第7話 傍観者

現在オレは魔族の幼生体少女だと思っていたヴァヌスと同居をしている、しかしヴァヌスが流暢りゅうちょうな人語を使ってオレに教唆きょうさしてくれた事でヴァヌスが魔族の幼生体少女ではない事が判ってしまったのだ、そう―――ヴァヌスは幼生体少女にしか見えない容姿すがたで既に成体並の能力を有していると言う事になる。

それにヴァヌスは気になる事を言っていた、[勇者]であるフレニィカが[魔王]ヘルマフロディトスにおくれを取った事は知っている、ただそれも[勇者]を育てる為に必要なのだと説明をされて理解はしてきた、だが―――フレニィカは判るとしてもオレは数十年来[英雄]としての役割を果たして来ている、だと言うのにこのオレにも補助役サポーターが着いていると言うのが納得できなかった為…「それはどう言う事だ?ヴァヌス―――このオレが不覚を取るとでも?」

「いや?さらさらそんな事は思ってはいない、だがこれが女神の方針だ―――私達の主神である女神ヴァニティアヌスの思し召しなのだ。」

「ヴァニティアヌス―――オレの育ての親…それにお前達の主神であると言う事は…」

「間違えてもらっては困る、いくら人間離れしているとしてもお前は…ヴァニティアヌス様の使徒であるとは根本的に違う、まあ…時折神の気紛れによって神自身がヒューマンを育てたと言う神話はなしはいくらでもあるが、お前もに過ぎないのだよ。」

「(辛辣しんらつだな…)ならばなぜお前はオレに補助つくようになった。」

「非常にいい機会だからそれをこれから話してやる、私は現在『ヴァヌス』を名乗っているがそれも所詮は主物質界マテリアルプレーンに於いて便宜上使っているに過ぎない、私がヴァニティアヌス様の使徒となった時に付けられた名は―――“シギル”と言う。」

「“シギル”―――!いにしえから息づく[英雄]?!」

「フフッ―――驚いたかね?ヒューマンの間でも伝承として語り継がれている存在が魔族で―――しかも幼い容姿すがたをしている事に、それよりこれから話してやる事の方が重要なのだけれどね…『いにしえの[英雄]』である私が現在の[英雄]であるお前に補助つくというのは、一言で言えば[英雄]と言う『ユニット』を育てる為…そしてこの私のげんが示しているように[勇者]と言うユニットを育てているのは……」

「それが……ヘレネ?!」

「彼女は私と同じく『いにしえの[勇者]』としての役割を果たし、今は…まあまだ頼りないけどあの子を育てている最中―――と言った処だ。」

「フレニィカを育てているのがヘレネ…だが彼女は―――」

「そう、『[魔王]ヘルマフロディトス』としての役割を果たしている、[英雄]や[勇者]って本当に損な役回りでしかないものだ、それは確かに窮時に於いては頼られるけれど窮時それが去ってしまえば『咽喉元過ぎれば何とやら』…可哀想なヒューマンの天敵を排除してあげた時点で今度は敵意の刃を[英雄]や[勇者]わたしたちに差し向ける始末…」

「(ふ・う…)耳の痛い話しだが、それが事実だしな。」

「お前も数多くのヒューマン達を救済すくって来たというのにハーフ・エルフフレニィカ救済すくった事で批難を浴びたんだろう、そこでお前は女神ヴァニティアヌスに相談をした、けれどそこでは明確な答えは得られずその代わりにある一つの啓示を与えられた、そこでお前は一つの真理にあたった。 だからお前は救済その対象を切り替えた、『ヒューマン』じゃなくて『生きとし活きる者の存在』に、当初その事はの中でも紛糾したものだよ…―――『いにしえの[英雄]』であるじかに見定める事によってお前が『ユニット』として相応ふさわしいか相応ふさわしくないか見極める為に。」

オレが知らないでいた事を『いにしえの[英雄]』である“シギル”が語ってきた、聞いた当初は流石に戸惑ったものだったが聞いて行くに従い納得はしていった、ただそれでも理解できない事はあった―――それが“シギル”…ヴァヌスが言っていた『ユニット』の事だ、『ユニット』とは判り易い言葉で言えば『駒』と言う意味だ、『駒』…要は『道具』―――失われてしまってもいくらでも補充かえの利く、そんな便利な存在…オレにしてみればそこが引っ掛かった、孤児みなしごであるオレを育て『正しくあれ』と教えて来た育ての女神おやが、使い捨ての道具を作る為にを―――?!

