第13話 “自”らを“信”じると言う事

[英雄]ベレロフォンが『次元の魔女』と言う者の手によって別の次元世界せかいへと転送させられて数ヶ月が経とうとしていた頃、私は先送りされていた『復活した魔王ヘルマフロディトスの討伐』を進めていた。

『魔王ヘルマフロディトス』…その正体は私だけが知っている、不甲斐ない[勇者]を補助サポートする役目…この町に一軒しかない酒場ヘレネスの“女主人マダム”―――ヘレネである事を。

そして魔王ヘルマフロディトスとは事実上の3戦目、初戦は[勇者]の実力不足もあり敢え無く敗退―――2戦目は随分と手加減をされた上での勝利―――そして今回、復活を果たした魔王との再戦となる。

これまでの戦績は“内容”はともかくとして1勝1敗、まあこれも[勇者]の為にもと色々と“調整”してくれた補助役サポーター殿の手腕と言う訳だが…私も奮起をしなければいつまでも補助役サポーターの“調整おなさけ”なくして勝たせてもらう等出来ない事だからな。

「魔王ヘルマフロディトス、今度こそ私自身の実力で勝たせてもらう。」

{ほおう―――吼えるものだねえ…最初にった時小さく縮こまっていたのが昨日のように思えるよ。 それに、もう手加減の必要はない―――何しろお前には神からのご加護が着いているのだからね…それに、【暴風の真竜ウィルム】ヴリドラすらも感心させたと言うじゃないか。}

「ああ―――だがそれは私自身の実力チカラではない、私に『美と愛と豊饒神の額冠イシュタルのティアラ』を授けて下されたエレシュキガル様のお蔭だ。 それに、こんな借り物の力でお前を倒したとしてもお前自身は納得はしないだろうし、何より私自身が納得しない!『バカな事を』と思うだろうが、これが私の覚悟だ!」

おやおや―――いっぱしの口を利くようになっちゃって、まあ……

それに、この子はまだ気付いちゃいないようだね、エレシュキガル様がその額冠ティアラを渡した本当の目的を。 けれど“今”はそれでいいさ―――それに、窮地になった時には使いたいだけ使うがいい…いくら優れているとはいえ『道具アイテム』や『技能スキル』はでは『持ち腐れ』も同然、やっぱ『道具アイテム』や『技能スキル』ってものは“使って”こそ―――だからね。


今度こそ、何の邪魔立ても入らない[魔王]ヘルマフロディトスとの―――ヘレネとの1対1の対決、それに勝敗も1勝1敗の5分、だからこそ[魔王]ヘルマフロディトスヘレネの方でも手加減はしないだろうし、私の方でもエレシュキガル様から贈呈された品を使う事無く[魔王]ヘルマフロディトスヘレネを打倒する事こそが、これまで私の事を何かと補助サポートしてくれた彼女ヘレネへの礼だと考えたのだ。


         * * * * * * * * * *


「―――で…結果は“辛勝”と、恰好を付けた割にはギリギリだったみたいだな。」

「けど、私も今回は手加減ナシだったからねえ~まあ結果は勝ったんだから良しとしようじゃないか。」

最初に、言っておこう―――『勝つ』には勝ちました…が、全身ボロボロ…『打ち身』『擦り傷』『骨折』に『捻挫』…とまあ『複雑骨折』していないだけ幸いマシと言った処だろうか…

それに―――ヴァヌスからの最初の一言目にも現れていたように『恰好をつける』んじゃありませんでした…今現在は『打ち身』や『骨折』の影響もあり自宅にて静養中……そんな処へヴァヌスが押しかけて来て辛辣な嫌味を申し付けられているのです。(あとヘレネは私の看護の為に来てもらっている、それより私の身体が動かせないでいる事をいい事に“ツンツン”突かないでくれるかなあ!?ヴァヌス…)

「それより“シギル”―――あんたここに来てなにもフレニィカちゃんに嫌味を言いに来ただけじゃないんだろ。」

「当然でしょう、早い所そんな軽傷けがを治して私達の手伝いをしろ―――って言いに来たの。」

「『万夫不当この世に敵う者はなし』とまで言われたあんたがねえ~?この間まで『頼りにならない』って言ってたフレニィカちゃんの手を借りたいってかい。」

「なあにを勘違いしてくれてるのか判らないけど、この娘には実績が必要なのよ…それも『自分の次元世界せかいの[魔王]を打倒した』以上のね、だからこそうってつけがあるじゃない―――[勇者]目的でこの世界にと侵入してくる者達の『撃退』…いい事フレニィカ、あんた今回の様な『額冠ティアラを使わないで勝利する』なんて甘い考え方、今すぐこの病床で棄てなさい、そうしないと恥を掻くのは誰なのか…よく考える事だな。」

