第14話 逆しまの転機

「この度は我等があやうき処を救済たすけて頂き、ありがとう存じ上げます。」

一見すると“清楚せいそ”にして“貞淑ていしゅく”、しかしながらその裏面性りめんせいには“妖艶ようえん”かつ“蠱惑こわく”を持っているこの次元世界せかいのクナの[神主]―――『クシナダ』、オレとベアトリクスはこの女性とは初対面にして初見なはずなのだがどこか既視感のあるこの女性の事を怪しまれずにはいられなかった。 それに『神社』や『教会』と言った処は『神』をたてまつる場所、そう言った処は本来“清”らかにして“聖”なる場所なはずなのだが、この[神主]にしろ[大司祭]にしろあふれんばかりの魅力を隠しきれていない―――と言っておこうか、まあ…目のやり場に困ると言った処だ。


           ―――それはそれとして―――


「オレがこの世界に呼ばれた事情、話して貰わなくても判っている、丁度そう言った場面に出くわしてしまったからな。」

「その通りにございますクシナダ様、わたくしの至らなさで今回もまた敗退を余儀なくされた折、この方々が駆けつけて下さって…」

「それは本当に―――どうお礼を申し述べてよろしいやら…本来であれば私共の願いを聞き届けて下されただけでも吉事きちじなのに、よもや到着されてすぐに対応して下されるとは。」

「それがオレのやるべき事だからな、お礼を言われるまででもないさ。 それよりこれからここにご厄介にならさせて頂く、よろしくお願いする。」

「(……)私も、よろしくお願いするわね。」

決して―――おごる事はせずむし謙虚けんきょ、こちらから無理を言ってお願いをたてまつったものなのに…久方ぶりに『おとこ』と言うものを垣間見れた気がしました。

この国、わたくし達の国にもそう言った者達は沢山いました、けれど優秀な者ほど早くにたびだってしまう…そうした影響もあり現在の劣勢に繋がってしまっているわけなのですが、ようやく―――ようやく反撃の機会が巡ってきたように思えます。


          ―――それに…この方ならば―――


        * * * * * * * * * *


一方その頃のオレ達はこの世界で寝泊まりする場所に案内をされていた、その場所とはこの『五稜』と呼ばれる『汎人類同盟ヱミシ』の本拠の中にある『花神社はなかみしゃ』だ。 この神社はどうやらこの本拠の心臓部―――いわゆる『大本営』的な役割を担っていて、やはりそれをになえるだけの堅牢けんろうな造りにはなっていると言うべきか。

とまあ前置きはこれまでにしておこう、それというのも『次元の魔女』ベアトリクスの機嫌がすこぶる悪い、それもあの『クシナダ』と名乗った[神主]と出会った辺りで…それにオレもあの[神主]にはどうにも既視感が否めない、初対面・初見であるはずなのにどうしてもそう思えない―――それは恐らくこの魔女もそう感じているから……「少しいいか、『次元の魔女』。」

「なあに、ちょっと今頭の整理してた処だったんだけど。」

「なあお前、まさかとは思うが―――あの[神主]の事を知っているんじゃないのか。」

「ああ…まあ……けれど、とは言ってもその事を口には出しがたいわ、『他人の空似』と言う事もあるわけだし。」

「そうか―――じゃオレと同じだな…」

「あんたも?」

「ああ、オレの場合はお前と会う以前―――オレの次元世界せかいの教会の[大司祭]とやらが恐ろしくよく似ているんだ、美しさ漂う中にも決して気の抜けない―――その印象そのままがそっくりそのまま、こんな違う次元世界せかいで…なんてなあ。」

「なるほどね、私の場合は―――そうね、私と運命の出会いを果たした友人の世界で、その世界も別の世界の“神”とやらから狙われててね…その世界を護る為にと協力を迫って来たヤツ等の中に似た者が…ね。」

