第6話 “私”が[勇者(私)]である為に―――

“私”が[勇者]である為に証明しなければならない…それが例え私がヒューマンとエルフの混血ハーフだったとしても。

それに私に対しての批評を一掃する為には、やはり私が[魔王]ヘルマフロディトスを討伐する必要がある、そこのところの覚悟は決めた―――腹を括った―――ならばそれを遂行するにおいて“私”自身を覆い隠す兜は不要…


「な…お前は―――」 「(チッ)よくもまあどの面下げてここに来れたものだと。」


「皆の言いたい事はよく判る、だが私は外見みてくれの通りで言えばエルフだが、この身体に流れている血の半分はヒューマンでもある、以前までは“魔族”であるエルフの容姿を晒せば混乱に陥るものだろうと隠しおおせたものだったが所詮は浅知恵だった…その事を今回で痛感した、それにもう知れて困る様なものは私にはない、だからこそ私はもう兜を着用しない事にしたんだ。」


「ふっっざけてんじゃねえぞ、このヤロウ―――」 「おおよ、今までオレ達を騙してたって事には変わりねえだろうが!」


一応、今までの経緯の説明をしたものだが―――当然だな紛糾するのは目にみえていた事だ、だからと言ってここで立ち止まってはならない、躊躇ためらってはならない、そこで罵詈雑言に屈してしまえば何の[勇者]だと言う事にもなるのだろうから。


               ―――ただし―――


「その位にしておいてやれよ。」


「ベレロフォン、お前あいつの肩を持つってのか?」 「そう言えばあんた…奴さんに対して妙に理解力があったよな、もしかすると正体知ってたって言うのか。」


「ああ知ってて当然だろう、何しろこのオレが10年前に救済すくったのが、こいつなんだからな。」


「な…えええ?!」 「そう言や、そんな事もあったっけかなあ……」


「まあ当時は今以上に紛糾をしたものさ、おまけに教会のお偉方から目を付けられて[異端審問長]まで出張でばる始末だ、その事を思えばフレニィカのしたことなんざ可愛いもんだ、何せフレニィカは[勇者]様なんだからな、そのご相伴しょうばんあずかった奴も多いだろう。」


「む…むうう―――い、言われてみれば確かに…」 「いつぞやは100匹近くのゴブリンの群れを迎撃してくれた事だってあったからなあ…」 「それにベレロフォンはアレ以来付き合い悪くなっちまったことだしなあ…」


「そう言う事だ―――まあオレも気紛きまぐれ程度にはヒューマンを救済たすけてやるよ、だが余り当てにしてくれても困ると言った処だ。 だから―――もう少しばかりフレニィカの事を見直してやりなよ。」


結局は、また私は彼を頼ってしまった、頼り切ってしまった……今もベレロフォンからの間の手フォローが入らなければ口下手な私は言いたい放題にされていたことだろう、これもまた経験のなさの弊害と言う処だろうか。

「すまないな…」

「まあお互い様って事だろう、それに兜を着用しないで他人前ひとまえに出てきただけでも一歩前進てヤツじゃないのか。」

その言葉のお蔭で救済すくわれた気がした、そして考え方も改めた、今までの私は[勇者]に選定された事もあり単独で難事を踏破できる能力を兼ね備えていた、無論戦闘などに於いては何をかいわんやである、しかしだからと言って一人でこなせるなどと思い上がってはいけない、ここはやはり他の者の力を借りるべきだ―――とそう思い再度の魔王城攻略の為の仲間を募集つのった。


       * * * * * * * * * *


現在拠点としているヒューマン達の町を出立し『迷いの森』や『怨嗟の祠』等の難関を潜り抜けようやく辿り着いた魔王城、最終の目的地へと辿り着いた私達が目にしたものとは以前私が敗北を喫してしまっていた時とは明らかに様相を異にしていたものだった。

そう―――何故か気配が感じられない…?以前私が攻略をした時には城門を護る『門番』がおり、各階層毎には幹部級の魔族が配置されていたのに、何故か今回は―――「(もぬけの…殻?)」

