第6話 “私”が[勇者(私)]である為に―――
“私”が[
それに私に対しての批評を一掃する為には、やはり私が[魔王]ヘルマフロディトスを討伐する必要がある、そこのところの覚悟は決めた―――腹を括った―――ならばそれを遂行するにおいて“私”自身を覆い隠す兜は不要…
「な…お前は―――」 「(チッ)よくもまあどの面下げてここに来れたものだと。」
「皆の言いたい事はよく判る、だが私は
「ふっっざけてんじゃねえぞ、このヤロウ―――」 「おおよ、今までオレ達を騙してたって事には変わりねえだろうが!」
一応、今までの経緯の説明をしたものだが―――当然だな紛糾するのは目にみえていた事だ、だからと言ってここで立ち止まってはならない、
―――ただし―――
「その位にしておいてやれよ。」
「ベレロフォン、お前あいつの肩を持つってのか?」 「そう言えばあんた…奴さんに対して妙に理解力があったよな、もしかすると正体知ってたって言うのか。」
「ああ知ってて当然だろう、何しろこのオレが10年前に
「な…えええ?!」 「そう言や、そんな事もあったっけかなあ……」
「まあ当時は今以上に紛糾をしたものさ、おまけに教会のお偉方から目を付けられて[異端審問長]まで
「む…むうう―――い、言われてみれば確かに…」 「いつぞやは100匹近くのゴブリンの群れを迎撃してくれた事だってあったからなあ…」 「それにベレロフォンはアレ以来付き合い悪くなっちまったことだしなあ…」
「そう言う事だ―――まあオレも
結局は、また私は彼を頼ってしまった、頼り切ってしまった……今もベレロフォンからの
「すまないな…」
「まあお互い様って事だろう、それに兜を着用しないで
その言葉のお蔭で
* * * * * * * * * *
現在拠点としているヒューマン達の町を出立し『迷いの森』や『怨嗟の祠』等の難関を潜り抜けようやく辿り着いた魔王城、最終の目的地へと辿り着いた私達が目にしたものとは以前私が敗北を喫してしまっていた時とは明らかに様相を異にしていたものだった。
そう―――何故か気配が感じられない…?以前私が攻略をした時には城門を護る『門番』がおり、各階層毎には幹部級の魔族が配置されていたのに、何故か今回は―――「(
「おいおいこりゃどうしたって事だ。」 「ああ…気配が全く感じられねえ。」 「もしかして…“無人”?」
いや―――それは有り得ない、何しろここは魔族の王が君臨する敵の本拠地……
「こいつは罠かも知れんな、おい手前ェら手分けして各部屋を捜索しろ、もしかしたらこちらの隙を伺ってるかもしれねえからな。」 「おう判ったぜ。」 「ならオレはこっちを探るわ。」
余りにも不自然な状況であるが故、今回援助で集まってくれた仲間達は各々の判断にて手分けをしてこの不自然な状況の調査に乗り出してくれた。
これが―――『仲間』と言うものか、今まで私一人でやってきた事を補う形で助け合う…いいものだ、今回の事が終わってしまっても彼らとはまた一緒にやりたいものだな。
ただ、私のそうした考えは“甘”かった、いや―――甘かったと言うより向うが一枚上手…老獪だったと言うべきか、恐らく[魔王]は私が敗北を経験したことを踏まえ私が独力ではなく他者の手を借りると言う事を予測していたのだろう、しかもその策略は多人数を相手するのに際し最も効果的であると言わざるを得なかった、つまり敢えて空の城であるように
そう……『勇者と魔王の一騎打ち』―――その場には当事者の外、何者も立ち入るを許されない…
「ようこそ―――魔王城へ。 一度の敗北では飽き足らずまた無知蒙昧なる様を晒しに来たものと思える…な。」
「(な…―――)お、お前は一体?」
「うん?何の事を言っている、[魔王]だよ―――我が輩は[魔王]ヘルマフロディトス、もう我が輩の事を忘れてしまったのか、勇者よ。」
今の私が
そう―――結論から言ってしまえば今私の眼前に立っている[魔王]はヘレネではない…容姿の整った優男だったのだ、その事にまた私は戸惑いを覚えていた、[
「フッフフフ…どうやらそのご様子では混乱をしているようですな―――『フロイライン』」