「その言い様穏やかじゃないな、ひょっとすると脅されたのか。」

「『脅し』―――ねえ…何だかその言い方でも生温い気がするわ。」

そう、私はそれでもやらざるを得なかった…そのヤツ等は私を捕まえようと躍起になってる連中からの依頼によって私を捕まえに来たヤツ等でもあった、けれどヤツ等自身の調査によりその世界が置かれている立場を知り、ヤツ等の請け負った依頼を反故ほごする代わりに言う通りにする…もし言う通りにしない場合は―――と言うお定まりの話しを持ち掛けてきたのだ。

それに私も追われる立場に疲れていた事もあり、また友人の世界の心温まる心地の良さもあり―――私の“以前”を暴露バラされては適わないと思い言うなりになるしかなかったのだ。


そんなヤツ等の中にいた“一人”―――これは後から知った事なのだが、どうやら例の話しを捻り出したのが……「ねえ『静御前』、少しお話しをいいかしら。」

「(……)ああ、私の事ですか。 ですが私は『クシナダ』と申し上げます、決して『静御前』なる方などでは…」

「ええ、そうね―――間違えてしまったわごめんなさい。」

フフ…フフフフ――――に鎌をかけるとは…さすがは魔女と言った処のようね、『virtor』。 だけど私の方から『はい、そうです。』と言わない限りはあなたのは所詮妄言もうげん―――なにしろこの次元世界せかいでの“私”と言う人物像は水溶紙オブラートが水に溶け込むように浸透させてきたのだから…だから、うふふふふふ――――精々私を愉しませてご覧なさいな、[英雄]の“彼”と共に…


      * * * * * * * * * *


そんな日の夜、動きがあった。 しかしその動きは“敵”側ではなく“こちら”……


「あの、夜分やぶんに申し訳ございません―――」


肌の透けて見える様な薄衣うすぎぬ一枚を羽織った有角人ゆうかくじん族の[かんなぎ]がオレの寝ている部屋へと来た、『どうした?』等と言う野暮な事は言うだけ無駄だ、それにであるかも判っている為オレは彼女を部屋へといざない込んだ。

「あ、あの―――この国の古きからの習わしで、[かんなぎ]は願いたてまつったるをけて下された方にみさおを捧げよ…と。」

まあ、そんな処だろう―――よくありがちではあると思うが、残念ながらオレにはそんな気はさらさらない。 彼女が貞操を選ぶ自由は理解し納得もしよう、例えそれが[神主]にそそのかされたとしてもだ。

だが、オレには彼女の貞操を散らす気などは毛頭も持たない、その理由とは我が育ての母にして人生の師でもある女神ヴァニティアヌスから訥々とつとつと説かれたからだ、そのヴァニティアヌスが言うのには大凡おおよそ[英雄]の類は“女難”と“酒難”が付き纏う―――それだった、それにオレにはもう心に決めている“女性ヒト”がいる…適わないかも知れないが適うようにして見せる、それが『恰好が好い』と言う事なんじゃないのかな。

「あの…わたくしを抱かないのですか。」

「申し訳ないがオレにはその気はない―――『据え膳食わぬは男の恥』とは言われるだろうが、オレには既に心に決めている“女性ヒト”がいるものでね。 それにあんたの今の格好だ、そんな姿で部屋の前に立たされんぼのままだったらあんたも恥を掻くだろう、そうならない為にもと部屋へと引き入れたワケなんだが…それよりもあんたはもうちょっと自分と言うものを大切にするべきだ、このオレなんかにささげるよりも、もっと相応ふさわしい相手がいるだろう、そうした相手にささげるべきじゃないのか。」


              ―――この方は…―――


「それにオレは、オレの次元世界せかいでは【悪堕おちた英雄】とも呼ばれている。 そんなオレと関係を持つと言うのはあんたの女振りを下げてしまう事にもなるぞ。」

「『相応ふさわしい相手』…ですか、そんな相手はいませんでした。 以前にも申し上げた事もある様に敵方の『邪神』側にはわたくしと同族である鬼人族オーガもいます、それにそれは何も有角人族私達に限った事だけではありません、『狐人族ルナール』も『狼人族ヴェイオ・ウルフ』も『猫人族キャット・ピープル』も『兎人族バーニィ』も…しくも『邪神』により割かれてしまったのです、しかしながらわたくしの不手際もあり同志達も多く討死して逝く始末…ならばこの身をもって―――この身をささげて多くの同志達を増やさなければと…。」

