第15話 額冠を失っても

[英雄]グロムと[勇者]マクスウエルの撃退に成功をしてから日を置かずに訪れてきた[英雄]オライオン―――私達の様な“ぽっ”と出ではなく由緒正しい系譜…女神アルテミスからの寵愛を一身に受けているからこその優秀さもそこにはあるのだろう。 それに私は知っている―――とは言え彼の英雄の事は所詮は『英雄譚』等の書籍や伝承の中でしかないのだが…そうしたものの影響を受けた私の中での心象イメージ、彼の[英雄]オライオンは見上げるような大男で鋼の様な体躯―――いわゆる筋肉で完全武装した様な身体の持ち主…を、想像していたのだが…


「フフフフフン―――ユーの様なプリチーなガールがミーの相手なのかあ~い?」


「あの、ヴァヌス…私が相手をしなければならないのって―――」

「言いたい事は、凄くよく判る……けれど否定をしたくともが現実、が女神アルテミスの寵愛を一身に受けている無駄に顔だけが好い変態男クサレイケメンなんだよ。」

私に辛辣な事を言ってくるヴァヌスが[英雄]オライオンの事をそう評していたのか判った気がした、確かに外見上は伝承の通り―――と、まあ取り敢えずは言っておこう…が、中身が?『変態』とはよくも言いおおせたものだ、外見上みてくれのうえではし―――好青年で美形であることは、まあ良しとはしよう…、なんなのだ?あの言動に“くねくね”とうねっている身振り手振りはああ!この際だからハッキリと言わせてもらおう―――『気色悪いキっショい』!なにより生理的に受け付けん!!こんなのがあの有名な女神アルテミスの寵愛を一身に受けているだなんて嘘だろう?

「チッ、舐められてんなあ―――それに嘘なんかじゃないぞ、現にああ見えてもヤツは強い、ああしたふざけたていを見させておいて油断を誘い、その隙に…てのはあいつがよく好んで使う手だしな。」

「あぁ~んらあ~ヴァヌスたらイケナイ子♡ これから一戦を―――って時にミーの情報をリークするだなぁんて…」

「てめーから『ちゃん』づけされるほど親しくしてねえつうの!てかいい加減そのキモ発言やめろや。」

私との一戦を交える前に場の雰囲気くうきは十二分に温められたと言った処だ、何だったらそのまま戦闘に入ってもらっても―――

「をい、そこの半端者の小娘、今下らん事を考えただろう…『このまま戦闘に入ってもらっても』―――とかなあ。」

「あ、あの…ヴァヌス?ひょっとして私が思考している事とか―――例えば…先程の『嘘じゃない』と言うのも。」

残念ザァンネンながら丸判りだよ、日頃お前が(私達の事を)どう思っているかも含めてな!」

な、るほどなああーーー筒抜けだった訳だ…それでは私に対して辛辣―――風当たりが強いのも納得が行くなあ…

だが、こんな莫迦なやり取りはしていても状況は全く変わっていない、[英雄]オライオンは私が所持している『美と愛と豊饒の女神の額冠イシュタルのティアラ』を奪う為にとこの次元世界せかいに現れているのだ。

それに先程からヴァヌスは警戒を解いていない、私とオライオンとヴァヌスとの四方山よもやま話によってそう言う雰囲気は判り難いようにはなっているが…依然としてヴァヌスはオライオンに対して厳しいまでの視線で牽制をしているし、オライオンも……


            ―――眼が、笑っていない?―――


「何をやっているバカ!さっさと気を通――――」


私が“ぼう”としている間にヴァヌスは吹き飛ばされた、一体何によって?

