたしたち』って……神のっっ―――!


「あれれ~?あんた…もしかすると忘れたと言うの?はあぁぁ…なんて面倒な事に―――」


な―――なにっ…これ、あ、頭が……割れるように痛い!



しかし―――この時私は知ってしまった…なぜが『次元の魔女』と呼ばれているのか、その事を私は……


「これは一度他の皆を集める必要があるかもね、―――」


その時、【干渉】は言っていた…『副人格であるあたしたちなら』と―――そして私の事を『主軸』だと…


どういう事?私は私だけでしかないと思っていたのにそれすらも違う?だとしたら私は…は一体何だと言うの!?


けれどそのこたえもみつけられぬまま、私は無様にも脳の刺激の作用により“ベアトリクス”と言う意識を底に沈めるしかなかった―――…



私の脳に作用していた“刺激”―――それこそは主軸である“私”の古来に於ける大罪が起因し、永らくの間神々の眼を欺くために取られた措置……それがこれを機会に主人格が表へと出ようとした証拠に他ならない、そしてかつての災厄は復活する―――かつては神々の中でも最も権能チカラがあった神であったとはしながらも、“魔”なる力の魅力に取りかれ、それが原因で神々と争い合い敗北の屈辱と共に神の座位くらいを追われ―――次元うちゅうの果てに追放された者……


そしてその神は、しくも赤紫色の髪と瞳をしていたという。




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