第2話 半端者

⦅“シギル”より“ハガル”へ―――報告、予定通り対象に対し試練を負荷、試練のクリアを確認⦆


⦅あら―――これは珍しい、まさかあなたが直接私に報告など…⦆


御託ごたくは、いい―――それより我等が主神に次第の報告を⦆


⦅はいはい―――判っているわよ、“シギル”…それよりまだ報告するのがあるのじゃなくて?⦆


⦅何を…言っている―――⦆


⦅私如きが意見する立場じゃないのだけれど…確かいたわよね、その同じ現場に


⦅ああ…“彼女”の事?まさか同じ町にいたなんて―――監視部はなにをしていたんだか⦆


⦅彼らは彼らで、己の使命を全うしていたわよ?ええそれはもう……⦆


⦅だとしたらどうして!あの場に―――⦆


⦅けれど、そのお蔭で後の進行はなめらかになった…違わなくて?⦆


⦅(…)―――以上をもって報告終わり!以降はまた対象の観察を続行する⦆



その場所は『意識の狭間はざま』と呼ばれる場所―――そんな場所で人類族としての特徴を持たないふたの存在が意思を疎通かわす、その一つはヒューマンの特徴を持たない肌の質感と色、頭部には有り得もしない角、一部だけ発達した牙、ヒューマンのモノではない魔族特有の瞳を有した存在だった、それに対しもう一つは菫紫きんしの髪に銀の瞳、並の男性なら瞬間的に籠絡ろうらくさせてしまえる性徴せいちょうの持ち主…女性的な特徴を持ち合わせながらも男性的な特徴をも持ち合わせる存在、このふたの存在がでしか通じ合わない呼称こしょうもって意思を疎通かわし始める。


それにしても―――“試練”とは何だろうか、“負荷”とは…?



 * * * * * * * * * * * * * * * * * *


そして―――オレの一日が始まる…何の意味もない、無駄な一日が。


オレは―――[英雄]であるオレは、育ての親から[英雄]や[勇者]はこうあるべきだと教えられて育ってきた、それは本当に基本的な事で『他人の困るような事はしてはいけない』―――から、『困っている他人がいたら率先して手助けをしてやる』等々、そんな育ての親の教育をもとに、オレの[英雄]としての矜持きょうじの基盤は固められ、教え通りに困っている他人達を手助けしてきた事でオレの[英雄]としての名声は上がっていった。

…が―――ここの処オレを取り巻く世情せじょうとやらは、オレの方には向いていない、その原因としては判っている―――そう、人類族ではない魔族の幼生体少女ヴァヌスの存在だ、オレが、オレの育ての親である女神ヴァニティアヌスから教わったことは基本的な事だ、そう、オレ達ヒューマンが人類族としてどうあるべきであるか…だからあの時のヴァヌスの行動―――『もしかしたらヒューマンの子供のあやうきを救済すくおうとしていた』……?オレ自身ですら、まだ魔族は人類族に対しての不倶戴天ふぐたいてんの敵だと思っている、けれど…不思議な事にヴァヌスに対してはそんな感情は一切芽生めばえてこない、何故だ―――何故…?なぜオレは今更になってそんな疑問を抱いた?!をオレは育ての女神おやからは教わっていない、今にして思えばあの時…ヴァヌスの事を女神ヴァニティアヌスに相談をしようとした時……


   ―――{敢えての説明が必要ですか?アナタならワタシからの説明がなくとも理解してくれるものと思ったのですが}―――


ああ言っていたのはこうなる事を見据みすえていたからなのか?

全く……ああ、全くだよ―――総て見透みすかされていたんだ、オレがまた未成熟者の様に甘えて来ることを、全くもって厳しい方を親に持ったもんだ―――と、つくづくそう思った…

「…ウーーー。 ア?アァ~~。」

「ははっ―――悪ぃ、起こしちまったな。 昨日は大変だったな、だからまだゆっくり寝てていいぞ。」


「アァ、ア? ウ~~アーーー。」


オレの傍らでぐっすり眠るヴァヌスだったが、オレの余計な所動作の所為で目覚めちまったみたいだ、だからオレがいくら言って聞かせた処で従う訳ではなく……

「ん~~~?どうした―――手伝いたいってのか?それじゃこいつを頼もうかな。」

「アァ!ウゥ~~~アァア!」

未だに、何を言っているのか判らない―――判らないが一緒に暮らす過程で、なにがしたいかの意思は伝達つたわるようにはなった、とは言えまだまだ子供、危険を伴う様な手伝いは避け―――危険ではない手伝いをさせるのだが…

