第17話 三つ巴(ヴァニティアヌスxアルテミスxパールヴァティ)

私達の世界をお創造つくりになった創世神―――女神ヴァニティアヌスの意外な正体とは、[英雄]ベレロフォンに救済すくわれかくまわれていると言う魔族の幼生体『ヴァヌス』だった、私は直近にその事に気付き私の補助役サポーターである『酒場ヘレネス』の女主人マダムヘレネに訊ねた処、見事言葉を濁されてしまってこの件は有耶無耶うやむやのままに終わってしまうモノかと思われた。

しかし―――以前“フェイク”をつかまされた事を知ってお怒りになってしまった女神アルテミス様の[英雄]オライオンが捲土重来けんどちょうらいした時、その正体は思わずも発覚してしまったのだ。

いや……本当に『無駄に顔だけが好い変態男クサレイケメン』とはよく申したりと言った処か、それに―――ヘレネの言っていたようにここにベレロフォンがいないのがまさに『不幸中の幸い』だな。


         * * * * * * * * * *


そんな事よりも戦端は既に拓かれている、この世界の『いにしえの[勇者]“ハガル”』である[魔王]ヘルマフロディトスヘレネが本来の関係である主神ヴァニティアヌスによってその役割を果たそうと言うのである。

私も[魔王]ヘルマフロディトスヘレネとは何度か刃を交えた事がある、今となっては[魔王]ヘルマフロディトスの正体や女神ヴァニティアヌスの正体など判ってしまったものだが、何も知らない…知らなかった頃の私としては彼らの事は所詮創作話おはなしの中の登場人物くらいにしか思わなかった…けれど私が[勇者]として認定された時、最初に告げられたのが『[魔王]の討伐』だったのである。

最初に[魔王]ヘルマフロディトスと対峙した時、その正体がいつも[魔王]の情報を提供してくれていた『酒場ヘレネス』の女主人マダムヘレネと知った時、私は極度の“こんらん”状態におちいむべもなく―――敗退―――そこからまた機会を得て再び[魔王]の前に立った時には、以前のヘレネの姿―――つまり女性の姿ではなく男性の姿をした[魔王]ヘルマフロディトスを…辛くも撃退、敗退まけてはならない[勇者]の二度目の敗退はどうにか避けられたと言った処だ、そんな“強敵”が今回ばかりは“味方”…と言うのは、どこか複雑な境地でもあり頼もしいと言った処か。


だが相手もる者―――私ですら知っている[英雄]オライオン…数ある創作話おはなしの中では主神である女神アルテミス様との関係は濃密に描かれもしたものだったが、実際に実物を見ると引くくらいの気持ち悪さ…しかし彼の英雄は古来から語り継がれてきた歴とした[英雄]である事を改めて知った、それというのも[魔王]ヘルマフロディトスヘレネが苦戦を強いられている?(まあこの際私が弱すぎると言ったのはナシで)

「[魔王]ヘルマフロディトスが―――ヘレネが押されている?それに……何なんだあの腕は!」

「まーーー言ってみればあれがあいつの闘い方だからな、聞いた事があるだろう~?[英雄]オライオンの得物―――そう『棍棒』だ、一部じゃ間違った説話せつわなんぞが横行しているみたいだが…元々ヤツが得意としているのは『体術』、その中でも自分の二の腕を倍加させて、そう言う事さ―――お前があの時不意に喰らったのは後方から棍棒のようなあの太い腕でしたたかに打ちのめされた…それに今の“ハガル”の闘い方をようく参考にしろ、程なく距離を取っているのが判るだろう。」

「た、確かに―――それにしてもなぜヘレネはオライオンと距離を保って…」

「さっきも言っただろう?ヤツが得意としているのは『体術』だよ、『体術』って言うのは広く捉えられる―――“殴る”“蹴る”“突く”そして…“組み合う”、ヤツは最至近距離で相手と“組み合う”事を最も得意としているのさ。」

「最至近距離…それでヘレネは近づかせまいと―――だがそれでは勝敗は決しないのでは。」

「そう言う事になるよな、だが―――ヤツと“組み合う”のは禁忌とされている…それも特に“女性”は、な。 何故かってえ?お前も見ただろう、ヤツのキモさ加減てやつを…それでもってあんのキモ男に組み付かれてみろ、性的嫌がらせセクシャル・ハラスメント処の話しじゃなくなるぞぉう~?」