「イっケないなあ~?ヴァヌスちゃあ~ん?このミーを前に余所見よそみをするなんて…あーんがい舐めてんのはユーの方じゃないのかい。」

[英雄]オライオンは、女神アルテミスの寵愛を受ける以前は優れた猟師・狩人でもあったと言われている、では彼は何によって獣を―――獲物を狩っていたのか、やはり寵愛を受けている【銀嶺の神弓をたずさええる月陰の処女神】アルテミスと同様『弓矢』なのだろううか?否―――彼が獲物を狩る為に得物としていたのは『棍棒』…武器屋や鍛冶屋によって創作されるそんな武器モノよりも、その辺に落ちている木の枝や大木を引き抜いて武器に出来る自然が産み出した武器ネイチャー・ウエポンでもある…そしてその武器種を究めるのはそう難しくなく、総じて膂力りょりょくの強さで決まると言う。

そんな武器モノの直撃を受けた―――油断をしていたとまでは言わないものの、私の所為で…私に注意をした所為で反応が遅れてしまった、その為にヴァヌスは吹き飛ばされた―――「ヴァヌス!」

「ほうら言わんこっちゃない、ユーも[勇者]だったら判るだろう?一瞬の気の迷いが生死を分かつ―――って…」

勇者]よりも強いヴァヌスがオライオンからの攻撃によって吹き飛ばされた……その後も“ぴくり”とも動かない、死んではいないだろうがこのまま戦闘を続行させるのは不可能なものと見えた、対して私は―――目の前で起きた現実の“非”現実なものを見させられて未だ混乱、忘我の境地に立たされていた。

しかし―――そんな相手に敵は容赦はしない…する道理もない、それに目の前の事に気を捉われ過ぎて我が身の事も儘ならなかった、まだ『美と愛と豊饒の女神の額冠イシュタルのティアラ』に私の“気”を“通”していない状態で―――あろうとも…[英雄]オライオンには攻撃の手を休める理由などどこにもないのだ。

そんな状態で―――≪通力つうりき≫を発生はっしょうさせていない状態で後頭部を鈍器でしたたかに打ち据えられてしまった…(攻撃を)“受ける”構えすらせずじかに喰らってしまった、脳震盪を起こし白目を剥きながら地に沈んでしまった私……最早説明の余地すらなく女神エレシュキガル様から頂いた額冠ティアラは奪われてしまった。


          * * * * * * * * * *


次に私が目を醒ましたのは『酒場ヘレネス』のヘレネの部屋だった、隣りを見るとヴァヌスもいた、それに額に手を当てるとあるべきはずの物が無くなっていた…そう、この時に彼の額冠ティアラは彼の英雄に奪われたのだと認識するに至ったのだ。

悔しい―――情けない……あれ程事前に言われていたにも拘らず私はむざむざと女神様から頂いた物を奪われてしまった、しかも相手とする人物の奇をてらった行動を目の当たりにして警戒も碌にはせず、そこをヴァヌスが注意した―――その隙を衝いてオライオンは≪強撃≫を発生はっしょうさせたのだ、その後もいけなかった…そこで本来ならヴァヌスに注意を向けず額冠ティアラに≪通力つうりき≫を行っていれば良かったのだ…ただ、それはもう今となっては遅きに失しているわけなのだが―――

「おや、無事なようだね。 悔しさ余って涙を流せるくらいには…ね。」

「ヘレネ―――私は…私……はっ!至らない[勇者]で申し訳ない…もう二度と敗北をしないと誓ったのに…それにヴァヌスに対してもっっ―――!」


「何を感傷的になってんだバぁ~カ。」


「(ギョッ!)ヴァ―――ヴァヌス!?気が付いて…」

「ったくあのバカ―――手加減しねえな。 まあ、のは否めないにしても、だ…ただこの“借り”はすぐにでも返してやる。」

「(へっ?)あ、あのお~ヴァヌスさん?今あなた…『状況がこうなるように仕向けてた』って仰いませんでした?」

「あ?ああ言ったけど―――何だお前、気持ちの悪い喋り方をするんだな。 少々“こんらん”してるにしても何なんだその『お嬢』言葉は、鳥肌サブイヴォが立って来るじゃないか。」