「(な…っ)私の事を“お嬢様”だと?莫迦にするのも大概に―――」
「おや、そうではないのですか?例え貴女が一度見た外見とは異にする存在と言えど我が輩が[魔王]ヘルマフロディトスであると言う事実は変えようもありません、それを…ただ単に容姿が変わっただけと言う理由で存在性を否定する事の意味が、我が輩には理解出来ぬ…これを『
“未熟者”―――ああそうだ…確かに私は未熟だ、未だ経験をしたことがない事象に
「ああそうだ…私は確かに未熟者だ、お前からそう呼ばれてしまうと言うのも無理もない話しなのだろう、だが―――私が未熟者である事は私自身がよく理解をしている!感謝を申すべきであろうな[魔王]ヘルマフロディトス、お前のその言葉のお蔭で私が今何を為すべきか―――改めて実感したよ。」
「(ほう、我が輩の言葉の魔力に屈せず立ち上がるとは…どうやらようやく我らの本懐の一部が果たせそうでなにより―――だ、よ。)」
自身が想定していた事よりも、現実はそれを遥かに凌駕していました。 以前対峙した事のある[魔王]とはまた別の容姿―――それだけで[勇者]フレニィカは戸惑ってしまったのです、しかしそれでは認められない『二度目の敗北』と言う汚名が待ち受けているのみ、けれどそこで[勇者]フレニィカは挫けずに奮起したものでした。
そして―――“再戦”が始まる…両者共に全力を尽くして。
邪魔立ては無用とばかりに交錯をする魔法攻撃と剣撃、いずれも劣らず出し惜しみなく闘争を繰り広げた果てに待つものとは…
「ふふっ、我が輩の負けだ…見事だ勇者よ。 またどこかで
全力を尽くし切った末路―――と言う様な聞こえ方がしないでいた、しかし当事者の一人は全力を尽くした実感はしていました。 それでいても気になるあの言葉……もしかするとあの存在と再三
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しかし、その後の出来事で―――
「あらいらっしゃい、[勇者]様。 そのご様子では本懐を遂げたみたいですわね。」
え……
「ああ―――直接オレは見ていなかったんだけどよ、城の大広間でブッ
「あらあらまあまあ、そのご活躍っぷり私も見とうございましたわ。」
「無理言っちゃいけねえよマダム、マダムみてえなか弱いご婦人がオレ達みてえな荒事専門の現場に立ち入るもんじゃねえって。」
え…………
「まあ~~~もうお兄サンたら上手い事を仰って、それより私こう見えても昔は腕っぷしには自信がございましたのよ?」
「マダムみたいな可憐な女性でも腕っぷし―――そいつぁ是非とも雄姿を拝みたかったってもんだな!」
え~~~~な、なんで
見事[魔王]を討伐した―――と言う事で開かれた祝勝会にフレニィカは出席をしていました、無論今回の勲功第一位は彼女なのですから彼女が出席をしないと言うのは全く道理が
とは言え例えそうだとしても仲間達と祝杯を挙げない訳にはいかない、しかしフレニィカは杯を重ねても飲んだ気がしませんでした、酔った気もしませんでした。
本来なら[魔王]であるはずのヘレネが魔王城におらずに町の酒場で自分(達)の栄光を待ち構えていた?それにあの時魔王城にいた男性はヘレネとは繋がりが―――関係があるのではと頭の中ではそんな事ばかりを巡らせていたのです。
そうしている内に宴は終わりました。 皆
* * * * * * * * * *
「どうやらようやく第一
「はあーーーい、どうもありがとう。 まあーーー一応はそれとなあく示唆したものだったけど、それにしても少し無茶をしたものだったかしらね。」
「とは言え、[勇者]殿は今回よくやってくれたと言った処だよ、あのまま有り得べからざる真実を受けて『二度目の敗北』を喫してしまったらどうしたものかと心配したものだけどな。」
「それにしても苦労はしたのよ、今回はあの子に自信を付けさせるために敢えて敗北を演じてみせた、あの子にしてみればお互いに全力を尽くしたと思っているんだろうけれどね。」
「実際ああ言ったのが厄介なんだよな、素養も素質も十分にある―――それに劣らずの努力もしている…にも拘らず」
