第9話 【暴風の真竜(ヴリドラ)】の討伐
[勇者]フレニィカが女神ヴァニティアヌスの主神によって
「(…)どうやら無事みたいだな。」
「良かったよぉ~良かったよぉ~あんたに万が一の事があったら、私ゃどうしようかと―――」
「(あーはは…)すまなかった、皆を心配させたみたいで。」
「それよりお前、なにもされなかったのか?」
「ベレロフォン―――あんたは
「だねえ~それにフレニィカちゃんは可愛いから、私もあんな事やこんな事をするのを
「“ハガル”―――お前のそう言うところが今回の事態を招いたのだと私は思うがなあ。」
「判ってるよぉ~判ってるけどさあーーー私としたらどうにも…」
「何の事を言っているんだ?ヴァヌス、お前が先ほど言ってた『あんな事やそんな事』って一体何なんだ。」
「本日のサービスは終了です―――て言うより男のあんたが知っていい事じゃない、ベレロフォン。」
私は戻って来た。 戻っては来たのだが、どうやら女神ヴァニティアヌスの使徒であるこの2人は私に何があったか判っていた様だった、それに―――“ハガル”のヘレネが私の身を案じてくれているかのような言葉…あの女神も言っていた事だったが『私の事を可愛がって』くれている、ねえーーーまさかとは思いましたが本当だったみたいです。 それにベレロフォン、ヴァヌスが言うように
(※決して皮肉を言っているわけではありません、ので悪しからず)
とまあ、私は無事帰還を果たした事でどこか今回の事情を知っている2人の使徒に今回私を連れ去った女神の事を聞こうと思った。
「うん…まあ―――『何もされなかった』と言われればそうではないのは確かだ、私は例の女神様に連れ去られたあとその女神様からの試練を受けた、そのお蔭もあって私は成長をすることが出来たのだ。」
「ふうん、どれどれ…確かにその筋の“耐性”が
「はーーーこりゃ、次
「(えーーー)また次
「当たり前だろぉ~?だってこの前のはあの方が水を差してくれたことで有耶無耶になっちゃってるし…」
「フレニィカ―――お前ちょっと面倒臭くなってきてないか?」
「え゛っ?(ギクぅっ!) は…はは―――まあ~さかあ~?」
「まあ、お前の管轄は私の役割じゃないからいいけどな、良いか“ハガル”、この横着娘が怠けないようお前が責任を持って管理をしろよ。」
「わ、わあーーーかってるってよう。」
「それより……ひとつ疑問なのだが、私を見知らぬ場所に連れ去った女神様とは一体どなたなのだ?」
「(ふ・う…)その事は―――ベレロフォンからも聞かれたんだけれどな…残念ながら私達にはあの方の名を口にするというのすら畏れ多いと言った処だ、だけど…このままではお前はずっと―――私達のどちらかが答えるまでその質問は繰り返される事だろう、だからこれは大サービス―――それでもあの方の名は教えられない…その代りにお前が行っていたという『見知らぬ場所』については教えてあげよう、お前があの方によって連れ去られた場所―――それこそは『冥界』…」
「『冥界』…だ、と?!私達の死後
「だろうな、それに勿論今もお前は生きている、だってそれがあの方の権能―――あの方が自分の
「な、なんだそれは?!そんなのインチキじゃないか―――」
「だろうな、その部分だけを聞いただけなら誰しもがそう思うだろう。」
「(ん?)それ―――って、『冥界』以外では案外…」
「そう、“雑魚”“
「(こ…酷評だなあ)」
「だけど、認識を誤ってはダメだぞ―――そんな方でも私達の
「(ん?)なあ―――ヴァヌスよ、オレからも質問を一ついいか、ならば女神ヴァニティアヌスが
「なあに?フフフ―――勘が鋭いな、そう言う事だこの
次々と明らかとなって来る事実―――私も、私を
いや、そも『混沌』とは……?
私はそこで一層の疑問に駆られたものだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は無事に戻って来た、しかし皆は…特に
私は、[勇者]だが“弱”わかった―――それを見かねたある女神、私達の
本当に、そうだろうか―――?