お、思わずも知ってしまった[英雄]オライオンの変態性…うーーーん私はなるべくお相手したくないなあ―――


なあーんてな事、思ったりするもんじゃありませんでした…

それというのもこちらは『いにしえの[英雄]“ハガル”』『いにしえの[勇者]“シギル”』『[勇者]』という三本柱で対抗しているのだ、いくら[英雄]オライオンが強いとはいえ数的不利は否めない…そう、後詰でアルテミス様側からの援軍が現れたのだ、それが『カリストー』と『シューリンクス』と言ういずれも女性である。

「やあーっぱお前達が現れたか…おいヘルマフロディトス、フレニィカと交代だ。」

「えっ?あの…ちょっとお待ちになって?わ、私がオライオンの相手!?」

「なんだ不満か?けれど仕方がないだろう、この二柱ふたりのどちらかの相手をしろっていう方が酷だぞ?」

「そちらの二柱おふたりは、紛れもなくのアルテミスの最側近―――て言えば判るかなあ~?」

「へっ?このお二方…神様―――なの?」

「とは、ちょっと違うけれどな、かと言ってヒューマンでもない…まあ言ったらヒューマンよりは上位種―――と言った方が判り易いか。」

非常ひっじょーうによく判りました…なるほどね、ヒューマン以上神様未満―――私如きが敵う相手ではないか…

「しょげてる暇なんてないぞ、こいつらの本来の目的が何なのか忘れたのか。」

「“私”の略取りゃくしゅ―――だったな…私の身だもの私自身で護らなくてどうする!」

「だあーいぶ判る様になってきてるじゃないフレニィカちゃん、さあーてそれじゃこちらも気合い入れないとね。」


        * * * * * * * * * *


「―――と、言う事だ…お前の相手は私がしてやるよ『カリストー』」

{私も随分と舐められたものだ、且つてはアルテミス様に一番近しかったこの私が…}

「その筋の話しは私も聞いてるし同情はしているよ、まあ如何いかせん相手が悪かったとしか言いようがないけどな。」

{お前如きに私の何が判る!私は騙されたのだ…相手があのお方と知っていれば―――私は、っっ!}


私が相手するのは『カリストー』、彼女の言うように且つては女神アルテミスの信任篤く従順な使徒として側近そばちかくに仕えていたのだが、彼女の美貌が災いしたと言っていいのか―――その噂を聞きつけた“あるお方”が容姿を変えて彼女に近寄り…言うまでもなく女神アルテミスは『処女の神』としても知られている、とするならば側近そばちかくで使える者も……本当に気の毒な話しなのだが、相手が誰であろうとも処女ではなくなった者を以前と同じ待遇で接しなくなると言うのは判る話しで、その事を境にカリストーは以前の地位を追われてしまったと言っても過言ではない、今回もかつての配下だった者の配下として現れていると言うのは気位プライドの高いカリストーにとっては忸怩じくじたる思いもあるのだろう…とは言え、ここは私の次元世界せかいだ―――私の次元世界せかいに産まれ生きている者を奪いに来たと言うのなら、いかなる手段を用いてでもお帰りいただくのが神々私達の不文律でもあるのだ。


「そして私の相手は……『シューリンクス』―――あんたみたいだね。」

{あなたもかつてはこの次元世界せかいの侵略を試みた者―――そう言った意味では私達は同志…そうではないか?ヘルマフロディトス。}

「ざあーんねんだけど…その侵略で下手こいちゃってねえ、今じゃ従順ないぬさ―――いぬってねえ割と気楽なもんだよ、言う事さえ聞いていれば餌や住む場所まで与えてもらえる…どうだい?あんたも一つ、ヴァニティアヌスのいぬにでもなってみるかい?」

{魔王が…卑屈になったものだな、それより気になっていた事があるのだが―――なぜあなたの主神は幼生化の呪いをかけられたのだ?折角主神であるエレシュキガルの領土である『冥界』を守り切ったと言うのに…全く不思議な事だよ。}

「一体その事をどこから嗅ぎ付けて来たんだか…言ってもまあ、神々の間では持ち切りなんだろうけれどね。」


私と対峙しているのは[英雄]オライオン―――だが、2人の会話は自然と耳に入って来た、それによるとどうやら神々の間には私達眷属などには到底思いもよらない事ばかりがあるのだと知った、まずはヴァニティアヌスが相手をしているカリストー、彼女は元々女神アルテミス様の信任篤く重く用いられていた事が判ったが、それが一度の不祥事で地位を失い悔しさを滲ませながら私達と対峙していると言うのがどことなく判って来た、それより気になったのがヘレナが相手しているシューリンクスなる者の一言いちごんだった、それがヴァニティアヌスの容姿についてである、その疑問についてはつい最近払拭できたものだと思っていたのに…ここに来てまた新たな疑問が浮上してきたのだ、それが『呪い』―――それも『幼生化』の、である。

