第12話 有角人族の[巫(かんなぎ)]

オレは今、女神ヴァニティアヌスの前に立っている、孤児みなしごだったオレを一人前になるまで育て、あまつさえ[英雄]までにしてくれたオレの育ての女神母親

だがオレも様々な経験をしていくに従い女神ヴァニティアヌスがオレを育てたのにも理由がある事が次第に分かって来た、“えん”も“所縁ゆかり”もない孤児みなしご無償ボランティアで育てるだなんて、何かの目的でもなければするはずもない…事実、女神ヴァニティアヌスがオレを育てたのにも目的があったのだ。

あらかじめ神同士の交渉によってこことは違う別の次元世界せかいへと“派遣転移”させ、交渉によって契約された事を成し遂げる…まあ要するに普段オレ達が冒険者として依頼をこなしていた事の『神様版』みたいなやつだと言う事が判った、判った―――の、だが……

{どうしたのベレロフォン、いつになく難しい顔ね。}

「当たり前だろうヴァニティアヌス、オレは“ここ”で[英雄]としての生をまっとうするものだと思っていたのにそれをなんだ?オレ“達”を…[英雄]や[勇者]を別の次元世界せかいへと転送おくり、あらかじめ交渉によって締結された契約に基づいて解決を図る?そんな…何の為に―――」

{(…)ワタシが所属しているのは『混沌』―――その語句の印象としては悪い心象イメージしか受けないけれど本質としては違うわ。 『混沌』は、『秩序』によって“停滞”し、“束縛”され、“抑圧”されたモノを解き放つ―――そうする事であらゆる生きとし生ける者は“成長”し、“進化”し、“発展”することが出来る。 この次元世界せかいにも『魔窟ダンジョン』はあるでしょう?あれはこのワタシアナタ達の為に解放してあげているのよ。}

「その事は―――あんたを崇める教会の[司祭]から聞かされた事がある、確かにオレも段階を踏んで様々な難易度の魔窟ダンジョンを解いた事があるからな、だがまさかその絡繰カラクリが…」

ったら―――柄にもなくお節介な事を…だけど、ワタシ“達”が話したお蔭でアナタ理解わかってきたハズ―――[英雄]ベレロフォン、これからアナタが赴く次元世界せかいワタシ次元世界せかいの神である『武御雷たけみかづち』と直接わたり合って契約を締結してきた事、『邪神』によって滅ぼされようとしている国を救済すくいなさい…そしてその国はヒューマンだけではない、その邪神に抗う為に結成された『汎人類同盟』―――亜人種や魔人種もいる混濁とした組織にアナタの[英雄]としての力を貸すのです。}

「『汎人類』…そこにはオレの様なヒューマンだけではなく、フレニィカの様なエルフ―――更には小鬼ゴブリン鬼人オーガ圃人ホビット洞人ドワーフも?と、言う事は―――以前あんたがオレに言っていた『救済すくう間口を広げよ』と言うのは…」

{そう言う事です―――その事が判ったのなら行って救済すくって来なさい、助けを求める手を取ってあげなさい、アナタにはそれが出来るのですから…我が息子よ。}


オレがヴァニティアヌスから示唆されるまではヒューマンの為にと救済すくってきたものだったが、ヴァニティアヌスから示唆された後はヒューマンに限らず『生きとし生ける者』に対して救済の対象を広げて来た、しかしそのお蔭で今まで救済すくってきたヒューマン達からは【悪堕おちた英雄】と言う烙印レッテルを押されたものだったが、今こうして改めてヴァニティアヌスから示唆されて思い当たる節があった。

オレがこれから赴く次元世界せかい―――そこは『邪神』にあらがう『汎人類』…つまりヒューマンを含むあらゆる人型の種属が滅ぼされようとしていると言う、そこへオレはかねてからヴァニティアヌスがその次元世界せかいの神である武御雷たけみかづちと交渉、契約を締結し窮地に立たされている『汎人類同盟』に力を貸す…なんだかようやく腑に落ちた感覚だった、なぜオレがヒューマンだけではなく生きとし生ける者を救済すくわねばならなかったのか、総ては今回の様な事があるから…


         * * * * * * * * * *


しかし、疑問として残るのは一体どうしたらその次元世界せかいへと行けるのか―――もしかするとヴァニティアヌスが?そう思っていたらこの世界では見かけない女性がいた。

「あんた―――は?」

「初めまして、私はこれからしばらくあなたと行動を共にする…そうね、取り敢えずは『次元の魔女』としておこうかしら。」

『次元の魔女』…?確か何処かで聞いた事があるな、そう言えば教会の[司祭]がほのめかしていなかったか?しかもこの女性はしばらくオレと行動を共にすると言う、何の為に―――?「なあ『次元の魔女』、あんたはこれからオレとしばらく行動を共にすると言ったが具体的には何をするんだ。」

