第3話 思わぬ事件

 銀色のスプーンとフォークが台の上に並んでいる。大きな皿に鮮やかな色の野菜を使ったサラダが載っている。ヒナギクさんは、台所でスープに入れる野菜を刻んでいる。週に一度、ヒナギクさんの家に来客がある。ヒナギクさんは、その来客をもてなす準備をしているのだ。完成したスープを器に注ぎ入れる。温かいスープから湯気が立っている。

「うん。いい感じ。まだ時間があるわ。予定にはなかったけど、もう一品作っちゃおう。調子もいいし大丈夫なはず」

そう言ってヒナギクさんは再び台所に向かい料理を始める。数分後、時計を見てヒナギクさんは慌てる。

「大変。間に合わないわ。急ぎましょ」

ヒナギクさんは、休むことなく作り続ける。ついに完成してヒナギクさんは汗を拭う。

「ふう。なんとか間に合ったわ。お口に合えばいいのだけれど・・・」

そう言いかけてヒナギクさんは台にもたれるように倒れる。その時、ぶつかった衝撃で台の上に置かれたポットが落下する。ポットは倒れたヒナギクさんの頭上に落下している。僕は、動け、と自分の体に命令する。しかし、僕の体は動くことはない。くそー。一瞬の間に頭の中をヒナギクさんとの思い出が駆け巡る。僕は歯がゆさで全身が震え、このまま動けないなら死んでもいいとさえ思った。逆に言えば、死んでもいいから動け、と。その時、開いた窓から突風が吹き込み、僕の体は宙を舞う。まるで解き放たれた鳥のように。気づいた時、僕はポットを全身で受け止めていた。玄関から入ってきた来客が倒れたヒナギクさんを見て、驚いている。

「ヒナギクさん、今、救急車を呼びましたからね。あら、このぬいぐるみ、紅茶まみれだわ。身代わりになったのね。勇敢な子だこと。今洗ってあげるわね。」

僕は、洗濯機に入れられる。

(ソラ、見てたぞ。よくやったな)

(はい。ヒナギクさんを守ることが出来て良かったです。)

(俺からも礼を言うぜ。あとは俺に任せな。)

僕は、安堵する。ぐるぐる回りながら、考える。あの時の突風は何だったのか、について。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る