ただ私は名も知れぬ女神から与えた試練を突破した褒美としてあるモノを与えられた……『美と愛と豊饒の女神の
私達の世界には『魔力』と言うものが存在する―――私達の知る常識を軽く覆せる事の出来る
『何もない所から“火”や“水”や“土”や“風”を生じ』させたり、『通常なら治療に何ヶ月も要してしまう大怪我も一瞬の内に治して』しまったり、『何の変哲もない
そして―――“弱”い[
だが、名も知らぬ女神の試練を突破した事によって『美と愛と豊饒の女神の
ただ―――私は知らなかった…私が名乗らずの女神より授かった褒美と言うものがどんなモノだったのかを。
その事が発覚したのは私が帰還を果たして半年余りが経過した頃だった、この頃になると例の騒動の熱も収まり私は今まで通りヒューマン達を
* * * * * * * * * *
ある日の事、酒場ヘレネスの
「ああベレさん丁度良かった―――大変なんだよ!」
「『大変』か……まあそりゃ、“
「何を気の利いた事を言っているんだよ!あんたが大事にしている“シギル”が―――」
「(!)なに?ヴァヌスが?!だが…」
「ああ…最初は私も耳を疑ったさ―――“
「(!)なんっ、だ、と…それではヴァヌスを倒したのは実質上ヴァニティアヌスよりも…」“強”い―――それはヘレネに示唆されてよく判った事だったが…だが、今にしてみれば判らないことだらけだった、第一このヴァニティアヌスの
この
「信じ…られないかも知れないけれど、『不死身の竜』、『
『ヴリドラ』―――ある
けれどこの時オレはそのヴリドラがこの
「すまない、ベレロフォンはいるか!」
「フレニィカ!それにヴァヌス…!無事…なのか?」
「いや無事とは言い
魔法が不得手であるはずのこいつが名も知らない女神に攫われて戻って来た時に判ったことが一つだけあった、前置きにもあったようにこいつはハーフ・エルフだ、半分はヒューマン半分はエルフの特性を持っているわけだから魔力だけは多量に保有している。(どれくらい多量かと言うと熟練の魔道士の保有量を軽く凌駕していると言えば判り易いだろうか) ただ、それが運用できるかと言えばそうではない―――まあ要は『持ち腐れ』と言うヤツだ、そんなあいつが…フレニィカが戻ってきた時に
* * * * * * * * * *
「フレニィカ―――それは?」
「判らない…ただ私も例の女神様から頂いて使い方を教えてもらっただけなのだ。 だが見ての通りこの鎧の発現条件は私の魔力を“通”さないといけない。」
「あーーーなるほど~確かにフレニィカちゃんたら魔力は多量に保有ししているくせに魔法を使うとかはからきしだったもんねえ~。」
「そこの処もあの方の目に付いたんじゃないのか。」
「キビシー事を言うでないよ~だったらあんたは“0”を“ある”もんだと言えるのかい?」
「悪かった、ごめんなさい、“ない”ものは“ない”んだものね、“ない”ものをいくら振っても“ある”ようには見せられない…だからこそあの方の
「うう~~なんだかヴァヌスの風当たりが強い気がする…」
「当たり前でしょうが、今時魔力をそん
「おいおい…その辺にしておいてやれって、ヴァヌス。」
「(…)まあ、ベレロフォンが言うからこの辺にしておいてやるけど、精進することだなッ!」
* * * * * * * * * *
そう―――フレニィカは名も知らずの女神から解放された時に使えなかった魔力を使えるようにされてきたのだ。 そして今、あんなにも厳しい事を言ったヴァヌスの身体を癒すまでになった、初等の治癒魔法とは言え使えるようになったのは今まで普通に使えていた者達からすれば何の事はないのだろうが、
この魔族の
情けない話しだが私は色んな面で至らなさ過ぎる、それが私の“弱”さに繋がっているのだろう、ならば―――せめて安心していられるように…心配などさせないようにするだけだ。
だから私は準備を進めた―――【暴風の
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ただ周りの状況としては放ってはおかれられなかったらしい、それというのも私が【暴風の
「お邪魔致します―――」
「ロクサーヌ!どうしたんだ、お前…」
「このような辺境の地―――なれど、災厄が暴れていたとの報告が
「そうか…それでそちらの方は?」
「
『異教徒』や『教会に仇なす者』更には『魔獣達を殲滅』させる機関『異端審問庁』そこの幹部であるロクサーヌが赴いてきた…それは彼女の務めのひとつだから判らないではないが、教会に務める[司祭]が[大司祭]の命を受けて派遣されてきた……なるほど、『治癒』や『回復』などの後方支援をする為に
「あなたが、この
その言葉を聞いただけではオレの事を讃辞しているかのようにも見えた―――だがオレは違えなかった…この女、[司祭]こそは教会が誇る最強の戦力なのだと。 何故そんな事が判るのか、判らない方が難しいと言った処だ―――聖職者がこのオレよりも強烈な血の臭いを漂わせているなど!