「おいおいこりゃどうしたって事だ。」 「ああ…気配が全く感じられねえ。」 「もしかして…“無人”?」

いや―――それは有り得ない、何しろここは魔族の王が君臨する敵の本拠地……

「こいつは罠かも知れんな、おい手前ェら手分けして各部屋を捜索しろ、もしかしたらこちらの隙を伺ってるかもしれねえからな。」 「おう判ったぜ。」 「ならオレはこっちを探るわ。」

余りにも不自然な状況であるが故、今回援助で集まってくれた仲間達は各々の判断にて手分けをしてこの不自然な状況の調査に乗り出してくれた。

これが―――『仲間』と言うものか、今まで私一人でやってきた事を補う形で助け合う…いいものだ、今回の事が終わってしまっても彼らとはまた一緒にやりたいものだな。

ただ、私のそうした考えは“甘”かった、いや―――甘かったと言うより向うが一枚上手…老獪だったと言うべきか、恐らく[魔王]は私が敗北を経験したことを踏まえ私が独力ではなく他者の手を借りると言う事を予測していたのだろう、しかもその策略は多人数を相手するのに際し最も効果的であると言わざるを得なかった、つまり敢えて空の城であるようにはかり戦力を分断させる、そして[勇者]と一騎打ちをする―――と言う状況を用意していたのだ。


そう……『勇者と魔王の一騎打ち』―――その場には当事者の外、何者も立ち入るを許されない…


「ようこそ―――魔王城へ。 一度の敗北では飽き足らずまた無知蒙昧なる様を晒しに来たものと思える…な。」

「(な…―――)お、お前は一体?」

「うん?何の事を言っている、[魔王]だよ―――我が輩は[魔王]ヘルマフロディトス、もう我が輩の事を忘れてしまったのか、勇者よ。」

今の私がいた言葉は相当に妙だった、発した私自身ですらそうなのだから第三者がもしいたのならそう思ってしまうはずだろう、それに私は[魔王]ヘルマフロディトスとは一度刃を交えている、だから[魔王]の容姿は忘れていない…忘れようとしても忘れられない―――何故なら私が知る[魔王]ヘルマフロディトスとは私に[魔王]の情報を提供してくれていた『酒場ヘレネス』の女店主マダムヘレネだったのだから。

そう―――結論から言ってしまえば今私の眼前に立っている[魔王]はヘレネではない…容姿の整った優男だったのだ、その事にまた私は戸惑いを覚えていた、[勇者]が討伐すべき[魔王]がヘレネだったことも相当驚いたものだったが、今回は……一体何故なのだ、どうしてなのだと考えを廻らしている内に―――

「フッフフフ…どうやらそのご様子では混乱をしているようですな―――『フロイライン』」

「(な…っ)私の事を“お嬢様”だと?莫迦にするのも大概に―――」

「おや、そうではないのですか?例え貴女が一度見た外見とは異にする存在と言えど我が輩が[魔王]ヘルマフロディトスであると言う事実は変えようもありません、それを…ただ単に容姿が変わったと言う理由で存在性を否定する事の意味が、我が輩には理解出来ぬ…これを『フロイライン未熟者』と呼ばずしてどうしてくれましょう。」

“未熟者”―――ああそうだ…確かに私は未熟だ、未だ経験をしたことがない事象にあたってしまうと途端に判断が鈍ってしまうそうしたたぐいの者だ、そして今その事を痛感している…目の前にいるのは私が討伐すべき存在だ、ただその者が以前とは全く違う容姿で現れただけで戸惑いを覚えてしまうとは…だが今の私は違う、同じ存在に二度も敗れってしまうと言うのは許されてはならないのだ!

「ああそうだ…私は確かに未熟者だ、お前からそう呼ばれてしまうと言うのも無理もない話しなのだろう、だが―――私が未熟者である事は私自身がよく理解をしている!感謝を申すべきであろうな[魔王]ヘルマフロディトス、お前のその言葉のお蔭で私が今何を為すべきか―――改めて実感したよ。」


「(ほう、我が輩の言葉の魔力に屈せず立ち上がるとは…どうやらようやく我の本懐の一部が果たせそうでなにより―――だ、よ。)」



自身が想定していた事よりも、現実はそれを遥かに凌駕していました。 以前対峙した事のある[魔王]とはまた別の容姿―――それだけで[勇者]フレニィカは戸惑ってしまったのです、しかしそれでは認められない『二度目の敗北』と言う汚名が待ち受けているのみ、けれどそこで[勇者]フレニィカは挫けずに奮起したものでした。