「アア~~…ウッ、ウッ、ウオォォーーー!」

「ああ、失敗しちまったなあ。 まあ仕方ない、そう言う事もあるさ。」

こうした光景を見さされ―――ふと、女神ヴァニティアヌスと一緒に暮らしていた頃の事を思い出す、あの頃のオレも、ただ育ての親である女神ひとの役に立てればと、不器用は不器用なりに手伝いを買って出ていたが、まあその結果どうなったかは説明するまでもない―――


「あらら、私の食器を壊しちゃったのね。 でも大丈夫、あなたが責任を感じる事ではないわ、だって形あるモノはいつかは壊れる…それは生命いのちある者でも同じ事―――それが“自然”であろうとも、“不自然”であろうとも、誰しもがのが宿命さだめ…この事はちゃんと覚えて頂戴ちょうだい。」


オレが失敗をした時も、あの女神ひとは優しくそうさとしてくれた。 それが今度はオレがヴァヌスにしているだけ…他人の面倒を―――殊更ことさら子供を見ると言うのが、こんなにも大変だったことを、オレは肌身はだみに感じていた。


―――――〈・〉―――〈・〉―――〈・〉―――〈・〉―――〈・〉―――――


  ⦅対象の“善行”値上昇―――と共に“混沌”値も上昇…以降の観察を続行する⦆


           ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


この世界を説明する時に、私達の様な[勇者]や[英雄]―――、人類族に対しての最大の脅威にして不倶戴天ふぐたいてんの敵、魔族…その魔族には王たる者も、いる―――そう、想像にかたくなく[魔王]の事だ。


特徴としては―――菫紫きんしの髪に銀の瞳、並の男性なら瞬間的に籠絡ろうらくさせてしまえる性徴せいちょうの持ち主…豊満な乳房を備え、その一方で怒張どちょうさせた陰茎を兼ね備えさせているとも聞く、女性的な特徴を持ち合わせながらも、男性的な特徴をも持ち合わせる―――そんな存在が『魔王ヘルマフロディトス』なのである。

私達の目下の目的が魔王ヘルマフロディトスを討伐し、世間よのなかの不安を排除する―――と言ったものなのだが、その存在性以外の情報が中々入手できない、しかし、出来ないからと言って手をこまねいているわけにもいかず、私はよく冒険者達が利用をしている酒場に寄って魔王ヘルマフロディトスの情報をき集めようとしていた。

「あら…どなたかと思いましたら―――こんな陽も高い内から我が『ヘレネス』にようこそ、[勇者]フレニィカ様。」

彼女こそはこの町にある酒場―――『ヘレネス』の女店主マダムである『ヘレネ』、その妖艶ようえん美貌びぼうは、女性である私ですらせられ、まどわされてしまう…そう言ったたぐいのものだ。『挨拶はいい、それより頼んでいたモノは仕入れられたのか。』

「あらあら、ウフフフ……仕事熱心はなによりですけれども、ならばあなた様もわたしにお仕事をさせて下さいませ。」

『おかしな事を―――お前の仕事とは客に酒を提供するものなのだろう、それを私に…』

「ン・フフフ―――相も変わらずお堅いです事、ですけれどそんなあなた様のお蔭でわたし達は平穏無事に暮らせている…その事は感謝しきりでございますよ。 さて―――とは言え、本題に入らさせて頂きますと…“ない”ものは“ない”のです、悪しからず。」

むう…やはり無駄足むだあしだったか―――しかもこれで7軒目…未だ魔王の存在性だけは確認されてはいても、その情報が全く入ってこないと言うのは……果てさてどうしたものか―――