「それでオレの部屋を訪問したと、確かにあんたの決意のほどは受け止めさせてもらったが、それでも―――」と、飽くまでオレは突っ張ねるつもりでいたが、彼女の方も必死だったのだろう、やおら羽織っていた薄衣うすぎぬを脱いだのだ。

「観て―――下さい…これまで誰にも触れられた事のない、また視せた事などない清らかな“わたくし”を。」

普通なら、恥ずかしい部分は手で覆い隠したりするものだ、だがこの[かんなぎ]はそうしなかった…それほどまでに、固く決意した姿の彼女のありのままが、そこにはあった。

それに普通ならば放っておくのはない―――それこそ『据え膳~』でもあるからだ、ただそれでも彼女を抱く事はなかった…なぜなら―――

「敵襲よ!ベレロフォ……あんた達何をしてんの。」

「こんな状況でなんだが弁解する機会をくれ、決してやましい事はしていない、それより敵襲だと。」

「ま、言いたい事は色々とあるけれどさ…それよりも、そうなのよ―――この市街近郊に未明の集団が近付いててね。」

「判りました、ならば早急に対応策を練りましょう。」

腰を据えているオレの前に、一糸纏いっしまとわぬ女性がたたずんでいる―――こんな状況を見て怪しくないと思わないはずもない、ベアトリクスの台詞セリフも妥当と言った処だ。

だが風雲急を告ぐ―――なんとこの五稜の近郊に有角人ゆうかくじん族の[かんなぎ]達とは異なる未確認の集団が迫っているとの事だった、しかし本来であれば彼女達の本拠でもある五稜まで到着するには『関門』と言うものがもうけられているはずだ、それに『関門』というものは不審なモノを見つけた場合に中央へしらせなければならない役割をになっている。 不思議に思えたのはそんな『関門』からのしらせがないままに易々やすやすと抜けられるものなのだろうか―――…

だが[かんなぎ]の対応は早かった、この本拠がいずれ戦火に巻き込まれるものと想定はしていたのだろう、だからその為の対応策を練ったものだった…


この五稜は星形の形状を為しており、一つの角郭かくの攻略にかかった折に対角の角郭かくから迎撃の為の射撃が行える―――まさに攻防一体のていを為していると言っていいだろう、とは言え『汎人類同盟ヱミシ』の勢力はじり貧だ、これまで私達が駆けつけてくるよりも以前に多くの犠牲を出し過ぎた―――この一語に尽きるだろう。 そう、例え堅牢けんろう城塞じょうさいであろうとも人手はるものだ、その人手がこの勢力には圧倒的に足りていない…それが優秀な防衛機能を備えていても人手の薄い所を集中的に狙われては―――

「一の角郭かく陥落おちたようね、敵が徐々に侵入しつつあるわ。」

「なあ、ひとつ聞いていいか。」

「―――なんでしょう。」

「あまり思いたくはないんだが、こちらに内通者がいたって事はないんだよな?」

そのベレロフォンからの意見を聞いた時、有角人ゆうかくじん族の[かんなぎ]の表情が強張こわばった。 そう、いたのだ―――我が身可愛さの保身と言うべきか…いえ、そんなんじゃないんでしょうね、恐らくその者も彼女と志を同じくする者…ただこうも苦しい状況に置かれ続ければ現実から逃避にげたくなる気持ちも判る―――判る…が、その判断は果たして……

「すまなかった―――今のは忘れてくれ、そう言えばむこうさん側にはあんた達と同じくの種族ものたちもいたんだっけか…そりゃここの内情もよく理解でき―――」

「いえ、ここは正直に申すべきでしょう、その通―――」

「だから『すまなかった』と謝っている、少しばかりオレの方も先走りし過ぎた。 それにオレ達はここの次元世界せかいに来て日も浅い、そんなヤツが知った顔で何を言っているんだって話しだ。」