それにどうやら[司祭]がこの街に来たという背景も少なからず見えて来た、それというのも僅かな時間を見つけてロクサーヌに接触したからだった。
「ロクサーヌ、ちょっといいか…」
「ベレロフォン―――すみません…わたくしが至らなかったばかりに。」
「お前が…?なぜ『至らなかった』のだと。」
「それよりも聞いて頂きたいのです、本来ならわたくしが勤める異端審問庁が教会本部の司祭様に会う等と…それは畏れ多くにして不可能な話しではあるのです。 確かにわたくし達は異教徒や時には魔獣を相手にする教会の実働部隊ではありますが所詮はそこまで、だから教会本部に務める司祭様にお目通りが叶う等と……」
「だがそれは向うから接触をしてきた場合はその限りではない―――
「はい、無下に断ろうものならば教会に反目する存在の烙印を押されかねません。」
何てことだ―――滅多に会えないながらも向うがその意思を示せば拒絶する事は出来ない、しかも奉っているのは女神ヴァニティアヌスとくれば拒絶の意思は女神にも反目すると捉えられかねない、それにロクサーヌは決して弱い存在ではない、その本来なら教会本部の意向を伝えて実働部隊である
「あらあら、お2人とも仲がよろしいんですのね。」
「こっ、これは司祭様―――」
「よろしいのですよ、うら若き男と女が好いた惚れたで睦まじ合うのはよくある話し…ですがロクサーヌ、教会の人間が[英雄]とは言えど外部の者と接触をするのは、よくありませんよねえぇぇ…
「あ、あのっ司祭様、わたくし達は決して…」
「オレ達はあんたが心配するような事は何もしていない、ただ彼女とは昔よく組んで活動していただけだから…」
「それで昔の事を懐かしみ―――こうして人目のつかぬ場所で密会をしていたと…」
「司祭様―――」
「
気付かれていたって言うのか―――だが疑うしかないだろう、オレの知る教会本部勤めの[司祭]とは教会に来て女神へのお祈りや罪の告解をし、神の救済を求める民衆の手助けをするものとばかり思っていたのに…なのにこの度ここへと来た[司祭]はこのオレ以上の死臭を―――血の臭いを放っていた、[
「そお言えば、ひとつあなた方に聞いてみたい事があるのでした。 ねえ…あなた達?ゴキブリと言うのはご存知。」
「存知も何も駆除しても次から次へと―――」
「ええ―――でしょうねえ…全くここの有象無象共もそれと同じです、一匹見つければ百匹…いや潜在的には億匹いると
「(な)フレニィカが?!なぜ…」
「それが判らぬあなたではないでしょう?ベレロフォン……夜討ち朝駆けは
―――敵わぬ者と成ってしまったのですから―――
「あ…あんた、あいつの持っているあれの事を知っているのか!?」
「ええ、知っていますわよ?当然でしょう…
「し―――仕掛けたって…司祭様!それではあの脅威はあなたが!?」
「今回、必ずや[
その言葉とはとても聖職者とは言い難いものだった、けれどこの[司祭]はその事を―――オレをも
その本来なら教会は『秩序』の維持をしなければならない、いつもの平和にいつもの生活―――それを護らなくてはならないハズなのに…なのにそんな教会の人間が自ら『混沌』を?!
いや、待て、何か大切な事を忘れていないか…そうだ、この[司祭]は[大司祭]の意向を受けてこの地へと来たと言っていた、ならば今回の事を
「ま…まさか[大司祭]
「ですが、それが真実です―――それに神は何も突破できぬ試練を与えはしない。 それともあなた達は[勇者]を信用していないと言うのですか、未だ“弱”い存在だと思っているのですか、ある女神が目を付け、突破できぬ試練を与え、それを見事踏破した―――最早[
『狂っている』その一言に尽きた、それに教会の上層がこんな狂った思想の持ち主が占めているかと思うと薄ら寒さすら感じた、この[司祭]の目的は何もフレニィカの成長を願っての事ではない、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方私は準備を終わらせ単独でヴリドラの巣へと向かっていた、途中私を阻む障害は用意されていたがこんな障害で≪通力≫を使用するまでもないと極力使用を避け、私は持てる
もう私に恐れるものは何もない―――畏れる理由などどこにもない…
だからこそ―――
「【暴風の
{何ヤツだ…ワレが気持ち良く休んでいるというのに、ワレの安らぎを妨げると言うのならその骨肉一片たりとも遺してやらぬから覚悟せよ!}
「これからお前を討ち
{うん?“シギル”―――ああ、今のキサマのようにワレの耳元でブンブ・ブンブと
「やはりそうか…彼女は私に対して何かと厳しい言葉をぶつけてくるから嫌われているものだと思っていたが、最近になってようやく気付いたよ…いや気付かされたと言うべきか、彼女は私の事が心配だったのだ、自分に自信を持てない私が―――自分を愛せていない私が―――そんな私が強き者から弱き者を護ると言った処で頼るに信を置けないと!」
{フン―――なるほどな…あの方の言われた通りのようだ。}
「なに?何の事を言っている、『あの方』とは誰の事なのだ!」
{気にする事はない、知る必要もない―――今の時点ではな、このワレも今はあの方に従うのみ…以前はこの権能によって神にすら抗ったというのにそれが今では……クックック、ハッハッハッハッハ、哀れだと思うだろう?なあ[勇者]よ、且つての打倒すべき強敵が
「なに?ではお前は、お前自身の意志でヴァヌスを―――“シギル”を打破したのではないのだと!?」
{その通りだ、そして今のワレはお前の…[勇者]の実力を図る為の
『釣られた』―――そう思うより外はなかった、この【暴風の
一体私達の知らない処で何か進行しているのか、私には判らない……だけど判っている事はある、今私の目の前にいるのは私の仲間―――私の小さな友人を傷付けたヤツなのだと言う事を。
そして私は深く…静かに“力”を“通”じさせるのだった―――
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