「なにをまた、余計な考えを廻らせているかは判らないが―――これは名誉な事なのだベレロフォン。」

「(…)何故そう言える―――ヴァヌス!使い捨ての道具のどこが名誉な事なんだと!?」

「ほらやはり…言っておくがこの次元うちゅうにいるんだよ、そしてもちろん(女)神なる存在もヴァニティアヌス一柱ひとりじゃない…なあベレロフォン?お前―――この次元うちゅうに(女)神は一体何柱存在するか知っているか?『八百万やおよろず』…それだけの数の神々が自分達の眷属を育て、競い合っているんだよ。」

それはオレにとって衝撃だった、まあ(女)神なる存在がヴァニティアヌス一柱ひとりだけじゃない事は判ってはいたが…『八百万やおよろず』!?それだけの数が存在していると言う事に衝撃は隠せないでいたのだ。 それに『次元うちゅう』―――800万もの神が存在すると言うなら単純な計算だけでそれだけの数の次元世界せかいが存在する…しかも神々はそれぞれの次元世界せかいに於いて[英雄]や[勇者]オレたちの様な存在を競うように育てているという、だとしたら一体何の目的で―――と言う訳だが…

「そして今お前はこう思っている事だろう…『だとしたらどのような形で競い合わせているのか』と、それは簡単な事なんだよ、互いのユニットを交換し合って能力の差を確かめる…どうだ?至って平和的だろう?」

「なるほど、つまり育成が上手く行っていないと―――」

「そう…それはそのユニットの(女)神おやの恥となる―――お前達がしっかりしてくれていないと女神ヴァニティアヌス様の評価が著しく低くなることを覚えておくんだな。」

『平和的』―――と、『いにしえの[英雄]』である“シギル”はそう言ってくれたがオレ達の失策ヘマ失態ヤラカシ所為せいでヴァニティアヌスの評価が著しく低下する―――それはオレにしてみればこたえたものだった、この次元世界せかいでのオレの評価は下がっていると言っていい…が、それも次元世界せかいの話しだ、今ヴァヌスの言ったようにオレやフレニィカが他の(女)神の次元世界せかいへと招かれてそこで失策ヘマ失態ヤラカシを見せようものなら―――そう思うとオレの双肩に重たくし掛かってくるものがあった、そう『重責プレッシャー』と言うヤツだ、オレはこれまで“人類族”…取り分けてヒューマンを主体として救済を行って来た、それがある日を境にその間口を広げた―――そう『ヒューマン』から『総ての生きとし活ける存在』へと、オレ個人からすれば立派な矜持だとする反面、ならば―――他の次元世界せかいでは…?!

するとそんなオレの悩みを知ったかのように―――

「お前の掲げている矜持―――あれって中々大したものだと思うぞ、確かに大したものだけど…あまり風呂敷は大きく広げない事だな、そうしないと痛い目を見るのはお前なのだから。」


            ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ベレロフォンと魔族の幼生体少女が存在の在り方について話し合っていた頃、[勇者]としての私は実力を付ける為に多くの依頼クエストをこなしていた、それにもう私は自分の容姿を気にしなくなり今では頭部全体を覆うフルフェイスタイプの兜は着用せずにいた、その事を周りの皆は認めてくれたものか魔族であるエルフの容姿の事をとやかく言わなくなってきた。


私は―――ハーフ・エルフだ、外見上みためのうえでは魔族であるエルフではあるが中身はと言うとそうではない…多少ヒューマンである彼らよりは素早いとは言え本物のエルフと比べると遅い部類ではあるし、魔力もヒューマンよりはやや多めではあるものの本当のエルフと比べれば少ない方だ。(寿命の事は最早言うまでもない事だが…)

つまり、私はヒューマンの上位互換ではあるもののエルフの下位互換でもある、だから私の事を『エルフ』だとして頼られてきても…「(困るのだがなあ~)だが出来る事はやらねば―――それが私に課せられた使命!」

今回は≪石化≫の能力を持つ『バジリスク』の討伐―――この魔獣は≪石化≫も厄介なのだが≪毒≫も持っている難敵だ、それにエルフならば〈浄化クリアランス〉の魔法が使えてこれらの状態異常を解消させることが出来るのだけれど…残念ながら私には使えません―――だからと言ってそんな恨めしそうな目で視なくてもおお~~確かに私は[勇者]ですが、[勇者]は使える魔法は限定されているのです、その一つとして〈回復魔法ヒーリング〉は使えますよ、ですが使える神聖魔法はそれだけなんです…だから~そんな恨めしそうな目で視ないでええ~!


