第3話 割られた仮面

「おっ、開いてたなあ…邪魔するよーーーて、お前…」

       

 ――――〈・〉――――〈・〉―――――〈・〉―――――〈・〉――――― 

⦅―――どう言うつもりなの?“シギル”…⦆

⦅こうした形での接触は、私も好ましく思ってはいない…だが“ハガル”―――少し問題が起きた⦆

⦅問題―――?一体何が…⦆

⦅『侵略者インベイダー』よ…このえある女神ヴァニティアヌスの世界に―――ね⦆

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「あら、ベレさんお久しぶり―――と言うよりその子はどうしたの?」

「ん~~~?急に外へ出たいってせがむもんでなあーーーけど、昨日の今日だろう、あんまし目立ちたくはなかったんだがなあ。 それにしても、お堅い事で有名な[勇者]様が、陽も高い内から酒場―――に、ねえ…」

    

 ――――〈・〉――――〈・〉―――――〈・〉―――――〈・〉―――――    

⦅なるほど―――事情はよく判ったわ…それにしても関心はしないわね、こんな危険を伴う行動を…⦆

⦅言っておくけれど、私はをしに来たのじゃないわ、これは…かの侵略者インベイダー共は対処する。⦆

⦅―――了解。 判ったけれど、あまり目立ち過ぎちゃダメよ。⦆

⦅判っている。 それにこの私が対処するのだから、他の端末にもよく言い聞かせておいて頂戴、呉々も巻き込まれないように―――と…⦆

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この会話は、丁度その場にいた[英雄]や[勇者]の耳には届いていない、いわば意識の外で交わされた言葉、そうその場にはヒューマンと魔族の幼生体…ながらも、高度な意思の疎通そつうを交わせる者が、少なくとも―――と、言う事実。

それに“シギル”と呼ばれた個体が“ハガル”と呼んだ個体にうながす、『他の端末にもよく言い聞かせておいて』……と、『他の端末』―――そう“シギル”も“ハガル”も端末を形成する一つに過ぎなかった、そして今、その内の“シギル”が『侵略者インベイダー』なる者達に対処をする……


夜半やはん―――けだものの声が號叫ほえわたる、艶々つやづやとした光沢のある青の外皮装、竜を思わせる角と尾、爛々らんらんと輝く紅の瞳、その一本一本が鋭利な剣ではないかとさえ思える爪や牙、ありとあらゆる魔族の特徴を兼ね備えた『合成魔族キマイラ』…その化け物がむさぼりしは、この世界には見られない特徴をした奇妙なる者、それこそが『侵略者インベイダー』なのでした。


 * * * * * * * * * * * * * * * * * *


同じ頃、ベレロフォンは難しい顔をしていました。 なぜか―――? それは自分が保護をしていた対象―――魔族の幼生体であるヴァヌスがいない…

なぜ―――どうして―――?妙な胸騒ぎを覚えてヴァヌスの寝床を確認しにきてみればもぬけの殻だった、それでもかわやへと用を足しに行っているものと思っていたけれど、そこにもいなかった―――ならばと、居そうな場所を探してみました、台所に風呂場…けれども見つからない―――そんな彼の脳裏に過ったものとは、『まさか外へ…?』



「(いや―――それは有り得ない…夜の世界がいかに危険なのかはヴァヌスも知っているはず……)」



彼は、心配しました―――まるで我が娘の様に、その安否あんぴを……

けれど見つからない―――あまつさえ足取りも判らない、こうなったら朝一番にギルドにでも探し人の依頼をするしか……そう思っていた処に家の出入り口付近で気配を感じた―――



「ヴァヌス!今まで一体どこに!?」  「ガァ…グァ……ヴォ―――」



見てみれば足は泥だらけ、それに手も…有り得ていないことが起こり得てしまった、そう―――『外に』…けれどベレロフォンは怒鳴ったりはしませんでした、責めたりもしませんでした。 ただ―――優しく抱擁ほうようをしただけ…



「ああ…良かった、心配したもんだったぞ。」  「グゥオ…ヴォ……ヴォオオオ゛オ゛ーーー!」



思いがけずも心配をさせてしまったことに悪びれをしたものか、魔族の幼生体幼女は泣いてしまいました。 そう、自分がしたことを後悔してしまった子供の様に、その日以来別々で寝ていた大人と子供は一緒に寝るようになりました―――…