「そうね、まあ取り敢えずは『道先案内』かしら。 あなた、こことは違う次元世界せかいへと赴くのでしょう、通常ではそんな事は出来ない―――だけど『次元の魔女』なら出来る…この次元に数多あまたと存在する世界を渡り歩き、どの世界だろうが存在する私ならばね、まあ気が向いたらあなたを補助サポートしてあげても構わないけれど…」


オレは、『次元の魔女』が紡いだ言葉に驚いた―――が、どこか納得していた、今回この次元世界せかいとは違う次元世界せかいに赴かなければならない…つまりは既に一つは異なる次元世界せかいが“ある”ってことだ、それに“一つ”あるのも“二つ”あるのもそう違わない、だとするなら数多と存在したって不思議じゃない。 それにこれから赴く次元世界せかいは危機に瀕しているのだと言う、救済すくいの手を差し伸べているのだと言う……ならばオレがその一助いちじょになればと、そう思う。


そしてオレは『次元の魔女』にいざなわれ、その次元世界せかいの『クナ』と言う国に降り立っていた。


          ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「状況の報告を―――!」

「一番隊、二番隊全滅!」 「三番・四番も持ちそうにありません!」 「現在西の大門で攻防に当たっていますが善戦虚しく陥落する模様…指揮に当たっていた将官も…!」


現在わたくしは最終防衛線の砦に赴き、“神”を信奉する者達の猛攻に抗っている。 わたくしがこれまで育ってきたこの世界にも“神”は存在する、そしてわたくしはその“神”に尽くす職種クラス―――[かんなぎ]でもある、だけど今わたくし達を侵攻しているのも“神”…それも、『外なる世界』から来たと言う―――つまりこの戦いは旧き土着の“神”と、新しき外来の“神”との争いでもあるのだ。

それに…わたくし達と対抗しているのはわたくし達と『同族』―――哀しい事ではあるがそれが戦争の非情の掟…昨日まで仲良くしていたあの子と―――それまで恋い慕っていたあのひとも、主義主張が違えば今日は敵同士と成れるのだ。 だからと言って躊躇ためらってはいけない、瞬時の躊躇ためらいが命取りとなるのをこれまで幾度か視て来た、昨日これまで仲良くしていようとも―――恋慕っていようとも―――わたくしこの世界は外来からの『邪神』のものと成ってしまうのだ…。

とは言え思うように事が運ばない、いくら善戦しようとも有志の兵士達は次々と討たれ、かなめ西大門にしだいもんも陥落―――破られてしまう始末…既に敗色濃厚となってしまった籠城戦に固執していても始まらない。

「いかがされますか[かんなぎ]様―――」 

「(…)撤退を致しましょう、ここはもうちません。 確かにこの砦は最終防衛線にしてわたくし達が保有する砦の中では一番の堅牢さを誇ってはいましたが…それにここに固執する理由もありません、ならばここは一思いに本拠にて迎え撃つべきです。」

間に、合いませんでしたか…わたくしが『武御雷たけみかづち』様からの神託を受けた時、武御雷たけみかづち様は別の世界の神様とわたりを付け援助をしてもらえる者を貸し出してもらえると言っていたのに―――…


          * * * * * * * * * *


そんなオレは『次元の魔女』によってこの次元世界へと来ていた。


                で


来たのはいいんだが―――…


「なあ『次元の魔女』、一応オレがいた次元世界せかいとは異なる次元世界せかいだと言う事は認めよう…だが、なぜ森の中なんだ?」

「あなたなら―――自分の目の前に見ず知らずの者が現れたらどう思う?怪しいわよねえ?警戒しちゃうわよねえ?そこを考慮して人里離れた場所にしてあげたんだけど。」

「そこは、判った―――オレも納得するよう努力しよう…だが人里から離れすぎてやしないか?大体この次元世界せかいにある国…確か『クナ』だったか?滅亡が目の前にぶら下がっているんだろう、こんな処で時間を取られてオレ達が到着した時には『滅亡していました』なんて…笑い話にもなりやしないぞ。」

「(…)ごめんなさい―――実は少し座標がズレてしまったみたいで~」

「だったら近くの人のいる場所に転移出来ないのか?この場所で彷徨さまよう時間が惜しい。」

「判ってるわよぅ!今探索魔法サーチかけてるんだから邪魔しないで!」

この『次元の魔女』の手違いミスを指摘したらキレれてしまった…なんだかオレが悪い事をしたようになっているがそもそもはあんたの所為だろうが!