今のヴァニティアヌスの容姿については相手の目を晦ませるため…だと私はそう結論付けていたのだが、―――?それに今ひとつシューリンクスのげんを信用するなら、ヴァニティアヌスの次元世界せかいを侵略してきた魔王ヘルマフロディトスを撃退させた―――これは紛れもなく褒められるべき事だ、だと言うのに『幼生化の呪い』を受けたのはその後…?しかし―――なぜエレシュキガル様は従属神に対してそんなにも懲罰になるような事を……

「おおんやあ~?ミーとのホットなファイトの最中に考え事とはいただけないわねえ~?」

おおっ―――と…今は余計な雑念は払わなくては。

「それより見せて頂戴な、ユーが持ってるんでしょおーう?」

「本当は、手の内を見せたくないのだがお前には一度不覚を取っている、そうも言っていられないと言ったところだな…ああ、見せてやるよ―――」

私の体内に保有する魔力を通す―――それにより物理的なモノではなく魔力で出来た鎧が顕現をする…しかも金属片や皮革を用いていないので重さと言うのは全く感じない、それが私が女神エレシュキガル様から与えられた≪魔鎧≫の全容である。

「なあーるほど…それがモノホンのブツってヤーツなぁーのねえー?以前によく見ておけばよかったわあ。」

「こうなったからには以前の様な不覚は取らない…オライオン覚悟!」

「どおーやら、舐めてたのはユーの方みたいね…フレニィカちゃん確保ぉぉーーー!」


「バカッ!なにやってるさっさと距離を取れ!」


舐めていたのは意外にも私だった―――?そんな事はない…私は以前オライオンからの不意打ちを食らい、無様にも額冠ティアラを奪われてしまった、これは紛れもなくの私の苦い経験の一つとなっている…そんな相手に侮っているなどと―――だけど、本当はそう言う事だった、私は彼らの―――オライオンの目的をよく把握していなかった、『“私”の略取』と言う事は私を捕まえさえすればいい、しかもオライオンは体術が得意―――それに“組み合い”ともなれば…そうつまりオライオンは私に襲い掛かって来たのだ私を捕まえる為に、そしてヴァニティアヌスからの怒号が響く中、私……は―――


         ―――あれ?無事なんともなっていない?なぜ―――


それは……


「そんな薄汚い手でフレニィカちゃんを“にぎにぎ”しようとするんじゃありませんわあ?」


聖ヴァニティアヌス教会[司祭]殿?なぜ…またこの人物がこんな処に?いやっ―――その前に…私に襲い掛かって来たオライオンの巨体を指一本で制している?!

「今更何しに来たって言うんですか?もうのする事なんて残ってやしないですよ。」

「あらあら、ご挨拶ねヴァヌス―――いえここは敢えてヴァニティアヌスと言うべきでしょうか、そ・れ・に…クス、クス、クス―――状況は温まり過ぎる程に温められている、ええそれはもう鍛冶場の火入時ひいれどきみたいにね、だからこそわたくしが出てきたのです…こぉんなにも美味しくなった状況を、まるっとひと呑みにする為に―――ね。」


私達とアルテミス様側が争い合っている時に突如介入してきたのが、この次元世界せかいでの聖ヴァニティアヌス教会の[司祭]殿だった、けれど私はこの者の正体を知っている―――【“死”と“破壊”、“復活”と“再生”神の正妻】女神パールヴァティ様…いまだこの方がこの世界に留まっている理由を私は知らなかったが、もしかすると状況がこうなるのを『待っていた』?!

