第4話 暴かれた“正体”

ある村が襲撃をされている―――その一報いっぽうでフレニィカは行動しました、自己おのれに課せられた[勇者]としての使命しめいまっとうする為に、それに行動をしたのはなにもフレニィカだけではありませんでした、最寄もよりの町の冒険者達も派遣されたのです、けれどフレニィカは彼らとは徒党PTを組む事はありませんでした、それはまた彼女が[勇者]と、そう言った面もあるようでしたが……実はフレニィカは“ある秘密”を抱えていたのです。

それであるが故―――それ、彼女は他人と徒党PTを組む事はなかった…いえ、組なかったのです。 しかも彼女が抱える秘密とは、主に彼女の外面的要因に―――そう、“容姿”に顕著に現れていたのです。


そして今―――彼女は自己おのれの実力不足を痛感していた…彼女の事を悪く言うようで仕方のない事なのですが、今まで彼女が相手をしてきたのは所詮“格下”―――けれどこの日この時、村を襲撃してきた敵は、どれもが彼女よりも“格上”―――とは言っても、まで彼女は良くしのいでいました、それでこそ[勇者]だ―――と、たたえられるべきでした。


けれど、白日はくじつもとさらされる―――彼女の“正体”…いくらミスリル合金製のフルフェイス・ヘルメットタイプの兜であったとしても、耐久値が限界を越えてしまえば破砕されてしまう…その兜が覆い隠していたモノとは、見目麗みめうるわしい少女の容姿―――?!



「お…おい―――な、なんだあの耳は……」 「オレ達の耳より……?」 「いや待て、あの耳はエルフのじゃねえか?」



が―――ヒューマンが疑問に思った事を口にする、自分達にはない長く尖った耳―――しかしてそれはエルフのだと言う…しかしエルフ―――そう、我々ヒューマンと敵対しているはずの“魔族”の一種属が、なぜここに?いや、そうではない…なぜ“魔族”が[勇者]なのだと?

その途端にヒューマンひとびとの目の色が変わる……今日こんにち襲って来た悪しき者達を視るような目―――見下みくだした目…



「あ、あ―――ち、違うんだ…こ、これには訳が……」


「ふざけんじゃねえ!何がどう違うんだ、現にお前のその耳はエルフのじゃねえか!」 「おおよ、今まで[勇者]様だと思ってたのに…そうか、そう言う事か、今、村を襲っている化け物共はお前が引き入れたんだな!」



今までの“賞賛ひょうか”が、一瞬にして瓦解がかいする―――こんな日が来てはならないからと、だからこそ覆い隠していたフルフェイス・ヘルメットタイプの兜だった…なのに、今の自分の様に硝子ガラスの如くはかなくも砕け散ってしまった、どうする事も出来ない、くつがえし様もない、今判っている事は自分の身の危険……フレニィカという存在の物語が、歴史がついえてしまうその瞬間―――



「ヤレヤレ―――フレニィカ、なにをやってんだお前は、よ。」


「ベレロフォン?!丁度いい処に…聞いてくれ、このエルフの娘がこの村を襲っている奴らを引き入れたんだ。」 「そうだ、今までオレ達をだましていたむくいを受けるがいい!」

「おいおい、待て待て―――ちょっと聞くがそいつは本当なのか?」

「何を言っている!あの長く尖った耳が何よりの証拠だろう!」

「ふうん―――じゃ、一つ聞くが、そこの小娘がエルフだって事は間違いないんだな。」

「ああそうだ!だからこいつを……」

「エルフは確か“魔族”の一種属だ、オレ達ヒューマンが使っている言語の形態とはまた違う言語を使う…そう言う事でいいんだな。」

「ああ…そうだ、だから―――」

「にしちゃ、随分ずいぶん疎通そつう出来ているみたいだが?」



そこに現れたのは[英雄]ベレロフォンでした、そしてフレニィカを目のかたきにしている者達に向かってただしてみたのです、そう…どうしてフレニィカを目のかたきとしているのかを、するとその中の一人がこう言いました。

『今まで自分達が信じていた[勇者]様が、実は“魔族”だった』

のだと、しかしそれにしては相当妙な事でした、それと言うのもベレロフォンが語ったように、長らく“人類族”と“魔族”とが衝突していると言うのは、まずその言語間げんごかんでの疎通そつうかなわないから、お互いが何を主張しているか判らない―――だからいさかいを生じさせてしまう…だと言うのに、今の今までその者達とフレニィカとはお互いが“人語”によって疎通そつう出来ていた?