 ――――〈・〉――――〈・〉―――――〈・〉―――――〈・〉―――――

⦅フッ―――フ・フ・フ・フ・フ…⦆

⦅何がおかしい。⦆

⦅別に?あなたにも意外に可愛らしい一面があったものだと感心しているのよ、“シギル”。⦆

⦅仕方がないでしょう、今までは帰ってくるまで起きなかった人が、目覚めてて私を探していたんだもの。⦆

⦅だからこそよ、私達の女神の権能の8割方を持つが、声を上げてくなんて…まるで本当の彼の娘みたいだったわよ。⦆

⦅うるさい―――それよりそちらはどうなの?見ている限りでは進展はなさそうだけど。⦆

⦅そろそろよ、まあとは言っても“きっかけ”は欲しいわね、そこで相談なんだけど―――⦆

⦅私に協力を?高くつくわよ。⦆

⦅ありがとう―――それにしても可愛い寝顔ね♡⦆

⦅うるさいっ―――!⦆

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その一方で、奇妙なある噂が立ち上り始めたのもこの頃からでした。 なんでも冒険者達の言うのには……



「なあ知ってるか、ここんとこ夜の森が騒がしいって事を。」 「ああ耳にしたことはあるが―――森かあ…」 「だな、森と言やあ魔族のエルフだが、奴さん達もいよいよ―――って事なのかあ?」



あらぬところで立ちのぼり始めた“火種”、何でもここ最近夜の森が騒がしいと言う、他人ひとはそれを、自分達“人類族”と敵対をしている“魔族”…それも森と所縁ゆかりの深いエルフが動き始めたのではないか―――と推察したのです。


するとその事で意外な反応を見せたのは……



    ―――何を、考えている?!今エルフが蜂起ほうきしたところで利はないはず、確かにヒューマンとエルフとの仲は良好とは言い難いが、だからと言って直接的な行動に出てどうしようと言うのだ!?―――



その反応こそ、『人類最後の希望』……[勇者]フレニィカのものでした。

それにしても不思議なものでした、ヒューマンの言語をかいし、“人類族”の味方であるはずの彼女が―――どうして敵対者である“魔族”のエルフの心配を?

その疑問はフレニィカの出自しゅつじにも深く関わり合いがありました、だって彼女は―――……


それよりも、彼女は彼女自身の疑問を払拭ふっしょくさせるために、ある行動に出ていました。 そう―――くだんの『騒がしい』とされていた場所に…



     ―――これは……酷い!?しかし判らなくなってきた、エルフは生来せいらいから森を愛する民だと位置づけられてきた…なのに、まるで森を破壊するかのような行動を取るとは!?―――



確かにその場所には何かがあったかの痕跡が確認されました。 大きくえぐれた大地、し折られた大木、砕かれた岩……等々、けれどこれで判ったことがありました、“噂”は、所詮“噂”でしかなかったのだと。



      ―――そうだよな、“噂”…単なる“噂”だ、エルフがここまでの事をする事はまずない、それに私が見立てた処、これは“狩り”だ、それも大型魔獣同士の…その事を想定すれば、ここまでの惨状は理解できる…―――



おかしな事と言えば、フレニィカは妙にエルフには理解力がありました。 人々が―――ヒューマン達が口を揃えて言っている『エルフの行動』とは全く別の方向からの見方みかた、けれどもそれは……しかしフレニィカはヒューマンの言語を…『人語』をかいしている?けれどこれでフレニィカ自身が抱いていた疑問は払拭ふっしょく出来ました。


出来は―――したのですが、有り得ない事態にも遭遇してしまった…


フレニィカがくだんの現場から離れ、町へと戻ろうとしていた帰途きとに―――おぞましいまでの気配を感知してしまった…



     ―――なんだ……!今まで経験した事のないような危険性?どうしてこんな場所で災害級の脅威が?!―――



『災害級の脅威』―――それは、ドラゴンやその他の大型魔獣のみが醸し出す雰囲気と同等な危険性を醸し出している化け物が近くにいる…と言う事の証明にもなり得ていました。

それにしても有り得なかった、未熟とは言え[勇者]である自分と[英雄]である彼が近くにいると言うのに、それにどれくらいの脅威であるのかを知っておく必要がある、知って“いる”と“いない”とではその対処の初動から違ってしまうのだから、―――悔しいが今の自分では対処しきれるかも疑わしい…そうした事を故事付こじつけ、フレニィカは様子をうかがう事にしました。


しかしそこで視てしまったものとは―――艶々つやづやとした光沢のある青の外皮装、竜を思わせる角と尾、爛々らんらんと輝く紅の瞳、その一本一本が鋭利な剣ではないかとさえ思える爪や牙…そうした見た目も美しい魔獣が辺りをうかがっている……?