くっそおぉぉ~なあんでよりによってこんな時にい~!それに私〖次元転移〗は使えるけれどもそんなに精度は高くないのよ…そのいい(悪い)例がまさに今回なわけでして、私の手違いミスを指摘した彼に対してキレ散らかしてしまったのです。(ああ~印象サイアク…悪いヤツとしか見られていないでしょうね)

ですが汚名返上―――探索魔法サーチを使って人の気配がする地点を見つけ、そこへと転移したのでしたが…

「(これは―――)手遅れ、か? 見た処すでに陥落した後みたいに見えるが…」

「待って―――どうやら北の方角で僅かな数が移動を開始しようとしているみたいよ。」

防壁は崩れ、門は破壊され、所々に黒煙が上がっていた…それに所々には戦死者の屍が放置されたまま、この印象だけでこの城砦は陥落したものだと彼は判断したみたいだけれど、私は僅かな可能性にかけ再び探索魔法サーチをかけてみた。 するとこの城砦の北の方角で僅かな…四・五人程度の反応が確認され、私はそれをこれから落ち延びようとしている集団だと判断したのだ。


「残ったのはこれだけですか…けれど今は感謝を、今回も敗退はしましたがまだわたくし達は全面的に敗北したわけではありません、希望を持ってさえいれば―――いずれは…っ!けれど今は退きましょう、愚図愚図としていてはヤツ等に―――!」


「伝令!後方より人影アリ!恐らく敵兵と思われます。」


そんな―――早い!?追手が差し伸べられるのはまだ猶予があると思っていたのに…

「これまでですか……恐らく敵の目的はわたくしくび、皆さんは本拠へ戻って最期の抵抗を諦めないでください。」

その判断は、間違っている―――わたくし自身が、そう思っている…本来ならば囮としての殿しんがりを置き、わたくしは指揮官としての役割をまっとうとすべく本拠へと退き上げるべき……


だけど、もう…疲れてしまいました、いくら策略を思い付き実行に移したとしても失敗ばかり、その原因も圧倒的に足らない戦力差にあるわけなのですが……ですから―――これまでの失策の帳消しとしてわたくしが囮となるべき、そうすれば自分達の目の上のたんこぶが無くなったとしてしばらくは安堵の猶予が出来るでしょう。 もっとも、本音を言ってしまえばどうにもならない現実の下にわたくしが現実逃避しようとしているだけなのですけれどね。


             ―――けれど…―――


「おいちょっと待ってくれ、あんたら『汎人類同盟』の者達で間違いはないか。」

「(え…)ええ―――わたくし達は『汎人類同盟ヱミシ』の者ですが…そう言うあなた達は?」

「良かった―――どうやら間に合ったようだな、オレはオレの次元世界せかいの女神からあんた達に力を貸すよう言われてきた者で『ベレロフォン』と言う。」

「私は彼の補助サポートをする『ベアトリクス』よ。」

「あ、あなた達が!?ああ…良かった、希望を捨てないで―――」

オレ達が急いで追い付いた集団とは今まさに陥落したこの城砦を棄て、これからどこか…恐らくはこの者達の本拠である場所に撤退をしようとしている『汎人類同盟ヱミシ』だった。


そして今しがたまで敵対勢力と対抗していると見られた人物が―――「それよりあんた、その角の有り様を見た処『鬼人オーガ』の様だな。」

「『鬼人オーガ』…やはりそのように見えますか。」

「その言い様だと違うのか?」

「(…)確かに、『鬼人オーガ』とわたくし達とはです、が…『鬼人オーガ』は邪神になびわたくし達の神である武御雷たけみかづち様に弓引く者―――わたくし達は鬼人彼らと同様の“角を持つ者”ですが、ふるいにしえの昔より私達をお護りしてくださった武御雷たけみかづち様にご恩を返す為にと奉公している『有角人族ゆうかくじんぞく』なのです。」

「そうか―――理解した。 それに残ったのはこれだけか、ならば早々に撤退しよう、そして殿しんがりはオレが受け持つ。」

「いえ、ここは力を合せて迎撃に当たった方が―――」

では戦力的に不足過ぎる、足手纏いになりかねん―――だがオレ一人ならどうとでも切り抜けられるものさ。」

戦況の把握と的確な判断―――それだけで数々の死線を潜り抜けてきた事が判った…わたくしの様なそんなに実戦経験も豊富ではない“半端者”とは違う『歴戦の勇士』……邂逅してまだそんなには経ってはいませんが彼の言った言葉を信じてわたくし達は本拠『五稜』へと退きました。