相変わらず、この魔族の幼生体幼女様は私には辛辣だなあーーーまあ、私が至らないお蔭で迷惑をかけているのだろうし、それに『誰が恥を掻くのか』の件…私じゃ、ないよなあ?だとしたらーーー女神ヴァニティアヌスか?確かに未熟者を世に送り出してしまえばその次元世界せかいの神が批難の的に晒されるのだろうし…しかし『骨折』しているのだぞ?だから『軽傷けが』はないとは思うのだが―――


しかし、私はよく判っていなかった。 それに『骨折』なんて1日やそこらで完治しないものだと知っていたんですがーーー何故か1日寝ただけですっかり完治なおっていました。

上腕の、割と太い骨だったんだけど―――1日寝ただけでくっついていました、しかも痛みもすっかりと取れてて…けれど、え?以前は細い骨でもくっつくのに1ヶ月は要したはずだったんですけど?

「おはよう―――おや、もう今日は大丈夫そうだね。」

「な…なあヘレネ、何故私の骨はたった1日でくっついたんだ?それに痛みの方も退いているし…」

「そりゃ、あんた―――その額冠ティアラのお蔭だろうさ。」

「(え?)でも―――この額冠ティアラには『自動治癒』なんてものは…」

「でもさ、あんたエレシュキガル様から頂いた≪通力≫持ってるだろ?アレのお蔭であんたが保有している魔力の循環めぐりが良くなってるのさ、魔力の循環めぐりが良ければ良い程、身体への作用も良くなってる…まあ今回負傷した箇所もエレシュキガル様から頂いたモノで完治したってって事でいいんじゃないのかい。」

そう言う事だったのかあーーーいやあ安心した、私も急にこんな事になってるって事で―――あれ?何か重要な事を忘れている様な……

「どうやら完治したようね、これから連れて行くけど異議はない?」

「ないよお~しっかりと使来る事だね。」

まるで、『鬼の教官殿』みたいな魔族の幼生体幼女がいました―――忘れてたああぁぁ…昨日私の病床で『私達の手伝い』って言っていた事を、それにヴァヌスには[英雄]ベレロフォンの補助サポート担当と言う役割の他に、この世界に交渉事や契約を良しとはせず実力行使によって[勇者]や[英雄]わたしたち略取りゃくしゅしようとしている神々れんちゅうの相手をしていると言う…そこへつまり―――[勇者]を投入しようと言う訳だがこれがどうやら[勇者]の実績づくりと言うらしい、それは判った―――判った、のだが……

「相手は神々なのだろう?そんな…神を相手に[勇者]がかなうものと思っているのかあ?!」

「うるさい、黙れ。 それに私も、なにもお前が『勝てない』と思って連れてきているわけではない、まあ…確かに今回の対処の中に神はいるけどそれも所詮は『低級神』―――眷属達を使役・指揮する立場でしかないんだ。 それにそう言った存在はこの私が相手をする―――だからお前は[勇者]や[英雄]と言ったお前達と同じ様な連中を相手にし、お前自身の実力を指し示せ!」

何処いずこかの神だろうか―――いくらヴァヌスが『低級神』だと言っても神には変わりはない…私達生きとし生ける者の存在とは明らかに違う存在、それに低級神に従ってこの世界に現れてきている者達も雑兵の類ではなかった、いずれも[勇者]に[英雄]私達と同じ…そんな者達を私一人で相手?!それは私の戦意を喪失させるのに十分な条件だったが、そこはヴァヌスからの一言―――『何も勝てないと思って連れてきているわけではない』…日頃は私に対しては辛辣で、嫌われているのかもしれない―――そう思っていた時期もあった、だが今の言葉で救われた…それにやはり、嫌いだったのだろう―――自分に自信が持てない[勇者]の事が。

