第5話 不意の別れ

 出会いがあれば別れがある、というけれど、どちらともそれは不意に訪れる。ヒナギクさんの家のチャイムが鳴る。

「はーい」

ヒナギクさんはドアを開ける。

「あれ?今日は来る日でしたか?」

「ごめんなさいね。直接顔を見て伝えたかったの。」

「とりあえず中に入ってください。」

ヒナギクさんは紅茶を用意する。

「お茶を入れるので座っていてください。」

「ありがとう。」

ヒナギクさんは用意したあと、いつもの来客の向かい合うように座る。

「お待たせしました。どうしました?」

「私ね、退職することになったわ。」

「え・・・」

「主人が病気になってね、誰かが付いていないといけなくなってね、ヒナギクさんには申し訳ないと思っているの。」

「そうでしたか。」

「でも、安心してちょうだい。私の代わりの人が今まで通り来てくれるわ。今度私と一緒に来るわ。良い人よ。だから、安心してね。」

そう言っていつもの来客は帰って行った。ヒナギクさんは席に座ったまま動かなかった。まるで僕やシッカリさんのように。僕もやっと見慣れてきたところなのに。

(悲しいなぁ・・・)

(ソラや、何を悲しんでおる。)

(ニュートンさん。おはようございます。実は、ヒナギクさんの来客がもう来なくなってしまうみたいなんです。)

(そうじゃったか。出会いと別れは突然じゃからのう。わしもいつかお前さんと別れる日が来るんじゃから。)

(え・・・ニュートンさんもどこかに行ってしまうんですか?)

(そうじゃよ。)

(でも、ニュートンさん動けないじゃないですか。)

(ソラや。別れには死というものがあるんじゃ。)

(し・・・?)

(死ねば永遠に会うことはない。)

(えいえん・・・)

(もしかしたら、空の上で会えるかもしれんがのう。)

(じゃあ、そんなに悲しまなくていいですね。)

(そうじゃな。命あるものの宿命じゃ。悲しむより会えた喜びを思い出したほうがいい。)

(僕はニュートンさんに会えて良かったです。色々教えてもらいました。それに、日向ぼっこも。)

(またいつかやりたいのう。)

出会いがあれば別れがある、ということは、別れがあれば出会いがある、ということだ。新しい出会いがヒナギクさんにとって良くなるように、と僕は願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る