「いえ―――ですから…!」

「あんたも自分の立場をわきまえるべきだ、この勢力の支柱であるあんたがそれを広言してどうする。 今まで信じ合えて結束していたモノがそれを機会に瓦解がかいしてしまうぞ。」

「そうね、そこを考えるとあんたの意見て酷いと言ったものじゃないわ。」

「だから謝っているだろう―――今回の事は不要な事を言ってしまった。 ついては、ここはオレに任させてもらおう。」

この方は、そうする為に敢えての失言を?その意図も見抜けずわたくしは―――


わたくしは―――もう、ダメかもしれない…ここまでわたくし(達)の事を考えて行動をしてくれる方に、慕わない方がおかしいではありませんか…滑稽こっけいでは、ありませんか。

確かにわたくしはこの直前に[神主]様からの助言もありわたくし自身のみさおを捧げようとしていました、けれど、[神主]様からの助言がなくともこのみさおはベレロフォン様に捧げたくも思っていた―――その最中さなかにこの騒ぎ、きっとこの騒ぎもの[英雄]様の働きにより収まる事でしょう、ならば行く行くは…


       * * * * * * * * * *


その一方オレは五稜のなかにある汎人類同盟ヱミシの大本営とも言える『花神社はなかみしゃ』に通ずる一本道の途上にいた。

これは至って“単純シンプル”な挑発だ、『ここから先へ行きたければオレを倒していけ』―――そう言ったたぐいのものだ、ただむこうさんにはこの手の挑発に別に乗らなくてもいい、乗ってしまった時点で貴重な戦力と時間が損なわれてしまう可能性もあるからだ。

ただ―――そう…オレが知っている鬼人族オーガならばこの手のたぐいに容易に乗って来る、つまりこれは“賭け”だ、しかも五分五分―――乗って来るも来ないも場の雰囲気くうきによる…

「フン、安い挑発だな。 こんな一本道で我等を迎え撃とうなどと…その心意気は買ってやろう。」

「フッ、お心遣い感謝する―――てな事を言うオレは頭がおかしいか?」

「いいや?むしろそれこそ武人の本懐ほんかいと言った処よ、こう言った絶望的―――大軍を前に物怖ものおじせず、むしろヒリつく感覚を常に浴びている…心地のいものだろうて。」

「なあ、少し雑談をいいか…何故あんたの様な生粋きっすいの武人が彼女達と敵対をしている、オレからしたらそちらの方が不思議なんだがなあ。」

「判るまいよ…異世界からのお客人よ、この次元世界せかいはな、ぬしらが知れもしないような事があるものだ。 まあと言えば判り易いか。」

「お互い辛いもんだな、オレ達は自由に選べているようでそうではない…オレも上の者からの命令によって動いているに過ぎない。」

「だが、感謝をしよう―――我が前にこれ程の強敵を用意してくれた事を…」

オレの目の前に現れた黒き鬼人族オーガは、その外見上でもそうだが雰囲気でもかなりな武辺を積んでいる事が判る猛者中の猛者だと言う事が判った。 しかも武辺だけでもなく知性のある喋り方―――[かんなぎ]達の勢力が劣勢になるのも納得と言った具合だ、そんな猛者中の猛者が見えいたオレの策に乗ってくれた、その事には感謝をせねばなるまい。

それに先程も言ったようにこれは“賭け”だ、敵が余程賢くない限りはこの手の挑発に易々と乗ってくれた事だろう、だが哀しいかな―――

そう、こいつならわざわざオレの挑発などに乗らずにさっさと花神社はなかみしゃを攻略すればいい―――だが敢えてこいつはオレの挑発に乗って来た…

「ヌハハハハ!あの姫巫女ひみこ大概たいがいよくしのいでいる!だが哀しきは圧倒的な人手不足よ。 あの者の奇策も人手あってのもの…それが不足したとあらばたとい成功するものも成功出来んだろうて、まあ…≪万人敵ばんにんのてき≫がいたらば、その限りではないだろうがなあ…。」