「おっ、開いてたなあ…邪魔するよーーーて、お前…」

「あら、ベレさんお久しぶり―――と言うよりその子はどうしたの?」

「ん~~~?急に外へ出たいってせがむもんでなあーーーけど、昨日の今日だろう、あんまし目立ちたくはなかったんだがなあ。」

げ、ベレロフォン…今会いたくないヤツなのに、こういう時に限って―――って因果ヤツなのだろうな。

「それにしても、お堅い事で有名な[勇者]様が、陽も高い内から酒場―――に、ねえ…」

『お前のその妄想をブチ壊す訳ではないが、何も私は飲酒目的でここを訪れたのではない。』

「はいはい―――そう言う事にしときましょうよ、それよりヘレネ、なにかこの子の口に見合うモノを作ってくれないか。」

『(え)いや、ちょっと待て!昨日私は見てしまったぞ―――その“少女”の外見を…なのに!?』

「その事情を話してやったところでお前には関係ない―――それにこれは警告だ…これ以上首を突っ込むな。」

『しかし―――お前は!』

批判を浴びるの汚れ役はオレ一人で充分なんだよ―――[勇者]のお前までそうなる事はない。」

『だが…それでは―――ッッ!』

「一つだけ言っとくぞ…フレニィカ、オレはなあ悪堕おちちまっちゃいるが、本来の目的そのものまではてたつもりはない―――まあ、こうなった因果でも、出来るだけの事はやってやるつもりだ、だからお前は、お前が女神ヴァニティアヌスから課せられた使命をまっとうするんだ、いいな…」

一つの信念を貫徹つらぬきとおす―――それが私が知り得る[英雄]ベレロフォンだった。


私を救済すくってくれるまでれっきとした[英雄]だったベレロフォン、一つのかそけき存在が消え宿命さだめにある時、彼は理由の如何いかんを問わず、種属の違う私の事を救済すくってくれた。

私は―――“異端”だ…それは私の種属から見ても、“人類族”から見ても……だからそれ故、迫害の対象にもなり得ていた、そうした私のあやうきを救済すくったのがベレロフォンだったのだ。

私は“魔族”でもなければ“人類族”でもない―――むしろその……故にこそ、どちらの大人達からも目を付けられていた、つまりはそう、私がベレロフォンから救い出されたのは、そうした大人達の鬱屈うっくつが一気に爆発してしまった、その現場に偶々たまたまベレロフォンが居合わせただけの事―――今にして思えば、半端者はんぱものの私を救済すくった事で彼の経歴がけがされたと言っていいだろう、そうした恩を少しでも返す為、私は彼を目標にし武を磨いてきた、鍛錬をしてきたのだ。 無論、だからと言って周囲からの冷たい視線は収まるでもなかった、そうした折、私も生誕してより16を迎えひとり立ちをする為に故郷を離れることにした。

「ではギュエフス父さま、行って参ります。 そしてもう生きて二度とこの地には足を踏み入れる事はないでしょう。」

「フレニィカ―――しくも私のたわむれによって生を受けし者よ、私の不義不徳によって今日を生き永らえた者よ…詫びはせぬ、ただ今はくここから去れ、そして何処へとなりて野垂のたれ死ぬがよい。」

父子おやこ別離わかれにしてはいささか冷たすぎる対応だった―――しかしそれもむ方なし…私は“異端”であり、“忌み子”なのだから。

そして私は、その種属的特徴を隠す為、頭部を覆い隠すフルフェイス・ヘルメットタイプの兜を常時着用するようになった、それから2年もの月日が流れ、いつしか私はベレロフォンが住まう町へと来ていた。

だが―――10年の月日つきひは私にとっては余りにもへだたりがあり、そして長いと言わざるを得なかった、私の種属は10年の月日つきひなんてつかたないかくらいの感覚でしかないのに、10年は余りにも長過ぎた…私が彼に救済すくわれたのは8歳の時分、―――で、私を救ってくれた[英雄]は【悪堕おちた英雄】の烙印を押されていた。

私の所為せいで…そんな不釣合ふつりあいな―――不名誉ふめいよ悪評レッテルを?!ならばどうにかして彼の不祥ふしょう払拭ふっしょくしなければと思い立ち、彼の名誉を取り戻す為に協力を申し出ようとした処に、そんな時私がふと見たものとは、私とは違う“魔族”の幼生体―――少女だった。 そう、彼のあの悪評レッテルは私ではなく“魔族”の幼生体少女庇護ひごしているからだった、その事を知り、何故か私はいきどおろしかった…“嫉妬”―――と言うべきか、そうした醜い感情を抱いたまま、私はその夜、枕を涙で濡らした。