「あ、あれ…?そう言えば何でオレ達―――」「お互いが喋っている事が判ったんだ?」


「ま、そこんところを疑問に思うのは判らんとまでは言わんが―――お前達、身内同士で争っている場合か?オレ達ヒューマンの村が滅ぼされようとしているんだぞ。」



その注意喚起ちゅういかんきに我に戻る冒険者達、そう、今は村を襲ってきている悪しき者達を撃退する為に対処すべき―――



…助けられてしまったな、お前に。」

「バカ野郎が…自分一人で出来るもんだと思い上がるな、今までお前が対処できていたのは、お前より“格下”だったからだろうが、その事が判っておきながら今回も同じような対処法で臨むなんて…」

「済まない―――反省をしている…それよりどうしてお前が…」

「(…)『虫の知らせ』―――ってヤツさ、それにオレはもう、率先そっせんしてヒューマン共ヤツらを守ってやる道理も意義も見い出せない、全くもって厄介なもんだ、オレ達の女神様はそいつを判っててに無理難題を吹っかけて来る。」


 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


少し、フレニィカこいつの事について話しておこう。 今回の一件でこいつが“魔族”の一種属でもある『エルフ』と疑われてしまったものだが、そいつはそいつで無理もない話しと言った処だ、何故ならフレニィカこいつは―――ヒューマンとエルフの混血ハーフ…つまるところの『ハーフ・エルフ』だからだ。 だからこそ、オレ達ヒューマンの言語、『人語』もかいするし、エルフの言語、『エルフ語』もかいする。 しかもこいつは聡明そうめいな能力を活かし、ありとあらゆる種属の言語をかいし話すことも出来るのだ。

それにその能力の一端いったん垣間かいま見れていた事だろう、実によどみなく流暢りゅうちょうに発せられる発音や言葉遣いは、オレですら見習いたいくらいだ(まあ正直を言うと今匿っているヴァヌスが何言っているのかサッパリだからな)。

それに…今、吐露とろしたように、オレがフレニィカを救済すくったのはこれが最初なのではない、今回二度目だ、そう―――そもそもオレが悪堕おちた経緯は、10年前にさかのぼる……


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その日のオレは、いつも通りに[英雄]としての使命しめいまっとうしていた、弱者でもあるヒューマンの為に、日夜を問わず救済すくいの手を差し伸べてやったものだ。

そんなある日―――オレがいつものように見回っていると、どこか近くで弱者ちからなきものがその生命いのちはかなく散らされようとしている、そんな現場をの当たりにしてしまったのだ。 そして素早く状況の判断をする、一人の少女を取り囲み、ヒューマンが…エルフが…口汚くののしっている、その光景を見てオレは相当妙だと思った、それはそうだろう、ヒューマンとエルフとは互いが何を言っているのか判っていない…なのに、その幼気いたいけな少女を甚振いたぶる事には意思を通じ合わせている―――?

だが、そんな事はオレの矜持きょうじが許さない、オレが育ての親から教わったことは何に置いても曲げられない、オレが取った行動とは、幼気いたいけな少女を甚振いたぶっているヤツらを処断した事だ。


「大丈夫か?おま―――…」


「うわあぁぁ…怖かった、怖かったようぅ……み、皆が、私の事を嫌うの……嫌って、憎んで、その果てに処分ころそうとしていた……そこを、そこを助けて頂いてありがとう、このご恩は決して忘れません。」


救済すくってやったはいいモノの、オレはすぐさま後悔をした、そうその少女こそフレニィカ―――エルフの姿をしながらも『人語』をかいする存在、『ハーフ・エルフ』だったのだ。

その事に思い悩んだオレは、女神ヴァニティアヌスのもとへとおもむき、この後の対処をどうすべきかの指示を仰ごうとしたのだが…「なあ女神ヴァニティアヌスよ、オレはこれからどうすれば……」


{“人類族”―――ではないとは言え、よくかそけき生命いのち救済すくってくれました。 それはワタシアナタによく言い聞かせていた事、その事をよく実践してくれた事を、ワタシは誇りに思いますよ…我が息子よ。}