「あんたには、に足らないと?」

「ん?フフン…我も持っておるぞ?≪万人敵ばんにんのてき≫を…」

「そうか、ならばこうしよう。 オレと『決闘』をしないか、あんたが勝てばオレはこの戦から手を引こう―――だが…」

「我が敗けたらそちらへ着けか…構わんぞ?あたら勝ちの見えいた戦など興醒きょうざめもいい処だったものだ、そこへ―――ぬしだ。」

「言っておくが、オレは何もあんたのさ晴らしの為にこの次元世界せかいへと来たわけじゃないぞ。」

「判っておるわ、そんな事…それより四の五の言わずさっさと始めるとしようぜ。」

オレからの『決闘』を受けただけあって、そいつ―――『シノギ』は強かった、このオレもオレの次元世界せかいで様々な強敵と渡り合ってきたがその中でも一番だ。

オレのたずさえる剣を折れんばかりにと振り下ろされてくる“膂力りょりょく”にしても、オレから繰り出す剣撃を避ける“敏捷びんしょう性”にしても“機動力”にしても、そのどれを取っても今までの相手とは一線をかくしている。

だとてオレも『決闘』を言い出してしまった手前てまえもある為手加減はしないつもりだ…


          * * * * * * * * * *


おとこ勝負にきょうじているベレロフォンを余所よそに、私は少々考察を巡らせていた…それというのも今回の襲撃の時機タイミングが余りにも良過ぎるのだ、その事をベレロフォンはヱミシの内に『内通者が…』と言った処だったのだろう、その事に過敏に反応してしまった[かんなぎ]…あの様子では満更嘘ではないみたいだけど、私はについて目を向けていたのだ。


   ―――その私がとしていた事、それは…―――


「あら偶然ね、【崩壊】…」

「やはり…あなただったのね―――【干渉】。」


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


大母様おおかかさま、どうもこのたびはお手を煩わせてしまって…}

{いいのよ、武御雷タケミカヅチ。 あなたもの血を引く可愛い子だもの、そんな子の嘆願を聞き入れずにしてどうしてか母と名乗れましょう。}

{それにしても迂闊でした、よもやあのような邪神が我が領域を侵そう等とは…}

{それは違うわよ?武御雷タケミカヅチ、だってあの邪神ものの尖兵に過ぎないのですから、ね。}

大母様おおかかさまおっしゃられるとは、まさかっ―――!}

随分と、気のいた事をしてくれたものね…『アルテミス』、以前別の次元世界せかいで貴女に一杯喰わせた事が余程気に入らなかったのでしょう。 その意趣返しに―――と、子神こども一柱ひとりでもある武御雷タケミカヅチが管轄する次元世界せかいにちょっかいをかけるだなんて…その事を知ったは急遽この次元世界せかい花神社はなかみしゃの[神主]を名乗り、あの女神おんなに対抗しているわけなのだけれど…


けれど―――は知っている…あの女神おんな寵愛ちょうあい著しい[英雄]はこちらに投入されない事を。

何故そのような情報を知っているのか、それはの[英雄]が女神ヴァニティアヌスの世界に現れたと言う事をの協力者を通じて知っていたからだ。

[英雄]オライオン―――女神アルテミスを語る上でなくてはならない因子ファクター…彼の女神からの寵愛ちょうあいを受ける事によって[英雄]は更なる力を身に着ける。

だとて―――それはも同じ事…女神ヴァニティアヌスの主神格である女神エレシュキガル、彼女の統治する『冥界』と私の支配する『黄泉国よみのくに』は永らくき関係を保ち続け、交流も続いている。 そして女神ヴァニティアヌスの次元世界せかいしくも女神アルテミスによって侵されつつあると言う―――つまりは、女神エレシュキガルと協力関係にあるの足止めの為にと武御雷タケミカヅチ次元世界せかいを侵し、自分は女神ヴァニティアヌスの次元世界せかいの攻略に本腰を入れようと…?