       ―――な―――何なんだ…あれは!美しいながらにも畏敬すら感じる…そう言えば私の父さまも言っていた事がある、森が騒がしくなる時分じぶんには神の力を宿せしけだもの降臨おりたち、我等エルフの森を守護して下されるのだと…すると、が『守護のけだもの』か?!いや、待て?ならばなぜ警戒の態勢……を?―――



フレニィカがその頭の中で思考を巡らせている時、動きがありました。 そう、警戒をしている『守護のけだもの』とはまた別の……しかもこちらは相当妙でした、それというのも理屈に合わない―――そうした特徴を持つ“獣”……鷲の頭に竜の手足、猪の胴に熊の尾―――と言う合成魔獣キマイラ?!



{フッーーーフフフ、探しましたよ『オピニンクス』、同胞を多く失ったがゆえの戦略的撤退―――見事な判断でしたが…このままではおちおち戻れもしませんからね、ええその事は判りますよ、お前のその首一つで収まる範疇はんちゅうではなくなりましたから…だとて、我等が女神がお創造つくたまうたこの次元世界せかいに土足で上がった罪―――安くはない事を思い知るがいい!}



“絶叫”をさせないためにもまず、その咽頭のどに喰らい付き、声帯を…発声器官を潰す『守護のけだもの』―――そしてそれは同時に呼気こきや血流を寸断とめ一役ひとやくも買っていました。 そして瞬くの間の内に物言わぬ物体と成り果ててしまう合成魔獣キマイラ、あの初動が無ければ森であるこの場所でも“何か”があったとされてもおかしくはありませんでした…が、初動で咽頭のどを潰したお蔭で大した騒ぎにまではなっていませんでした。



    ―――それにしてもよく似ている、あの現場と…それに気になる事も言っていた、あの魔獣…『守護のけだもの』は『女神』と言っていたが、まさかそれは女神ヴァニティアヌスの事を言っているのか?ただ判らない、女神ヴァニティアヌスは“人類族”にのみ祝福を授けたわけでは…―――



そうした疑問で悩んでいる時―――彼の『守護のけただもの』がこちらを向いている事に気が付いた。 目を細め“じっ”とこちらの動静をうかがっている…しかし暫くすると警戒が解かれたのか、それとも興味が薄れたのか、何処かへと去ってくれた。



  ―――はああ~~~取り敢えずは助かったか、それにしても似ていたな…、いかんな変な詮索せんさくのぞき見も、お蔭で寿命が縮まったものだ―――


 ――――〈・〉――――〈・〉―――――〈・〉―――――〈・〉―――――

⦅フッフフ~~ン♪⦆

⦅なに―――⦆

⦅あなたも隅に置けないわねえ~?“シギル”⦆

⦅だから、なんなの。⦆

⦅“彼女”の事よ、のぞき見してたの判っていたんでしょう。⦆

⦅仕方がないでしょう、だって、あの場にいたんだもの。⦆

⦅いたとしても、あなたならどうにでも出来たでしょう?⦆

⦅はあ…これだから“現場”を知らないお偉いさんは―――いい、あの現場の近くには何があるのか判っているのかしら?⦆

⦅エルフの里だけど―――なんか連れない言い草じやない、それに責任者を取り逃がしたのはどこの誰でしたかしらね。⦆

⦅“私”ですよ“私”!そこは謝るわ―――だけど[勇者]の管理はあなたでしょう!“ハガル”!⦆


⦅その辺にしておきたまえ“シギル”に“ハガル”。⦆

⦅ごめんなさい―――“ギエフス”⦆

⦅それより、自慢の娘さんの事なのだけれどね。⦆

⦅皮肉を言うにしてもそれくらいにしておいたらどうだ“ハガル”、確かには私の身から出たさびだ―――若気わかげの至りと言うヤツだ、しかしそれを知ってか我等が女神が認めてしまったのだ、私如きが意見した処でどうなる事もない。 それよりも、だ、“シギル”、当たった感触としてはどうなのだ。⦆

⦅一応は、警告の意味くらいにはなったんじゃないかしら。 二度とバカな真似をしようとは思わないくらいまでにはね。⦆

 ――――〈・〉――――〈・〉―――――〈・〉―――――〈・〉―――――    



ここは再びの『意識の狭間はざま』―――そこには常連いつもの“シギル”と“ハガル”……の外に“ギエフス”なる者もいました、『才能』と『祝福』を意味する者―――然してその者は『エルフ』でした。