「こうも成長が遅いんじゃ…(…)あのさあ、ひょっとしてだけどそう言う部分だけエルフを引き継いでるって事はあるのかい。」
「考えたくもないけど―――それが当たっているのかもしれないな。 けれど彼女にしてみたら大きな経験の一つにはなった事だろう、そう…『魔王討伐』と言う、な。」
「と、なると、次の
しかしそこで会話は一旦途切れた、いや…途切れたと言うよりは幼生体が何者かの気配に気づき敢えて中断させた―――と言った方が妥当だっただろうか。
そう、そこで声を
「あ…っ―――」
「やはりか、今度は盗み聴き…相変わらず礼儀作法がなっていないみたいだな。」
バツが悪い―――と言ったものではない、以前にも私はこの魔族の幼生体ヴァヌスのしていた事を覗き見していた
しかし逆に捉えるとしたならこれは機会なのだとそう思い、私はある事を問い
「盗み…聴きしていたのは本意ではないが済まないと思っている―――しかし、だな…」
「はいはい、そう言う事にしておいてあげるよ、普段から酒に強くもないのにこの女から勧められたんだろう、それに宴の最中でもどこか上の空だったって言うし―――そう言うのは酒場の店主からしてみたらいい
「はあーいそれまで、私の[勇者]ちゃんをいぢめるのは感心しないわねえ。」
「なっ…私の事を[勇者]ちゃんだとぉ?!そう言えば私が討伐した男の[魔王]は私の事を『フロイライン』などと―――」
「ほおー彼にしては気の利いた物言いをしたもんだな、それより私がこの甘ちゃんを『
「モノは言い様だねえ、第一、今あんたがしてる事が干渉なんじゃないのかい、こっちだって酔狂や道楽でやってるんじゃない―――こっちはこっちの方針でフレニィカちゃんを可愛がってあげてるんだよ、それに大体あんたんとこの[英雄]様は既に出来上がってるんだろう?全く…あの方の
「それでも、
「ちょ―――ちょっと待ってくれ、一体お前達は何を…?この場を見させて頂いた事でお前達が親密であると言う事は判ったが、『方針』?『干渉』?『
「ならば、寝入り
「そして私が“ハガル”、『[魔王]ヘルマフロディトス』であり[勇者]ユニットの育成を任された者、そう…私達は女神ヴァニティアヌスの眷属であると同時に―――」
「主神たる女神の理念に基づき[英雄][勇者]“ユニット”の育成並びに監視をしている使徒でもあるのだ。」
また―――そう、まただ…今回これで2度目、また“ユニット”なる名称を耳にした、まるで手駒―――まるで道具の様に扱われるかのようなその言葉に、最初に耳にした時には耳を疑ったものだった。
何故女神は、ヴァニティアヌス様は私達を
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝方、オレの寝床で“もそもそ”と動く存在がいる。 賊でも侵入されたのか―――と疑う一方この住居にはオレが匿っている存在もいる、“魔族”の
普段なら『ア~~~』だとか、『ウーーー』だとか発さない“魔族”の
オレの[英雄]はその生き様によって
当初はその事に悩みもしたものだった、純粋な“人類族”ではないヒューマンとエルフの
―――『その事を判らないアナタではないでしょう、ワタシの可愛い息子…』―――
結局オレは
―――『全くお袋と来たらよう、オーガとも
そいつはオレよりも“年齢”でも“職歴”で言っても先輩なわけだが、そんな奴でも子供の様に扱う親か…どこも同じようなものだと思いを馳せさせていた時に―――
「ウ…ウゥーーー。 ア?アァア~♪」
「起こしちまったか―――なあヴァヌス、お前…
「(…)バレてしまっては仕方がないな、まあ、あの時は緊急も緊急だったからつい―――
「そこの処は、判った―――理解するとしよう。 だとしたらだ、お前は“
「(……)私、人肌が恋しいの~~~なあんて言ったら聞き分けてくれるのか?」
「(…)あのなあ―――お前…」
「冗談だよ、まあフレニィカがあんな事になってしまったんだから私が担当をしているあんたにも“万が一”―――は想定しておくべきだろう?」
オレの寝床に
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