そして―――“再戦”が始まる…両者共に全力を尽くして。

邪魔立ては無用とばかりに交錯をする魔法攻撃と剣撃、いずれも劣らず出し惜しみなく闘争を繰り広げた果てに待つものとは…



「ふふっ、我が輩の負けだ…見事だ勇者よ。 またどこかで相見あいまみえる事もあるだろう…さらばだ―――」



全力を尽くし末路―――と言う様な聞こえ方がしないでいた、しかし当事者の一人は全力を尽くした実感はしていました。 それでいても気になるあの言葉……もしかするとあの存在と再三まみゆる機会が来るかもしれない―――そう感じながらもフレニィカは仲間達と一緒に魔王城を後にしたのでした。



        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



しかし、その後の出来事で―――



「あらいらっしゃい、[勇者]様。 そのご様子では本懐を遂げたみたいですわね。」


               え……


「ああ―――直接オレは見ていなかったんだけどよ、城の大広間でブッたおれてたヤツ…まあ、あれが[魔王]ってんだろうがよ。」 「そうそう、オレ達が駆けつけた時にゃピクリとも動かなかったから[勇者]のネーチャンにほふられたんだろうさ。」

「あらあらまあまあ、そのご活躍っぷり私も見とうございましたわ。」

「無理言っちゃいけねえよマダム、マダムみてえなか弱いご婦人がオレ達みてえな荒事専門の現場に立ち入るもんじゃねえって。」


              え…………


「まあ~~~もうお兄サンたら上手い事を仰って、それより私こう見えても昔は腕っぷしには自信がございましたのよ?」

「マダムみたいな可憐な女性でも腕っぷし―――そいつぁ是非とも雄姿を拝みたかったってもんだな!」


え~~~~な、なんで[魔王]ヘルマフロディトスヘレネがここにい~~~?するとやはり、今回私が討伐したのは別の存在と言う事になるのか?



見事[魔王]を討伐した―――と言う事で開かれた祝勝会にフレニィカは出席をしていました、無論今回の勲功第一位は彼女なのですから彼女が出席をしないと言うのは全く道理がとおらないと言った処でしたでしょう。 しかし、その会場が問題でした、いえ―――と言うよりその町は[勇者]と[英雄]両者が活動拠点としている処で割と有名だったのですが規模としては小規模だったのです、だからこそ憩いの場となると限られてくる…しかも『酒場ヘレネス』ないと来れば選択の余地もなかった事でしょう。

とは言え例えそうだとしても仲間達と祝杯を挙げない訳にはいかない、しかしフレニィカは杯を重ねても飲んだ気がしませんでした、酔った気もしませんでした。

本来なら[魔王]であるはずのヘレネが魔王城におらずに町の酒場で自分(達)の栄光を待ち構えていた?それにあの時魔王城にいた男性はヘレネとは繋がりが―――関係があるのではと頭の中ではそんな事ばかりを巡らせていたのです。


そうしている内に宴は終わりました。 皆一頻ひとしきりに飲んで酒に呑まれてしまった者が死屍累々と横臥よこたわる中、ふと目覚めるフレニィカ…どうやら彼女もいつしか酒精アルコールに負け、しばしの微睡まどろみの中にいたようです…酔い醒めの不確かでふらつく頭を抱えながら彼女は呆気ぼうっとしていました、するとどこからか“ひそひそ”と囁く話し声がしてきたのです。



         * * * * * * * * * *


「どうやらようやく第一局面フェーズの終了…と言った処のようだな、取り敢えずは『おめでとう』と言っておこう。」

「はあーーーい、どうもありがとう。 まあーーーそれとなあく示唆したものだったけど、それにしても少し無茶をしたものだったかしらね。」

「とは言え、[勇者]殿は今回よくやってくれたと言った処だよ、あのまま有り得べからざる真実を受けて『二度目の敗北』を喫してしまったらどうしたものかと心配したものだけどな。」

「それにしても苦労はしたのよ、今回はあの子に自信を付けさせるために敢えて敗北を演じてみせた、あの子にしてみればお互いに全力を尽くしたと思っているんだろうけれどね。」