何処いずこよりの次元世界せかいからの[勇者][英雄]殿とお見受けする、私はこの次元世界せかいの[勇者]フレニィカ―――故あってお相手する!」

「ほおう―――あんたがこの次元世界せかいの…なら丁度いい、簡単に目的が達成できそうだ。 何でそう思えるのか―――あんた自身がそれを判っているんじゃないのか。」

丁度私の目の前には[勇者]か[英雄]だと判る者達が数人いた、その内の1人が私に向かって言っていた事―――『あんた自身がそれを判ってるんじゃないのか』…見透かされてしまったか、私に『自信』がない事を。 だけどそんな事は当に知っている、今更その事を言われたとしてどうだと言うのだ、だからこそ―――…ヴァヌスは私に彼女のしている事を手伝わせようとした、身に余る光栄と言った方が良いか…半端者みじゅくものである私に任せてくれた事に。

それに相手は私が今まで相手をしてきた『魔族魔王』ではない―――私の体内に半分は流れている血…“人類族”のヒューマン、しかも[勇者]と[英雄]私達と同じ……そして私は『美と愛と豊饒の女神の額冠イシュタルのティアラ』に深く―――静かに…魔“力”を“通”じさせた。

「(こいつ…)ちと厄介だな、どうやら≪通力≫が使えるらしい。 だが、その事を知ってさえいれば対抗できる手なんていくらでもある、出番だぜ―――[勇者]マクスウエル。」

「判っている―――すまないな[勇者]フレニィカ殿、私も同じくの[勇者]だが主命には逆らえないのでな。」

「別に、気になどはしていない。 逆に感謝しているくらいだ、こんな半端者みじゅくものの私に…それでも“欲しい”と思われているかたがいるとはね。」

「どうやら勘違いされているみたいだが…私達の主神しゅが欲しているのはその額冠ティアラだ。」

「なるほどな―――そう言う事か…ならば益々手渡す訳にはいかんな。」

私の魔“力”を“通”じさせた事によって顕れた鎧一式、どうやらこの者達の目的は私などではなくこの額冠ティアラにあったようだ、しかしこの額冠ティアラは女神エレシュキガル様から贈られたもの、そうむざむざと他人の手に渡ってしまってはエレシュキガル様に顔向けできない!


そこで戦端は拓かれる―――しかも相手は盗賊共や魔獣などの雑魚ではない、よりも歴戦を積み上げてきた一角ひとかどの[勇者]に[英雄]達…本来ならば多勢に無勢でを上げていても仕方がないと言ったところだったが、なぜだろうか、先程からそんな気はさらさら失せた―――歴戦の猛者達を相手に、

「おいおいどうなってんだ[勇者]マクスウエルさんよ、さっさとあのエルフ娘の≪通力≫を解除しろよ。」

「おかしい…先程から〈解除ディスペル〉を掛けているんだが、出来ない……まさか、そんなはずは―――とは!?」

私が所持もっている『美と愛と豊饒の女神の額冠イシュタルのティアラ』を奪うには、私を味方に引き入れその上で私の同意を得て所有者を書き換えるか、私を倒して奪い去るか…それか女神エレシュキガル様との契約を解除させて無理矢理奪うか―――この時彼らがやろうとしていた事は後者のようだったが、それも叶わないと知れると中間の『私を倒す』しかなくなってしまう…だからと言ってみすみす『倒される』わけにも行かない、『奪わせる』わけにも行かない、それに次第に思う処と成って来た…よく考えてみれば[勇者]の味方は“私”しかいない―――けれど彼らは複数いる…複数もいてたった一人の[勇者]に苦戦している?それに…なんだこの“満”ち“足”りた“感”じは、負ける気が全然しない!この者達も出身の次元世界せかいではさぞかし名の通った[勇者]や[英雄]であるはずなのに―――

はは…は―――そうか…、長らく私は出自しゅつじ所為せいもあり『自信』と言うものがなかった…エルフの外見はしているものの中身はヒューマン―――つまり『出来損ない』と実の父親からも見限られ、私は分というものがじていられなくなった…しかし―――そうか…“自”分を“信”じると言う事『自信』なのか!

「まずいぞ―――やはり彼女の持っているのは通常の≪通力≫ではない、≪“神”通力≫だ!」

「なにい?聞いていた話しと違うじゃないか。」

「『聞いていた話しと違う』と言うのは聞き捨てにならないが、そちらから来ないのならばこちらから行かせてもらうぞ!」

「油断をせずに防御を一点に集中させるんだ―――[英雄]グロム!」

「なっ…こいつ―――ええ!全身を防護する鎧に身を包みながら、【雷鳴】と“通称とおりな”されたこの俺様よりも…!」

私は…女神エレシュキガル様から授かった≪通力≫を使う事でまず手始めに[英雄]グロムなる者を駆逐した、何故彼の者からかと言うとこの集団の中でも指揮をっているみたいだったからだ。