{…っく!まさかこうなるのを待っていたとは!} {中々動かれなかったのでその機会に―――と思っていましたが…} 「う…ぬうう~~~!そんな事よりもジェェントルミェェンなミー達を『まるっとひと呑み』とは、シャウトが過ぎませんかなあ?女神パールヴァティ様…」

{お前共三者が同時に動くなぞ滅多とない話し…と言う事はあの女神おんなめも既に動いていると言う訳ですよねえ?と、言う訳で―――来るがいい…まとめて相手して差し上げますわあ?それに丁度準備運動ウオーム・アップには適していますしねえ。}

「ガーッデェェィエム!ジエェェントルミェエエンなミー達をここまで虚仮こけにしやがるとは、お前達やあーーっておしまい!」{お前に言われずともアルテミス様配下の私達をここまでバカにしたのだ、報いは受けてもらう!} {私達をバカにする…それは我が主神あるじアルテミス様をもバカにすると言うのと同義!そんな事は許すまじ!}

私達一人一人では敵わないかも知れない彼の女神様の配下を、パールヴァティ様は一柱ひとりで相手にしようとしている?そんな事は…「無謀ですパールヴァティ様、ここは私達と一緒に―――」

「いや、ここはあの方に任せよう。」

「ヴァニティアヌス?だが……」

「まあ…好い闘争を“観る”て事も大切な事だ、だからようく観ときな―――…」

「とは言うけれど、目で追えるものならば―――だけどねえ~?」

「ヘレネ?それはまた、どう言う……」

観えなくてもいい―――だけどその網膜に焼き付けとくだけでも違うものさね。」

最初、私はこの2人の言っている事の意味が全くと言っていいほど判らなかった…しかし、私には圧倒的に経験と言うものが足らない―――だからその助言アドバイスはそう言う事を示唆したものだろうと思っていた…ただ、この眼で実際に“観る”となると―――


{実に、好いえっぷりです…ですので一撃で黙らせて差し上げましょう―――}


そう、女神パールヴァティ様が仰ると、反射的にオライオンは防御態勢を取っていた…しかし次の瞬間、防御をしていたはずの棍棒太い二の腕は砕け?あまつさえオライオンは地面に叩きのめされていた、それも、女神パールヴァティ様の下半身より発出されたで?!


{〈首を狩る死神の鎌〉―――これでまずひとつ…}


{そ―――そんなっ、アルテミス様の眷属の中でも最強を誇るオライオン殿が…} {たったの、一撃?}


{おやおや、わたくしは申したはずですがあ?お前共如きなど『一撃で黙らせる』と、その公約に従ったまで―――どこかおかしい所がございますか。}

{シューリンクス、ここは一度退いてアルテミス様と合流いたしましょう!} {それが賢明…しかし易々と抜けられるものなの?}

だあぁぁれが逃がすとお?可愛いフレニィカちゃんを怯えさせるならまだしも、攫拐かどわかすなぞ言語道断許すまじ!この娘はわーたくし達の可愛い玩具おもちゃなのですから他神だれの手にも渡しゃしませぇんわあ!}


んっ?!何だか今聞き捨てにならない様な事が聞こえた気が?

「あーあ、本心駄々洩れちゃってんな。」

「まあそれだけフレニィカちゃんにちょっかいかけてるのが面白くなかったんだろうさ、とは言えご本人様のいる前で言うべき事じゃないんだけどねえ。」

女神アルテミス様の眷属の中では最強を誇る[英雄]オライオンを『たったの一撃』―――しかも彼の英雄をしたのはパールヴァティ様の“左脚”だった、そう私が一見“鞭”と見紛ったのはパールヴァティ様の“左脚”だったのである、しかもそれを防ぐためにと体勢を整えていたオライオンの『棍棒』―――常人よりも倍は太いと言う二の腕すら破壊し、まさしく『死神の鎌』の如く首にひっかけた脚をそのまま地面に振り下ろした…これが―――これが女神パールヴァティ様の実力?!ヴァニティアヌスは言っていた…『好い闘争を“観る”て事も大切な事だ』と、そしてこの後もまるで竜の尾が如きの下段の蹴りを見舞う〈悪魔アースラの足を折る竜の尾撃〉によって残りの2人をも行動不能にさせたのだ。


          * * * * * * * * * *


そしてしばらくして状況は退きならないものになった―――そうついに女神アルテミス様が顕現あらわれたのである。

{お…のれええ~よくも私の可愛い眷属達を!}

{言いたい事はそれだけえ~?それにお前、ひとつ間違ってやしませんか、お前が可愛いとする眷属共を傷付けられて怒るのは判ります…で、あるならばヴァニティアヌスちゃんの可愛い眷属であるフレニィカちゃんを『奪って自分のものとする』と言うのはいいというの?それこそヴァニティアヌスちゃんが哀しむとは思わないのお?だあーかあーらあーわたくし達が協力して差し上げているのです、に…それにそもそもの事の発端は、お前があの女神おんなに苦い杯を舐めさせられたからでしょうが、ならばその怨みをすすぐべきはあの女神おんな―――伊弉冉イザナミじゃなくて、それを何の関係もないヴァニティアヌスちゃんに擦り付けようだなんて、その捻じくれた根性真っ直ぐに叩き直してくれりゃあ゛!}