とは言えなんとか完遂クリアは出来た、今回の討伐に参加した者達は組合ギルドでそれぞれ報酬を受け取ったけれど私は引け目と言うものを感じていた為、後で取りに行くことにした。

そして私は現在『酒場ヘレネス』にいる―――なんだかんだ言っても私の安住となってしまっているんだよなあ~それにヘレネも私の補助役サポーターと言うだけあって私には優しく接してくれているし…(しかも今も慰めてもらっています、ハイ)「無理だよぉぉ~~大体〈浄化クリアランス〉なんて魔法、エルフ語を修得しなくちゃならないし…私は私で人語しか判らないしぃ~~。」

「あらあらそれは困った事ですわね。」

「それに愚痴らせてもらうがバジリスクを相手にする際、準備は欠かさないものではないのか?私だって『毒消し』や『石化解除』のポーションなど沢山用意していたのだぞ、それが討伐終了時には無くなっていたんだ―――全部…それも私が使ったんじゃなくて仲間の為に使たんだぞ!?なのにあの連中ときたら私が〈浄化クリアランス〉を使えない事に非難轟々ひなんごうごうだし…なあ、聞いているのか?ヘレネ。」

「(メンドクサ…)ええーーー聞いていますわよフレニィカ様。」

まあーーーた愚痴ですよ、正直聞かされる身にもなって欲しいものだわ、とは言え『批判』『批難』もある意味では相手にされているという感じ―――この人も以前までは一匹狼フリーランスとしてやってきてはいましたが、曲がりなりにも[魔王]を討伐した事によってその評価は見直されてきている…ふうむ、まだ少し時期的には尚早はやいかも知れませんが―――


         * * * * * * * * * *


私が酒場ヘレネスで今回の討伐に関して愚痴を垂れていた時、各自の報酬を貰い終えたのだろうか…冒険者達がヘレネスを訪れて来た。 それで私は自分の報酬を貰う為に組合ギルドへ向かおうと腰を上げた処―――


「ねえねえお兄さん達ぃ~そう言えば[魔王]が討伐された後の魔王城って今どうなっているんだぁい?」


                  ん?


「おおマダムさすがに耳が早いこったなあ。」 「いやここ2・3日前の事だけどよ、調査に向かった奴らの言う事にゃ―――」 「何でも異常な魔力値が観測されたんだとよ!」


                ん? ん??


「あらまあ怖ぁ~い、だったとしたら―――」

「おおよ、何でもあるらしいぜ…[魔王]復活。」


いや、知っていますよ?だって―――ここの女主人マダムなんて[魔王]そのものなんですから…

私がヘレネスから出ようとした時、ヘレネ自身が言ったのだ―――『[魔王]復活の予兆』みたいな事を…まあ確かにあの魔王ヘルマフロディトス]、言ってましたもんねえーーー『またどこかで相見あいまみえる事もあるだろう』って。 で、魔王討伐を果たして誰もいないはずのヘレネスの扉を開いた時、いましたもんねえーーーヘレネ女の方の[魔王]、て言うか早くないですか?復活するの…まあ私としては復活はあるものだろうと思いましたよ、ええそりゃあんな台詞を吐かれたらね、だけど前回の討伐から数ヶ月しか経っていないんですよ?なのに言っちゃうんかあーーーい

ああーーー今から頭が痛い…これから徒党PT募集の依頼を出さないとなあ……最悪集まらなかったらベレロフォンか―――ヴァヌスに頼んでみるか。

とは言え『[魔王]討伐』は[勇者]の大事な使命―――役割の一つだ、なので出来うる限りは私一人の力で何とかしたい、私の恐らくの予測なのだが今回の[魔王あいて]はヘレネとなるだろう。