   ―――その戦闘で優位に立つにはまず“頭”を…指揮する者を叩け―――そうすればその集団の統率は崩れ、後はこちらの為すがままに出来るだろう。 許す事も…そしてまた捕縛する事も、滅する事も。―――


この事はベレロフォンから教わった、そして今教えの通りに実行したらその通りになってしまった、こんな私でも…『半端者みじゅくもの』の[勇者]でも出来る事の証明となり、それはまた私自身の『自信』となった、そして残るは何処いずこかの次元世界せかいの[勇者]マクスウエルを残すのみ……

「どうやら、こちらが低く見積もっていたようですね、あなたの実力と言うものを。 仕方がありませんここは退かせて頂きましょう。」

「それでいいのか[勇者]マクスウエル。 私は一向に構わない、お前が退くと言うなら私はそれを追撃したりはしない…だが今回は好機チャンスではなかったのか、初回の初見と言う事で容易たやすく見積もっていたのではないか、だが私は歓迎しよう、捲土重来したとしてもお前達の力量レベルならば私は…。」

「随分な『自信』を持たせてしまったみたいですね、ええ悔しいですがあなたの言うとおりでしょう。 確かに次も同じ様な編成ならばまたあなたに撃退をされる…ですがが私達の全戦力とは思わない事だ、『先鋒』に過ぎない…次こそは―――」


「ようやく―――ですか…[英雄]オライオンが出陣でばってくるのは。」


いつの間にか―――この戦場には聖ヴァニティアヌス教会の[司祭]殿が到来していた…それにしてもいつ?私も彼らの迎撃にと、そこばかり気に取られていたからかもだが次の[勇者]マクスウエルの言葉に…

「ま、まさか―――は?!」

「“あの女”にもようく申し付けておきなさい、今度この子にオライオンを当てると言うのならば『全霊を尽くせよ』と…」

お互いが、よく知っているかのようなやり取りだった。 いや、というより知っていなければ出来ない様な…そんなやり取り。

それに私は未だ以て彼らの事をよく判っていなかった、判っているとすれば現在私が所持している『美と愛と豊饒の女神の額冠イシュタルのティアラ』を奪いに来た事だけ、どこの次元世界せかいの“出身”なのか―――どこの神の勢力に“所属”しているのか…私には何ひとつとして判ってはいなかったが、どうやらこの2人はどこか知った仲だと、そう思えた…


そして―――


「あの……先程の者とお知り合いなのですか?」

「どうして、そう―――思うのです。」

「私には、彼らの事など何ひとつ知らない…現に先程の[勇者]マクスウエルは『自分達には隠している切り札がある』かのような口調をしていた、そこへあなたが―――」

「『[英雄]オライオン』…“あの女”の、の最高の切り札―――ええそうですとも、フレニィカ…あなたが思っている通りわたくしは知っている―――し、それは当然あの女神おんなも、でしょうねえ…それに今“シギル”が相手しているのは当然あの女神おんなの従属神の一柱ひとり『下級神シューリンクス』、今頃あの女神おんな…失敗したのが判ってさぞかし歯ぎしりしながら口惜しがっている事でしょう、ざまあーみさらせですわあ!」

なるほど―――よく、判った。 あまり仲が好ろしくないご関係みたいだな、なのでこの話題は振らない方が―――


「ああ……………………………どうやらヴァヌスは考えを廻らせている様だ[司祭]殿、こちらの片付けは終わりました。 それにしても女神アルテミスは私達の事を完全に見下していたみたいですね、先程相手した『下級神シューリンクス』も気の抜けたというか…」

「そおおおの名前を出すなああ!耳にしただけでも蕁麻疹じんましんがああ~~おのれアルテミスめぇぇ…この怨み晴らさでおくべきかぁぁぁ!」

「と、言う事で判った?今回来訪したのはよ。」

うん、なるほど、解説付きでよく判りました、関係が好ろしくない―――と言う事がな。

「それより[英雄]オライオンの相手は誰がする事に?私は以前彼とって1わけしてるのですが…」

「は゛あ゛ん゛?そんなの………チラあリフレニィカちゃんに任せればいいじゃない。」

「(…)まああそれはステキなご提案!さすが『パール…』いえ[司祭]殿、そのご慧眼にこの“シギル”も感服つかまつっている次第ですぅ~。」

ええっと…あの、ちょっと待って?「な、なあ…ヴァヌス?何故か私がオライオンなる[英雄]と対決する流れになっていないか?」

「『流れ』じゃなくてお前がるんだよ、それともなぁに?今更けつまくって逃げるつもり?そんな事をするとだぁれの顔に泥を塗りたくるのか判ってて発言しているのよねえ~?」

