第七話 生け贄2――買い物


 時は経過して、鶯宿は楼香のもとで下宿している。

 今日は下宿した宿での仕事はないからと、一緒に買い物に行こうという話になった。

 いつもの買い出しではなく、鶯宿の服を通販ではなく、直接見に行って買いに行こうという話だ。

 鶯宿は少しばかり緊張していた。一回自分の服装センスに自信をなくしてから、服の雑誌を見ていったが結局どんなものが世間で好かれているかいまいちぴんとこず。似合う自信もなかった。

 実際はスタイル良く見目もいい鶯宿なのだから、何を着ても似合うのに、鶯宿は自分に無頓着なのだ。

 楼香は出かける準備をすると、鶯宿に声を掛けた。

 楼香は出かけ用の化粧に、いつもと違う服装だった。

 ふわんとしたハイウエストロングスカートに薄手の白いフリルブラウスの中に水色のインナーを着ている様子で春らしさを与える。

 上着には春色のスプリングコートを身につけていて、何処か上品なお嬢様さを感じる。

「ごめんね、待たせたね。行こうか」

「……なんかひらひらしてる」

「ふふ、お嬢様コーデだ」

「どうりで。らしくねえよ、あんたはいつものギャル風が似合うよ」

「なあに、可愛い女の子連れて緊張する?」

「誰が可愛いんだ誰が。調子載るなよばーか」

「はは、いいや行こう。留守番は今日はいないし、鍵をかけていこうね」


 楼香は鶯宿と家を出て行くと、徒歩で電車まで行き、電車の数駅で大きな街へとついた。

 都会の大きなビル街だ。いくつもデパートが乱立している。

 エキシビジョンが街の所々に点在していて、時々モデルのスカウトが鶯宿を見るなり目を光らせていた。睨み付けるとそんな輩は退散していく。

 人通りの多さは天下一で、ビル街に囲まれているからか少しだけ気温も厚く感じた。


「こんなでっけえ建物どうやって建てるんだ」

「それは神社もお寺もでしょう」

「奈良の大仏くらいでけえよ」


 鶯宿は尻込みを仕掛けたが楼香に急かれ一緒にショッピングモールへ入っていく。

 服屋を何軒か巡っていき、楼香は鶯宿に次々と試着させていった。

 時にはK-POP系列、時にはダウナー系列、時には古着系列と着せていき。鶯宿は目を白黒させていた。

 とくにゴシックパンク系列は免疫がないのか、ぎょっとしていて、試着すら遠慮している。


 そのうち鶯宿はモード系と選び、これがいいと楼香に頼んだ。

「これが落ち着くんだ、これがいい」

 黒いジャケットに白いカットソーを選び、黒いスキニーで締める。靴はゴアシックブーツだ。

 シンプルで落ち着いたスタイルのラインと、色味は程よく鶯宿に馴染んだ。

「いいじゃない、なかなかセンスあるじゃないの。おしゃれ自信ないって顔していたのに」

「良いと思ったものの逆の組み合わせを買ったんだ……」


 黄昏れて告げる鶯宿にそっと励ますように楼香は肩を叩けば、時計を見つめる。腕時計の時間は丁度お昼前。今なら店も混む直前くらいで、程よい時間だろうと思案する。

「ご飯食べに行こう、何食べたい?」

「普段食べないやつがいい、なんだこれ、いたりあんってなんだ」

「ピザ食べたことない? パスタとか、じゃあそれにしようか、値段も手頃だしこの店」

 楼香は鶯宿と話し合った結果、ビル内のイタリアン料理店に向かい、並ばずに入れた。入るなり水を持ってきてメニューを置かれ、案内された席は空調が効いていた。

 涼しい風が顔によぎる、少しだけ夏の気配を匂わせてきたこの時期には丁度良い。五月になったばかりとはいえ、少しだけ暑さがしみこむ。


「うわ、地獄みたいに真っ赤な色してるな」

「釜の色? これはね、でも辛くないんだよ、少し酸味がある」

「じゃあこの赤とみどりのと、ぱす? パスタはなんか鮭がはいってるやつ」

「はいはい、マルゲリータとスモークサーモンといくらのクリームパスタね。あたしはそれならしらすパスタに、照り焼きピザにしようかな」

「米じゃないもんを食べるのはパン以来だ。たまに菓子パンは食べたことあるんだ」

「あんぱんで誰かの監視でもしてた? 刑事みたいね、昔の古いドラマの」

「そ、そういうわけじゃない、つもり、だ」


 メニューを閉じると楼香と鶯宿はそのまま会話を楽しんでいたが、ふと女性の視線が気になる。女性客二名がひそひそと自分たちの会話をしていた。


「あの人かっこいいね、付き合ってるのかなあの二人」

「赤い髪が似合う人ね、堀が深い顔してたねえ!」


 会話が聞こえれば女性と男性で同じ年頃に見えればそんなふうにも見えるかな、と思案し鶯宿を楼香は見つめた。

 見つめれば鶯宿も会話が聞こえたのか視線が出会えば、鶯宿はふっと噴き出した。


 その顔が何処か印象的に見える楼香だった――。

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