ヘレネ―――日頃私達が住む町で酒場を経営している女主人マダム…しかしその実態は[魔王]―――この世界を混沌と悪に巻き込みこの世界を支配しようとする純然たる悪、しかも私は最初の魔王討伐に於いてヘレネに完敗を喫してしまった、そしてその敗北を糧に奮起した私はもう一人の[魔王]である男型のヘルマフロディトスを討伐したのだが、その者の散り際に先程のような事を言われたのだ、そう…『再戦』を予期させるあの言葉を―――そして私もそれに備える為に冒険者達との関係を築き上げ、私自身の力量レベルの底上げもしてきた、それにもう私には敗北は許されていない…[勇者]とは敗北を喫してしまってはならないのだ。


そして当日―――私と一緒に魔王討伐をこなしてくれる仲間は集まった。(正直“ホッ”としている)

それにやはり前回のは私に自身を付けさせるために敢えての芝居を仕込んだものだと言う事が判った、それというのも今回は初回の討伐と同様に[魔王]の幹部たちがいたからだ。

“初回”とは顔ぶれが違ってきているとは言え幹部にまで取り立てられた者達―――その実力は折り紙つきだった…[魔王]が腰を据える玉座の間まで犠牲を払いようやくたどり着くことが出来た、そして改めての対面となった時―――やはり今回の討伐対象の[魔王]とは…


『ふっふっふっふっふ、ようこそ我が魔王城へ…我の下まで辿り着けたことを褒めてやろう、そこで取り引きだ[勇者]とその仲間達よ、我のモノとなれ…さすれば世界の半分を与えてくれよう―――』

「断る―――!お前の暴虐は最早許すまじ、例え差し違えになろうともお前を止める事が私の使命!」

『よくぞった―――この愚か者が…ならばこの床に浸み込む血の一滴と化すがいい!』


ヘレネ…彼女だった、けれど初回の時とは違っていた。 あの時は私との一対一 ―――だからこそヘレネは私の知っているヘレネの姿で対峙してきた、だけど今回は違う、今回は私にも仲間と言うものがいる、仲間の中にはヘレネに対して淡い恋心を抱く者すらいる、ヘレネの提供してくれる酒をさかなに彼女を口説き落そうとする者もいる、そんな彼らに衝撃を与えない為にもヘレネは姿になって私達と相対峙していた。

全体は黒い鱗で覆われ―――時折口からは焔が吐かれていた、尻尾は樹齢数百年の大木よりも太く、ひと薙ぎしただけでも人間の身体なんて吹き飛ばしそうだった、爪や牙も業物の剣の如く鋭く…なによりその身体の大きさと言えば小山を思わせる程だった…

まるでお伽話にでも出てくるような『悪い竜』のような風貌―――しかし私には別の姿で捉えられていた、恐らくヘレネは私の仲間達に配慮しての事なのだろう…皆には『悪い竜』の姿イメージを見せてはいるけれど私にはヘレネそのものの姿で接して来ていた、瞬間―――甦る苦い記憶…私は知己の姿で出て来たヘルマフロディトスヘレネによって完敗を喫してしまった、そしてその時の轍を踏まえてヘレネは私の前に現れた…「フッ…なるほどな、そう言う手を講じて来たか―――残念だが私にはその様な手は通じない!」 


「どうしたんだ勇者さんよ。」


「[魔王]は狡猾だ―――そんな事は今更言われなくても判っている事だ…今の私はヤツから≪幻視ヴィジョン≫を掛けられている…私が闘いにくいようにな!だがもう同じ手は二度も喰わない、いくら私がお人好しであろうとも[魔王]ヘルマフロディトスは討ち取ってみせる!」

そして始まる戦闘―――今度ばかりは一切の手を抜かない…そうした気概が伝わって来た、[魔王]ヘルマフロデvsィトス対私達24と言う対決構図とは言え余談が許せる状況ではない、彼らヒューマン一人一人としては戦闘力は魔王に遠く及ばない、だが24の力を結束すれば爪や牙、吐かれる焔や尾撃にも対処できる、前衛にて防ぎ切る者達と防ぎ切った処を攻撃する者達―――そして後衛では前衛で傷付いた者達を回復・治療する者達や魔王の弱点を衝いて攻撃魔法を展開する者達、更には遠隔での射撃で魔王の膨大なまでの体力を削る者達…そう、これが『連携』―――単独ソロでは決して為し得る事が出来ない所業…確かに私は[勇者]だ、過去には[勇者]一人で[魔王]率いる魔王軍を相手にしていたようだが―――集団戦の利を活かし強大な敵を討伐うちとる…そうしたところだけを見てしまえば過去の[勇者]と比べて私と言う[勇者]は『弱い』と言っていいだろう、単独撃破できず仲間に依存しなければならないのだから…