「実際ああ言ったのが厄介なんだよな、素養も素質も十分にある―――それに劣らずの努力もしている…にも拘らず」

「こうも成長が遅いんじゃ…(…)あのさあ、ひょっとしてだけどエルフを引き継いでるって事はあるのかい。」

「考えたくもないけど―――それが当たっているのかもしれないな。 けれど彼女にしてみたら大きな経験の一つにはなった事だろう、そう…『魔王討伐』と言う、な。」

「と、なると、次の局面フェーズも考えなくちゃいけないかね。」



しかしそこで会話は一旦途切れた、いや…途切れたと言うよりは幼生体が何者かの気配に気づき敢えて中断させた―――と言った方が妥当だっただろうか。

そう、そこで声をひそめて会話をしていたのはこの酒場の女主人に―――幼生体…そして幼生体が気付いた何者かの気配こそ……



「あ…っ―――」


「やはりか、今度は盗み聴き…相変わらず礼儀作法がなっていないみたいだな。」


バツが悪い―――と言ったものではない、以前にも私はこの魔族の幼生体ヴァヌスのしていた事を覗き見していた前科ことがあるのだから今回も盗み聴きだと言われても仕方のない事だと言えただろう。

しかし逆に捉えるとしたならこれは機会なのだとそう思い、私はある事を問いただすことにしてみたのだ。

「盗み…聴きしていたのは本意ではないが済まないと思っている―――しかし、だな…」

「はいはい、そう言う事にしておいてあげるよ、普段から酒に強くもないのにこの女から勧められたんだろう、それに宴の最中でもどこか上の空だったって言うし―――そう言うのは酒場の店主からしてみたらいいカモだって事はこの際釘を差させて頂くぞ。」

「はあーいそれまで、[勇者]ちゃんをいぢめるのは感心しないわねえ。」

「なっ…私の事を[勇者]だとぉ?!そう言えば私が討伐した男の[魔王]は私の事を『フロイライン』などと―――」

「ほおーにしては気の利いた物言いをしたもんだな、それより私がこの甘ちゃんを『苛虐いぢめ』てるだなんて不本意もいい処だ、それにお互い“方針”に対しては干渉しない―――そうじゃなかったか。」

「モノは言い様だねえ、第一、今あんたがしてる事が干渉なんじゃないのかい、こっちだって酔狂や道楽でやってるんじゃない―――こっちはこっちの方針でフレニィカちゃんをあげてるんだよ、それに大体あんたんとこの[英雄]様は既に出来上がってるんだろう?全く…あの方の依怙贔屓えこひいきの過ぎるったら。」

補助サポートは必要―――その為を思ってこの身にはあの方の権能の8割を有しているんだからな。」


「ちょ―――ちょっと待ってくれ、一体お前達は何を…?この場を見させて頂いた事でお前達が親密であると言う事は判ったが、『方針』?『干渉』?『補助役サポーター』?一体何の事を……」

「ならば、寝入りばなの寝物語に聞かせてあげよう。 私の名は“シギル”、『ヴァヌス』と言うのは主物質界マテリアルに於いての活動を円滑にする為に名付けられたものだ。」

「そして私が“ハガル”、『[魔王]ヘルマフロディトス』であり[勇者]ユニットの育成を任された者、そう…私達は女神ヴァニティアヌスの眷属であると同時に―――」

「主神たる女神の理念に基づき[英雄][勇者]“ユニット”の育成並びに監視をしている使徒でもあるのだ。」

―――そう、だ…今回これで2度目、“ユニット”なる名称を耳にした、まるで手駒―――まるで道具の様に扱われるかのようなその言葉に、最初に耳にした時には耳を疑ったものだった。

何故女神は、ヴァニティアヌス様は私達を創造つくり出し、役割をお与えなさったのだろう…そこは私のような未熟者が考えを廻らせた処で辿り着くものではない、そこは判ったとしてもどうやらは『神の思し召し』と言うとてつもなく大事おおきなことに巻き込まれている実感をこの時にしたものだった。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


朝方、オレの寝床で“もそもそ”と動く存在がいる。 賊でも侵入されたのか―――と疑う一方この住居にはオレが匿っている存在もいる、“魔族”の幼生体幼女ヴァヌス…オレはこの前までこの“魔族”の外見みための通りの幼生体だと信じて疑わなかったものだったが、ある時分じぶんに於いて[勇者]フレニィカの身に危機が迫ろうとしていた時、フレニィカの身の安全を担保するよう助言をしてきたのだ。

