第8話 失われた幸せ
いつもの日常は続いている。その一方で、終わってしまったこともある。ヒナギクさんは、物に名前を付けることはなくなってから寂しそうに感じた。僕もまた寂しかった。それに気づいてかシッカリさんが話しかけてくれた。
(ソラよ。聞いてくれよ。この間よ、夢に鳥が二羽飛んでたんだよ。その二羽がよ、くっついて一羽になったんだよ。その鳥が鶏だよ。)
(・・・)
(面白くなかったか。また話すよ。)
(有難うございます。シッカリさん。)
(お安い御用だ。)
ニュートンさんも僕に話しかけてくれた。
(ソラや。聞いてくれるか。この間、夢に鳥が二羽飛んでたんじゃ。その二羽が、なんと、くっついて一羽になったんじゃ。その鳥がな・・・)
(鶏ですよね。)
(よく分かったのう。)
(シッカリさんの話と全く同じです。)
(この話、わし好きなんじゃ。)
(有難うございます。ニュートンさん。)
みんなのお陰で、僕は元気を取り戻すことが出来た。でも、ヒナギクさんは元気を取り戻すどころか、体調を崩して寝込んでしまった。来客はベッドの側で診察をした。
「調子はいかがでしょうか。」
「・・・すみません、前と変わらないです。」
「そうですか。これは気持ち程度ですので、気が向いたら召し上がってください。では、診察を始めます。」
診察が終わって来客が家を出た。
「お大事になさってください。では、失礼いたします。」
その夜、ヒナギクさんは来客が置いていった果物を剥いた。やはりまだ元気がなさそうだった。その後、一口大に切り分けた果物を静かに食べていた。僕はヒナギクさんを見てきた。物に名前を付けていた頃と比べて今のヒナギクさんは明らかに元気がなかった。生きてはいるけれど、心がなくなってしまっていた。まるで物のように。食べ終えて、皿を静かに洗った。ベッドに戻ろうとした時、電話が鳴った。
「はい。・・・あ、久しぶり。・・・そうかな。ちょっと寝込んでて。・・・えっ、いいよ。」
電話の向こうの声が聞こえないけれど、相手はヒナギクさんにとって親しい人のようだった。
「うん。わかった。待ってる。」
電話の後、ヒナギクさんは、少し元気を取り戻したように見えた気がした。なぜなら、ヒナギクさんは笑みがこぼれていたからだ。やっぱり笑顔が良いと思った。僕にとって、あなたは幸せを運ぶ花なのだから。
幸せを運ぶ花 ソードメニー @sordmany
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます