第5話 [勇者] 完全/敗北
「私の―――“担当”?」
「そう、“担当”だ。 それに私がお前達限定とはいえここまで正体を晒したのだから
「一つ質問良いかな、ヴァヌス。」
「なあに。」
「お前がオレの
「ずっと観察は続けていた、
「(この世界?ここ近年…)それはもしかすると『守護の
「やはり覗いていたみたいだな、行儀作法のなってない…」
「(な…)ちょっと待て、あの場には『守護の
「そこは、もう、いい、薄ら勘付いているのだろう?この“私”こそが『守護の
「おい、ヴァヌス。」
「こう言った機会だからな、きっちりと言うべき事は言わせて頂くぞ、[勇者]フレニィカ、お前にはまだ
「潮……時?」
「お前には『魔王ヘルマフロディトス』の討伐の試練が課されているのでしょう?」
「な、なぜその事を……」
「私達は“縦”ではなく“横”で繋がっている―――近々お前自身の“担当”の口から魔王の所在が示されるだろう。」
「(!)ちょっと待ってくれ、確かに私は魔王所在の情報を収集していたが、その依頼はヘレネに……まさかなのだが彼女がそうなのか?」
ここ1年、[英雄]ベレロフォンに付き
「そう言う事だ、[勇者]フレニィカ。 所在が判ったのなら早速
* * * * * * * * * *
未だに信じられなかった、酒場『ヘレネス』の
「あら、ようこそいらっしゃいませ―――[勇者]フレニィカ様。」
「挨拶はいい、それより聞こうか。」
「はいはい、全く…
「やはり、お前がそうなのか…」
「(…)はい?何の事でしょう。」
「お前が、そうなのか!お前が私の
「(……は、あ)全く―――どう言うつもりなのかしら。」
「答えてくれマダム・ヘレネ、お前は―――」
「『
「そこは、ごめんなさい―――私、あなたみたいに賢く創造されなかったものだから。」
「言ってなさいよ…それより、魔王の所在はここより北東の方角にある『未開の地』―――そこに
信じられないながらも心に
この世界に存在したと思われる、歴史の中だけでの存在―――『ベルトシュメルツ王国』、今現在ではヘレネが示してくれた北東にある『未開の地』こそが、その王国の名残りだと言う、それに冒険者達も言っていた、何でもその地は冒険者
私は―――[勇者]だ、[勇者]だからこそ一人で何でも出来る。 それは戦闘や冒険での生活など、ありとあらゆる面で器用にこなせる
どうしてか
彼にはいつの間にか【
その結果がこの“
そう言えば―――気になる事を
確かに私は魔族の幼生体であるヴァヌスの事は嫌っている、なにしろ私が慕っていた彼を独占した様なものなのだから、しかしヴァヌス自身が自身の事を
* * * * * * * * * *
私はいつも通り、
だ が
「ようこそ、魔王城へ。 数々の苦難・困難を乗り越え、この[魔王]ヘルマフロディトスの前に立った事―――それ自体は褒めてつかわそう…[勇者]よ。」
「(……)そんな―――バカな…なぜ、なぜお前がそこにいる?ヘレネ…」
「この、私こそが[魔王]ヘルマフロディトス―――その事実以外の何が必要なのだ、[勇者]よ。」
「だって―――だってお前は……」
「フッ…[
私の目の前に立ちはだかっていた―――[
私はその事実に
「“真実”とは―――時に想定の範疇すら軽く超える事もある。 噛み締めるがいい不都合な“真実”を…そして昨今の伝奇にも記されている事を我もしてみよう。
『我がモノとなれ、[勇者]よ…さすれば世界の半分をお前に与えてやろう―――』」
「[
「上出来だよ、[勇者]フレニィカ。 それに特段として気にする必要はない、あれは…あの文言こそは最早“伝統”的な一戦の前に交わされる言わば
「(?)何故だ?何故そうまでして……」
「お前サンが[勇者]で、私が[魔王]―――だからだろうね。 魔王と勇者とは少らからぬ、浅からぬ因縁で結ばれている様なもの…それにそれはこの世界に限っての事じゃない、他の世界でも魔王と勇者とは相容れぬ存在なのさ。」