「へ―――ヘレ…ネ?」

「ま、言っちゃうとさ、おおむね計画通りてなわけなのさ。」

「ナニ?その…『ここまでは』って、もしかして額冠ティアラが奪われるのは予定の内―――だったり?」

「ほおおそこまで判ったのなら話しは早い、私もあのバカに殴られるのに色々加減をしなきゃならなかったからな。」

悔しい―――情けない!(※先程とはまた違った意味合いニュアンスで) オライオンからキツぅ~い一発を貰って“ぴくり”とも動かなかったから心配したものだったのにぃぃ~それに女神様から頂いた額冠ティアラもむざむざと奪われてしまって失意のどん底に沈んだものだったのにぃぃ~~!「けど…安心したあーーー私の所為でヴァヌスに万が一の事が起こってしまったら、私はどうやってベレロフォンに顔向けしていいやら判らなかったしな。」

「(…)ふううう~ん―――なあんだか可愛い事を言っておくれのようだねえ~?」

「なんだ“ハガル”その眼は―――曰くありげな視線を私に向けるんじゃない!それより“状態”はどうなっているんだ、重要なのは寧ろそこでしょうが、その為に私はあの無駄に顔だけが好い変態男クサレイケメンからの一発を喰らったんだからな。 い~い?判ってるか?この言葉の意味するところが!」

本来なら、[勇者]である私の為に色々な補助サポートをこなしてくれるのはヘレネのはずなんだが?何故かこと戦闘に関してはヴァヌスの方が世話を焼いてくれいると言うか…まあ、ヴァヌスが本来補助サポートしなければならないのはベレロフォンなんだが、あいつ―――彼は彼で既に熟してるしなぁ…だから戦闘面での補助サポートをしないかわりに私に向けてくれているというのか?けどそれはそれであり―――

「『ありがた迷惑』なんて思った時点でブッとばしてやるぞぅ…」

そう言えば―――私(達)の思考を読めるんでした…


「あ~…それより先程の台詞なんだが、私に与えられた『美と愛と豊饒の女神の額冠イシュタルのティアラ』は彼の[英雄]に奪われるのが計画の内だった―――の、ですか?」

「いい加減に(私達に)気を使っているような発言は止めろ、気持ち悪くて敵わない…まあそれについては―――“ハガル”。」

「まあ―――『計画』って言うよりは、寧ろ『予定調和』と言った方が良いかねえ?」

「(な!?)私の身の回りで起こっている事物じぶつが…すでに神によって定められていたと?では女神ヴァニティアヌスはここまでの事を見越して―――」

「(…)それは―――違うよ。」

「(え?)だが…この世界を創世し私達をお創作つくりになったのは女神ヴァニティアヌスだろう?なのになん―――で…」

そこで私は至ることが出来た―――至って、しまった…そうだ今回の一連の事物じぶつが女神ヴァニティアヌスの計画の内でないとすれば…「女神エレシュキガル様―――」

「まあそう言う事だ、我等が主神ヴァニティアヌスも言ってみればエレシュキガル様の従属神の一柱ひとりだものな。」

「そんなお方の目に留まって―――あまつさえ試練の突破、しかもあの方自身の妹神いもうと様から取り上げた額冠ティアラをフレニィカちゃんにあげちゃうんだものねえ~?そりゃあーーーヴァニティアヌス様にとっちゃ面白い話しじゃないんだろうけどさあ?」

「一つ―――勘違いをしている様だから今の内に払拭させてもらうぞ…フレニィカまさかお前は折角エレシュキガル様から頂いた額冠ティアラを『奪われた』―――なんて思ってやしないだろうな。」

「そ…それは当然だろう、あんなにも美しく装飾された―――」

「ほぉーらやっぱりだ、勘違いしてやがったみたいだ。」

「(へ?へ??)あの…それはどう言う?」

「『額冠あんなモノ』は所詮―――単なる“飾りオプション”に過ぎないのさ…何の事を言ってるのかだって?だったら……今すぐにフレニィカちゃんの魔力をめぐらしてみなよ。」