私の醜さ故に―――私ではなく“魔族”の幼生体少女を選んだ事に、そしてその夜、私は夢の中で女神ヴァニティアヌスからの天啓てんけいを受け、[勇者]になってしまった……


 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


「女神ヴァニティアヌスよ、お一つお教え願いたい、何故私如きが[勇者]の役割を…」


{[英雄]である“カレ”にはある役割をになってもらっています。 これから“カレ”には様々な試練が待ち受けている事でしょう、苦難が待ち受けている事でしょう、ですがその事自体じたいワタシが“カレ”に課したモノ、“カレ”にはもっと大きくなって貰わねば…そこで“人類族”の希望としての一翼を担う[勇者]の人選じんせんに入ったのです、そこでワタシが目を付けたのが―――アナタです。}


「ならば尚の事判らない!だって私は……」


、です―――フレニィカ。 アナタなのです、確かにその前例は、この世界の開闢かいびゃくより前例がありません、が…なければ作れば良いだけの事―――それをワタシが…この世界を創造した創世神ワタシ自らが為せば良い…。}


無情にして冷淡なる宣下せんげ、私やこの世界をお創造つくり給うた存在は、一体幾つもの試練を[英雄]や[勇者]に課してきたのだろうか…


ならば、必ずや成し遂げてくれる事でしょう…このワタシ自ら手塩てしおにかけ育ててきた―――あの子がひとり立ちを決意し、女神ワタシと言う親元おやもとから巣立ってく姿を見た時、ワタシの役割の一つが終わったと感じたものです。 それは見ていて頼もしくもあり、また寂しくもあり…いとおしくもあり、誇らしくもありました、だけど―――ここより先は手出しはならない、あの子が[英雄]らしめる基幹の総ては既にみ込ませているのですから、そんなあの子がアナタあやうきから救済すくった―――純粋な“人類族”ではないアナタを救った事で、ワタシからの教えは無駄ではなかったと言う証明になりました。

けれどそれだけではまだ足らない―――だからこそ故、更なる試練を与えたのです。 そしてアナタは、その事についてもう判っているはず…}


「(!)で―――では、あの“魔族”の幼生体少女は…」


{フレニィカ―――成ったばかりのアナタにも試練を与えましょう。 『魔王ヘルマフロディトス』―――その存在の討伐を、頼みましたよ。}


『魔王ヘルマフロディトス』、私も武を鍛えてきて10年来その名くらいは聞き及んでいる―――そんな存在…未だはっきりとした存在性は確認はされないまでも、と言う不明瞭ふめいりょうな存在、そんな存在を討伐しろと、女神ヴァニティアヌスは宣下いってきた、いきなり私の夢の中に現れて[勇者]に認定し、その最初の依頼が魔王討伐だったのだ、これまでにもない重責プレッシャーに押し潰されそうになりながらも、私は兎にも角にも魔王ヘルマフロディトスについての調査を開始した―――


―――――〈・〉―――〈・〉―――〈・〉―――〈・〉―――〈・〉―――――


{聞こえていましたね、“ハガル”。}

「ええお近くで…それにしてもあなた様もひどい事をおおせになられる。」

{何がですか。}

「ここ数千年来、最初の試練すら突破した[勇者]はりませんでした…それを“魔族”と“人類族”の―――」

{“ハガル”―――}

「これは失礼を…別にあなた様の選定眼せんていがんを疑ったワケではないのですが、これまでの試練の失敗の教訓を生かし、純粋なるヒューマンでは心許こころもとない―――と…こうおっしゃりたいのですな。」

{あらゆる世界の―――あらゆる文献には、そうした者こそが相応しかろう…と、その一念いちねんでこれまではそうしてきましたが、ワタシ創造つくった世界では勝手が違ったようです、ならばその一考いっこうは改めないといけない…幸い[英雄]の選定せんていは成りましたが[勇者]の人選じんせんままならない…そうした時に、過去にあの子に救済すくわれた存在が輩出はいしゅつされたのです。 我が使徒たる“ハガル”よ―――『魔王ヘルマフロディトス』としての使命をまっとうなさい。}