だが―――異変は既に起こっていたのだった……


          ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



場面は一転し―――ここは…とある次元世界せかい、それも高みのある場所……

そう言った場所でとある者がこの世界―――女神ヴァニティアヌスが創造した次元世界せかいを眺めていました。 熟れた、豊満な身体を揺蕩たゆたえ―――退屈そうにこの次元世界せかいの有りようを眺めていた…そしてふとその眼に止まってしまう―――未熟ながらも全力を出し切り果敢にも強大な敵に立ち向かって行く[勇者]を…


{(あらあら、の眷属の中にも興味深いおもしろい者もいたものね。 それに―――うふふふ、なんて弱い…けれど強い―――いくら傷付き薙ぎ倒されようとも挫けず立ち向かって行くその姿、完成された強さなんて面白味のないもの、不完全であるから育てる愉しみと言う愉悦を味わえる…それに―――)決めたわ…私あの子を貰っちゃおうっと♡}


ある次元世界せかいの高みにて身体を揺蕩たゆたわす存在なんて限られている―――そう、神…

その神は現在[勇者]フレニィカが[魔王]ヘルマフロディトスを討伐しようと闘っている場面を眺めていたのです。 そしてていく内にある思いが浮上してきた…不完全な[勇者]を、この自らの手で育成そだててみたい―――と…

しかしながら今フレニィカは戦闘の真っ最中―――だとするならフレニィカがヘルマフロディトスを討伐した後で、それも女神ヴァニティアヌスの許可を取り付けた後で行為に及ぼうとしたものか…

―――残念ながらそうではありませんでした、なぜならその神は『混沌にして悪』、神なる存在は元々気紛れなものでしたがその神は“極致”と言えたでしょうか、自身の、やりたい事しか、しない―――それが他の神の所有物ユニットであろうがお構いもなく……



          * * * * * * * * * *



そして早晩その事は伝えられる―――自宅で休養を取っていたベレロフォンとヴァヌスの下に、ヘレネが血相を変えて飛び込んで来た…



「た、大変だよ!」

「どうしたのあんたらしくない、少し落ち着きなさい。」

「これが落ち着いていられるかってんだ!」

「どうしたんだヘレネ、あんたが狼狽うろたえるって事はフレニィカに何かあったのか。」

「まさかあの子…またあんたに敗れたと言うの?まあーーーその敗れ方にもよるけれどね、例えば味方の窮地に自分の身を呈して―――」

「そんなんじゃないんだよ!確かにあの子は数分前まで私と闘っていたさ、だけど…だけどねえ!」

「敗れたのではないとすれば―――何があったの。」


      「あの子が…あの子が私の目の前から消えちまったんだよ!」


「(!)なん、だと?!」

「あんたと闘っている最中に―――?それって、もしかすると…」

「ああ…『神隠し』さ―――だけど…だけどねえ、物事には順序ってものがあるだろう?あの子を貰い受けるにしても最低でも女神ヴァニティアヌス様の許可は取らないといけない―――それに闘争や決闘をしていたら最低でも終わるまで待たないといけない…」

「なのに相手はさらって行った―――と、ねえ“ハガル”、あなたその事はヴァニティアヌス様にご報告したの?」

「いや…まだだよ―――だけどその前にあんたの意見を聞きたくってね。」


「お、おいヴァヌス。」

「(はあ…)私に意見を『聞く』も何も、あなたの中では既に判っているのでしょう、だからヴァニティアヌス様への報告より私への相談を優先させた…それに―――恐らくだけどヴァニティアヌス様も既に判っていらっしゃる事だと思うわ。」

「どう言う事なんだ?ヴァヌス。」

はね、知っているの…こんな事をする女神様の事を、他のどの神よりも気儘きままで、気紛れで、自分のしたい、やりたい事しかしない女神がいるのよ。 それに今回の事は“ハガル”も―――またフレニィカも責められないわ、何しろその女神様ってね…」




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