なんとも不思議な事を言うものだ―――と、その時は思っていた、現にエレシュキガル様から頂いた額冠ティアラは奪われたわけだし、私の≪通力つうりき≫も額冠アレ無くしては発揮できないものと、そう思っていた―――けれど『試しに』とそう思い、いつもの様に私の魔力を通じ……「(…な!)こっ―――これは一体?!」

「はあ~どうやら“間一髪”―――て処のようだねえ~?」

… そいつこそがエレシュキガル様から賜った“褒美”の全容 ―――『魔鎧まがい』…」

「これが本当のエレシュキガル様からの“ご褒美”だったと?だったらあの額冠ティアラは……」

「まあ、“好餌いいエサ”にはなっただろうよ、あの方の所蔵する神装武具アーティファクトの一つが『この度流出する』…それを『この機会に』と目論んでいた女神に漏洩リークさせる…そこへと釣られたって訳だ。」

「あ…あの~お?二・三質問……よろしいでしょうか。」

「だからヤメロやそのキモ発言―――で、一体何が聞きたいんだ。」

「ひょっとして~アルテミス様とエレシュキガル様って―――仲が悪い?とか…」

「あーーーそう言うのはだねえ…どちらかと言うと無関係?」

「て、言うよりだな、アルテミスと仲悪いのはどっちかと言えば―――」

そこで、私は今回の事の真相にあたった…て言うよりヴァヌスとヘレネから聞かされた真相とやらはヴァニティアヌス(や、私達に)は関係ないように思うんだけど?「あ、あの…それって私達は―――」

「『とばっちり』―――とまあ悪く言えばそうなんだけれどな、とは言えエレシュキガル様もとは協力関係結んでいるから断り切れなかった―――」

「おんやあ~?私から見たらむしろ喜々として乗っちゃってた気がしたけどねえ。」

「その辺を私に聞かれてもなあ…まあとの関係は古来むかしからねんごろだって聞いていたぞ。」

そう、女神アルテミス様と絶望的に仲が悪いのは、女神伊弉冉様と女神パールヴァティ様…このお三柱さんかたはその古来むかしなにがしかのいさかいを持ち、それ以来敵対関係にあると言う―――しかしそこへ女神エレシュキガル様も巻き込まれ?(と言うより自ら巻き込まれに行ったという解釈が正しいか)その内なし崩し的にエレシュキガル様の従属神でもあるヴァニティアヌスも巻き込まれた―――と言う処の様だ。

しかし―――何と言っていいのだろうか…ヴァニティアヌスの使徒である“シギルヴァヌス”と“ハガルヘレネ”まではまあ判るとしても、眷属たる私達も巻き込まれている?これは納得“いく”“いかない”の前にせめて[勇者]と[英雄]私達には伝えておくべきではないのか?


「それより―――見物みものだなあ~?“戦利品”を持ち帰ったら案外『普通の装飾品でした』あ~なんて事に気付いた時のの顔を想像してみろよ。」

「はあ~案外あんたも底意地の悪い所があるよねえ?」


私がそうした疑問に駆られていた時、またヴァヌスが妙な言い方をしたのだ―――そう『あいつ』と…それをなぜ私が妙に感じたのかと言うと、これまでの話しの流れで女神アルテミス様、女神エレシュキガル様、女神ヴァニティアヌス、女神伊弉冉様、女神パールヴァティ様五柱ごにんの相関図と言うものは知れた、その後に『あいつ』―――と言うのは女神アルテミス様の事を指している?しかしなぜ…おもだったるエレシュキガル様の従属神の使徒如きが主神格しゅしんかくと同格位の神を…?!「あ…あの―――それよりだな…」

「それより、は一層気を引き締めてかかれよ…今回掴まされたのが“フェイク”だと知れたら、今度はお前を直接狙いに来るんだろうからな。」

「(な!)なぜそうなる!私は混血ハーフではあるもののこの世界に産まれた事に誇りを持っている、未だ至らずながらも[勇者]としての本分を全うしようとしているのに、それをなんだ今の言い方では私を―――」