大切にしている眷属を傷付けられて大いに憤慨ふんがいするアルテミス様―――片や自分の神格よりも上の神から目を付けられて主神様と交流を深められている女神様達に協力を乞うのも已む無しとしたヴァニティアヌス…の、代理として立ってくれているパールヴァティ様、しかもどうやら状況がこうなったというのもヘレネからの説明の通りアルテミス様と伊弉冉イザナミ様、パールヴァティ様とのこじれが原因…けれどそれって―――

「(あのーーーこれって私達、完全な『とばっちり』では?)」

「(そうとも言うな、けれどそう言う事は絶対に口に出しちゃダメだぞ、出したら…判ってんな。)」

「(う゛う゛…あまり想像は得意な方ではないんだが、そんな私でも想像出来てしまった。)」

「(まあこの先長生きしたければ~って事だよねえ。)」

なるほど…なぜこの2人が大人しいか、これで判った―――ならば私も(なるべく)大人しくしていよう。


それはそれで良いのだが、彼の二柱おふたかたの闘争は凄まじいものがあった、まあさすがに古来より知られた名のある神同士―――と言った処だろうか。

上空に一条の矢を放ち、その矢に付与していたご自分の<神意アルカナム>を爆砕させ無数の矢を降らせる〈ルナティック・フォールン〉

一つの矢に“想い”を乗せ様々な効果を無効化させながら敵を粉砕させる〈アナイアレイト〉

“本来の矢”は囮に放った矢の“影”に隠れ、的を射貫く〈シャドウ・シューター〉

―――と、弓矢での射撃を得意とするアルテミス様に対し、パールヴァティ様は…

腕を回転しそこに気流を生じさせそのまま“突き”を放つ〈捩じ切る螺旋の金剛杵ヴァジュラ〉(ただこれは段階と言うものがあるらしく“独鈷どっこ”“三鈷さんこ”“五鈷ごこ”とあるらしい)

ご自分の<神意アルカナム>で“輪っか”を作り、それを自在に操る〈肉を断ち骨を砕く円環刀チャクラム

“肘”“膝”“脚”“拳”を絶え間なく繰り出す事で相手の攻撃を封じながら、止めとして強力な一撃を見舞う〈悪魔アースラを駆逐するシヴァの三叉鉾トリシューラ

遠隔戦闘が得意なアルテミス様と近接戦闘が得意なパールヴァティ様、比較してみると対照的な二柱おふたりではあるが…なるほど一見の価値あると言うのはこう言う事か、私には圧倒的に“経験”と言うものが足らない、それを補う形で今回は神々の闘争の在り方と言うものをこの眼に修めたものだったが、大変参考になったものだった。 あとはこのふたまなこに焼き付けた映像をどこまで忠実に自分のモノと出来るか―――(それはそうと結果は、表現するのもはばかられる悪態をいて戻って行くアルテミス様…う゛う゛~一時期は憧れていたモノだったのだがなあ、今回の事で幻滅をしてしまった)


        * * * * * * * * * *


それは―――それとして。


「へっへーんザマぁみさらせ!ですわあ。 それよりフレニィカちゃんは大丈夫ぅ~?…て、あれ―――なぜにどうしてわたくしの事を警戒を?」


「そりゃあーまあーーパールヴァティ様本心“ペロッ”と言っちゃったもんだから…」

「いくらフレニィカちゃんとしても警戒しないわけにはいかないよねえ?」

「(んっ?)わたくし…そんな事言っちゃってました?」

「ええーーーまあ割とはっきりと。」

「『この娘はわーたくし達の可愛い玩具おもちゃなのですから』と、はーっきりと言われちゃったら例え私でもそりゃあ……ねえ?」

「の゛お゛お゛お゛お゛ーーーっ゛!ついあの女神おんなかまけるあまりに、わたくしで大暴露カミング・アーウチしちまいましたわあ~?ねえぇ~~~フレニィカちゃあん、今のウソよ?ウソウソ…決して“痛く”しないから―――“怖く”しないから―――“優しく”するからさあ~~このわたくしに総てをゆだねなさぁい。」