また更に有り得ぬ事実を突き付けられた時、私は完全に戦意と言うものを失っていた。 ただ、[魔王]ヘルマフロディトスはそんな私に対しても、なんら一切容赦する事はなかった…そして思い起こされる、あの魔族の幼生体の一言―――結局私は、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「(う…)ここ―――は…?」
「おや、目覚めたようだな。
「ヴァヌス―――お前、人語で喋る様になってからは容赦がないよな。」
「お褒め預かり光栄だよ、それよりお前、以前よりは“らしく”なってきたじゃないか。」
「おい―――…」
「これはね、“定番”なのよ。 [勇者]は
「ヤレヤレ…褒めるんだったらもう少しちゃんと褒めてやれよ。」
「私はな、この子の事が嫌いだったんだ。 過去にお前に
「だったらなんであの時お前は―――」
「(…)これ以上時間を掛けられない、折角ここまで
「(フッ…)だ、そうだ―――どうやらこいつはお前の事が可愛くて仕方ないらしい、すまんな愛情表現が下手過ぎて。」
「(な゛っ!)バッ、バカな事を言うんじゃないっ!どうして私があいつの担当であるこの子なんかに……」
「へえーーー照れるとそんな風になるんだ、可愛いもんだな。」
「ん゛もうっ―――バガッ!知らないッ!」
気が付くと私は、ベレロフォンの住居の
何と言うか…その、敗北と言う決して浅くはない傷を負った私に対してなんと辛辣な言葉をぶつけてくるものだろうか…とは言え仕方がないか、私とて初見はヴァヌスに対してあまりいい印象は持てなかったからな、そこをヴァヌスは
それにヴァヌスが私の事を嫌う理由が判って来た、ああそうだな…確かにそうした思いはあった、私の兜が割られて正体が白日の下に晒された時でも、どこか心の片隅でベレロフォンが私の為に駆け付けてくれることを願ったものだ、そして事実として―――暴かれた私の正体の前に紛糾する者達の前に“彼”は現れた……
しかし……だ、例えそうだとしても思う処は私にもある。 先程から私に対しては痛烈に『(ベレロフォンに)甘えている』と仰られている存在が―――「あの、少しいいだろうか…先程から私に対しての評価が痛烈なようだが、ならばそんな事を言っているお前はどうなのだ。」
「(ン?)それは私に対して言っているのか。」
「ああそうだとも、先程から大人しく聞いていれば私がベレロフォンに甘えているだと?た、確かにその事自体は否定し難いが…ならばヴァヌスはどうなのだ、私の事を痛烈に批判してくれている傍らでベレロフォンに“抱っこ”をされているでわないかあーーーッ!」
「あら、だって私、
「納得が行くかあーーーッ!大体どこの世界にはっきりとした発言をする少女がいるのだと…」
「いるじゃなあーい、こ・こ・に。」
「怪我人に対して煽るのは感心しないな、ヴァヌス。 それより…フレニィカ、お前ヴァヌスが羨ましいのか、そう言えばお前―――何歳になるんだっけか?」
「今年で18だ―――です…」
「オレもエルフに関してはそう詳しくないから判らんのだが、お前
「あ…あのぅ―――そ、それはあ~~~」
「(はあ~あ)それに関しては説明をしておく必要がありそうだな、ベレロフォン―――“彼女”が何者なのかは判るか?」
「うん?確か“ヒューマン”と“エルフ”の
「そう…だから『ハーフ・エルフ』、ただこうした存在は何もフレニィカに限っての事じゃない、“彼ら”は違う種属の遺伝を引き継ぐ者―――フレニィカの場合は『ヒューマン』と『エルフ』と言う事になるけれどな、そしてご存知の様にエルフは永遠にも近い時間を紡ぐ者…1000歳や2000歳を生きるのはざらにいる、そしてもう少し言ってしまうと生育は恐ろしく遅い……例えて言うなら、そう―――フレニィカの年の頃合なら丁度今の私と同じと言った具合だな。」