「そうさ―――『攫拐さらい』にくるんだよ…それを今更『非人(神)道的』とでも言いたいのか?けどな、古来むかしからよくよくなされてきたんだよ。」

「そ―――ん、な……」

「それに、は、さ―――主神エレシュキガル様の治める『冥界』の、それも割と辺鄙へんぴな場所には位置してるよ、けどねえ…それは―――」

「言ったらここは『一丁目の一番地』て処だな、つまり『冥界』への出入り口に相当する…て事は、だ。」

「『入る』にしても『出る』にしても厳しく目を光らせないといけない…まあ“シギル”は『警らパトロール』担当、そして“ハガル”は『防衛ディフェンス』担当…」

「まあ運良く私を抜けたとしても『[魔王]ヘルマフロディトス』が背後に控えているからな、言ったら『お気の毒様』ってヤツだ。」

「本来ならベレさんもいてくれりゃあ楽できるってもんだけどねえ。」

「今いないヤツの事を嘆いても始まらんだろ、それにあいつは―――」


その時―――私は見逃さなかった…ヴァヌスの瞳に映った寂しさと言うものを、それはどこか今まで手塩にかけた子供が独り立ちをする為に親に背を向けて巣立っていくそのさまを見届けている……?



              な   ぜ   ……  



私はでその様に感じたのだろう、ヴァヌスはその身のあやうきを[英雄]ベレロフォンによって救済すくわれ―――以降はベレロフォンが[英雄その]名の下に保護・庇護していると……

いや、待て?なぜ私はそう思っていたのだ?『周りの皆がそう思っていた』から?『ベレロフォンがそう言っていた』から?『ヴァヌスが魔族の幼生体少女だとそう思っていた』から……?

浮び上れば浮び上るほど様々な疑問が湧き立って来る、そもそもヴァヌスは『魔族の幼生体少女』なのだろうか―――あの身体のちいささで『いにしえの[英雄]“ハガル”』?もしかするとヴァヌスは姿で既に―――

するとこの私が何を考えているかまるて判ったかの如くに、ちいさないにしえの[英雄]は幼生体らしからぬ眼差しで私を見つめていた。

「なにを下らない事を妄想してるんだか…今はそんなことに気を回すよりもこれから来るって言う無駄に顔だけが好い変態男クサレイケメンの対応策でも考えてろ。」

少し『ムッ』としたような感情が見て取れるような表情―――の割りにはそんなには怒っていなかった…それよりも私の思っていた事を『下らない事』と切り捨てた―――


          まさか―――    ……


「なあにを呆気ているんだよ、“シギル”はあんたに―――これからあんたの前に現れてくる連中は一筋縄では行かない―――と、こう助言アドバイスしてるのさ。」

「なあ…ヘレネ―――ひとつ、聞いていいか。」

事なら、ね。」

「私達の創世神ヴァニティアヌスは―――」

「そいつは、今ここで語っていい事じゃない…何より、そう言う時機じゃない。」

「『そう言う時機じゃない』?それじゃ何時いつ―――何時なんどき?」

「『今は』さ、フレニィカちゃんを狙って数多あまた有象無象うぞうむぞうがヴァニティアヌス様の次元世界せかいに押し寄せて来ようって言うんだよ、そんな時にそんな雑談をしてる暇なんざない―――少なくとも一段落着いた頃には…」


   ―――あの方ご自身から話しがある…かもしれないだろうさ―――


結論だけを言うと『答えられない事』―――だからヘレネは言葉を濁した、『時機じゃない』からと、『数多あまた有象無象うぞうむぞうが押し寄せてくるからそんな話をしている暇などない』からと…、辿り着けた推論―――魔族の幼生体少女でありながらも『いにしえの[英雄]“シギル”』の名を持ち、私達の創世神である女神ヴァニティアヌスよりも神格が上の方とも面識がある、その上[英雄]ベレロフォンに妙に懐いていて彼が独り立ちするとなった時妙に寂しそうにしていた…そう―――