ハッキリ言って、目がコワイ…ある意味先程までのギラギラとした闘争の最中での女神様達とのとは違い…何だか、こうーーー何て言っていいんだろうか、私の貞操の危機?いやけど…パールヴァティ様は曲がりなりにも『女神様』なワケだしぃ……

「あ゛ーーーそう言えば大切な事を言い忘れていたわ、女神様の中にはな、『』も『』も両方“OK”な方もいるもんだよ。」

な…何故に今になってそんな事を?「あ、あのっ……ヴァヌス?」

「まあ多くを言わないが、『そう言う事』だ、健闘を祈る―――あとそれとパールヴァティ様、今回の報酬はでえ~ごゆっくりと堪能してくださいませぇ。」

う…売らりぇ―――た?ひ…他人ひとの貞操を何だと思っているんだ!お蔭でお嫁にけなくなったらどーしてくれるんだああ!


しかし―――まあ…大方の予測通り、私の怨み辛みなんぞは女神アルテミス様を撃退した女神様に届くわけでもなく…私はパールヴァティ様によっていい玩具ようにされてしまうのだった…。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


それから数日の後―――使命を果たして来た私の想い人が戻って来た、いやはやさすが…と言うべきか、違う環境だとしてもそれをものともせず使命を果たして戻って来る―――私も彼の事を…ベレロフォンの事を見習わないとな。

「おお、ベレロフォン!ようやく戻って来たか。」

「出迎えご苦労さん―――とは言え何も出迎えてくれなくてもなあ。」

「何を言っている、お前がいない間こちらは大変だったのだぞ、それを[勇者]たる私が何も問題なく解決したのだ、もっと褒めてくれてもいいのだぞ。」

「何を子供ガキみたいなことを言っている、それにお前ならば出来ると見込んだからオレは任せる事が出来たんだ。」

ううう~~~聞いたか?今の言葉!ベレロフォンがこの私の事をそこまで見込んでくれていたとは…んん~フレニィカ感激!


  ―――なんて、はしゃいでいた時期が、私にもありました(極僅かな短い期間ではありましたが)―――


そう…私は気付いてしまったのです、ベレロフォンがこの次元世界せかいから離れ、また別の次元世界せかいに渡った時には“一人”だったはずなのですが―――なんとこの度戻ってきた時には“あと一人”増えていたのです…と言うよりなんじゃこれえ~!?頭から生えた角2つぅ?て事は鬼人オーガですよねえ?私の知ってる鬼人オーガって想像するまでもなくいかつい人達ですよ?まあたまあに敵対する事もありますがーーーハーフ・エルフの私としては、『相手にしたくない』順位ランキング上位の方々ですよ…それがナンデスカ?この小娘―――いや“お嬢さん”ん?


この時私は紛れもなくこの鬼人オーガの女性に対して危機感を抱いていた、私の知る『いかつい鬼人オーガ』ではなく、花も恥じらい月も影を隠し好い匂いすら漂わせているまさしくの“乙女”なお嬢さんが“おまけ”で付いてくるだなんて、どうしてとぼしい想像力の私には出来るでしょうか!(いえ出来ません(反語(笑)))

ああああ~~~ベレロフォンのいない間に活躍したと言うのにぃ~それでベレロフォンから褒められたというのにぃぃ~~ちっとも嬉しくない―――と言うより寧ろ『乙女な鬼ッ娘』に(寝)取られるのではないかと言う危機感増し増しなのだがあ?


「初めまして―――わたくし鬼人オーガのカラタチと申す者です、ベレロフォン様に於きましてはあやうき処をお救済すくいくださり、いくら感謝しても足りぬと感じております、そしてわたくしが今ここにいる事情ですがどうやらわたくしが主神である武御雷たけみかづち様の不興を買ってしまったらしく、今までいた次元世界せかいを追放された次第、そこを不憫ふびんに思われたベレロフォン様の慈悲におすがりをし、こちらへと参ったのでございます―――何かと不束ふつつかな処がありましょうが何卒なにとぞよしなに。」


完敗だ!認め…られないが完全敗北を認めざるを得ない!悔しいぃ~忸怩じくじたる思いがあるがここまで礼儀作法に通じてしまっているのを見させられてしまってはそうするしかないだろう!

いや―――だが、まだだ…まだだフレニィカ!お前はやればできる子なんだ!その事は今回で証明できたじゃないか、だから―――だからこの鬼人オーガの乙女なんぞにベレロフォンをくれてやるわけにはいかんのだああ!!




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