「あんた、オレが何をしたか判ってんのか?ヒューマンではない―――」


{“魔族”―――ですか。 どうやらアナタは木を見るあまりに森を見ていなかったようですね。}


「何の事を…言っている?」


ワタシアナタに教えたのは、弱者ちからなきものがその生命いのちはかなく散らされようとしている―――それを感応かんのうしてしまったら迷わず救済すくいなさい…と言う事でした。 ですが先程アナタが言うのには『弱者ちからなきものであるヒューマン』と?なぜアナタは、この世の弱者ちからなきものがヒューマンと、そう判断したのです。}


その時オレは天啓しょうげきに撃たれた、そうだオレは何故一方的に決めつけをしてしまったんだ、弱者ちからなきもの広義こうぎではなく狭義きょうぎで図ったが故に、オレは今まで『ヒューマン』と言う狭い捉え方でしか理解していなかった。 オレの育ての女神おや真意しんいも見抜けず、何が[英雄]だ、それに思う処もあった…確かにオレは“人類族”の為を思って救済すくいの手を差し伸べてきたものだったが、“人類族”……その中でもごく一部のヒューマンの言動には思う処があった、救済たすけてやらねばならないとする一方で、救済すくう価値があるのかどうか疑わしい者達もいる、しかし女神からの教えにもそむくわけにもいかず、オレは不承不承ふしょうぶしょうながらにも救済すくうべき価値のない一部のヒューマンにも救済すくいの手を差し伸べていたモノだった、けれどまた女神からの教えにあたった事により、どこか気が晴れてきた気がしてきた、そうだこの世の弱者ちからなきものは“人類族”……いやヒューマンだけじゃない、何かの因果いんがでこの世に生を受けてしまった混血ハーフの存在もいる、ならば今後はヒューマンだけに関わらずこの世の生きとし生ける存在の為に自己おのれ使命しめいまっとうするだけ―――…


 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


そしてこの後、容易にこのたびの一件は“中央”に伝播つたわり、事の次第の如何いかんを問うべき者達が現れました。 そう―――『教会』と言う組織に属する『異端審問官』である。



「[英雄]ベレロフォン、あなたがしゅ意向いこうに反し、人にあらざる者を救済すくったようですが、それは本当ですか。」

「本当も本当だ、オレ自身と女神の名に誓って嘘は言わない。」

「何故なのです、ベレロフォン…あなたほどの[英雄]が何の気の迷いで―――」

「なあ『ロクサーヌ』、オレは一体何に対して容疑を掛けられているんだ、『人にあらざる者を救済すくった』―――“魔族”を救済すくったからか、だがそいつは何の力もない幼気いたいけな存在だったんだぞ、そんなヤツがオレ達の様な大人からいわれなき暴力を振るわれていたんだ、このオレが目にしたからいいようなモノの、もしあの時オレがその場に居合わせなければあの幼気いたいけな存在はそのはかな生命いのちを散らしていた事だろう。」

「そんな事が―――けれど、だからと言ってわたくし達“人類族”ではない者を……」

「言っている事は判る―――判るよロクサーヌ、オレも今まではそう理解をしていた、弱者ちからなきものヒューマンオレ達だって事に…」

「ならば―――」

「だが、気付いちまったんだ、この世の弱者ちからなきものはヒューマンに限ったことではない、だからオレは、もうヒューマン救済すくいの手を差し伸べない…と、そう誓約せいやくする。」

「そうですか―――判りました…わたくしはあなたのその意思を尊重したいと思います。 しかしながらわたくしが所属する『教会』の教義までは変えられる事はかなわないでしょう。」

「ああ、世話を掛けるな[異端審問長]ロクサーヌ。」


オレと彼女ロクサーヌとは旧知の間柄だ、オレが[英雄]として独り立ちするまでに徒党PTを組んでいた事もある、そうした事もあり、今回の出来事で異端審問官のおさに収まっている彼女が出っって来たのはオレも驚いたものだったが、想定していない事態ではなかった。 ともあれオレはかつての仲間に嘘偽うそいつわりを申し立てる事もなく、オレの矜持きょうじのままに、ありのままを話した、そこをロクサーヌは理解してくれたようだったが、彼女が所属する『教会』はそうも行かないらしい、まあそこもオレの想定の範疇はんちゅうだったから理解まではしていたが……納得までは出来なかった。