だからそこで私はヘレネに問いただしてみたのだ、女神ヴァニティアヌスの正体について。


           * * * * * * * * * *


私達が知っている女神ヴァニティアヌスの姿とは、美麗にしてたおやかな印象を与える―――そうした女神“泰然”としたお方だと思っていた、しかし眷属達わたしたちがそう思うのも無理らしからぬ処があり、教会から発行される印刷物だとか、教会に建立されている彫像や石像だとか、読み物の挿絵とかに描かれている画とかがそうした想像に駆り立てるのだ、そう言う事だ―――眷属達わたしたち…女神ヴァニティアヌスのお姿と言うものを、見た事がないから既存の画などの媒体によって刷り込まされている…?だから問うたのだヘレネに―――女神ヴァニティアヌスの正体ことを、だが彼女は一切その事には触れず事の一段落が着いた頃に『ご本人様から話しがある』―――と言って来たのみなのだ。

これでは何の確約も取れていない、が(私に対して)旋毛つむじを曲げたままでは一生話されない確率の方が大きいのだ、あんなにも私に辛辣で―――あんなにも私には厳しいが、真相を?

は、は―――いつの話しになるのやら…まあここ近日中でないことは確かだな。


    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そう、思っていたのだが―――以外にも事の真相は早くも知れてしまうのだ、それもヴァニティアヌス本人ではなく……

「ず~いぶんとやってくれちゃったわねえ~~~ヴァヌスちゃあ~ん…いや―――、このミーに“フェイク”を掴ませるだなんて、お仕置きが必要のようね。」

お前が言うのか!無駄に顔だけが好い変態男クサレイケメン!まあーーー私も直前に知ったものだったがな、お蔭で『疑問』が『確信』に変わったよ。

「このヤロウ…あっさり私の正体暴露バラしやがるなんて、おい覚悟出来てんだろーな!」

こっちはこっちで『イキナリ“身バレ”』された事でオカンムリ…しかしーーー眷属達わたしたちにも虚偽ウソってどうするの?

「フフン…けえ~ど、ベレさんいなくて実は『ホッ』としてるんじゃなあ~い?」

「戯れ言はそれまでにしとけよ…ヘルマフロディトス、むこうサンも前回の轍を踏まえずちゃんとして来てやがる…恩恵ファルナム―――≪女神の寵愛≫、アレによって一点突破を図ろうって寸法らしーが…」

「随分とまた、舐められたもんだねえ…ねえ?解放しちゃっていいかい、我等が主神しゅよ…」

「ああ―――とことん暴れな、その承認をこの私がしてやる!〖眼前の敵を駆逐せよ、我が使徒“ハガル”〗―――」

今回敵として現れた[英雄]オライオンによってその正体を暴露身バレされた女神ヴァニティアヌス、そしていにしえに女神によって折伏しゃくぶくされた[魔王]ヘルマフロディトス…この一柱ひとりと一人は主従の契約を結んだその時から、女神エレシュキガルが君臨する『冥界』への出入口を守護する者達となった、それが紆余曲折を経て現在では『いにしえの[英雄]“シギル”』と『いにしえの[勇者]“ハガル”』として語り継がれてきた、その創作話おはなしはこの次元世界せかいの老・若・男・女問わず知っている―――しかし事の真相を知っている者達は意外と少ない…けれどそれは女神自身が自分の創造つくった次元世界せかいを侵されない為にと日々を奮闘していった結果だと言う事は日常の生活を暮している者達には関係がないのかもしれない―――それは[勇者]や[英雄]私達にも言えた事…ベレロフォンを見ていて判る、彼は何も賞賛が欲しくて[英雄]となったわけではないと、だとしたら私の進むべき道は……





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