正直、私は逃げ出したかったが、“鬼”の様な教官殿に回り込まれてしまった…それに―――私も知らない訳ではない、女神アルテミスと英雄オライオンとの話し、ヒューマンでありながらも優れた容姿に優れた手腕の狩人は洩れなくして狩猟の女神の目に留まり一躍の寵愛を受けたのだとか、しかし英雄は女神からの寵愛を受けた事で増長し、ある女神の不興を買って策略の下に殺されてしまった…その時に使用されたのが蠍の毒であったのだとか、しかし非業の死を遂げた英雄の死を哀しんだ女神の嘆願により―――その英雄は死した後に女神に仕える事を許され、神に近しい序列を与えられた…そんな、私でも知っている様な神話や英雄譚物語に出ている[英雄有名人]を、私が相手するのかあ?!


それにこのままではどうにもならなさそうだったので私の補助役サポーターであるヘレネに助言を求めに来たのだが…「な、なあヘレネ…私はどうしたらいいんだろうか?」

「えーーー大丈夫なんじゃなあーい。」

機嫌が、悪い…まあ私の本来の補助役サポーターはヘレネなのだが最近はヴァヌスとばかり接触してるもんなあ…お蔭で旋毛つむじを曲げてしまったみたいだ。

「いや、しかし―――だなあ、その…何分なにぶんオライオンと言う者に関してはあまり詳しくないものでして…出来ればそのお~なにかお教えして頂ければ~ヘレネ?」

「仕方がないねえーーーもぉ!だったら教えちゃおっかな、おねいさんが。」


「なあーにーをーしーてーるーのーかーなあ~?」


沽券プライドをかなぐり捨て、思いきり媚びてみました。 すると効果覿面てきめん、先程までの“渋い”対応が一転しての“笑顔ニコヤカ”対応…その眼尻の垂れた表情はとても[魔王]だとは思えませんのですが―――しかしこの様子をしっかりと視られていました…“鬼”の様な教官殿に。

「全く、心配していれば案の定だったわ、あのねえ“ハガル”…あんたにはいつか言おうと思ってた事なんだけど、それ今言っていい?」

「いへ―――いくないです…」

「あ、そう。 でも言わせてもらうわ!あんたってフレニィカに対して過保護甘やかし過ぎ!大体今の何?媚びられて…上目遣いで乞われて―――それで目尻と鼻の下目一杯伸ばしてれば世話ないわ!」

「う、う~~~だあってえ、折角フレニィカちゃんが私を頼って来たって言うんだよ?そりゃあ色々教えたくなるだろうさあ。」

「そ・れ・が過保護甘やかしって言うんだよ!私達の言葉ではな!」

『魔王ヘルマフロディトス』であるヘレネが―――叱られている、なんとも超現実的な光景シュールな絵面なのだろうか…それに私の考えも見透かされてしまった、私としてはこれから一戦交える者の事を知りたかっただけなのだが、その事を聞きにヘレネに聞こうとしたらヴァヌスに阻まれてしまったのだ。

恐らくヴァヌスは、私が自分から調べもせず直接ヘレネに聞きに来たのが気に食わなかったのだろう。 だが、しかし…だ、それのどこが悪いのだろう―――と、その不満の感情がおもてに現れていたらしく…

「なんだ、その顔は―――まだ半人前のクセに私を睨むだなんて、生意気にも程があるじゃないか。」

「だっ!だってなあ…その、[英雄]オライオンの事は伝承でしか聞いた事がないし、ならば相手の事を知るには彼の事をよく知っている者の方が良いと思って……」

「(……)これを読んでおきなさい。」

「あの―――は?」

「『伝承』じゃない部分の[英雄]オライオンあのクサレイケメンを綴った同人誌よ、これを読破してヤツの事をこよなく理解しなさい。」

私が不満を漏らすと『待ってました』とばかりに目の前に積み上げられた分厚い書籍…それは表沙汰にはしてはならない様な醜聞が綴られたものであろうことは説明がなくても理解ができた。(だって…なあ、なんだか得体の知れない―――“怨念”と言っていいのだろうか?そんな雰囲気を醸し出す作品てこれまでお目にかかった事などない、と言うか…)


まあともあれ“準備”だけはしておくべきか。




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