「言われるまでも…そして必ずや、主神であるあなた様のご期待に沿える働きをご覧に入れましょう。」



この程[勇者]となったフレニィカが去った後、その場には啓示けいじを与えたヴァニティアヌスと、彼女の使徒である“ハガル”が意思を疎通かわしあっていました。

それにしても『“ハガル”』―――このお話しの冒頭部分で登場してきた存在…とは、どこか違う様な?それもそのはず―――このお話しの冒頭部分ではどこかしら女性的な感じのする話し方をしていたのに、先ほど女神ヴァニティアヌスと話し込んでいたのはどことなく男性的な……?


そして女神は使徒に宣下せんげする―――『魔王[勇者]に討伐されよ』と、その[魔王]こそが『ヘルマフロディトス』―――女性的な身体的特徴をも持ち合わせつつもまた、男性的な身体的特徴をも持ち合わせる両性具有りょうせいぐゆうの“神”にして“悪魔”……


そして説明しておかなければならないのは、この世界は女神ヴァニティアヌスの手によって創造された……ものの、その大きな流れとしては数多あまたとしている神々が創造したるモノの一つに過ぎない、だからとて安心・安寧あんねいは許されない―――と言うのも、その大きな流れと言うのは統合分離とうごうぶんりを繰り返しつつ均衡を保ってきているから、女神ヴァニティアヌスが創造した世界もまた、その内の一つ…いつ統合され、また分離していくか―――は、今後次第………



 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


「お帰りなさい“ハガル”、その様子だと女神からの宣下せんげがあったようね。」

「ああ、正直頭の痛い話しだが、私一人がおいさめしたところでどうにもならん、それよりも“シギル”お前の方はどうなのだ。」

「ここ最近接触したばかりなのよ、感触の方を聞かれても―――ね。」

「それでも判ることくらいはあるだろう、お前が配下の“けだもの”に仕向けさせてわざわざ作った状況なのだからな。」

「最初の接触は、良好―――噂にたがわず、私が“人類”の敵であろうとも迷う事無く救済すくう判断をした決断力―――ここまでは及第点よ、それよりあなたの方はどうなの、どう言った存在かくらいはたのでしょう。」

「中々に―――興味惹かれるおもしろい存在だったよ…確かにアレはの遺伝を引き継いでいた、我々と同様の“魔族”であるが、その情にほだされた結果として出来てしまった中途半端な存在だ。」

「なんて事を……私達“魔族”と“人類族”とは決してじりう事はないと思っていたのに。」

「そうした希望的観測きぼうてきかんそく最早もはや言うべきではない、起こりるものが起こりてしまったのだ、たとえそれが女神の思し召しであろうが、あるまいが…な。」

「な―――バカな!では女神は…」

「だが、もうさいは振られてしまったのだ、結果としての今日こんにちが用意されている以上、我々は女神の言い付けを護らねばならん…そこはお前もよく理解できているはずだ“シギル”。」

「―――了解した…今一いまひとつ気が乗らない部分があるけれど、主命には従うわ。」

「ならばこれより統括としての指令を申し渡す。 “ギエフ”よ、お前は[英雄]の監視と動向を探り、斯くあるべき導きを行うよう、そして逐次ちくじの報告を怠るな。」



ここは、いわゆるところの『精神界アストラル』―――我々が住まう『物質界マテリアル』よりも上位的存在が棲まう場所、そんな場所で互いに何があったかを話し合うふたの存在。


それこそがこのお話しの冒頭にも出てきた『ヒューマンの特徴を持たない肌の質感と色、頭部には有り得もしない角…一部だけ発達した牙、人類のモノではない魔族特有の瞳を有した存在』と、『菫紫きんしの髪に銀の瞳、女性的な特徴を持ち合わせながらも男性的な特徴を持ち合わせる存在』だった、だけど彼らは言う―――『女神』と…そう、彼らこそは女神ヴァニティアヌスの使徒である“シギル”と“ハガル”だったのです。



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