「(…)オレ一人で十分と言ったはずだったんだが。」

「私はあなたの“相棒パートナー”―――それにあなたの実力の程を知らないしね、なのだとしたら今回は絶好の機会…だと、そう思わない。」

「オレ一人だったら撤退の判断も容易につく―――それが一人増えたでもその一人の為に気を配らなきゃならんだろうが、そう言った意味…だったんだがあんたにゃ伝わらなかったみたいだな。」

「へえ~私の事を心配してくれてたんだ、でもそれって私の事を“過小”しているわよね、それにあなたの事を『補助サポートする』って言ったけど…補助サポートのやり様も色々あるのよ。」

撤退戦の要と言えば殿しんがりだ―――しかもこの役割は相当な技量を要する、オレもオレの世界で窮地に陥った冒険者達を救済すくうためによくこの役割を担っていた、だから…得意としていると言う訳ではないのだがやり方とすればよく理解できていると言った処だ、『一人』の方が身軽だったんだが―――オレを補助サポートする為にと残った『次元の魔女』ベアトリクスが『補助サポートのやり方にも色々ある』と言って来た。


そうこうしている内に撤退している対抗勢力を殲滅させる為か、よこしまなる“神”を崇める者達―――『神の使徒』と呼ばれる者達が現れた。

ふるきのいにしえからこの次元世界せかいを見護っている神―――武御雷たけみかづちを信仰し、仕えていると言う有角人族ゆうかくじんぞくの彼女が言っていた…『わたくし達と同族だ』と、なるほど、よく理解したよ…外見みかけは全く同じだが信仰しんじている対象がこうも違うと全く別物と思わざるを得ない、あの彼女が自分達の事を『有角人族ゆうかくじんぞく』だと区別するのは無理もないと言った処か。

「すまないがここから先へは進ませる事は出来ない、オレとしては大人しく引き上げてくれる方が良いんだがな。」

こんなオレの嘆願如きで素直に応じてくれると言うのなら世話はない―――当然あちらさんも自分達が奉る神のご機嫌を取る為にと反発はしてくる…まあ、正直言ってここまでは想定の範囲内だな。

そして本来なら―――上手く事を運べたんだが…残念だが今はそうではない、オレを補助サポートする為にと余計な…

「まあ予想通りね、勝利に酔ってしまってこのままの勢いなら自分達の最大の障害ともなっている『ヱミシ』とやらの本拠も眼中に置いていたんでしょう。 ―――交渉には応じられない…でも、ここは素直に引き上げておくべきだと助言をしてあげるわ、え?だってあなた達の頭上―――?」

「お、おい―――『次元の魔女』、は一体何なんだ…!?」

「“彼ら”が私達と別れてから私は少しずつ魔力を練り上げ―――それを上空へと待機させていたの、それに勝ち過ぎたこう言った状況ではこちら側からの『撤退勧告』にも応じない―――そう思ってね、まあ…『保険』かな?」

『次元の魔女』ベアトリクスはこうなる事を想定していて―――オレとはまた違う方法を模索していた、オレはオレで交渉決裂時には逃走を選択したものだったが『次元の魔女』はではない―――彼女は交渉決裂時の折にはヤツ等の殲滅を図るべく、有角人族ゆうかくじんぞくの[かんなぎ]達との別れ際から既に準備を始めていた、魔力を徐々に練り上げそれを上空へと飛ばし…その魔力の塊はいつしか天空に昇っている太陽がすぐ近くにある―――と錯覚に足る巨大おおきさだった。

が落ちたら、タダじゃすまないでしょうね…軽く見積もってあなた達は全滅―――悪くしちゃうとこの辺一帯の地形が変わっちゃうかもね。 さあ~どうする?決めないなら決めないでいいけれどそうした場合は洩れなくあなた達の本拠に贈呈プレゼントしてあげるわ。」

『恐喝』『恫喝』『威圧外交』とでも言えばいいのだろうか、この魔女の言うようになるかもしれない―――し、ならないかもしれない……けれど予断は許さない、許されない、なぜならその魔力の塊は徐々にその高度を下げていたからだ、だからこそ迷いは許されない…そうならないと思うのならすぐさまこの魔女を攻撃するべきだが、そうする為にはオレと言う存在が圧倒的に邪魔なのだ。


結局ヤツ等が取った方策とは『撤退』だった―――けれどその想いには忸怩じくじたるものがあっただろう、何より完全な勝利を目前にして『おあずけ』を喰わされたかたちとなったのだから。