それにオレには思う処もある、先程オレは『一部のヒューマンには救済すくうべき価値すらない者』とうそぶいた事があるが、このまさに『一部』が教会の関係者…更に言えば[教皇]や[大司教][枢機卿]と言った連中なのである。 それに『教会』―――“人類族”の、それもヒューマンの宗教、“人類族”にはヒューマンだけではなく獣人もいる、人狼ヴェイオウルフ狸人ラクーン狐人ルナール猫人キャットピープル兎人バーニィ鳥人ハルピュイア…と様々にしている、なのに教会は彼らに対しては排他的はいたてきな処すらうかがえる、ヒューマンを至上しじょうと考え、ヒューマンこそが女神から讃える存在だと、そう思っている。 そしてそうした権力を笠に着た言動も目に余る処がある、ロクサーヌも徒党PTが解散してからは教会に従事していたものだったが、オレには彼女が傍目はためから見ても苦痛を抑えている事に見るに忍びなかった、そしていつしかロクサーヌは教会の教義に反する者に制裁を加える―――そう言った役職のおさくようになった。 恐らく今回の審問も彼女自身が言い出した事なのだろう、事の真相を見極める為に……その結果オレは【悪堕おちた英雄】の烙印を押される事となった。

『教会』の方では上げられた報告にさぞや憤慨ふんがいしたに違いはない、しかしそこをロクサーヌは説いたのだろう、『[英雄]を敵に回す』と言う事の是非を、他人の目から見たら[英雄]にしては不釣合いで不名誉そのものだが、ロクサーヌには非常に感謝をしている、それに彼女は後衛に収まってただ補助や回復に専念するだけの存在ではない、時には戦線を押し上げもする大胆不敵さを有する事もある、だからこそ主に“魔族”からは畏れられもしたものだ、その因果が巡りに巡って今や異端審問官のおさである。 上層部の奴さん共にはない現場の厳しさを知っている―――だからこそ渋る狒々爺上層部共を黙らせる事が出来たのだ、だからこその落とし処、オレを【悪堕おちた英雄】とする事でオレを一層動き易いようにしてくれた…


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


それと話しは変わるが、オレがフレニィカの窮地に駆け付けたのは何も『虫の知らせ』などではない―――そう、やはりそう言った事由じゆうが存在していたのだ。


その時のオレは丁度“休息”を取っていた、[英雄]たるオレでも連日にわたってそうそう動けるものではない、『戦士も時には休息が必要』と言うヤツだ。 疲れた身体を癒し、り減った気力を充実させる…これでまた明日からはこの世の生きとし生ける者の為に―――と、そう思っていた頃合に…


 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


「起きて、ベレロフォン。」


「―――ん…ああいつの間にか眠っちまっていたか…それよりどうしたヴァヌス。」

「[勇者]が窮地に立たされようとしている、彼の者がここでついえてしまうのはの意思ではない。」

「ああ……そう―――か…(ん?)」

「私の管轄とは違うが、そうも言っていられない事態―――緊急事態エマージェンシーの発生となってしまった。」

「な…なあ、ヴァヌス―――だよな?お前…どうして―――」

「私の事情は後でよく説明してやる、ただこれは緊急事態エマージェンシーなのだ、ここで『ヒューマンの希望』の二大看板の一つ[勇者]がついえてしまう事は、我等が主神の意向いこうに反する事にもなり兼ねない。」

「いや、そう言う事じゃなくてだなあ…ああいや、言っている事は判るが、どうしてお前が人語を流暢りゅうちょうに……」

「そんな小事こまけきこと大事おおいなることの前には下らぬ事だ、それよりもけ―――私がっても構わないが、“魔族”たる私が出向いては、よりあの場が混沌に化すだろうからな、だから私はお前に頼む、どうか我等が主神―――ヴァニティアヌスの事を思うのならば…」


微睡まどろみとは言え、寝起き直前だったオレはヴァヌスが流暢りゅうちょうな人語で話しかけて来るのにも混乱したものだった、ただそれだけでも相当混乱したものだったのに、矢継やつばやに降りかかって来た、オレがいままでにも知らずにいた真実―――まだこの時には理解するまでには至らなかったが、純粋な魔族であるヴァヌスが言ったのだ、『我等が主神ヴァニティアヌスの事を思うのならば』と…