そう―――『エルフ』、この世界では“魔族”の一種属、そして“人類族”の敵対者、その三者三様が今回あった出来事について各々の自論を申し立てていました。

中でも“ハガル”はどこか“シギル”を揶揄からかうかの様な言動をしたものだから、この二者間で小競り合いが生じるものと思われたのですが…そこを止めたのが“ギエフス”だった、それに“ハガル”は“ギエフス”に対しても皮肉を…そう、『自慢の娘』と―――すると“ギエフス”はこう返答こたえたのです、『は私の身から出たさびだ―――若気わかげの至りと言うヤツだ』と。


『身から出たさび』―――?『若気わかげの至り』―――?いずれにしてもこの言葉自体がある存在の言及げんきゅうにもなっていたのです。


それにしても、この三者三様が会していたのは何の為に?



 ――――〈・〉――――〈・〉―――――〈・〉―――――〈・〉―――――

⦅随分と話し合わなければならない議題とは離れてしまったけれど、状況の進捗しんちょくとしてはどうなのかしら。⦆

おおむね予定通りと言う処よ、多少の邪魔は入って来たけれどね。⦆

⦅『侵略者インベイダー』…何処いずこの手の者だったのだ。⦆

⦅正直に話すと、『判らない』…混在こんざいしていたからね。⦆

⦅それほどまでにこの世界を我がモノにする―――と言う利権エサの前に見境が無くなるのでしょう、しかしそれはそれで喜ぶべき事―――⦆

⦅おい“ハガル”⦆

⦅だってそうでしょう、この世界を我がモノに―――その利権エサに目がくらみ、見境なく群がってくると言う事は、それだけ我らが女神に対しての評価はあるのだから、かと言ってこのまま好き勝手され放題では余りにも面白くない話し、なので―――そうした者達への対処は引き続き“シギル”が、“ギエフス”や他の端末達は通り―――そして私は…この段階をもって[勇者]覚醒の為の行動に移ります。⦆

 ――――〈・〉――――〈・〉―――――〈・〉―――――〈・〉―――――



重要な事が、そこでは話されました。 まず一つ目がこの世界を“我がモノ”―――侵略しようとくわだてている何処いずこかの存在、その殲滅せんめつを担当したのが、以前と変わらずの“シギル”なのでした、そして“ギエフス”とその他の端末にも以前と変わらぬ指示を与えた…唯一変わったと言えば、彼の者達をまとめている“ハガル”が、この時点をもってある存在…[勇者]覚醒を促す行動に出る事だったのです。


そしてこの“ハガル”こそが、[勇者]フレニィカが討伐さねばならないと言う『魔王ヘルマフロディトス』……“破壊”や“崩壊”を意味すると言う―――


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そしてこの頃より世界に異変が蔓延しだしたのでした。


その顕著けんちょな例が『オーク』や『オーガ』と言った凶悪な魔族や『ゴブリン』や『コボルト』などの敵性亜人が各地で蜂起ほうき、“人類族”の町や村を襲うと言う事例が頻発ひんぱつしてきたのです。

これまでも、そうした事例が『なかった』―――とまでは言いませんが、ここ連日で頻発ひんぱつするような事態ではなかった。

は、『あった』としても日を置いて―――でしたが、それがここ連日は…そう、―――今日襲われている村があったとしても、明日はどこかの町でも弱者ちからなきものしいたげられている、それを[勇者]が見逃せるはずもありませんでした―――[英雄]が見逃すはずもありませんでした。


ただ、この世界での『ヒューマンの希望』としての一翼いちよくである[英雄]は、動きませんでした。


なぜ―――?どうして―――?それは明確にして明瞭めいりょう、[英雄]ベレロフォンが自己おのれ裁量さいりょう・判断により、救った生命が『ヒューマンではない』そのたった一つの事で救うべきヒューマン存在から唾棄だきされ、あまつさあざけられののしられたから。