それはそうと、例の魔力の塊は『次元の魔女』ベアトリクスが更に上空に上げ―――そこで爆発させたそうだが…「なあ―――『次元の魔女』、今回はあいつらが応じてくれたからいいがもし応じてくれなかったらどうしていたんだ。」

「私は―――何も出来ない事を実行に移したりしないわ、今回あいつらが応じてくれなかったとしたら私が言っていた通りになっていた事でしょうね。」

「あのなあお前―――」

「それに、なまじ“騙りブラフ”だと思われてしまったら次からは舐められるわ、それにこう言った争時そうじの交渉では『そうなるかもしれない』と思わせた方の勝ちなのよ。」

「それが今回は上手く行った―――だが毎回通用するものとは思わない事だ。」

「判ってる、それに今回は“最初の遭遇ファースト・コンタクト”だからね、だから―――見せておく必要があるのよ…『相手側にもヤバイ奴がいる』って事をね。」


         * * * * * * * * * *


こうしてオレ達も有角人族ゆうかくじんぞくの[かんなぎ]の待つ彼女達の本拠、『五稜』へと引き上げてきたわけだが―――

「お待ちしておりました、それにお2人が無事と言う事は敵は退き上げてくれたみたいですね。」

「ああーーーまあ…実際それをしたのはオレじゃないがな、オレは飽くまであんた方がここまで退き上げる為の時間を稼ぐつもりだったんだが…オレの“相棒パートナー”様があいてを脅し付けて退き上げさせた…と言った方が良いかな。」

「ここからも視えましたあの巨大な炎の塊―――あれはやはりそう言う事なのですか。」

「あれくらいは出来て普通でしょう、それにあんなの落したりしたらここもどうなってた事だか。」

「お、おい!『次元の魔女』!お前先程はそうは言っていたなかっただろう!」

「あらあ~?そうだったっけかあ?」

「(あはは…)ま、まあ結果的にはわたくし達は救われたわけですし、その事はあまり追求しないようにしましょう。 それよりわたくし達を統括する[神主]様が直接お会いして感謝の辞を述べたいと…」

ようやく―――ここまでこぎつけたか…思っていた以上にすんなりとは運ばなかったな。 だが、この勢力を取り纏めている代表と会い、の事を話し合わなくては―――当然その思いは『次元の魔女』ベアトリクスも同じだと思っていた、しかしここで問題が―――それはオレも同様だった…


この次元世界せかいは、オレの“出身”ではない、それは当然『次元の魔女』ベアトリクスも同じ事だ、更に言えばオレとベアトリクスのあいだも初対面である―――ならばオレとベアトリクスの“出身”ではないこの次元世界せかい…そのハズだ、だから―――有角人族ゆうかくじんぞくの[かんなぎ]から紹介された[神主]も、初対面であるべきだ…だがではなかった―――初対面のはずの[神主]には既視感があった、それはオレだけだと思っていたのだったが、『次元の魔女』ベアトリクスも同じ感覚を共有していたのだ。

なぜ―――?別の次元世界せかいの存在でしかない、別の次元世界せかいの存在であるはずの[神主]にそんな事が…?

「初めまして―――私はこの『五稜』にある『花神社はなかみしゃ』の[神主]を務めております…『クシナダ』と申します。」

その[神主]とは女性だった―――長く腰まであろうかという白髪はくはつに、透ける様な白い肌、他人の思いも見透かすかのような灰色の瞳…[神主]だのと言わなければ『絶世の美女』と言うに相応しい―――そんな女性…

なぜ―――なぜ……が“ここ”に!?いくら他の者を誤魔化そうとも私は知っている…私が知っている、しかもこの世界でよこしまなる神に対抗している勢力の[神主]―――だ、なんて…何の冗談?

だけど思い止まった―――思いを留めた…が偽り、存在しようとしている事の意味を噛み締める為に…


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



これは2人が『五稜』に着くまでの“一コマ”―――



「それより、なあ…『次元の魔女』、なんなんだ?『ベアトリクス』って…」

「(ちっ)聞き逃してくれなかったみたいね、まあ考えても見なさいよ『次元の魔女』だと言われるとアヤシサだけでしかないと思わない?言わばあの名前は世知辛せちがらい世間の目を晦ませるための『偽名』よ、『偽名』。」(※本当は本名です)

「ふうーん…『偽名』、ねえ。」

「何、文句あんの。」

「いや別に、案外可愛い魔女にしては似合わない名前だなあと思ってな。」

「ほ、ほ放っといてよ!それに『可愛い』なんておだてられて喜ぶもんだと思ったら大間違いよッ!」


どうやら『次元の魔女』ベアトリクスは“ツンケン”しながらも“照れ”て褒められて戸惑っているようだった―――



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