『主神ヴァニティアヌス』―――?孤児みなしごだったオレを一人前になるまで育て、ヒューマンが組織した『教会』の主神であるはずの女神ヴァニティアヌスが、魔族であるヴァヌス達の主神だったとは……だが確かに混乱をしたものだったがどこか朧気おぼろげながらもれてきた、この世界の在り方と言うものが。

それにヴァヌスからの教唆きょうさが本当だとしたら、このまま放っては置けない、事の如何いかんがどうであれ、今[勇者]に未曽有みぞうの危機が差し迫っている……


そしてオレは―――


「ヤレヤレ―――フレニィカなにをやってんだお前サンは、よ。」


     ――――〈・〉―――――〈・〉―――――〈・〉―――――

⦅状況、把握―――どうやら最大の危機は回避できたようだな。⦆

⦅ご苦労様“シギル”、手間を煩わせたみたいね。⦆

⦅そう思うのだったらどうして―――⦆

⦅その辺の言い訳をさせてもらうと≪認知の阻害≫を掛けられていたのよ、そんな事が出来るのは一兵卒の侵略者インベイダーが出来る事ではないわ。⦆

⦅何?≪認知の阻害≫だ、と?では……⦆

⦅ええ、『魔女』が動き始めた…そう見ていいでしょうね。⦆

     ――――〈・〉―――――〈・〉―――――〈・〉―――――


今回の一連の事はこちらの局面フェーズのっとって[勇者]に覚醒を促す為に“ハガル”が『魔王ヘルマフロディトス』の名に於いて村を襲わせた―――ここで通常なら[勇者]フレニィカも己の使命しめいに目覚め、愈々いよいよもって魔王討伐へと動く手筈てはずとなっていたのに、何故か破壊不能イモータブルであるはずのミスリル合金製のフルフェイス・ヘルメットタイプの兜が破砕されてしまった…その事を感応かんのうした私は、事態の急変を[英雄]に知らせる事により、[勇者]がヒューマン達と敵対する事を回避させ、その後は[英雄]の手によって差し向けられた侵略者インベイダーを撃退…けれどその後の報告会によって新たなる事実が判明してしまったのだ。


そう―――≪認知の阻害≫…そんな事が仕掛けられるのはこの“天宙うちゅう”広しと言えど、ある存在達を於いて他にはいない…それこそが『魔女』―――いずれの勢力にもくみせず、ただ気儘きままに、ただ放埓ほうらつに時を紡ぐ存在。 その『魔女』が……その事実だけで私達の警戒の段階と言うものが引き上げられるのも無理のない話しなのだ。


 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


ただ―――としてはそうも行かないと言った処か…確かに『緊急事態エマージェンシー』とは言え、いつわりをよそおっていたことが発覚してしまったのだ。

それと…自己弁護ではあるのだが、私自身とは思ってもみなかった……

「さて、それでは説明して貰おうか―――色々と、な。」

「(ウ~~…)その前に、何故この娘が?」

「私は今回もベレロフォンにあやうきを救済すくってもらった、その事の感謝を述べる為に―――」

「ではとっとと感謝してとっとと去れ、私は彼に今回の事の次第しだいを説明しなければならないのだ。」

「(…)それよりお前―――随分ずいぶん流暢りゅうちょうに話せるんだな人語を、それも“魔族”なのに…どうしてなのだ?」

「やはり私は、お前の事は嫌いだ―――好きになれそうもない、何故なら変にさかしいからだ。」

「(なっ?!)言ってくれるじゃないか、そう言う私もな―――」

「“私”の事が嫌いか?変な処で気が合うな…」

「まあまあーーーそれよりヴァヌス、これからオレに説明はなしてくれるのはフレニィカこいつにも関わりがある事なんだろう。」

「仕方がないな、お前がそう言うなら今回だけは特別だ、それに今私がやろうとしている事自体は、本来ならフレニィカ―――お前に付いている“担当”がするべき事なのだ。」

「私の―――“担当”?」

やはりそう言う事か…オレもどことなくだが、ヴァヌスが流暢りゅうちょうな人語で話しかけてきた処からそうではないかと思ったのだが、どうやらには―――[勇者]や[英雄]には女神よりの補助役サポーターが付いている、オレの場合がヴァヌスだった―――と言うだけの話しだ、だとするならフレニィカには―――[勇者]には一体誰が補助役サポーターに?




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