フフフフ―――いいでしょう、その貴女のに乗ってあげる。 そして思い知るがいい…たといがいなくとも貴女の目論みは成就される事などない。

その為の―――くふふふふ…あの額冠ティアラなのだから。

大母様おおかかさま?愉しんでおられますか…?}

{万が一の時はも出ましょう、とは言え―――そうする必要もないみたいですけれどね。}


          * * * * * * * * * *


戦局は―――変わる…たった一人の武勇が、劣勢を覆せるなんてお伽話そのものだ。 オレも永らくの間[英雄]をやり続けてきたものだがそうした場面には出くわした事はない、それは当然だ―――たった一人の武勇が劣勢を覆せるなど噴飯ふんぱんものもいい処だ、だがそうした場面は創作物では誰しもが若い頃には胸躍らせた展開モノであったとしても、現実的には現実味を一切帯びていない…

だがは起こった―――オレにしてみれば1年でも、1いちじつでも…1いっときでも1分でも1秒でも、オレの事を頼りにしてくれた連中の為にと引き合いに出した『苦肉の策』に過ぎなかった、それが『邪神』側に着いた勢力の中でも猛者中の猛者と視られた『シノギ』と言う黒色の鬼人族オーガとの『決闘』だったのだ。

オレも自分の武力ブリキには自信がある、だがそれは所詮オレの次元世界せかいの中だけでの話しだ、それが違う…別の次元世界せかいでは測るものさしと言うものも違ってくるだろう、そしてこれはオレ個人の感覚なのだが、この黒色の鬼人族オーガの実力はこの次元世界せかい最強と銘打っても遜色ないものと思った。

前置きが長くなってしまったが結論を述べるとしよう―――勝ったのだ、オレが…この次元世界せかい最強ではないかと疑っているシノギに。

「フフフ…敗けちまったわ、強いのうぬしは。」

「あんた、途中から手心を加えたんじゃ―――」

「そう思いたいならそう思っていろ、だが我は真剣に事に臨んだ。 その結果だ―――敗けはしても、まあ満足はしている…それに、なあ……この次元世界せかいは我等のモノなのだ、それを途中から現れて『今日からお前達は邪神様に尽くすのだ』等と言われてみろ、従いたくもなくなるものよ。」

「邪神か…一体どう言った神なんだ。」

「我等の領主は好い様にしか言わなかったが…我からしたら胡散臭うさんくさい奴そのものだ。 まあ神なのだから我等の様な眷属の前には実態を視せないというのが本当の処だろう、それに約束は約束だ、これから我はぬしらの勢力に加わってやろう。」

たった“一人”―――たった一人と言えどこの作用は大きい。 たった一人で万人ばんにんに匹敵する―――そう言った意味を持ち合わせる≪万人敵ばんにんのてき≫を持つ者がこれを機会に劣勢を強いられているヱミシに加わると言うのだ、他からしてみれば寝返ったくらいでは覆されないだろうと思っているだろう、しかしそれは普通一般の者での話しだ、しかしシノギはこの次元世界せかい最強だオレが太鼓判を押してやっても構わない、それにシノギがヱミシに加わった事の意味……

「シノギ―――!敵方の総大将であるあなたが何故こんな処に…まさかわたくしくびを獲る為に?!」

「それはちと解釈は違うのう姫巫女ひみこ『カラタチ』よ、我はこの武辺者との決闘に応じ、そして敗けたまで―――決闘を受けるに際し我が敗けたならという条件で今ここにいるまでの話しよ。」

わたくし達が敗け続けていた要因の一つが、このシノギにあったと言う事は語らじとも知れた事…その彼が[英雄]様との一戦でヱミシ私達に?!

いくら感謝を尽くせばよいのでしょう…それほどまでにシノギがこちら側に来た事の意味は大きい―――それに、この転機により勝ちの目が見えて参りました。


あとは…あとはそう―――この好機を活かすだけ……







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