普段なら『ア~~~』だとか、『ウーーー』だとか発さない“魔族”の幼生体幼女だった存在が急に流暢な人語で喋り始めた時、オレは疑問を抱いたもののそれは後回しにしてフレニィカの窮地に駆け付けたものだった―――その辺のやり取りは割愛するとして、未曽有の混乱は収められフレニィカも[勇者]としての本分を全うしたのだと聞いた、オレが10年前救済すくった事のあるヒューマンとエルフの混血ハーフ―――フレニィカ…それが何の因果か[勇者]の業を背負って行くことになろうとは、オレの[英雄]も相当な業の塊だが[勇者]は[英雄]よりもとてつもない業を背負って行くのだと言う。


オレの[英雄]はその生き様によって属性アライメントが変動する事がある、本来の[英雄]は[勇者]と同様に『秩序なる善』を背負っている―――が、中にはオレの様に『混沌なる善』を背負う[英雄]もいるのだ、“秩序”に束縛しばられず自由に生きていく―――それを選択した結果オレは“秩序”から“混沌”に傾いてしまった、これがオレが【悪堕おちた英雄】の悪評レッテルを貼られた原因でもある。

当初はその事に悩みもしたものだった、純粋な“人類族”ではないヒューマンとエルフの混血ハーフ救済たすけたばかりに…その悩みを聞いてもらう為にオレを一人前になるまでに育ててもらった女神に持ちかけたものだったが、女神あの人にはオレの考えを見透かしていたかのようにこう言ったのみだった…


―――『その事を判らないアナタではないでしょう、ワタシの可愛い息子…』―――


結局オレは女神あの人にとって『可愛い息子』でしかない、そこは嬉しいと思う反面どこか親離れ出来ていない子供ガキなのだと思うしかなかった、悔しい―――はっきり言ってだが現実としてはそうなのだろう、現にオレの周りにもそう言った奴らはいる、いい歳をして冒険者稼業でも活躍している奴がオレに愚痴を垂れる…


―――『全くお袋と来たらよう、オーガとも一対一タイマン張れるオレを捕まえて未だに“ちゃん”付けで呼ぶんだぜ?冒険者初めて30年になるってのに…いい加減子供ガキ扱いするの止めてくんねえもんかなあ』―――


そいつはオレよりも“年齢”でも“職歴”で言っても先輩なわけだが、そんな奴でも子供の様に扱う親か…どこも同じようなものだと思いを馳せさせていた時に―――

「ウ…ウゥーーー。 ア?アァア~♪」

「起こしちまったか―――なあヴァヌス、お前…人語オレ達の言葉で喋れるんだよな?」

「(…)バレてしまっては仕方がないな、まあ、あの時は緊急も緊急だったから―――万障ばんしょうを繰り上げてでもやらなければならなかったものだから…」

「そこの処は、判った―――理解するとしよう。 だとしたらだ、お前は“幼生体幼女”じゃないんだよな、ならばなぜのようにオレの床に入って来るんだ。」

「(……)私、人肌が恋しいの~~~なあんて言ったら聞き分けてくれるのか?」

「(…)あのなあ―――お前…」

「冗談だよ、まあフレニィカがあんな事になってしまったんだから私が担当をしているあんたにも“万が一”―――は想定しておくべきだろう?」

オレの寝床に侵入はいっていたヴァヌスが目を覚まし、幼児おさなごのように舌がもとらない発音でオレに愛想を振りまいてきた、けれどそれで良かったのだろう…だが、そうではない一面をこの前見てしまった、ヴァヌスは一見して少女の様に見えるがその実そうではない、オレやそれ以上に高度な判断が出来る存在だと気が付いたのだ、だから…それであるが故にオレはオレ自身のわだかまりを払拭させるためにその言葉を乗せてみた、すると“魔族”の幼生体幼女はあの時オレに警句を与えた時と同じような口調となったのだ。 しかも、オレの床に入って来た理由もた冗談を仄めかすなどして……そしてこの後オレは知るようになる、なぜヴァヌスが―――いや“シギル”と名乗るその存在がオレに補助つくようになったのかを。




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