第二話 地獄の獄卒2――帰り道

 目目連と楼香は対面を済ますと屋敷内の説明をし、目目連はその間雲外鏡で屋敷内を録画している動きで鏡を向けていく。

 楼香は止めるわけにもいかず、雲外鏡の仕組みをまだ具体的に判っていないので、何とも言えず。鶯宿に視線を向ければ、鶯宿は料理ページのキムチ鍋をつんつんと指先で示した。

「これがいい、豚肉と白菜多めで」

「あ、じゃあ〆は僕うどんがいいー!」

「僕はそのお鍋でしたらつみれいれて、つみれ。きむちはたっぷりで、最後の〆に卵も!」

 鍋の話と察して眠っていた市松がばっと飛び起きて会話に参加してから、もう一眠りしていった。

 楼香は買い出しに行きたいが、荷物係に悩む。

「市松、ちょっと留守番していてくれる?」

 つい最近空き巣に入ったばかりだ、簡単に留守をする気持ちにすぐにはなれなかった。

 鶯宿は自分が荷物係と察するとポケットに手を突っ込み、玄関で先に靴を履いておく。楼香が財布を持ってやってきた。

「今度鶯宿の服買いに行こうね」

「どうして? ジャージはそんなにだめなのか」

「外出用の服があるほうが目立たない、あんた顔良いから目立つんだ、そのくそださジャージ」

「なっ……褒めてんのか貶してんのか!」

「芋臭いジャージなんだもの、田舎の中学生みたいなジャージよ。いい年した大人が都心の外でうろついていい格好じゃない」

「……そんなにか」

「そんなになの、経費として一着セットはあげるから今度通販で買おう」

「……判った」


 鶯宿はむうと顔を顰めると改めて自前の靴も眺める。自前の靴はスニーカーだがこれもまずいのだろうかと自信がなくなっていく。楼香に視線をおろ、と向ければ気持ちを察した楼香が鶯宿の肩を叩いた。

「靴は問題ないよ」

「そうか、人間の現代のTPOはよくわからないな」


 鶯宿は頬を掻いて恥じらいを見せれば、楼香はぐぬっと顔を顰めて胸元を押さえる。

「イケメンの隙が眩しい……照れるイケメンご馳走様です……」

「? お前はよくわからない呪文を唱える。ほら、早くいくぞ」

 鶯宿は手を差し出し、楼香は瞬き。手を繋ぐのかと理解すればぼっと赤くなる。

「小さい子じゃねえんだから!」

「手を繋いだりはしないのか、判った」

 鶯宿は理解が早く楼香と共に外に出れば、一緒に近くの業務スーパーへ出向かう。業務スーパーで格安の材料や調味料を手に入れ、荷物持ちがいるのだからとついでにトイレットペーパーを買いだめすればすっかり大荷物。

 買い物してる間、すっかり鶯宿は注目を浴びていた。見た目が格好いいのに着ている服が醜悪すぎてすっかり目立ってしまう。水色の田舎中学生ジャージを、垢抜けた美青年が着ているのだから目立ちもする。


「人間界の食事はすっかり豪勢になっているんだな、材料だけでも目移りしてしまう量だ」

「種類も多いでしょ、肉だけで部位がいっぱい」

「俺の知ってる人間世界は、卵一個を大きな土鍋で食うくらいのご馳走だったのに、卵はこんなに安い」

「鶯宿って昔、人間界いたの?」

「昔……最初は俺、外国人で漂流して日本に住んでて。言霊で鬼に変化したんだ。青鬼ってやつだ」

「髪の毛は真っ赤なのに?」

「見た目で本当の名前が分かったらまずいだろ。本当の名前は真名といって、命の代わりみたいなものになる。ばれたら、支配される」

「へえ、厄介なもんなのね。結構そうなると……年いってそう」

「まあお前とは軽く百才以上の差はあるんじゃないか」

「お爺ちゃんじゃーん! お爺ちゃんに荷物持ちさせちゃった!」

「年寄りだけど体は年寄りじゃねえんだわ、しっかり若者の体だから安心してくれ。何ならあんたより若い体かもしれない」

「まああたしは苦労人の体だから。ねえ、鶯宿はどうして警備してくれようと思ったの、市松に案内されてきたってことは最初から希望だったんだろ」

「……人間の家の下宿に興味があってな」

 鶯宿は本当の目的をそのまま告げるわけにもいかず。鶯宿は笑顔で答えると楼香はへえ、と目を見張り信じ込んだ。

 嘘をつくにはコツがある。少しだけ真実を含ませるのだ。

「上からの命令で人探ししなきゃなんなくてな、となると宿がいる」

「鬼にも上司がいるのね、獄卒ってことは地獄の鬼なのよね、地獄ってどんなかんじ?」

「それはいつか来れば判ることだ」

「天国がいいなあ~あたしは」


 楼香の言葉に鶯宿は微苦笑を浮かべた。楼香にはもう地獄行きは決まっているのだと告げられない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る