「(『今の私と同じ』―――?!)で…では私は―――…」
「そう、お前はエルフの姿はしていても彼らとは一緒に生きられない、お前の父親であるギュエフスよりも短命で終わるでしょう。 だからこそ、お前は父親からの愛情を失ってしまった―――例えそれが我等が主神の思し召しであったとしてもだ。」
「(ン?)それはどう言う事だ、今のオレにはフレニィカは意図して
「その通りだ…ベレロフォン、この子はある意図をしてヒューマンとエルフを掛け合わせて産ませた結果なのさ。」
少し私がヴァヌスに対しての嫉妬や羨望を露わにさせた処で思いもよらない意趣返しがあった、そうだ―――私は『ハーフ・エルフ』、『ヒューマン』と『エルフ』の特徴を持ち合わせる者…けれど今のヴァヌスからの説明にもあったように、どうも私はエルフの容姿を持ち合わせながらも中身は殆どヒューマンと変わらないのだと言う。 それで納得が行くような気がした、私の父はエルフで名を『ギュエフス』と言う、その父からは何度となく失意と
しかしそれであったとしても妙に思う部分があった、そうヴァヌスの発言がそうなのだとすれば……
「なあ、ヴァヌス一つ聞いていいか。」
「なあに。」
「先程お前は―――『ただこうした存在は何もフレニィカに限っての事じゃない。』と言っていたな、と言う事はあれか?フレニィカ以外にも…」
「フ・フ―――その事に気が付いたようだな、そう…フレニィカは単なる“モデルケース”の一つでしかない、ようく考えてみるがいい、種属
「それで私が?だがどうして……」
「エルフの優性は“敏捷さ”“賢明・聡明さ”“保有魔力量”そして“永遠に近い時を紡げる”…そしてヒューマンは現存する種の中では能力的に劣りがちだけれど、私達にはない“想像力”と言うものがある―――そこを見込んでお前の父親とヒューマンの女性を掛け合わせたのだけれど…無情な事を言うようだけれど時間と言うのは無限ではないんだよ。」
「そう言えば先程もそんな事を
「フレニィカにはそこの処は心当たりがあるのじゃないのか、なにしろ私の役目を覗き見していたんだから。」
「(あ…)そう言えば、『守護の
「そう…それが私の役目―――あの時私が対峙していたのは、この世界のどこを探しても見つかりはしない未知の存在…私達の間では『
「(う、ん?)『侵略』?それに『この世界のどこを探しても見つからない』だと?それって……」
「(フ)そう、この世界は有史よりも以前から侵略をされていた、女神ヴァニティアヌスがお
「『ユニット』?それはどう言う事だ、それではまるで―――」
「今、私が
「そ……それは判っているぅ~それよりもだな、私が討伐をしなくてはならないのがヘレネだったなんて……」
「おや、なんてお優しい[勇者]様もいたものでしょう。 いいかフレニィカ、例えお前があいつに引け目を感じていたとしてもこれだけは最低限やっておかなければならない事なんだ、それにこのままずるずると引け目だけを感じて事態を引き延ばすようならば…最悪処分を検討しないといけないかもな。」
「“処分”て―――お前なあ…」
「仕方がないだろう、不良品を出すくらいならまた“一”からの見直しも考えないと、それにどの道フレニィカがこの程度の使命も果たせられないのなら女神ヴァニティアヌス様の評価も下がる事だろうからな。」
厳しい事を言われてしまった。 所詮私なんぞはヴァヌスからしてみればただの“甘ったれ”なのだろう、今回私が[魔王]ヘルマフロディトスに敗北を喫してしまった
魔族の幼生体ヴァヌス、彼女はよく
それに…“私”が[
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