自分を育ててくれた女神おやは言っていた、『この世に生きとし生ける者の魂は平等なのだ』と、“人類族”“魔族”の区別なく、万物平等ばんぶつびょうどう定理ていりもとづき、あやう生命いのち救済すくったと言うのに、この仕打しうち―――ならばと言う事で一考したベレロフォンは、自己おのれ矜持きょうじもと救済すくかを裁量はかったのです。 故にこそ、彼にまとわりついた不名誉にして不釣合いな“通称とおりな”…【悪堕おちた英雄】―――ベレロフォンに見棄てられた生命いのちを見ていた者達が言う、ヒューマン自分達救済すくうべき[英雄]が、ヒューマンを救済すくわずに魔族人に非ざる存在救済すくっている、『悪徳を好む』―――と、そうした悪しき風評ふうひょう風聞ふうぶん流布るふされた者は、以降をどうするか、これまでと同じように救済すくえるのだろうか。


[英雄]は、語らじとも既に行動に移している―――とすれば、その責務はに寄せられるのも無理のない話し。


 * * * * * * * * * * *  * * * * * * *


こうした事を受けて[勇者]フレニィカはある村を訪れていました、悪しき者達が襲って来なければ、恵まれた水源に土地―――豊饒ほうじょうを約束された森がある村…そこを悪しき者達―――『オーク』や『オーガ』、『ゴブリン』や『コボルト』が襲い来る、普通ただの一般の民衆達にどうしてか防ぐ手立てがあるだろうか、しかもそうした者達は日常を、田畑を耕し“漁”や“猟”を行い、伐採きった木材を加工するなどして生計せいけいを立てていたと言うのに。


故にこそ、はかなくも散って生命いのち―――散らされ宿命さだめの魂…


その襲撃によってほとんどの村人達の生命いのちが散らされてきました。 そしてこうした時に…絶望が蔓延した時に、弱者ちからなきものは祈る…弱者ちからなきもの祈る―――


その祈りが天に通じたか、救済すくいの手は差し伸べられる……



『私が来たからには安心を、そして悪しき者共よ覚悟するがいい!』



満を持して現れたのは[勇者]フレニィカでした。 彼女自身は自分こそが救済のにない手である事を自覚していた、だからこそ村の惨状を目にした時、大いに発憤はっぷんをしたものだったのです。


しかし―――哀しいかな…彼女はまごう事なき[勇者]ではありました、が…いかんせん経験不足、彼女の事を悪しざまに言うつもりはありませんが、彼女が今まで相手にしてきたのは、彼女より格下よわい―――そう言った存在でした、つまりはそう、今回村を襲撃してきた者達は、彼女よりも格上つよい―――最初の啖呵たんかこそ強いものでしたが、徐々に劣勢に…気圧けおされていく[勇者フレニィカ]、しかしまず彼女を賞賛しょうさんすべきは、窮地きゅうちに陥ったとしてもあきらめなかった、そこはめてしかるべしでしたが、如何いかんせん実力差と言うものは気力のみで、または精神論だけで切り抜けられるわけでもない。


それに、落ち度としてはフレニィカの方にもありました。 確かに彼女は強かった、並の冒険者と比べても劣らぬ力量レベル、けれどそれであるが故に産まれてしまう慢心まんしん―――『私一人でも問題ではない』…けれどもこの世界の戦闘形態と言えば、『徒党PT戦』が推奨すいしょうされていました、それというのも“人類族”は―――いや、ヒューマンは自覚していたのです、『自分達は弱い』と…だからこそ組んだ―――徒党PTを、自己おのれの足らない部分を相方の力で補うカバーする、それで個人ではかなわない様な強敵でも討伐することが出来る。


しかし―――フレニィカには、そう言った傾向けいこうは今までの一度すらありませんでした。 徒党PTを組もうとはしない―――誘おうとも、誘っても断っていた…そこを普通ただの一般人達は曲解まげて理解してしまいました。


『[勇者]様はお強いから、脆弱ぜいじゃくな自分達とは組めない―――例え組んだとしても足手まといになるからと、思っていなさるに違いない……』


けれど、真相はそうではない―――彼女は怖かった…ただ、ただ怖かった。 ヒューマンではない自分が、夢枕とは言え女神からの啓示けいじを受けてなどと、口が割けようとも言ってはならない…自分の正体が発覚バレてしまうのは―――この世界の為にも、女神の為にも…そしてまた、慕っていた“あの男”にも……


ただ無常なのは、彼女の“想い”がどうであろうとも、割られてしまうものは割られてしまう―――フレニィカは善戦をしましたが、それだけ…無情にも彼女が装備していたミスリル合金のフルフェイス・ヘルメットタイプの兜は、鬼人首魁オーガ・リーダーから放たれた『痛恨の一撃』により破砕―――彼女が直向ひたむきに隠し続けてきた“正体ひみつ”が、白日はくじつもとに晒されてしまったのです。




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